仮面ライダーフェイル   作:ケサランパサラン

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コード「フェイル」

 

「……あれ?」

 

 人でごった返す休日の広場。通りがかっただけのその女性は何かを感じたように振り返る。

 

玲奈(れいな)?」

 

 違和感の出所、それを探すように視線を動かしているのを友人に不思議そうに見られているのを意にも介さず、1人ずつ見つめては次へと視線を移していく。

 

「……あの人」

 

 1人の男を指差した。

 友人も指の先の男を見つめるが何もおかしいところは見受けられない、首をかしげて不思議そうにしている。

 

「あの人がどうかし……あれ?」

 

 急にうずくまって周囲の家族であろう女性と子供が駆け寄っていく。

 

「まさか……」

 

 男性から粒子状のものが放出されていく。やがて霧のようになりその身体を覆い隠してしまった。

 十秒も立たぬうちに霧が収束し人影が見えてくる。

 否、人ではない何かが。男性の姿は消えてなくなり、残ったのは亀の甲羅のようなものを纏った決して人ではない何か。

 

 

 瞬く間に悲鳴が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ターゲット確認、ケースは」

「擬態限界による暴走のようです、自我はすでになく見境なく暴れ回っている模様」

 

 対ミスト専門組織『フーガ』

 自衛隊の他に唯一武装を許された軍事組織。通報を聞きつけた彼らが迅速に避難誘導とミストへの対処に取り掛かっていく。

 

「隊長、指示を」

「一般人ならびに周辺住民避難が最優先、あとは時間稼ぎだ」

 

 隊長と呼ばれた男はマグナムを抜き取り、亀型のミストに向けて引き金を引く。

 

「ヴ……ウァ?」

「…っ!!」

 

 マグナム口径の弾丸を撃ち込んでも大したリアクションはなく、亀型ミストは背の甲羅に籠りスピンしながら突進していく。

 

「隊長!」

「問題ない!さっさと避難誘導と安全確保してこい!」

「は、はい!」

 

 横に飛んで回避しながら何発か撃ち木をへし折って停止するミストを横目に弾丸を再装填する。

 

(擬態限界による暴走だとするなら元となった人間はもう……しかし無理やり撃滅するわけにもいかないか)

 

星羅(せいら)さんあとどのくらいかかりますか」

『1分で到着させる、保たせられる?』

「舐めてるんですか」

 

 隊長と呼ばれたその男は通信先に不満があるようにそう言いながら、再びミストに銃口を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『てわけで緊急コード発令、ポイントはB-6、30秒後に目標地点への射出を開始する。準備はいいね?奏多(かなた)くん』

「はい」

 

 通信機を通して女性の声が聞こえてくる。奏多と呼ばれた青年はバイクへと跨り、腰につけたドライバーの右側に空いた穴に灰色の筒状の何かを差し込む。

 ベルト中央部の蒼い球体が淡く光り出す。

 

 

【Order:Code.FAIL】

 

 

「変身」

 

 

 コードフェイルの受付音声、そして青年の掛け声。

 その声と共にドライバー上部のトリガーを左から右へと駆動させる。

 

【Approval The Executioner FAIL】

 

 灰色のラインがドライバーに浮かび上がり身体にまで伸びていく。全身にまで伸びた後ドライバーから粒子状の塵ようなものが噴出され全身を包んでいく。その姿を認識できないほどに濃い灰色の霧。

 灰の霧が晴れ、青年の身体は灰色の肉体へと変化し、その身体からは塵の灰がふわふわと浮かび上がっていた。

 

 ドライバーから球状のユニットが複数発射され、さらにそのユニットから展開された機械的なパーツが青年の肉体へと装着されていく。

 腕、脚、頭、そして最後に胸部のプラズマコアが装着され、蒼く強い光を放つ。

 装甲が全て装備された時、身体から放出される霧が収まった。

 

『健闘を祈るよ、仮面ライダーフェイル』

「…星羅さん、その仮面ライダーっての何とかならないんですか」

『射出ゥッ!』

「ちょ———」

 

 変身完了したのも束の間、ハッチが開かれリフトが高速で稼働し、バイクからのジェット噴射によりとんでもない速度でバイクが打ち出されていく。

 

「ああもうっ!」

 

 ハンドルを強く握りしめ、青年……『仮面ライダーフェイル』は飛んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『隊長、周辺住民の避難は終わりました。今から援護に…』

「いや……必要ない」

 

 十数発打ち込んだところで部下から来た通信。息一つ乱していない隊長が部下からの支援を断る。

 理由は二つ、相手にそこまで苦しめられているわけでもなく無駄だから。

 そしてもう一つは……

 

「ヴァ———」

 

 空から黒い何かがミストへと激突し、大きく吹き飛ばした。吹き飛ばされた後甲羅に篭ってなんども地面を跳ね返りながら建物の壁へと激突する。

 

「ってて……毎度毎度慣れないなほんと…」

 

