仮面ライダーフェイル   作:ケサランパサラン

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失態

「どうです?」

「俺あんま目利きじゃないからなあ」

「ある程度でも判別できるってだけで十分ですよ」

「だといいけどな」

 

 半々ってとこかねと、双眼鏡を外してコンビニで買ってきたあんぱんを貪る三澤。

 

「これに関しては完全に俺の感覚由来だから確証なんてない」

「怪しいって思った時点でほぼ確定みたいなもんだと思いますけど」

「過信しちゃダメなの、こういうのは」

 

 横谷裕香(よこやゆうか)。奏多の高校の同級生である高橋雄二の現在の恋人であり、高橋にミストでないかと疑われている。三澤は奏多に頼まれ、横谷が実際はミストでないかどうかを判断しにきている。

 

「でもこんなに早く来てくれるなんて……忙しいんですよね?」

「有給取った」

「えっ」

「まあ俺もお前と二人っきりで話したいことあったし、ついでにな」

「二人…?」

「ま、それは追々」

 

 紙パックの牛乳とあんぱんを交互に口にする三澤。奏多は触れた方がいいのかどうか分からず、なんとも言えない表情をしている。

 

「ずっとやりたかったんだ、刑事の張り込み」

 

 触れられなかったからか、自分から語り始める三澤。

 

「牛乳とあんぱんって、そんなベタな……ちょっと古くないです?」

「お前にとって古くても俺に取っちゃ色褪せない青春なの」

「はあ」

「そうやってすぐ人を老人扱いするの良くないと思うぜ」

「してませんよ」

 

 仕事をしている時は頼りになるが、そういえばこういう感じの人だったなと人柄を再確認する奏多。

 

「昔の将来の夢は警察官だったんだけどなあ、いつのまにかミストをしばく職についてて……お前はこんな仕事しちゃダメだぞ」

「手遅れですが」

「それもそうだな、はは」

 

 何を笑っているんだろうかこの人は。

 

「おっ移動したな、俺たちも行くぞ」

「はぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……三澤さん、カフェでくつろぐ女性をつけるって俺たち大丈夫なんですかね」

「アウトだな」

「ですよね」

 

 高橋から不審な点をいくつか聞いたが、正直人の癖や性格などから判別をつけるのは難しい。

 

「まあ一応捜査だからな、へーきへーき」

「不安だなぁ…」

「……カフェから出てくるまで暇だな、適当に駄弁っとくか」

「………真面目にやってます?」

「やってるっての」

 

 カフェの窓を覗ける位置にあるベンチに横並びに座り、身体を伸ばしている三澤を呆れた目で見つめる奏多。

 

「でまあ、話なんだけどさ。最近調子どうだ?」

「……二人っきりでしたい話って、近況報告ですか?」

「まあまあ、深く考えないでいいから」

「………それなりですかね」

 

 そうか、と短く呟きペットボトルの中の水を勢いよく飲み干す三澤。ついさっき牛乳を飲んでいたのにも関わらずよく飲む。

 

「お前はマシなのかもしんないけど、変身するだけでも負担かかるだろ?三……もう四ヶ月か?なんども出動してて大丈夫かって心配になってな」

「お気遣いどうも。………ある程度は覚悟してやってますから、多少調子悪くなったって止まる気はないです」

「…そうか」

 

 少し寂しそうにそう返事する三澤。

 

「……人喰いの件、あるだろ?」

「………何か情報が?」

「まあ怪しいところなんだが……一応伝えておこうと思ってな」

 

 星羅を通して言ってくれればいいのにと不思議に思ったが、マンイーターは自分も見つけ出したいと思っている。何かフーガが隠している情報があるかもしれないと静かに聞くことにする奏多。

 

「ここ最近行方不明者とそいつの血痕……血溜まりって言ってもいい。が発見されててな」

「………」

「よその町で似た事例が何度も確認されてて、それが今度はこの町で発見されてる。………フーガが探している人喰いかどうかは分からんが、犯人が今この町にいるってのは確かだ」

 

 人間を殺して喰っているとして、その人間を丸ごと食べてしまっているのなら確かに遺体は見つからない。

 正直、ミストである可能性の方が高いと三澤が付け加える。

 

「人を喰って十年以上生きながらえる……どんな変異が起きているか分からない。もし戦闘になったら……」

「最善は尽くします」

「……頼りになるよ、ホント」

 

 目下フーガの目的は人喰い個体の排除と残霧の回収となる。人間を喰う因子が全てのミストに共有されてしまってはこの世の終わりだ。

 

「そしてもう一つ。定期的に発生する霧幻界とこっち側の世界の接触なんだが……」

「………どうかしました?」

「いや、なんて言ったらいいのか……」

 

 何故か言い淀む三澤に不思議そうな表情を向ける奏多。

 

「とにかく数値がおかしいというか……次の接触、何かが起こる可能性があるってことだ」

「何かって………まさか」

 

 奏多の脳裏に浮かんだのは10年前のあの光景。20分も経たないうちに町が破壊し尽くされた、あの惨劇。

 

「分からない。そもそもミストラクション自体原因がよく分かってないから何も断言はできないんだが……そっちでも備えてて欲しい」

「……分かりました」

「まあ後々正式な通達がそっちに行くかもしれないけどな」

 

 人喰いのミストと霧幻界の異常……

 関連性があるのかどうかすら分からないが、やることは変わらないと気を引き締める奏多。そんな姿を三澤は心配そうに見ている。

 

「……そのさ、気になったんだけど、今回の高橋ってやつとお前ってどういう関係なの?」

 

 急に話が変わって戸惑う奏多。元々駄弁ろうと言われていたことを思い出し、渋い顔をしながら口を開く。

 

