仮面ライダーフェイル   作:ケサランパサラン

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逡巡

 

 夢を見る。

 夢と言えるくらい平和なものなら、呑気で、気楽なものならよかったんだけど。実際は昔の記憶の想起で。

 

 日常があっという間に壊れる記憶。

 自分だけが立ち尽くしていて、どうすればいいか分からなくなって、呆然と……ただ呆然と、瓦礫の山を見つめている。

 

 そんな、記憶。

 

 

 この夢を見て目を覚ます日はいつも寝覚めが悪い。身体が重くて、やる気も出ない。

 だからってそれを理由に歩みを止めることは出来ないから、押し殺して何もないふりをする。心の傷を覆い隠して、自分だけの秘密にしておく。

 

 誰のものでもない、自分の傷だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君ってさあ」

「なんですか、ろくな話振られないだろうけど一応聞いてあげます」

「友達とかいたの?」

「煽ってます?」

「8割くらいは」

「煽りじゃん」

 

 パジャマ姿で機材と格闘している星羅の横に書類の束を置いていると、唐突にそう話を振られ嫌そうな顔をする奏多。

 

「いたにはいましたよ。でもまあ玲奈優先だったんで、女にずっとひっついてる付き合いの悪いやつって心象だったでしょうね」

「あー、普通に人が近寄ってこないタイプの人間だったのか、納得〜」

「次その椅子に座るときにはネジがいくつか抜けてると思ってくださいね」

「仕返しが随分と遠回りだね…」

 

 そう言ってPCに向き直した星羅は独り言をぶつぶつと呟きながら作業を続ける。

 

「現状は参式の払霧…いややはり弍式………でも取り回しはなあ」

「……なんですか?それ」

 

 聞き慣れない単語が多く、気になって作業を止めて質問を投げかける奏多。

 

「君が剣とか銃とかでしか呼ばない武器の名前。フェイル用に調整してるの私なんだからね」

「そりゃどうも。……そんな名前ついてたんですね」

「当たり前でしょ」

 

 奏多にとって武器とはフェイルの装備の一つでしかない。名前を知らなくても扱えるのならそれでいいと、そういう判断である。

 

「剣は払霧、銃は悠撃。まあ作ったのは私じゃなくてフーガの兵器開発部の皆さんだから、名前も私がつけたわけじゃないけど」

「なんか無駄にカッコいい名前にしようとしてるのが鼻につきますね」

「そうかい?私は好きだけど」

 

 フーガの兵器開発部のものをフェイルに流用している。仮面ライダー自体は星羅一人の管轄だが所属自体はフーガであるため、フーガからの資金提供や物資の供給、装備や設備の利用もしている。

 

「まあ私たちからすれば名称があったほうがやりやすいってだけな話さ。君が覚える必要はないよ」

「覚える気もないですけど……バイクって星羅さんが作ったんでしたっけ」

 

 自分がいつも現場へ向かうときに乗らされている空を駆けるバイクを思い出して、気になってそう質問する奏多。

 

「まあね。あんなの普通の人間が使ったら振り落とされて落ちるか着地の衝撃で死んじゃうさ」

「今更ながらとんでもないものに乗らされてますね俺」

「まあでもあれが一番早いし……公道をライダーがバイクで向かって走ってたらちょっと面白いでしょ、絶対写真取られまくるよ」

「猛スピードで地面に激突して着地するのもどうかと思いますが」

 

 肩を回して深く息を吸って吐く星羅、それなりに疲れているらしい。

 

「まあ知ってるだろうが、私はフーガ本部の連中と仲が悪い。こうやって仮面ライダーという存在を独占してるのも良くは思っていないだろうし」

 

 仮面ライダー、というよりこの「仁礼研究所」の所属は名目上フーガだが、フーガからこの研究所に命令を下すことはできない。フーガからやってくるのは出動要請であり命令ではない。

 それは仮面ライダーという技術がフーガにはなく星羅しか有していない上に、その戦力が強大だからである。

 

「立場上君を他のフーガの隊員と一緒に行動させるわけにもいかないしね」

「まあ俺の素性を知ってるのもフーガの中でも一握りですしね」

「奏多くんには関係のないことだけど、まあ色々と利権とかあるのさ」

「……コーヒー淹れてきますね」

「角砂糖6つで」

「2つ、入れてきますね」

「ちぇ、厳しいねぇ」

 

 コーヒーを淹れながら物思いに耽る奏多。

 

(……子供扱いはずっと続きそうだな)

 

 自分だってまだまだ若いくせして、面倒ごとは何も背負わなくていいと暗に伝えてくる。

 

 以前三澤から聞いた。

 星羅も十年前のミストラクションで父を亡くしていると。正確に言えば行方不明だが……

 父親の名は仁礼宗次郎、星羅と同じ研究者で、ミストラクションより以前からミストについて研究していたと。

 

(何も言わないんだよなあ、あの人)

 

 父親はもちろん家族についても、星羅は自分に関することを何も話さない。星羅が仮面ライダーの開発なんてしているのは十中八九父親が関係しているだろうに、聞いても君には関係ないと適当にはぐらかされる。

 フーガの傘下に入らずに、あくまでも仮面ライダーという戦力の提供という立場でいる理由も、奏多には分からない。

 

「はいどうぞ」

「ありがと。しかし肩が凝る。ストレッチ……いや、ヨガでもしようかな」

「前もそれ言って、3日で辞めましたよね」

「あれ、そうだっけ?」

「ヨガマット、物置で埃かぶってますよ」

「ふーん……じゃ次もすぐ辞めそうだしやらないでいっか!」

「まだ若いのに……」

 