 バイクとミストの衝突の直前に飛び降り、着地したあとふらついて片手で頭を抑える仮面ライダー。

 

「…あ、三澤(みさわ)さん」

「随分と早い到着だな」

「おかげさまで」

 

 横たわったバイクを起こしてミストの姿を確認する。

 

「目標ミストの該当カテゴリは爬虫類。見ればわかると思うが亀だ」

「硬そうですね」

「実際硬い、背中の甲羅で塞がれると銃弾でも傷一つつかない」

 

 知り合いかのようにスムーズに情報を提供していく三澤と呼ばれた男と仮面ライダーフェイル。 

 

「甲羅に籠ってやってくる突進は軌道は読みやすいが当たれば痛いだろう、注意しろ」

「了解」

 

 亀型ミストがようやく体勢を立て直しこちらを睨みつける。理性や自我は失っているようだがそれとも本能により、目の前の相手が危険な相手だと理解したのだろう。

 

「ヴァァアア!!」

「うわ来た」

 

 スピンしながら猛スピードでフェイルの方へと突っ込んでいく。その速度はさっきまで三澤を相手にしていた時とは比べ物にならないほど早い。50mくらいの距離を3秒ほどで詰めてくる。

 

「速いっ、避け——」

「ふんっ、ぐぅっ」

「なんで受け止めた!!?」

 

 さっきの自分の忠告を一切聞いていなかったのか、ミストの攻撃を正面から受け止めるフェイルに半ばキレながら叫ぶ三澤。

 

「ん、んぐうううっっ!!」

 

 そのまま回転するミストを受け止め、持ち上げてひっくり返して地面へと叩きつける。

 

「動き回らして時間かかるよりはこっちの方がいいで、しょッ!」

 

 腹を丸出しにして手足をジタバタさせているミストに向かって飛び上がり、そのまま体重を乗せて力強く踏みつける。

 ミストが叩きつけられた時よりも強い衝撃が地面に響き、周辺のタイルが盛り上がり剥がれていく。

 ミストから塵が飛び立ったあと抵抗するように回転し、フェイルを引き剥がしそのまま身体を起こしてより一層敵意を剥き出しにする。

 

「腹も硬いけど一応ダメージ通りそ……ん?」

 

 ミストの凹んだ腹のあたりが修復されていく。いや、それだけではなく腹も背の甲羅と同じよう暗く変色し硬くなっていく。

 

『適応だ、だがここまでの速度でとなると特殊個体と言って差し支えないだろうね』

「めんど……」

 

 通信越しに聞こえてくる星羅の声に心底気だるそうにそう呟く。実際硬いと言うのは時間が長引きがちなのだが、それに加えて適応してくるとなると大きなため息が出そうになる。

 

「だったらもう…」

『力押し、だね』

 

 ドライバーからユニットが発射され黒い長剣がフェイルの手に収まる。ミストからすれば甲羅に籠っていれば全方位の防御が成立する上、さっきのようにひっくり返されても、適応によって腹の部分も固くなっているため生半可な攻撃は効かない。

 そうして手こずっている間にも適応によりさらに厄介になってしまう可能性がある。

 

『適応個体の厄介なのはどんどん手がつけられなくなっていくこと、アレは使わずに最低限の消耗で突破して』

「了解、三澤さん隙って作れますか」

「……隙って、どのくらいだ」

「一瞬でも動き止めてくれれば」

「………分かった」

 

 親指を立てて文字通り姿を消すフェイル。周囲には宙に浮いた塵だけが残されている。

 

「ったく……生身の人間相手に頼むかよ普通」

 

 悪態をつきつつ右腕に大きな鉄の板のようなものを取り付ける三澤。何度も同じように回転しながら突進してくるミストに対して右腕を向け格納された装甲を展開させ、下部の尖った部分が地面に勢いよく突き刺さりアンカー代わりとなる。

 衝突と共に強い衝撃が伝わり、回転は止まらずにそのままガリガリと装甲が削れていく音が周囲に響く。一度きりしか使えない緊急用の大楯だがこういう時になら役に立つ。

 

「早くしろ!!」

 

 いくら盾で受け止めているとは言え向こうは継続的に回転している巨大な質量の塊、骨が悲鳴をあげていくのがわかる。

 

 その叫びを聞いた途端に空中にフェイルが現れ勢いよく降下し長剣をその甲羅に勢いよく突き刺した。

 

「かっっ……た!」

 

 刺さりはした、が突き破るまでには至らない。プラズマコアの稼働によりブーストさせた攻撃であってもここまでだ。ミストは止まることなくさらに回転を加速させる。

 

「だが刺さったんなら…!」

 

 再度飛び上がり、ドライバー上部にあるトリガーを往復させる。胸部のプラズマコアがより一層光り輝き、右脚の強化外骨格にエネルギーが集中していく。

 

 

【Plasma Burst】

 

「押し通る」

 

 

 回転するミストに突き刺さった長剣の柄に飛び蹴りを放つ。押し込まれた長剣は止まることなくミストの身体を貫き、2枚の甲羅を貫通し地面へと深々と突き刺さった。

 