「高校時代の同級生で………めちゃくちゃしつこく玲奈に言い寄って来てたんですよ、あいつ」

「………それ、ドロドロした話?」

「全然。俺がしつこくあいつを突っぱねて、あいつもしぶとく何度も何度も玲奈に近づいてきたんで………俺嫌いなんですよ、あいつのこと」

「へぇ〜………まあお前玲奈ちゃんのこと大好きだもんな!」

「やめてください」

 

 茶化してくる三澤に不機嫌を露わにする奏多。

 

「事情は俺も知ってるが、ちょっと過保護だったんじゃないか?それ」

「本人も嫌がってたし」

「あ〜……ならその高橋ってやつが悪いな!」

 

 一目惚れだななんだの言って、およそ1年ほど高橋を突っぱね続ける学園生活を送っていた奏多。高校時代の思い出を聞かれると高橋の顔がチラついて気分が悪くなる。

 

「でも玲奈ちゃんとお前がさっさと付き合ってたらそういう奴も近寄ってこなかったんじゃねえの?」

「…デリカシーないって言われません?」

「言われる!」

「…………俺の変な意地のせいって言われたらそれまでですけど、色々あるんですよ、子供は子供なりに」

「……ふぅん」

 

 興味のなさそうな返事をする三澤に少し腹が立ちつつ、先日あった高橋の顔を思い出す。

 

「だからまあ、その………恋人がミストかもしれないってことで本気で悩んでるあいつの顔を見て少し、意外だったというか……」

「意外?」

「あんな顔するんだっていうか……ちゃんとそういうので悩める奴だったんだっていうか……」

 

 きっと自分は誰かのことをちゃんと見ていなかったのだろうなと、過去を振り返ってそう思う。

 色々と必死だった、今でも必死だ。

 だからこそ視野が狭くて、今思えば未熟だったと思うようなことを何度も何度もしてしまった。今でも正しいことを常に選択できているとは思えていない。

 

「きっと玲奈のこともちゃんと見てあげられてなかったんだろうなって、そう思うんです」

「……青春だなぁ」

「便利な言葉ですね、それ」

 

 こっちは割と切実な思いを語っているのにという思いと、まあ三澤さんだし仕方ないか……という気持ちが奏多の中で入り混じる。

 

「まあ俺は星羅さんよりお前のこと見れてないけどさ、お前はよくやってるよ」

「………」

「俺はお前に仮面ライダーなんてさせるのにも反対だった。適正とかそんなのは抜きにして……子供にそんなの背負わせたくなかったんだよ」

 

 昔、三澤はよく奏多の頭を撫でていた。

 流石に大きくなるにつれやることも無くなっていったが、今三澤が奏多に向けている目はその頃と同じ、慈愛の眼差しだった。

 

「俺が思うよりもたくさんのものを背負ってるんだろうな、お前は。それで逃げずにちゃんとやってるんだから偉いもんだ」

「……子供扱いですか、それ」

「まあな!社会に出て働いてないガキに大人は名乗らせねえよ俺は」

「…手厳しいですね」

 

 仮面ライダーとして戦うことは、社会に出ることではないと。

 そんな歪んだ経験しかしないうちは大人として扱わないと、そう言っているのだと奏多は理解した。

 

「本当なら俺が……悪い、忘れてくれ」

「………星羅さんも、一体何を隠してるんでしょうね」

 

 話を逸らした。三澤がそうして欲しそうだったから。

 

「仮面ライダーの技術だって出どころが分かってないし教えてもくれないし………」

「まああの人はあの人で色々あるんだろう。今一番近いのはお前なんだから抱え込まないように見ていてやってくれ」

「……めんどくさいなあ」

「こらこら……おっ、動いたな」

 

 その後も横谷裕香の調査を続けながら、奏多と三澤は他愛のない話を繰り返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日も暮れたころ、奏多は高橋に連絡を取っていた。

 調査結果はほぼ確実に黒、そう伝えるために。三澤が直接横谷裕香に接触して下した結論だった。

 

『……そうか、やっぱり』

「…フーガに正式な連絡はこっちから入れておく、今日は——」

『俺たちは普通にサークルで出会ってさ、普通にいい感じになって、普通に付き合い始めたんだよ。なんの面白みもないけど、俺たちはそれで満足してた』

「………高橋?」

 

 ショックなのはわかる、わかるがどこか様子がおかしい。

 

『先にことなんてわかんないけどさ、きっとこれからもそうやって行くんだろうなって思ってた』

「………」

『なあ、柊木。なんで俺たちは思い出も時間も奪われなきゃならなかったんだ?』

「落ち着け、高橋」

『落ち着いてられると思うか?これが』

 

 まずい流れだ、どんどん声を荒げていく。

 その表情は見えずとも、抱いている激情が通話越しに流れ込んでくる。

 

『ミストって、なんでこんなことするんだ?』

「……あっおい!……クソッ」

 

 一方的に通話を切られた。掛け直すが当然のように反応がない。仕方なしに別の電話番号をかけて連絡を取る。

 

「もしもし三澤さん!?」

『どうした?俺もう帰ろうかと…』

「高橋が多分横谷裕香に会いに行った!」

『……マジか』

 

 奏多は高橋の位置を把握していない。ギリギリまで横谷を追跡していた三澤は今横谷裕香の家の近くにいる。

 

「とりあえず住所、ってか座標送って!横谷裕香のとこ行って高橋を合わせないように——」

「今行ってるっ!!」

 

 その言葉を聞いて通話を切り、座標が送られて来てすぐに奏多も横谷裕香のいる場所に向けて走り出した。警鐘をガンガン鳴らしている頭が発している悪い予感が現実にならないように、全く期待せずに願いながら。

 

 

 

「普段乗りするバイクあればなあっ……!!」

 

 

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