シン・ドラゴンボール~無能神とは言わせない!界王神になったオレの奮闘記~ 作:ヤーター・ヤッタター
ついに開幕!
まずは選手紹介&ルール説明から。
肉体を持たない魂には自我はない。これは全宇宙共通の不文律であり、変えることのできない世界のルールだ。
肉体を持たない魂の殆どが雲のような姿になり、生前の姿形を保つことはない。
例外的な存在が、生前の行いにより天国へ行くことが許された善良な死者たちである。
天国は地獄のような浄化槽ではなく、次の転生までその魂を休ませる場所──つまり待機所だ。天国の住人はそこで閻魔大王により『仮初の肉体』を与えられる。この『仮初の肉体』はあくまで魂の拡散を防ぎ、死者の自我を保つものでしかない。
あの世の住人は総じて食事や睡眠を必要としないことが多いが、この『仮初の肉体』を与えられた死者はそれが顕著となっている。
元々天国へ行くことを許されるほどの魂は善良で、これといった欲を持たないこともあり、天国はとても穏やかで争いがなく──まあ簡単にいうと娯楽が少ない。
だからこそ、自分達とは違う『本物の肉体』を与えられた戦士が集う『あの世一武道会』は、50年に1度の娯楽として天国の住人のほぼ全てが集うと言っても過言ではない。
「うひゃぁ~~~~! すっげぇ人だなぁ!」
特別開催と相成ったあの世一武道会の上空、舞空術で空から会場を眺めている悟空は思わずといったように声を上げた。
昨日の武道会スタッフや選手しかいなかった会場が嘘のように、今日はたくさんの観客たちで溢れていた。見た目も服装も、何もかもが多種多様な人々で上から眺めているだけでも目が回りそうだ。唯一の共通点は、頭の上に浮かんでいる死者の輪だろうか。いや、死者以外の人々もちらほら混ざっている。
悟空が育った地球も獣人や亜人といった色んな種族がいたが、その比ではなかった。
「あの世一武道会は天国中の住人が集まっておるからな、会場に入るだけで長蛇の列じゃ。ま、わしは界王特権でVIP席じゃから、あまり関係ないがのう」
横に浮かび、同じく会場を見下ろしていた北の界王が得意げに言う。
へぇと間抜けな声を出している悟空に、界王は会場の裏にある一角を指さした。
「さて悟空や、出場選手用ゲートはあっちだ。あそこから先はわしは付き添えないからな、しっかりやるんじゃぞ」
「おう、任せてくれ界王様!」
「おぬしの活躍を特等席で見させてもらうぞ」
悟空は界王に大きく手を振ると、そのまま出場選手用ゲートと示された場所へ一直線に急降下していった。
あっという間に小さくなる悟空の影に界王は一抹の不安を感じながらも、ま、悟空なら大丈夫だろうと己もVIP用ゲートへ足を向けた。
++++
『レディース・アーンド・ジェントルメーン! 会場にお集まりの皆々様、お待たせいたしました! あの世一武道会、開幕でございま~す!!』
──ワアァァァァァァ!!!!
歓声が上がる。会場に集まった千万を超える観客たちは試合がまだだというのに熱狂の中にいた。
下手な街よりも大きいんじゃないかと思うような円形状の武舞台、それを囲うように広がる観客席。武舞台を囲うように投影されている立体モニターには、今武道会の司会にして審判も務めるキノコ頭の男がマイク片手に拳を振り上げている。
『それではまずご紹介いたしますは──特別開催と相成りました今大会の推薦選手、北の銀河出身・孫悟空選手です!!』
キノコ頭の司会の声に連動し、武舞台中央に1つの台座が浮かび上がる。その上に転移するように姿を現したのは山吹色の胴着を纏った地球育ちのサイヤ人・孫悟空。
観客席からは「頑張れよ~!」「期待してるぞ~!」といった歓声が上がる。あまりこういった場に慣れていない悟空は物珍しそうに周りを見回しながら頭をかいた。
『悟空選手はファイターズ級とスパーキング級双方の出場を希望し、見事どちらの予選も突破した実力者であります! それもそのはず、ななななんと! 悟空選手はエネルギーコントロールの巧者と謳われた北銀河の界王様直々に修行を受けたお弟子さんでもあるそうです!!』
VIP席で北の界王が得意げな顔をしている姿がワイプで映される。隣の西の界王は面白くなさそうに舌打ちした。
『続きましてご紹介いたしますは、前大会優勝者の御2人──南の銀河出身・シェン選手と西の銀河出身・パイクーハン選手です!!』
──ワアァァァァァァ!!!!
