シン・ドラゴンボール~無能神とは言わせない!界王神になったオレの奮闘記~   作:ヤーター・ヤッタター

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孫家週間・5月9日(悟空の日)の更新です。


『操念術』

 悟空とチュンは激しく組み合い、空中戦を繰り広げる。一撃一撃が鋭く巧妙なフェイントも織り交ぜられたチュンの攻撃に、悟空はそれでも冷静にそれらをいなし続け、反撃を入れる。

 

『先ほどは防戦一方であった悟空選手も負けじとチュン選手に食らいつき、激しい攻防戦を繰り広げております! 武舞台上空を縦横無尽に飛び回る空中戦に、スタッフのカメラが追い付いていません! カメラスタッフも頑張ってください!』

 

 長いファイターズ級の歴史でも類を見ないほどの高速で行われている攻防に、裏に待機していたスタッフたちが慌てて追加の術式を起動させる。本来はエネルギーの制限がないスパーキング級にて使用される中継術式だが、現在行われている決勝戦はそれに匹敵するレベルの凄まじい速さだった。

 スタッフたちの迅速な対応によってようやく拡大スクリーンが両選手の姿を捉える。だがその応酬はあまりにも素早く、観客たちの目には詳細はわからないであろう。

 

(悟空……チュン……!)

 

 それでも、パイクーハンの目にはそれがわかった。

 その鋭さ、その速さ。あまりにも隔絶した技巧だった。

 

 本来、武道会参加中の選手は会場敷地内から出ることができない『契約』*1になっている。だが失格扱いとなり『契約』が自動解除されたパイクーハンはその限りではない。

 それでも武道会から完全に背を向けることができなかったパイクーハンは、会場の一角、人目のないであろう観客席の屋根からその試合を見ていた。

 

(まるで刃のようにチュンの攻撃は鋭利だ。その手刀も蹴りもまるで人体の急所を知り尽くしたかのように抉る。それなのに悟空の攻撃を躱すときはまるで紙のように、するりと受け流している。流石はシェンの弟子か、その技量は奴に匹敵する! 静と動、あまりにも滑らかで隙が無い!

 ……くそっ!! やはりわたしはチュンの実力を半分も出させることはできなかったのか!!)

 

 悔しさがパイクーハンの胸を渦巻く。

 

(悟空はよく食らいついている。おそらく悟空の最高速度(トップスピード)はチュンとほぼ互角だが、ほんの僅かにチュンの方が(まさ)っている。緩急の扱い方についてはチュンが遥かに上だ。……悟空、このままでは厳しいぞ)

 

 パイクーハンの視線の先、悟空の肘鉄を受け流したチュンは仰け反りながらも素早く反転し、悟空の顎に膝蹴りを叩き込んだ。

 

 

++++

 

 

 顎に一撃を受けた悟空は吹き飛びながらも体勢を立て直す。唇の端が切れて流れた血を拭い、悟空は不敵な笑みを浮かべた。

 

「へへっ、ようやくわかったぞ。おめぇの強さの理由が」

「なんだと……?」

 

 チュンは分厚いゴーグルの下から胡乱な目で悟空を見る。

 油断なく距離を取ったまま、悟空は続けた。

 

 

()()()()()()だ」

 

 

 悟空の言葉に、チュンの眉が僅かに動く。それを見逃さなかった悟空は、「お、当たったか」と嬉しそうな声を上げた。

 

「普通、練り上げた気はそのまま全身に纏うか、かめはめ波みてぇに技として放っちまうかのどっちかだ。だけど、チュン。おめぇは練り上げた気を肉体の一部に凝縮してやがる。蹴りの時は脚と背中の筋肉に、手刀の時は腕と肩の筋肉に。だからオラと同じ上限のはずの気なのに、オラより鋭い攻撃ができる」

「…………」

「お、これも当たりかな」

 

「……気づいたところでどうする? キサマとわたしの差が埋まるわけではない」

 

 呆れたようにチュンは言う。

 事実、チュンの言う通りであった。ファイターズ級の制限下では、チュンも悟空も扱える(エネルギー)の総量は変わらない。だがそれを全身に纏って扱う悟空と1点に凝縮して扱えるチュンとでは明確な差が出てきてしまう。分散して10%になってしまったところに100%全てを叩き込んだ結果など、容易に想像できる。

 

「それはどうか、なッ!!」

 

 悟空は飛び出す。()()()()()()()()()に、()()()()()()()()()()()()()

