シン・ドラゴンボール~無能神とは言わせない!界王神になったオレの奮闘記~ 作:ヤーター・ヤッタター
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「パイクーハン! パイクーハン、大丈夫か!?」
「道を開けてください! 救護スタッフが参ります! 道を開けてください!」
ばたばたと慌ただしい選手控え室。転移で戻ってきた選手を待機していたスタッフが迎える。
慌てた様子で『救護班』と書かれた襷をかけたスタッフが現れ、横たわるパイクーハンに駆け寄った。
「……これは、早急に治療を行った方がいいでしょう。放置すると危険だ」
苦々しい顔で救護スタッフが告げる。
それは、ボロボロになってでも戦いを続けたパイクーハンにとっては1番辛いだろう処置だった。
「運営判断により、パイクーハン選手を
──『武道会中、出場選手は外部から治癒を受けてはいけない』。
それがあの世一武道会のルールの1つだ。つまり、ここでパイクーハンが治療を受けるということは、パイクーハンはスパーキング級の出場資格を失うことになる。
「スパーキング級でパイクーハン選手と当たる相手は不戦勝となることを上に通達を」
「観客への報知を急いで! パイクーハン選手のファンが動揺している!」
「西の界王様が押しかけてきています!! ど、どうすれば!?」
「選手控え室は選手とスタッフ以外立入禁止です!! 界王様でも駄目ですよ!!」
「スタッフ殿、オレの復活丸が残っている! どうか使ってやってくれ」
「オリブー選手、提供いただき感謝いたします」
救護スタッフの決定に、他のスタッフたちが慌てて動き出す。
オリブーから巾着を受け取った救護スタッフは、そっと意識のないパイクーハンの口に復活丸を押し込んだ。一拍遅れて、パイクーハンがうめき声を上げる。
「うぅ……」
「パイクーハン! 大丈夫か!?」
「パイクーハン選手、起きられますか? 手足は……大丈夫そうですね」
傷1つない己の身体を見て状況を察したのだろう。パイクーハンは唇を噛んで俯く。
「同意なく申し訳ありません、パイクーハン選手。実は……」
「──いや」
救護スタッフの言葉をパイクーハンは遮る。
ふら付くこともなくしっかりとした動作で立ち上がり、顔を伏せたまま近くの窓を開けた。
「治療、感謝する。……すまない、1人にしてくれ」
パイクーハンは窓枠に足をかけて飛び立つと、姿を消した。
++++
「大丈夫かなぁあいつ……」
悟空はパイクーハンが出て行った窓を見る。
復活丸で怪我はもう問題ないだろうが、誰とも目を合わせず飛び去った後ろ姿が心配だった。
「パイクーハンは今回こそ完全制覇するとずっと言っていたからな。まあ、あのままでは危なかったのは彼自身だ。運営の判断を責められないさ」
「確かになぁ」
悟空の目から見ても、パイクーハンの容態は深刻だった。
効き手の全指損壊、片足の骨折、多数の火傷、そして何より──気の枯渇。
最後のあの炎を纏う技はよっぽど気の消費が早い技だったのだろう。通常でも運用が難しそうなのに、ファイターズ級の制限下では
そうなれば、命の保証は……、
「あり?」
そこで悟空ははたと気が付く。
「なあオリブー」
「ん? どうしたんだい」
「あの世で死んじまった場合、どうなるんだ? またあの世のあの世みてぇなところに行くんか??」
死んだ魂はあの世へ、それは当たり前のことだった。ならば、既に死んでいる魂は、死んだらどこへいくというのか?
悟空の疑問に、オリブーは何でもない顔をして答えた。
「いや、魂の終着点は
──あの世で死んでしまった魂は、消滅してしまうのさ」
++++
あ、あばば、あばばばばばばばば……!
ザマスさん、YA☆RI☆SU☆GI────!?
ちょ、パイクーハンさんこれ大丈夫!? 生きてる!? いや元々死んでるけど!! あの世だしッ!!
「ただいま戻りました、シェン様」
そうこうしてたらザマスさんが戻ってきた。
「お疲れ様です、チュン。また腕を上げましたね、
「……! はい、ありがとうございますっ!!」
でもザマスさんを責められないよねぇ!? だって「頑張れ」って送り出したのオレだし、ザマスさん別にルール違反とかしたわけじゃないしぃ! この後のこと考えたらザマスさんが初戦敗退したら困るのオレだしぃぃッ!!
なら上司、いまは師匠(仮)としてちゃんと労うのが義務ですよね……。
はぁ……。
パイクーハンさん、大丈夫かなぁ……。
「……あの、シェン様」
「はい?」
あ、オリブーさんが復活丸を提供してる。なら大丈夫か。
声掛けに行きたいけど、
それはそれとして、ザマスさん、声かけてきたのにどしたの?
なんか言葉を探して口を閉じる、みたいな煮え切らない顔してますよ。
「《ザマス、どうしたのですか?》」
「《っ! いえ、あの……》」
他の人に聞かれたくないのかなぁって思って念話に切り替える。
それでも逡巡したザマスさんは、意を決したようにオレを真っすぐ見ながら切り出した。
「《……お叱りを、受けてしまうのかと、思っていました》」
…………。
「《シン様は、あの人間と懇意にしていたように見受けられました。その人間を、魂には別状ないとはいえ、あのような重傷を──》」
「《ザマス》」
途中でザマスさんの言葉を遮る。
いや、確かに反射的に「やりすぎでは!?」とか思ったのは事実だよ。事実だけどさ。
「《試合を続けることを選んだのはパイクーハンさんです。それ以上は戦士の矜持を貫いたパイクーハンさんへの侮辱になります》」
今回の結果は、どちらかというと最後の復活丸を使ってまで粘ったパイクーハンさん側が原因だろう。
むしろ、あと数秒でもあの火達磨状態が続けばパイクーハンさんが危なかった。ザマスさんは拳を握りつぶしたとき、
というか、それはそれとして、何でパイクーハンさんはあそこまで粘ってたわけ? 普通に考えて、スパーキング級に備えて復活丸残り3粒ぐらいになった時点で棄権するのがセオリーだよね?? そこまで勝ちに執着する人だったっけ??????