「ヴ……ァ…」

 

 うめき声をあげて絶命するミスト。

 その身体が静かに、そして細かく塵状に分解されていき、霧となって周囲へと漂う。その霧の中には一人の人間が横たわっていた。

 

「撃滅完了、回収へ移ります」

 

 フェイルが変身に使った筒状の何か……それの何も色のついていない空のものの蓋を三澤が開けると、周囲に漂うミストであったものが吸い込まれていく。

 

「……被害者確認完了。死亡を確認」

 

 その横でフェイルが回収されて晴れていく霧の中にいた中年くらいの男性の安否を確認していた。

 

「あとは引き継ぎます、お疲れ様でした」

「お疲れ様。スムーズに済んだとはいえ負荷はかかったろう、帰ってゆっくり休め」

「そうします」

 

 そう言ってフェイルは姿を消した。

 周囲にはまた、灰が散っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜お疲れ様。ちゃんと残霧も回収してくれたみたいだし結果は上々だね」

「星羅さん…」

 

 対ミスト専門組織『フーガ』、その支部である星羅が所長を務めるここ仁礼研究所。

 そこへと帰ってきた変身を解いた仮面ライダーフェイル……『柊木奏多(ひいらぎかなた)』はため息をつきながら恨めしそうに所長の星羅を睨む。

 

「な〜に〜その目は」

「いきなりバイクぶっ飛ばすのやめてください、振り落とされそうになってビビるんですよ」

「知らないよそんなの」

 

 面倒臭そうに返事をする小柄の女性……パジャマ姿でモニターの前に座っている相手を見て、またため息をついた。

 

「……今回のってどういうケースだったんですか」

「あーついさっき報告が上がってきたところだ。被害者は加賀俊則42歳……被害にあった当時は38歳と予想されている」

「4年……随分と持った方なんですね」

「だね、どれだけ長くても5年、平均じゃ3年くらいだ」

 

 ミスト……霧型怪人、通称ミスト。

 そのままでは実態をもたない霧状の生命体だが、人間に取り憑くことによりその姿を模倣……やっていることは寄生に近い。そうやって人間に化けて社会に溶け込んでいるのがミストという怪人の実態だ。

 

「奥さんがいたらしいけど……ショックだろうね」

 

 そう言って印刷した資料を手渡す星羅と、ペラペラとめくり手早く目を通していく奏多。

 

「子供も……まだ10歳で」

「4年間父親だと思っていたのが化け物だったんだ、フォローするのは私たちの役目じゃないが……」

「…………」

 

 いつ聞いても救われない話だ。

 

「まあそれはいいや、こっちへ来な。いつものするから」

「…はい」

 

 星羅の元へ行き、右手首にコードが何本も繋がった機械を取り付けられる。

 

「……よしよし、今回は戦闘継続時間も少なかったし特にダメージもない。汚染度数に大きな変化はないね。それでも一応安静にしておくように」

「毎度こう行けばいいんですけどね」

「そこは君の頑張り次第だな」

 

 機械を外し手首を左手で撫でる奏多。改めて目の前のおよそ勤務中とは思えない格好をした相手を見て顰めっ面を浮かばせる。

 

「…着替えましょうよ」

「着替えてる間に異常霧象が発生したらどうするのさ!私に安息なんてものはないんだよ」

「いやいや……せめてパジャマは…」

「じゃあ学生時代のジャージ引っ張り出してくる」

「誰か来ても恥ずかしくない格好してください」

 

 それ何年前のやつなんだと、言っても無駄だと半分分かりながら一応指摘する奏多。言うのを辞めたらそれこそ終わりなので言い続ける。

 

「うるさいなあ、さっさと寝て身体を労われこんちきしょー」

「言われなくたって休みますけどそのだらしない格好辞めろって言ってんですよ」

「あー?動きやすい上にこのまま寝れるんだからこれ以上ないくらい合理的でしょ!?」

「屁理屈、一般常識ではパジャマ姿で仕事するのは論外なんで」

「はー?」

 

 

 くだらない言い合いの応酬が人のいない所内に響き続ける。ここは仁礼研究所、今はまだたった2人しかいない寂しい場所。

 仮面ライダーフェイルへと変身する青年、柊木奏多とその開発者、仁礼星羅(にれいせいら)が暮らし、活動する拠点。

 

「生意気いいやがって、誰が育ててやったと……」

「うわ恩着せがましい、やだやだ」

「あ、言ったなお前。もう許さないから」

「自分が自堕落なことしてるせいなのによくそこまで食い下がれるなあ」

 

 今はまだ、霧の中の真相の一端しか知らない。

 彼らはそれを知るためにどこまでも突き進んでいく。

 

「じゃあ俺ももう知りませんから、今日はもう何も言わないんでせいぜいそうやって人間失格な生活しててくださいさようなら」

「ざーんねーんこれでもやることやってますぅ〜」

 

 この終わりのない霧を晴らすために。

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