 あまりにも単純であったため、チュンは訝しみながらも余裕の表情でそれを受け止め──分厚いゴーグルの下、驚愕に目を見開いた。

 

 

「うりゃぁぁあああああッッ!!」

 

 

 悟空が右拳を振り抜く。

 チュンはガードしていた腕ごと振り抜いた拳によって吹き飛ばされた。

 

『おおっと!? 悟空選手の攻撃がクリーンヒットッ!! チュン選手、ガードごと武舞台に叩きつけられました! この試合で悟空選手の攻撃がまともにヒットしたのはこれが初なのではないでしょうか!?』

 

 石畳に叩きつけられたチュンは即座に跳ね起き、黄緑色のパーカーに着いた土埃を払いながら浮かび上がる。

 ゴーグル越しの目線は不快そうに悟空を睨みつけた。

 

「いちち……思ったより難しいなこれ」

 

 悟空は肩を抑える。凝縮箇所とタイミングがズレていたのか、肩の関節に外れたかと思うぐらいの痛みが走る。首筋辺りの筋肉も引き攣ったように痛い。

 口では簡単に説明していても、それが高度な技術であることを悟空も理解していた。

 ただの単純な右ストレートだったというのに、この難しさ。悟空だって武道家としての経験から人体の構造を感覚として掴んでいると思っていたが、その程度で扱える技術ではなかったらしい。ほんのちょびっとだけ武道家としての自負が傷ついた気がした。

 

「……所詮は猿真似か」

「へへっ、オラ、昔は猿の尻尾が生えてたからな」

 

『チュン選手、攻撃を物ともせずに復帰! どうやら悟空選手の右ストレートを完全に往なしきっていた様子です! しかし、渾身の攻撃を防がれたというのに悟空選手、どこか楽し気な表情でチュン選手を見据えております!』

 

 右肩を回して調子を確かめる。試しでの攻撃だったこともあり、反発ダメージはそこまで深刻ではなさそうだ。これを繰り返し行えば身体中の筋肉がズタズタになるのは目に見えているが、幸いなことに復活丸にはまだ少し余裕がある。

 スパーキング級を考えていくつか残しては置きたいが、この未知の技に挑戦しない悟空なんて悟空ではない。悟空は今、新たな強さの可能性にワクワクしていた。

 

「まだまだぁッ!」

「何度やっても同じことだ!」

 

 悟空は突撃する。チュンはそれを往なし一撃を入れる。悟空が受け止めカウンターを入れようとするが、気の移動がズレてしまい足に激痛が走る。その隙を逃さずチュンの掌底が悟空の鳩尾を抉る。悟空も負けじと応戦してもう一度右ストレート。今度は上手く決まったが、やはりどこかが合わなかったのか右腕全体が切り裂かれるように痛みが走る。チュンは仰け反って攻撃を受け流しながら、悟空の死角に回り脇腹に膝蹴りを入れる。

 そのまま薙ぎ払われ体勢を崩した悟空に、チュンは追撃を入れるため()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を入れようとして──、

 

 

 ──スパァァアアアアン……!

 

 

 風切り音が武道会場に響く。

 

「なっ!?」

「──捉えた!」

 

 チュンのそれは、コンマ1以下でもズレれば自壊してしまうような、そんな『どこを動かせばどのように動けるのか』を筋線維の1本1本まで完全に熟知していないとできない精密技巧だ。

 悟空ですら苦戦したこの技術を、チュンは実戦レベルに落とし込んでいる。

 

 

 ()()()()()

 ()()()()()()()()

 

 

 悟空は捉えたチュンの足を大きく振り回した。

 ジャイアントスイング。単純にして威力の高い、回転の力を使って相手の平衡感覚を狂わせる大技。

 

「おりゃぁッッ!!!!」

 

 悟空によって投げ飛ばされたチュンは急いで体勢を立て直そうと空中で両手を広げてバランスを取る。素早く復活丸を口に含み全快した悟空は追撃の為に突っ込んだ。

 

「だりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!」

「くっ……!」

 

 今試合で、否、今大会で初めて、明確にチュンの表情が焦りで歪む。

 

 

(思った通りだ。チュンは()()()()()()()()()()()()()()()()()!!)