 不摂生なのが目立つが、時々自分はこの人の身の回りを世話をするためにここに来たのだったか?と疑問を抱いてしまう奏多。

 コーヒーを熱がりながら啜っている星羅を眺めているとスマホが鳴る。

 

「ん……えっなんで」

「どした?また玲奈ちゃんかい?」

「玲奈じゃないですけど……高校の頃の知り合い…」

「あら、友達いたんだね」

「いや友達じゃないですね、むしろ俺は嫌いなやつでした」

「言うねぇ」

 

 連絡先を交換した覚えもない相手だった。そもそも奏多はこの研究所に来るにあたって玲奈以外のほぼ全員との連絡を絶っている。そのためそんな相手から連絡が来るということが想定外だった。

 

「会って話したい……?」

「女の子?」

「全然男ですが。……俺は会いたくないんだけど」

「めちゃくちゃ嫌ってるじゃん。まあ会ってみたら?」

「嫌ですよあんなカス」

「いったいその子との間に何があったんだ」

 

 大して仲良くもなく、知り合いでこそあれど友達ではなかったと認識している奏多。そんな相手がわざわざ自分に連絡してくる意味が分からない。どこから自分の連絡先を知ったのか……

 

「会わないの?」

「まあ………別に……会ってもいいですけど……」

 

 厄介ごとの予感しかしないが、自分が一方的に嫌っているだけの自覚はあった。よりにもよって自分に連絡してくるのだから、それなりの困りごとがあるのだろうと。

 

「いや……嫌だな…やっぱり会いたくない」

「珍しいね……君がそれだけ人のこと嫌うなんて」

「………高校の時の話です、色々あったんですよ、子供だから」

「たかが数年前の話でしょ〜?」

 

 本当に会いたくなかったのだが、話だけでも聞いてやればと星羅に促され渋々承諾の返事を送った奏多。高橋雄二(たかはしゆうじ)、高校時代の同級生。今何をしてるのかは知らないが、厄介ごとは勘弁してくれと、そう切に願う奏多だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

「………なんか機嫌悪い?」

「別に」

「そ、そうか…」

 

 人の少ないカフェの中に入り付き合って座るが、明らかに機嫌の悪い奏多とそれを見て困った表情をする高橋。

 

「その、今日はありがとうな、柊木」

「その前に一ついいか?」

「え?」

 

 話始めようとした高橋を遮って、機嫌が悪いのを継続しながら自分の話を始める奏多。

 

「誰から俺の連絡先聞いた?」

「え、えっと………本人から言わないでって言われてて……」

「あっそ帰るわ」

「あっごめん玲奈玲奈!玲奈に聞いたの!!」

「ハァ〜〜〜!?」

「どっちにしろキレてるしッ」

 

 困惑と怒りの入り混じった感情を隠そうともせず高橋に正面からぶつける奏多。

 

「玲奈からお前がフーガで働いてるって聞いて!……どうしても連絡取りたかったんだよ」

「………話って、ミストなのか?」

「……分からない、まだ」

 

 どういうやり取りがあったのかは知らないし、秘匿しなければならないことでもないが、他人に易々とフーガにいることを話されては困る。あとで玲奈に苦情を言おうと奏多は決心した。

 

「今俺普通に大学に通ってるんだけど………今の彼女がさ、なんか……怪しくてさ」

「………」

 

 注文したアイスティーを全く口にせず、そのグラスをただ見つめて淡々と話し始める高橋。

 

「でも確信なくて……まだ付き合ってるだけだから、もしミストでもなんでもないのに通報したら、その……まあ終わりだろ?」

「お前の事情なんか知らん」

「冷たいなぁ……だからまあその、ずっと相談できる相手探してて……でもフーガに知り合いなんていないからどうしようかって、ずっと悩んでたんだ」

「………」

 

 ミストの発覚が遅れる理由の一つが、これだ。

 確証を得られないということ。いくら会話を交わそうとも向こうは姿を変えて襲ってくる力を持っている。一般人に抵抗できる力はなく、ミストが何を考えているのかも理解できない。

  

 そして、単に癖の変化や性格が少し変わったなど、これらは普通の人間においても十分起こり得ることだ。ミストかどうかを正確に判別しようとすれば検査を行うしかない。

 

「俺のこと嫌いなのは分かるけどさ。………頼む」

 

 記憶の中の彼とはまるで人が違う。

 本気で悩んで、勇気を出して奏多に話そうとしたのだろう。ある意味、奏多なら自分の意を汲んでくれるという判断でもある。

 

「俺あいつのこと好きなんだよ。好きだけど……もしミストだったとして、いつからそうだったのか分からないんだ」

「………」

「もし……もし、あの時からミストだったなら俺は……俺は…………」

 

 仮面ライダーの役割は、通常のフーガの隊員では手に負えない戦闘能力の高いミストを対処すること。ミストの調査をすることではない。

 それでも奏多は今まで何度もミストと相対し、何度もその被害者たちと会ってきた。

 

「……分かった」

「…本当か!?」

「ただ、どんな結果になっても俺を恨むなよ。最善は尽くすが…」

「恨まねえよ!……好きな相手をずっと疑って過ごすの、辛いんだぜ?お前も想像できるだろ?」

「…………はあ」

「…悪い、忘れてくれ」

 

 グラスを空にして席を立つ奏多。

 

「その相手のこと、あとでメッセージで送ってくれ。……もしミストだった時の手配とか、色々あるから」

「……分かった、ありがとうな」

「………まあ、仕事だし」

 

 

 代金を支払ってくれるというので、そのまま店を出た奏多。少し離れて路地に入ったところで電話をかける。

 

「……もしもし、三澤さん?ちょっと頼みがあって……」

 

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