シン・ドラゴンボール~無能神とは言わせない!界王神になったオレの奮闘記~ 作:ヤーター・ヤッタター
はたしてチュン選手は何者なのか……?(すっとぼけ)
「
「問題ございません。シェン様」
ザマスさんが同じデザインがいいって言うからオレと同じやつ用意したけど、どう考えてもこのゴーグルは視界の邪魔だと思うけどなぁ。作成当時は技術的にこれ以上の小型化が難しかったし、正体を隠す意味でも顔をわかりにくいようにする必要があったからこの形だけど、今の技術ならバングルとかチョーカーとか色々やりようがあったのに。
それにブウ編に向けてこれから色々動くことになるから、この武道会が終われば正体バレしても問題ないし。
「《……いくら師弟設定だからって、今は様付けじゃなくてもいいんですよ?》」
「《いえ、どのような姿であれ、貴方様が貴方様であることには変わりはありませんので》」
こそっと念話で言ってみたが、ザマスさんってばマジで真面目だなぁ。いつも気を張ってて疲れちゃいそう。初めて会った頃のが気を抜いてたと思うけど、やっぱり直接の上司部下の関係になっちゃった弊害なのかなこれって。
あ、ちなみにこの念話、ちゃんと
「チュンは初戦からパイクーハンさん相手ですね」
これ、ちょっとビックリした。
オレからザマスさんへの
オレが担当するスパーキング級の方では孫悟空が問題なく決勝まで勝ち上がってくるだろうし、それで
「……以前より、パイクーハンという人間と戦いたいと思っていたんです」
「おや、それは意外ですね」
マジか。あれかな、ザマスさんって元々戦闘能力の高さでゴワス殿の弟子になることになったんだし、そういうのが気になるのかな。
「ふふ、パイクーハンさんには悪いですが、今回は彼の応援はできませんね」
ま、心配はないだろう。
オレは身長差からどうしても下から覗き込むことになってしまうザマスさんの顔を見上げ、まっすぐゴーグル越しの目に微笑んだ。
「ここであなたの戦いを応援しています。頑張ってきてくださいね」
++++
『さあさ白熱しておりますあの世一武道会・ファイターズ級! 初戦最後を飾る第4試合の選手はこの2人! 前回優勝者である西銀河出身・パイクーハン選手と、今大会初出場の南銀河出身・チュン選手です!!』
歓声の中、2人の選手が武舞台中央へ姿を現す。
片方は白い胴着に身を包み真緑の肌をした清廉とした男、前回ファイターズ級優勝者・パイクーハン。その眼差しは真っすぐと目の前の対戦相手を見据えている。
相対するのは黄緑色の現代的な服装をした選手・チュン。その表情は分厚いゴーグルで隠され窺いしれないが、初出場とは思えないほど落ち着いているように見受けられる。
「初出場とはいえ、キミはあのシェンの弟子だ。油断はしない」
「…………」
パイクーハンは己の胴着と帽子に手をかけ、それを脱ぎ捨てた。白い装束の下からシンプルな服装が姿を現す。
パイクーハンの行動に、観客席は驚愕に揺れた。
『おおっと!? パイクーハン選手、身に纏っていた装束を脱ぎました! 前回大会までをご承知の皆様には周知の事実ですが、パイクーハン選手は普段から重たい装束を身に纏うことで己に枷をかけております! これは常に鍛えることを第一とするパイクーハン選手のストイックな習慣なのですが、普段の試合でも余程の相手ではない限り、その枷を嵌めたまま試合に臨んでいるのは有名な事実でございます! そ、それをパイクーハン選手、初戦から脱ぎ捨ててしまいました! 今大会初出場・チュン選手はそれほどまでの実力者なのでしょうかぁッ!!?』
重りを外したパイクーハンは身体を馴染ませるように首を捻り、肩を回す。そして流れるような動作で腰を落とし、構える。
「シェンの実力はわたしが1番わかっている。最初から本気でお相手願お、ッ!?」
パイクーハンの言葉にチュンは答えない。
だが、その今の言葉で──
「…………」
それまでは沈黙し、気配も殺し、まるでそこに存在しないかのように佇んでいたチュン。
しかしそれは一瞬のうちに、凄まじい威圧感によって
「これは難しい試合になりそうだ」
「…………」
「……だんまりか」
パイクーハンの頬に一筋の汗が伝う。
依然、チュンは何も応えない。構えることもなく、ただ佇んでパイクーハンを見つめている。
『この勝敗でファイターズ級ベスト4が出揃う注目の試合です! 果たして勝つのは2度目の完全制覇を目指すパイクーハン選手か!? はたまた初出場のチュン選手か!?』
この威圧はパイクーハン以外には向けられていないのか、司会の男はいつも通りの調子で声を張り上げている。
そしてその司会の男の手が大きく掲げられ、降り下ろされた。
『それでは初戦・第4試合! 始め──!!』
「はぁああッ!!」
轟く銅鑼の音。
先手必勝とばかりにパイクーハンは飛び出した。
(相手の実力は未知数、構えを取る前にまずは1撃を……!)