くそぅ、何か話してたみたいだけど、
「《それに、
最悪を防ぐってだけで、死者が更に死んだらヤバいのは変わらないんだけどね!!
『
それを防ぐための簡易的な魂の保護を与える『契約』を選手登録届には仕込んである。本人直筆のサインが必要なのはそれが理由だ。一応、選手登録届の注意事項にその辺も記載してるから、出場選手たちはわかった上で
(……いや、孫悟空とか、多分読まずにサインしてるんだろうなぁ。北の界王ってずぼらだから、細かい説明とかしなさそうだし)
そもそも、『生きている』という状態が一種の魂を保護している状態に他ならない。その保護が無くなり剥き出しになっているのだから、死者の魂が無防備なのは当たり前だ。
……あまりにも魂の損傷が酷かった場合であっても、最悪の最悪、輪廻の輪にすら入れないくらいに魂が霧散してしまうことは防げる。その場合は自我や記憶は無くなり新たな命として転生することになるけど、完全に消滅してしまうよりかはマシだろう。
「《ザマスはわたしの指示で『大界王星入り』と『孫悟空の見極め』を行うため頑張ってくださっただけです。頑張った従者を責める主などいません》」
「《……はい。ありがとうございます、シン様》」
もしも、パイクーハンさんが
魂の循環としてはそれが正しいのだから。
実は『大界王星特権』と呼ばれる特権の中には、『転生先について対応可能な範囲内での要望を聞き入れる』というものがある。
戦士たちの中にはこれを利用して転生する魂も少なくはない。そもそも強い魂が多くあの世に
……影でオレはめっっっっっっっっっっちゃ落ち込んで寂しがるんだろうけどッッ!!!!
『観客の皆々様、大変お騒がせいたしました! ファイターズ級・準決勝の試合を始めさせていただきます!!』
武舞台から司会の声が聞こえる。バタバタしてしまっていた運営の対応もひと段落ついたようだ。
孫悟空の次の相手は……ああ、あの選手か。大界王星入りはしてるけど、いまいちパッとしない戦績の選手だ。孫悟空の余裕勝ちだろう。ザマスさん側ブロックの準決勝の相手もザマスさんには敵わないだろうし、決勝戦は『孫悟空vs.チュン』で確定かな。
「……おや?」
あれま、サイヤ人の舐めプ属性でも出ちゃったのか?
なんか孫悟空が1発食らっちゃってる。よそ見でもしちゃったのかな、避けられない攻撃には見えなかったけど。
てか、なんか……、
(調子、悪そう??)
え、何があった。
++++
「…………」
ザマスはじっと武舞台を見る。
武舞台上では準決勝・第1試合が行われている真っ最中だった。
そのうちの片方──『孫悟空』という名の人間を、見る。
──「ザマスにはファイターズ級に参加して、孫悟空という人間を見極めて来ていただきたいのです」
北の界王が人間に殺されたという、第7宇宙を揺るがすような大事件。それを知り、その下手人となった人間の
──「見極め、ですか?」
──「はい。彼の実力はかなり高い。閻魔大王から彼の
──「……罪を犯していないわけではないです」
──「はい、その通りです。ですが、この経歴を拝見しただけでも信じていいとわたしは考えました」
──「…………」
敬愛すべき尊き主君の言葉を否定してしまうことを厭い、ザマスは口をつぐむ。
シンは、己の判断に不服の意を示すような不遜な従者に対しても、困ったような笑みを零すだけだった。
──「直接、ザマス自身の目で判断した方がいいでしょう。状況によっては、共に敵と戦い背を預けることになるであろう相手です。ザマスにとっても隔意がない方がいいでしょう」
──「…………」
──「戦闘能力面については、スパーキング級でわたしが見極めてきます。ザマスは孫悟空という人間の内面を見極めて来てください」
──「……内面」
──「ザマスの見る目を、わたしは信じていますから」
(……ああ、見極めてやる)
ザマスの敬愛する主君は、相手の目を真っすぐ見て話す癖がある。
それは主君の誠実さによって自然と行われている所作だったが、ザマスはそうやって瞳を覗き込まれるたび、こそばゆい気持ちになる。
(このお方が『信じている』と言ってくださった、それに恥じない働きを)
武舞台上では、孫悟空という人間が対戦相手を場外へ投げ飛ばしていた。
次回、ファイターズ級・決勝戦です。
・
どんな理由であれ、失格は失格
失格した選手は次回あの世一武道会の参加資格を失ってしまう
・大界王星特権その②
いわゆる転生特典
転生を決意した戦士にしか通達されないので、第6話時点のオリブーはまだこの特権を知らない
肉体持ちの戦士は神々お墨付きの善良な人間しかいないので、皆ささやかなことしか願わない
記憶も自我も継続不可なのでよくある転生チート俺TUEEEEにはならないし、無理な願いは普通に却下される
・死者の死
アニオリあの世一武道会では「すでに死んでるので問題ありません!」とキノコ頭の司会が言っていましたが、拙作ではブウ編終盤の悟空さとベジータの会話の方を採用しています
あの世の住人だって、永遠にそこにいる訳じゃない