 

 

 チュンの攻撃はどれも、フェイントやカウンターまでもが『手本としたいぐらい流麗な動き』だった。

 ほんの僅かでもズレてしまえば自傷してしまう緻密な技術を実戦レベルにまで落とし込むには、ある程度の『攻撃の型』を作って習熟するのが近道だったのだろう。チュンのそれは種類が多くすぐには見抜けなかったが、それでもこれだけ組み合っていれば見えてくるものがある。

 

 ならば攻略方法は単純だ。

 絶え間のない攻撃でチュンの『型』を崩せ。リズムを崩せ。調子を狂わせろ。

 

 

 意表をついて、チュンを『想定外の戦況』へ引きずり込め!!

 

 

++++

 

 

(くっ……人間ごときが、『操念術(そうねんじゅつ)』を……!)

 

 ──『操念術』。

 ザマスの主君であるシンが編み出した文字通りの『操って念じる技術』だ。

 

 シンが統べるこの第7宇宙に限らず、この世界は絶対的な『戦闘力(スピリット)至上主義』だ。どれだけ戦闘センスがあろうとも保有する生命エネルギー(スピリット)の大小で勝負が付いてしまう。

 これは種族差によってスピリットの保有量が大きく異なってしまうからだと、以前シンはザマスに話していた。実際にザマス自身も、スピリットを多く生まれ持つ種族が他種族を単純なエネルギー波のみで消し飛ばす様を山ほど見てきた。

 

 逆に言えば、スピリットの差で他を踏み潰してしまうからこそ、この世界は細やかなスピリットコントロール技術に疎く、未発達な部分がある。

 ザマスの主君であるシンはそこに目を付け、研究・発展させた。

 

(あのお方の数百万年の研鑽が人間ごときに再現できるはずがない!!)

 

 現在、ザマスは『シェンの弟子であるチュン』という立場であの世一武道会に参加している。それは表向きの立ち位置を示すための肩書きではあるが、ある意味で間違いではない。

 ザマスが第10宇宙の界王神・ゴワスの後継者という立場から第7宇宙の界王神・シンの筆頭従者という立場へと変わって幾百年、ザマスは筆頭従者としてシンを支えながらその教えを賜り続けていた。

 『神』として人間と関わっていく姿、『神』としての役目や責務、そして『神』としてこの第7宇宙を護り導くための研鑽の日々。界王神でありながら銀河を飛び回り人間と接することを好むシンと共に、ザマスも様々な経験を積み重ねてきた。

 

 その中でも『操念術』はシンから直接伝授いただいた技だ。

 だがザマスはシンほど自在に『操念術』を操ることができなかった。『操念術』の成立に一助したというヤードラット星人たちのスピリットコントロール技術を習得し、お忙しい身でありながら時間を割いてくださったシンの教えを直接賜りながらも、ザマスは『型』に落とし込み運用することしかできなかった。

 『殴打の威力を高めるために腕にスピリットを集める』ぐらいの技術は今までも存在した。だが『操念術』はさらにその先、筋線維の1本1本、肉体に巡る血潮の流れまでも制御下に置くほどに技術を昇華させている全くの別物だ。故に、ほんの僅かでも制御を誤ってしまったときの反動は凄まじく、下手をすれば内包したスピリットが暴走し肉体が内側から弾け飛んでしまう危険性を孕む。

 

 だがそうした危険性を思い知るたび、ザマスはそれを考案し確立させた主君への畏敬の念を禁じ得ない。

 その研鑽の日々、執念は如何ほどだったのであろうか。

 

 

 ──それを、50年も存在していない人間ごときが模倣しようとしている。

 

 

(シン様、大変申し訳ございません! わたしは貴方様との『()()』を違えますっ!)

 

 許せるものか。

 許せるものか。

 人間ぶぜいが、あのお方の努力(『神』の領域)に、土足で踏み入るなッッ!!

 

 

++++

 

 

 チュンの雰囲気が変わったのを、悟空はすぐに気が付いた。

 

 

 ──ゴ……ガァァァァ………ン……!

 

 

 音を置き去りにするかの如く放たれた衝撃。

 一瞬の空白の後、悟空は武舞台の石畳に大きなクレーターを刻み、その中心に倒れていた。

 

『悟空選手、ダウンッ! カウントを開始しま……』

 

 カッと目を見開いた悟空は素早く起き上がりその場を飛び退く。直後、悟空が横たわっていた場所が砕け散る。武舞台を割るかの如く、チュンの蹴りがその場に突き刺さっていた。

 

「チッ……!」

「ぅお、あっぶねぇな!」

 

 飛び散る石畳の残骸、それらを意に介すことなく、チュンは悟空に追撃する。

 

『悟空選手、復帰しました! 先ほどのチュン選手の攻撃はカウント開始前であったということでセーフ判定となりますが、通常はカウント中の攻撃は反則となりますのでご注意ください! ……って、多分これ両選手とも聞いていませんね!