そうして風を置き去りにするかのようなスピードで放たれたパイクーハンの拳は──容易くチュンに受け止められた。
「何ッ!?」
「……この、程度で」
受け止められた拳が、軋む。握りつぶされそうなほどに強い力で拳を掴みながら、ずっと口を閉ざしていたチュンが呟いた。
不気味なほど感情の乗らない、平坦な声だった。
「この程度の実力であのお方の隣に立とうなど、身の程を知れ」
捕まれた拳を振り解こうとしていたパイクーハンを、分厚いゴーグル越しの瞳が射抜く。その冷たさに状況を忘れ息をのんだ刹那、
──観客席から悲鳴が上がった。
「ぁ……が……」
「やろうと思えばキサマの腹を貫くぐらいは容易かった。慈悲深いわたしに感謝しろ」
チュンはパイクーハンの拳を掴んだままでいた腕を振り上げ、その身体を武舞台上に投げ捨てた。
『なっ!? パ、パイクーハン選手、ダウン!! カウントに入ります!!
「挽回のチャンスをくれてやる。復活丸を使え」
腹を抱えて呻く。パイクーハンは朦朧とする意識のなか、必死に復活丸を取り出して口に含んだ。
たちまちにパイクーハンを蝕んでいた痛みが癒え、呼吸が正常に戻る。……自覚はなかったが、内臓にまでダメージが入っていたらしい。もしかしたら肺が潰れていたのかもしれない。
(くっ……!)
パイクーハンは飛び上がるように起き上がると、チュンと距離をとった。
背に嫌な汗が伝う。
たった1撃。
それだけで充分だった。
(こいつは、この男は……!)
目の前の男──チュンはパイクーハンよりも強い。
『こ、これは誰もが予想外! チュン選手、パイクーハン選手の攻撃をものともせず、逆にパイクーハン選手をダウンさせてしまいましたッ!! パイクーハン選手は復活丸を用いて復帰し距離をとりますが、対するチュン選手は構えもせずにただ佇んでおります! こ、これは余裕の現れなのでしょうか!?』
司会の実況も観客の動揺も、パイクーハンの耳には入らない。
「構えろ。それともこれでおしまいか?」
「……嘗めるなぁッッ!!!!」
そこからは、
そこからは、まさに蹂躙だった。
全ての攻撃がいなされ、空振り、されどチュンの攻撃は的確にパイクーハンの急所を抉る。
倒れ、動けなくなる度に、パイクーハンは復活丸で立ち上がった。だが、復活丸は傷を癒すことはあっても、気力──精神まで癒すことはない。パイクーハンは例え素人が見たとしてもわかるほど、追い詰められていた。
地上での肉弾戦が不利とわかれば空中戦に舞台を変え、パイクーハンの得意技であるハイパートルネードで武舞台に暴風を呼び、それでも敵わないとわかれば距離をとり、消耗覚悟でスパーキング級に向けて鍛えてきた新技・サンダーフラッシュをも使った。
それでも、チュンには届かなかった。
「はぁッ……はぁッ……!」
「……もういいだろう。いい加減降参しろ」
武舞台に膝を突きながらも、パイクーハンはチュンを真っすぐと睨みつける。
パイクーハンは、選択を迫られていた。
『パイクーハン選手、残りの復活丸はたったの1粒となってしまっております! 他選手と違い、パイクーハン選手はスパーキング級の出場も控えておりますので、この1粒を使ってしまえばそちらの出場は難しいと言わざるを得ません!! パイクーハン選手、難しい岐路に追い込まれておりますッ!!』
今、最後の復活丸を使ってしまえば、例えチュンに勝てたとしても満身創痍のままスパーキング級に進むことになる。
──もし今、棄権すれば、
(……スパーキング級には、万全の状態で進むことが可能になるな)
そうすれば、パイクーハンは挑むことができる。
パイクーハンは生前、故郷の星にて最強の戦士だった。
あの世に来たときも同じで、パイクーハンより格上の戦士はいなかった。初参加のあの世一武道会では双方の部門にて優勝し、数少ない完全制覇を成し遂げた戦士として、その名声をあの世に轟かせた。
大界王星へと足を踏み入れて、そこで自分と同等かそれより強いと思う戦士もいたが、それでも鍛え続ければいずれ勝てるとわかるような相手だった。事実、鍛錬を続けたパイクーハンはそのいずれにも勝利した。
パイクーハンはいつだって『挑まれる側』だった。
目ぼしい相手もいなくなり、あの世一武道会の参加の意義が見出せず、初参加して以降の武道会にはあまり興味もなかった。
だが、己の出身銀河の界王の嘆願によって参加した2度目のあの世一武道会、そこでパイクーハンは出逢った。
──己が『勝てない』と思った戦士に。
その戦士は、一見強そうには見えなかった。
背は低く、小柄で、筋肉もあまりないひょろりとした身体をしていた。物腰は穏やかで攻撃性の欠片もなく、戦士とは縁遠いような性質だった。かつて生前に拝顔したことのある王侯貴族などの貴人と言われたほうがしっくりと来るような、そんな浮世離れした雰囲気を持っていた。
だが
スピードが違う。威力が違う。呼吸が違う。技量が違う。判断が違う。経験が違う。
強さが、違う。
最初に戦ったときはあっという間に気絶してしまい、何がなんだかわからなかった。その後は何度も挑んだ。鍛錬を重ね、そしてまた挑み──何度も負けた。
パイクーハンは初めて『挑む側』になった。
(シェン……ッ!!)
