シン・ドラゴンボール~無能神とは言わせない!界王神になったオレの奮闘記~ 作:ヤーター・ヤッタター
悟空さ曇らせです。
うじうじしているらしくない悟空さがいますので注意。
──『死んじゃってあの世に行ったら、謝りに行く』
そう心に誓ったのは、もう随分と前のこと。
己のルーツが宇宙にあることを知り、自分が元は侵略のための尖兵でしかなかったと知り、それでも自身を育んでくれたこの
追い詰められた
それを見て、全てが腑に落ちて、けれどそれどころじゃなくて。
せめてこの戦いで死んでしまったら真っ先に謝りに行こうとだけ決めて、戦いに集中した。
結局その戦いで悟空は重傷を負いこそすれ死ぬことはなく、その後の戦いも死線をくぐることにはなったが死には至らず。
……あのときから数年たった今、悟空はあの世に来た。
(そうだ、オラは真っ先に謝りに行かないといけなかったのに……)
無意識に見ないふりをしていた。目の前の
けれどあの世一武道会・予選が終わった時、訪ねてきた人。
師匠の師匠に当たる、自分と確かに繋がりがある
(……あの世には、悟飯じいちゃんがいる)
そんな当たり前のことを改めて再認識した。
それでも、武道会が終わったらでいいだろうと後回しをした。無意識にそれを先延ばした。
だけど、
──「まあ、つまり……輪廻の輪にな、入ろうと思う」
──「輪廻の輪に入れば今のオレという存在はなくなるだろう。記憶も自我も、何もかもが無に還る」
突き付けられた、あの世の終わり。
これからあの世で長く過ごすのだ。家族や仲間が死んでしまうまで、このあの世での長い長い時間を過ごすのだ。そう思っていた。油断していた。
あの世の住人が永遠の存在ではないと、知った。
一番悟空を揺れ動かしたのは、オリブーの後に交わしたパイクーハンとの会話だった。
──「だが『自分より強い地球の戦士が現れるまでは』ってずっとあの世にいたんだ。奴の後輩に当たる武泰斗もなかなか見どころがある戦士ではあったが、それでもオリブーの方が強かったから」
──「奴の後輩に当たる武泰斗も」
じ い ち ゃ ん は ?
……いや、悟空だってわかっている。少し考えたら気づくことだった。
子供のころの悟空にとって、祖父はとても強い存在だった。実際に『あらゆる格闘術において右に出るものがいない達人』として祖父は名を轟かせていた。
だがそれは、当時の地球での話。
宇宙のレベルから見れば稚拙としか言えない、銀河の片隅にある辺境の星での話。
そして祖父は、武道家としては有名だったが、功績を残したわけではない。
武泰斗のように、命を賭して世界を救ったわけではない。
(じいちゃん……)
名の知れた戦士には肉体が与えられると知って、当たり前のように祖父も同じだと思っていた。
かつて少年時代、自分を心配して占いババの仲介であの世から会いに来てくれた祖父が、当たり前にあの世で待っていると思っていた。
祖父が、あの世に居ない可能性など、考えもしなかった。
(じいちゃん……っ!)
無意識に、目の前の
悟空なら探せる自信があった。現世から界王星にいる界王の気を探ることができる自分なら、広い宇宙の中からナメック星人の気を見つけられる自分なら、あの世のどこかにいる祖父の気を直ぐに感じ取れると思っていた。
その悟空をして、
祖父の──孫悟飯の気が、わからなかった。
──「あの世で死んでしまった魂は、消滅してしまうのさ」
++++
試合中だというのに硬直した悟空へザマスは容赦しなかった。
脳天、蟀谷、顎、頸椎、胸部、鳩尾──人体の急所を狙った一撃が悟空を抉る。辛うじて致命傷を防いでいるが、誰がどう見たとしても悟空が劣勢であることには変わりはなかった。
『チュン選手の鋭い一撃が止まらないッ! 必死に抵抗する悟空選手ですが、少なくはないダメージが蓄積されているのがわかります! このままチュン選手が押し勝ってしまうのか!? はたまた悟空選手が起死回生の一手を見つけるのか!?』
「……期待はずれだな。いや、最初から期待などしてはいなかったが」
「な──がッ!!?」
ザマスは冷めた目で悟空に一撃を入れる。直前の急所狙いの攻撃はなんとか防いだようだが、その直後に叩き込まれたザマスの手刀は避けられなかったようだった。
(シン様がお目にかけたというのに、この体たらく。……『対魔人ブウ戦』を想定したとき、まず厄介になるのは魔人よりも先、それを操る魔導士どもだというのに!)