 勝負が白熱し、悟空選手もチュン選手も互いだけを認識しております! 武舞台の石畳が見るも無残な状態です!!』

 

 目まぐるしく攻防が入れ替わる。互いに息をつく暇のないほどの激しい応酬。相手に優勢な展開をさせないための意図的に双方のリズムを狂わせるような、不規則な連撃。

 悟空は咄嗟にガードを固めた。

 

 チュンの掌底が悟空の鳩尾を抉る。

 

「……ご、ぽ」

 

 そうして流れた血は──

 

 

『な、ななな何が起こったのでしょうか!? チュン選手の攻撃が悟空選手にヒットしたかと思えば、チュン選手、吐血、吐血です! 何故か攻撃を当てたチュン選手の方がダメージを受けてしまっています! こ、これはいったい……!?』

 

 

「ああああああッッ!!」

 

 チュンは構わず怯んだ悟空へ回し蹴りを叩き込んだ。防ぎきれずに吹き飛ぶ悟空は、確かに痛みに顔をしかめるチュンを見た。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 距離ができたことで絶え間のなかった応酬が途切れた。

 チュンは利き手とは反対の腕で口の端から流れる血を乱暴に拭うと、懐から巾着を取り出した。先ほど掌底を繰り出した腕はだらんと力なく垂れ下がっている。片腕では取り出すのは手間がかかってしまっていたが、なんとかその小さな復活丸を取り出して口に含んだ。

 悟空の目には、ひどく乱れた気が正常に巡りだしたのがわかった。

 

「おめぇ、無茶すんなぁ……」

 

 悟空にはわかった。

 チュンは自らの攻撃を気の凝縮と瞬時の移動で強化している。それは悟空が見様見真似で模倣したものとは違い、己の肉体、神経の末端まで掌握しているような緻密な技巧だ。悟空自身も経験したように、その強化技術は少しのズレで肉体への反発ダメージを追ってしまう

 だからこそチュンはその強化技を『型』に嵌めることで運用し、悟空はチュンに『型』をなぞらせないことで強化技の利用を阻止していた。

 

 だというのにチュンは今、『()()()()()()()を繰り出した。

 

「……キサマのような付け焼刃のそれとは次元が違うんだ」

 

 復活丸により息を整えたチュンは憎々し気に悟空を睨みつける。そして大きく息を吸って吐くと、チュンは再び腰を落として戦闘態勢を取った。

 

『何やらダメージを負ってしまったチュン選手、今試合にて初めて復活丸を使用しました! これでチュン選手の復活丸の残りは2粒となりました! 依然悟空選手の保持する復活丸の方が数が多いですが、悟空選手はスパーキング級の試合も控える身、互いの復活丸使用タイミングも勝負のカギとなっていきそうです!』

 

 悟空は『界王拳』という肉体強化技を習得している。だがこれは己の気そのものを高める技術である為、ファイターズ級では使用できない。

 恐らく、強化技を用いない素の戦闘能力は互角。気が統一されていることもあり、その実力は拮抗している。このままでは千日手になってしまうことは互いに理解していたからこそ、勝敗は気を凝縮し移動させて運用させるあの強化技にかかっている。

 

「へへっ、オラも負けてはられねぇな」

 

 例え悟空が再現できたとしても、チュンは『型』として強化技を習熟している。更にこれからのチュンは『型』に嵌らない攻撃にも強化技を使ってくるのだ。チュンが優位なことには変わりはしない。

 だがそれでも、悟空には勝負を諦めるなどという選択肢はなかった。

 

*1
『選手登録届』に記載あり。




・『操念術』
元ネタはHUNTER×HUNTERの凝と流(オーラ運用)だが、もはや見る影もないくらい魔改造されている
基本的に練り上げたエネルギーは全身に纏うか放出するかしかないドラゴンボール世界ではかなりの変態技巧
極論としてはエネルギーの節約術でもあるため、戦闘力(エネルギーの総量)こそが正義であるドラゴンボール世界だからこそ発展しなかったスキルツリー
『身勝手の極意』が全自動(オートマ)であるのならば、こちらは全手動(マニュアル)
なお、この技術の習得のために拙作ザマスさんは人体の構造を熟知した結果、急所狙いの殺意マシマシ戦法になった

次回、4日間連続更新ラスト、明日5月10日(土)05:10更新予約済みです。
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