あまり本心を悟らせない人間だった。
普段から人当たりがいい癖に、その内側には決して入れさせようとしない、穏やかな笑みの下で見えない壁を作っている人間だった。だというのに、パイクーハンや他の人間が悩んだり悲しんだりしていると、当たり前のように手を差し伸べる人間だった。心の隙間に寄り添うのがやたらと上手い人間だった。
同じように強さを追い求めているように見えて、パイクーハンたち戦士とは全く違う視座をもっている人間だった。
パイクーハンがシェンと出逢い、敗北し、挑み続けて1000年以上の時が経っていた。時間の感覚が緩やかなあの世であったとしても、決して短くはない時間だった。
──だからこそ、パイクーハンは感づいていた。
(だが、おまえより弱いわたしでは、きっとおまえの力にはなれない……!)
だからこそ勝ちたかった。今度こそ勝ちたかった。勝って、シェンと対等になりたかった。
「──
パイクーハンの思考を遮るように、冷たい言葉が切り裂く。
「
……その言葉で、
パイクーハンは覚悟を決めた。
『おおっと!? パイクーハン選手、最後の復活丸を取り出して──口に含んだぁッ!? パイクーハン選手、最後の復活丸を使用しました!! パイクーハン選手、復活ですッ!!!!』
「……わたしは、」
パイクーハンは立ち上がる。
全ての傷が癒え、消耗していたエネルギーも補充された。
「わたしは、諦めるわけにはいかない」
本来なら補充されるはずのない、気力が──闘争心が、癒え、湧き上がってくることを自覚する。
もうパイクーハンの瞳に動揺はない。
「シェンが見ている前で、無様を晒すわけにはいかない」
パイクーハンは腰を落として、構える。心の内からエネルギーを練り上げる。
もう後先は考えない。ただ真っすぐと、目の前の
「……それが
対するチュンは、パイクーハンを
そして──この試合で初めて、攻撃に備え、構えをとった。
「来い。せめてもの慈悲だ、完膚なきまでに叩き潰してやろう」
一瞬の静寂。
張りつめた糸のような、刹那の緊張。
観客席にまで波及したそれは、瞬きの間に会場全ての人間を飲み込み、
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!!」
パイクーハンの咆哮が、打ち破った。
パイクーハンの連撃がチュンを襲い、チュンはそれを軽々と裁いていく。だが、パイクーハンの拳は、少しずつだが確実に、速さを増し続ける。
チリ……と空気が揺れた。
高密度に練り上げられたエネルギーを纏った拳により、大気と摩擦が起きる。摩擦は熱を帯び、やがて炎へと到った。
(これが、今のわたしの最強の姿だッ!!)
四肢に炎を纏う大技・バーニングスタイル。それは、パイクーハンへも自傷ダメージを与えてしまうような未だに完成形とは程遠い、あまりにも不安定な諸刃の剣だった。
元々ファイターズ級の制御下を想定していない、消耗の激しい戦闘スタイル。エネルギーが尽きたとき、その炎がどうなるのかすら未知数。もし炎が牙を剥けば、パイクーハンは自身の炎に飲み込まれてしまうであろう。
それでもパイクーハンは止まらなかった。
「おおおおおおおおお!!!!」
炎を纏った蹴りがチュンの頬を掠める。その熱気に、始めてチュンの表情が歪んだ。
続けざまに振り抜かれた拳をチュンが捕えた。ジジジと互いの手を焦がす炎熱を厭わず、チュンは掴んだ拳を握りしめる。
勝負の始まりの再演。軋む拳は動かず、刹那の膠着。
腹への衝撃を、今度のパイクーハンは防いだ。
鳩尾を狙われたそれを、掴まれていない腕を差し込むことで受け止める。そしてチュンと同様、離してなるものかとその手に力を入れた
(いける! まだ、これから……ッ!!)