「い!? す、すげぇな……」
思わず悟空は耳をふさぐ。それぐらい大きな歓声で、ピューピューと指笛を噴いている観客もいる。
悟空の立っている台座の両隣に同じように浮かび上がってきた2つの台座、それにそれぞれ転移してきた前回優勝者の2人は、沢山の観衆の注目を浴びていながら片や不動のように佇んでおり、片や人当たり良く軽く手を振り返している。
バチリと観客にファンサービスをしていた選手──シェンと目が合う。シェンは悟空にだけわかるように分厚いゴーグルの下でウインクを飛ばした。
『前大会スパーキング級・優勝者であるシェン選手は、その小さな体格と穏やかな物腰からは考えられない高い実力を持つ猛者でございます! 現在スパーキング級6連覇中、果たして前人未到の7連覇を達成できるのでしょうか!?
また、前大会ファイターズ級・優勝者であるパイクーハン選手は、あの世一武道会史上たった数人しか存在しない完全制覇を成し遂げたこともあるこちらも押しも押されぬ猛者でございます! 今回も双方の部門にて本戦出場を果たしており、こちらも前人未到となる2度目の完全制覇を狙っているとのこと、一体今大会はどうなってしまうのでしょうかぁッ!?』
パイクーハンは観客や司会の声に微動だにせず、ただ腕を組み立っている。そのストイックな姿に彼のファンたちはますます声を上げているようだ。
『今大会ではファイターズ級では1288名、スパーキング級では318名の戦士が集結し、本戦への僅か7枠を争い競い合いました! 内、双方の部門への駒を進めた選手はパイクーハン選手と悟空選手のみとなっております! 他選手につきましては後程改めてご紹介させていただきますので、楽しみにお待ちくださいませ!
それではシェン選手、パイクーハン選手、悟空選手につきましては一旦控え室にお戻りいただきます。観客の皆々様、選手の皆様へ惜しみない拍手をお願いいたします!』
司会の言葉に観客席から拍手が上がる。目を白黒させっぱなしの悟空をしり目に、司会は慣れたように裏にいる武道会スタッフに合図を送る。すると登場した時と同様に悟空たち3人は自動的に転移し、転移前にいた場所──選手控え室に戻った。
「なんかこういうのは慣れねぇなぁ……」
闘うために武舞台に立つのなら周りなど一切気にすることなどないが、こういう一方的に注目を浴びるのはあまり性に合うことではない。
ちょっと草臥れた悟空に、シェンはクスクスと笑いながら声をかけてきた。
「まだあの世一武道会は始まったばかりですよ、悟空さん」
「そうだけどよぉ……。っつーか、この後試合すんだから今の要らないんじゃねーか?」
「どうも界王様たちにとって、この武道会で己の担当銀河出身の戦士が活躍することは名誉なことらしくてですね。界王様たちの意向で前回優勝者や推薦選手は別枠で選手紹介をすることになったそうです」
昔はもっとシンプルだったのですが……と言うシェンに悟空はそうなんかと納得することにした。どの道この後すぐに試合がある、さっさと切り替えた方がいいだろう。悟空にとっては注目されようがされなかろうがやることは変わらないのだから。
『──結界装置に触れたりそれより外に出てしまった場合は場外判定となり、10カウント以内に武舞台に戻らなければ──』
武舞台では引き続き司会があの世一武道会のルール説明をしている。大体のルールは昨日のうちに北の界王から耳にタコが出来そうなほど繰り返し説明されている。基本的な部分は天下一武道会とあまり変わらないので問題はないだろう。
違うのは──、
『また、出場選手はこれより食事をしたり治療を受けたりなどの行為は禁止となります! 試合でダメージを負ったとしても、外部からの手助けなどによりそれを回復することはできません! 違反を確認できた時点でその選手は失格とさせていただきます!』
これだ。
悟空にとってはかなり手痛いルールである。
「……昔、試合が終わるたびに食事に禁制薬を混ぜてドーピングを行っていた選手がいましてね。以来、不正がないように武道会中の食事などは禁止となっているんです」
何故か苦々しい顔をしているシェンが補足する。
悟空は地球育ちであるが、生まれは惑星ベジータの戦闘民族サイヤ人だ。サイヤ人は並外れた戦闘力であると同時に、並外れた食欲を持つとても燃費の悪い種族である。
実際、悟空が少年時代に参加した天下一武道会では、試合の合間にエネルギー補給のため食事をしていた。大人に成長してからは子供のころほどの燃費の悪さはないが、他種族から見たらそれも誤差の範囲でしかないだろう。
「ま、それがルールなら仕方ねぇさ。これも貰ってるしさ」
悟空が武道会スタッフから渡されている巾着を開く。小さな巾着の中には、小指の爪の先ほどの半透明なそれが