育ての親の亡骸を前にした悟空は、その死を理解できていなかった。動かない祖父を前に寝こけているのだと思い込んだ。
幼い子供のそれを咎める気はザマスにだってない。
問題はその後、
その死を受け入れ、その仇が『満月の夜に出る怪物』なのだと理解してからの行動だ。
孫悟空という人間は、祖父の仇を前に泣き寝入りするような子供ではなかった。
それは武道家である祖父に育てられたからか、はたまた
だからこそ祖父から伝え聞いた『満月の夜に出る怪物』を倒すため、悟空は祖父の言いつけを破って
そしてその度に記憶が途切れ、目が覚めれば木々や建物が薙ぎ倒された山の中、1人倒れている。そんな夜を、尻尾の生えた子供は幾度も幾度も繰り返した。
孫悟空という子供は確かに
だが、決して頭が鈍いわけではない。
──やがて孫悟空は
(敵には勇猛に立ち向かえても、己の
現状までの調査により、魔人ブウを産み出した魔導士ビビディの息子・魔導士バビディが生存していると判明している。数年前に魔界へ渡ったことは確定しているが、それ以降の足取りは掴めていない。
だが、邪悪な思想を持つあの魔導士が魔人ブウの復活を諦めるなど考えられない。おそらく10年以内には動くであろうというのがザマスの主君であるシンの見解だった。
『悟空選手、動きがどんどんぎこちなくなってしまっております! このまま初出場のダークホース・チュン選手が押し勝ってしまうのかぁッ!?』
あからさまな急所狙いは撒き餌だ。上手く決まれば試合の片が早くついて楽だ、くらいの防がれる前提の攻撃。
だが、例えそうだとしても悟空は無視できない。その攻撃が急所を狙っていることには変わりなく、一撃が決まれば致命傷を負ってしまうことは目に見えている。悟空は常に急所狙いの攻撃を警戒しつづけなければならない。
そしてそれに気を取られれば、その他の攻撃──例えば一撃では大差ないような攻撃を防ぎきることができなくなる。
どんなに小さなダメージでも、降り積もればそうではない。ザマスによって意図的に蓄積されたダメージは、確実に悟空を蝕んでいた。
「くっ……!」
「無様だな」
蓄積された攻撃により悟空の片足が悲鳴を上げる。引き摺り庇うその動きは無様としか言えなかった。
『チュン選手、未だに余裕の表情! 対する悟空選手はあまりにも劣勢! さきほどから苦しい展開が続いてしまっております!』
(──潮時だ。さっさと終わらせよう)
これ以上の遅延は敬愛するシンが主催している武道会に水を差すことになってしまう。
ザマスは鋭い踵落としで悟空を石畳に沈めると、反転し武舞台上空に浮き上がった。苛立ち交じりに右手にスピリットを集める。ファイターズ級の制限下とはいえ、この程度であれば運用に問題はない。
(スパーキング級でシン様のお手を煩わせる必要もない。先ほどの
集まったスピリットが右手を包み、鈍く光る刃を形作る。
片足を引き摺り身動きすることができない悟空を狙い、ザマスはそれを大きく振り上げた。
「つまらない戦いだった。キサマの築いてきた全てが、あまりにも無価値でくだらない茶番だ」
ザマスが降り下ろしたスピリットの刃が武舞台ごと悟空を切り裂いた。
++++
そもそもの話、
何故悟空は真っ先に孫悟飯を探そうとしなかったのか。
合わせる顔がなかったのだ。
それは幼少の頃に祖父を殺してしまった罪悪感……だけではない。
もっと最近、悟空があの世へ来たその経緯、過程で、悟空は息子を傷つけた。
息子の本心に向き合わず、息子に身勝手な期待を寄せて、息子に
せめてもの尻拭いはしようと自らの命を捨てる選択はしたが、結局のところセルを倒したのは息子だった。悟空には勿体ないほどのしっかりとした息子は、もう悟空の庇護など必要としないほどに成長していた。
むしろ悟空の選択は息子を、家族を、仲間を、地球を危機に陥れただけだった。悟空の存在自体が悟空の大切なものを危険に晒していた。
祖父は己を守り育ててくれたというのに、悟空は家族を守ることができなかった。