──だが、
付け焼き刃のそれで覆せるほど、チュンは甘くはない。
ゴキンッ
不吉な、
一瞬、パイクーハンは何が起きたのかがわからなかった。一呼吸遅れて、ようやくそれがパイクーハンの意識に伝わる。
パイクーハンの利き手拳が、握り潰された。
「ぁ……ぐ、が……ッッ!!」
「……言っただろう」
握り潰され拉げたそれに、チュンは更に力を込める。
「完膚なきまでに、叩き潰してやる」
もはや残骸となったそれを放り投げ、バランスを崩したパイクーハンの胴にチュンの蹴りが突き刺さる。あまりにも鋭く、教本に載っているかのように流麗な回し蹴りだった。
蹴り飛ばされたパイクーハンの身体は武舞台に亀裂を入れながら数度バウンドし、止まった。
そこでようやく、観客たちは息を止めていたことに気が付く。
自分たちの呼吸を思い出した観客たちは、耐えきれず悲鳴を上げた。
『な!? え、あ、パイクーハン選手、ダウンッ!! カ、カウントを……え、ええッッ!!??』
「ご、ふっ……ッ!」
パイクーハンは立ち上がる。
もはや炎は消え、枯渇したエネルギーでは立つことすらままならない。それでも、パイクーハンは気力だけで立っていた。
『パイクーハン選手、立ち上がりました! ですが、あまりにも満身創痍ッッ!! こ、これはいくらなんでも無茶なのでは……!?』
パイクーハンは構える。
観客の悲鳴も司会の動揺も耳に入らず、ただチュンだけを視界に捕える。
「ああああああッッ!!」
砕けた利き腕をそのままに、パイクーハンはチュンへ突進する。利き腕とは逆の手が固く拳を握った。
「……今さら、破れかぶれの攻撃など、」
──通じるはずがないのは、パイクーハンだってわかっていた。
「ッ!?」
だからこそ最後の賭け、せめて一矢報いようとする執念の突撃。
パイクーハンはチュンの眼前で方向転換を加える。単純な殴打による攻撃だと油断していたチュンは、死角に入ったパイクーハンに咄嗟に反応できなかった。
「はあッッ!!」
意表を突いたパイクーハンの渾身の蹴りはチュンに当たり、
──されど、体勢をすぐに立て直したチュンに掴まれ、
ドゴォォォォッッ……
地響きの音と共に武舞台の石畳が破壊され、土煙が舞う。
『パ、パイクーハン選手、捨て身の特攻!! 現在、武舞台上は砂塵が上がった影響で状況がわかりません!! 一体全体、どうなってしまったのかぁッ!!??』
観客たちも息をのんで武舞台を見つめる。
やがて土煙が晴れはじめたその向こう、広い円形の武舞台の中央付近、
──その場所に佇む1人の人影。
『こ、これは……チュン選手! 立っているのはチュン選手です!! チュン選手、
チュンが見下ろす先、巨大なクレーターのその中央に、パイクーハンは横たわっていた。
足を掴んだ状態から無理やり武舞台へと叩き付けたためか、パイクーハンの片足は負荷がかかり不自然に折れ曲がっている。
『~~~~ッッ!! パイクーハン選手、ダウン! カウントに入ります!
白目を向き、ただ力なく地に伏せている。
誰もが見ても意識がないとわかるその姿に、自身の動揺を抑えて司会であるキノコ頭の男はカウントを進める。
観客たちには武舞台の光景を受け入れられず、悲鳴のようにパイクーハンの名を叫ぶ者もいた。
『
な……ななななんと……信じられませんッ!!』
チュンはパイクーハンから視線を外すと、背を向け選手控え室がある方角へ向き直る。
『こんなことがあってもいいのでしょうか!? 一体誰が予想できたというのでしょうか!? 例え予想できたとしても、目の前の現実を誰が信じるというのでしょうか!!??』
チュンは優雅に姿勢を正し、胸に手を当てる。
阿鼻叫喚の観客席は、チュンの視界には入らなかった。
『あの世一武道会・初出場! 今の今まで誰にも知られていなかった全くの無名! まさにダークホース!!
──チュン選手、準決勝進出です!!!!』
選手控え室から己の勇姿を見届けてくださった、敬愛すべき尊き主君に、チュンは──ザマスは、心からの一礼をした。