『代わりに、出場選手たちには『復活丸』と呼ばれる丸薬を支給しております! これは1粒食べればたちまち身体の傷が癒え、消費されてしまったエネルギーが復活するという大変貴重な回復薬となっております! こちらは各出場選手の
出場選手はこの復活丸を
「仙豆みてぇなもんかな」
「仙豆のように満腹になるというより、内包するエネルギーを満タンにする、といったような感じです。副次効果で多少の空腹感は無くなりますが、仙豆ほどの効果はないですね」
1粒取り出してぐにぐにと摘まんでみる。思ったよりも弾力があるが、簡単に潰れるようなものでもなさそうだ。全体的に白濁とした半透明だが、中心部分には赤みがかった蜜のようなものがある。
しげしげと眺めた後、それを口の中に放り入れる。舌の上で転がすと、復活丸はすぐに解けた。これはあれだ、前にブルマが飲ませてくれたコーラっていう飲み物に似た弾けるような感覚*2だ。舌の上には微かにだが、何とも言えないえぐみが残る。
「うげぇ、飴玉みてぇな見た目してんのにあんまりうめぇもんじゃねぇな」
「やるとは思いましたが……まだ試合はこれからですよ?」
「だからさ。どんなもんか確認しておかねぇと試合中使えねぇからな」
「ま、確かにそうですね。次回から初出場選手には試供してもらうよう進言しておきます。……ちなみに効果のご感想はどうです?」
「ん~、そうだなぁ」
悟空は目を瞑り、身体の中に巡る
「確かにメシの代わりにはなりそうにねぇけど、気は充分補給できるし、試合はなんとかなりそうだ」
──残りは5粒。さて、どうやって使っていくか。
巾着を胴着の懐にしまいながらニッと笑う。気が補充されたこともあって、悟空は気分が上昇しているのを自覚する。
武舞台での司会のルール説明も終わりに近い。試合はもうすぐだ。
「慣例的に推薦選手は前回優勝者とは別ブロックになるようトーナメントが組まれますので、悟空さんがぼくと戦うのはスパーキング級の決勝戦です。スパーキング級はファイターズ級の後ですし、まだだいぶ先ですが……」
悟空の様子にシェンは微笑む。
「お手柔らかに、などとは言いません。どうか全力で、悔いのない善き戦いを。……途中で負けないでくださいよ?」
「負けねぇさ」
からかうようなシェンの言葉に悟空は返す。負けると思って挑む戦いなどありはしないのだ。
「ふん、シェンよ。このわたしを忘れているのではないか? 残念ながらキミが悟空と決勝で戦うことはない、決勝に勝ち進むのはわたしだ。不運なことに、悟空はわたしと同じブロックだからな」
「おや、パイクーハンさん。ふふ、誰が勝ち進んでも結果は変わりません。スパーキング級・7連覇はいただきますよ」
「そんな未来はこないさ。今回こそわたしはキミに勝ち、悟空にも勝って2度目の完全制覇を得る」
「どっちもさせねぇさ。オラが勝つ!」
近くにいたパイクーハンも加わり、他愛もない話が続く。
互いに会話をしながらも、内包する気が試合に向けて高まり整っていくのを悟空は感じていた。
──────ふん、人間ごときが……。
「ッ!?」
首の裏に刺すような視線を感じ、悟空は振り返る。
振り返った先では選手たちが各々寛いだり精神を統一したりしている。
「悟空さん?」
「悟空? どうかしたのか」
「……いや、なんでもねぇ」
ほんの一瞬、己を刺した感覚を、悟空は知っている。
殺気だ。
++++
ああ忌々しい。
ずっと隣で見てきた。あのお方の苦悩と偉業を。
そしてこれからも歩むのだろうあのお方の往く道を、わたしは隣で支え続ける。
『な……ななななんと……信じられませんッ!!』
前回も前々回も、わたしは見てきた。
この程度の実力で、あのお方に挑もうなどと身の程を知れ。
『こんなことがあってもいいのでしょうか!? 一体誰が予想できたというのでしょうか!? 例え予想できたとしても、目の前の現実を誰が信じるというのでしょうか!!??』
広い円形の武舞台、その中央。
身に纏う装束はボロボロに汚れ、片足は不自然に折れ曲がり、利き腕の指は残らず拉げた。
白目を向いて横たわる、無様なその姿。
『あの世一武道会・初出場! 今の今まで誰にも知られていなかった全くの無名! まさにダークホース!!
──チュン選手、準決勝進出です!!!!』
前回ファイターズ級優勝者・パイクーハン。
初戦、敗退。
・仮初の肉体
天国の住人に与えられる魂の拡散を防ぐ仮初の器
死者に苦痛なく
成長する機能がないため、鍛えたとしても強くなることはない
・復活丸
原料はDAIMAに出てくるあの虫……かもしれない丸薬
主人公が仙豆を参考に研究して作成したが、特定条件下でしか効果のない劣化版となっている
現在改良&量産化に向けて引き続き研究中
・チュン
初戦で前回優勝者であるパイクーハンに圧勝した今大会のダークホース
どうやら人間に敵意を向けている模様
いったい何マスなんだ……