合わせる顔など、ある筈がなかった。
「つまらない戦いだった。キサマの築いてきた全てが、あまりにも無価値でくだらない茶番だ」
だけど、
それとこれとは話が別だろう。
++++
『チュン選手の攻撃が武舞台を一刀両断ッッ!! 強烈な轟音と巨大な閃光が爆ぜ、武舞台は土煙により様子が伺えません! こ、これは武舞台上の悟空選手は無事なのでしょうかぁッ!?』
「……?」
チュンは眉をしかめる。刃による衝撃とそれに伴う破壊音はわかる。
だが、今の光は──
土煙が晴れる。
固唾を飲んでいた観客たちは思わず声を上げた。
『ご、悟空選手、立っております! 悟空選手、今のチュン選手の凄まじい一閃を真正面から受け流したようです!!』
土煙が晴れた先、両掌をチュンに向け肩で息をして悟空は立っていた。
悟空の左右、武舞台が大きく切り裂かれている。
「はぁ……はぁ……ッ!」
「キサマ、まだそんな力が……!」
「──おめぇがオラを気に入らないのはわかった」
ギリギリで撃ち出したかめはめ波により辛うじて衝撃を反らすことはできたが、溜め時間が短かったこともあり、相殺しきれなかった衝撃によって悟空の両腕に痺れるような痛みが襲う。
「つまらない戦いだったってのも、否定はしねぇ」
事実、決勝戦が始まってからの悟空はずっと防戦一方だった。あまりにも
「でも、」
両手に走る痛みを顔に出さず、悟空は上空に浮かぶチュンを睨みつけた。
「オラが築いてきたものは、茶番なんかじゃねぇッッ!!!!」
悟空が築いてきたもの。
祖父に拾われ育まれた。ブルマと出逢い旅に出た。旅の中で仲間に巡り合い、師と出逢い、親友を得て、好敵手たちと競い合った。
結婚して家族を持った。再び帰る家を持った。生まれた息子を初めて抱いた日を、腕に絡まった小さな尻尾の感触を、悟空は今でも覚えている。
宇宙からきた
戦いの中で昂る己の中の凶暴性を、強敵との戦いを求めてしまうどうしようもない己の
何度も戦いがあった。星を滅ぼしてしまうほどの、仲間たちの誰もが傷つき倒れてしまうような殺し合いがあった。
戦いの中だからこそ得られたものがあった。戦いの合間に享受したものがあった。平穏があった。温もりがあった。安らぎがあった。繋がりがあった。
その全てが、悟空が築いてきた
悟空は懐から巾着を取り出した。震え痺れる手でなんとかそれを開き、丸薬を取り出す。
復活丸を口に含む悟空を、チュンは上空から黙って見下ろしていた。
「……仕切り直しだ、チュン」
悟空は舞空術で浮かび上がり、チュンの高さに並ぶ。
「そうしてまた己の罪から──」
「そのことでオラを責められるのはじいちゃんだけだ」
確かに目を反らし続けていたものはあった。
でも悟空は知っている。かつて占いババの宮殿で再会した祖父は、己に踏み殺されたはずの祖父は、なんの恨みもなく悟空を抱きしめてくれたことを。
きっと祖父は悟空を責めない。
祖父殺しの罪は、悟空が悟空自身で決着を付けなければならないことなのだから。
そこに
『復活丸を使用した悟空選手も上空へ浮かび、チュン選手と睨み合っております! 鋭い両選手の瞳に見えるのは、目の前に浮かぶ強敵か、はたまた己の内の勝利への熱意か!?』
悟空は利き手を前に出し構えを取る。対するチュンは、不快感を隠しもせずに悟空を睨みながらも、同じく構えを取った。
「この試合、オラが勝つ!」
「……人間ごときが減らず口をッ!!」
武舞台上空、両選手は激しく衝突した。
曇りっぱなしで終わる悟空さなんかいませんでした。
次回、明日5月9日(金)05:09更新予約済みです。
・悟空さ曇らせ手緩くない??
実は曇りの原因(祖父の行方、セルゲーム関連、オラがいるから~諸々)は何も
ただ拙作ザマスさんがラインを超えて全否定してきたので、悟空さは「部外者は黙ってろゴルァ」ってなってます
・はたして悟空さは本当に気が付いていたのか?
作中の考察もあくまで拙作ザマスさんの考えでしかなく、
実際はどうだったのかは誰にもわからない
もしかしたら、悟空さ自身ですら──