仮面ライダーフェイル 作:ケサランパサラン
「仁礼宗次郎……ミスト研究の黎明期を支えて、発展させた第一人者………現在フーガの兵器の動力炉として採用されているプラズマコアを開発をした人物であり……」
「………さっきからそれ、なに見てんの?」
「ミスト研究についてっていう本……の、試し読み」
「試し読み」
なんだか買うところまで踏ん切りがつかなくて、こうしてスマホで画面と睨めっこしながらちょっとずつ情報を頭に入れていく。
「……なに、ジロジロ見て」
「いや…別に」
色々資料は漁ってみたけれど、その多くが推論でしかなく確実性に欠ける。酷いのだとフーガがミストについての情報を独占して操作しているのだ!だなんて高々と唱えている陰謀論じみたものまであった。
ミストについての考察を読んで、目の前のミスト……自らをロウと名乗るそのミストを何度もチラチラ見て、頭の中で比べてみる。
「……ねぇ、あの……怪人態だっけ、あれになるとどうなるの?」
「さあ、なったことないから」
「ないんだ」
「あんなのなったら1発でミストだってバレるじゃないか」
「まあ……それもそっか」
となるとこの「ミストの真の姿は怪人であり、異世界の国から侵攻している」系の話は全部与太ってことになるのか……
ミストは本当に元々は霧状で、そこから自我が芽生えた個体が怪人態になることができ、人間に取り憑く……っていうのが近いし正解なのかな。
「自分のことなのに知らないこと多いんだから……」
「別にボクの生きる目的は自身の存在の探求じゃなくて、生き延びて一度でも多くこのお菓子を食べ続けることなんだ」
「太れ」
「ミストは太らない、残念ながら」
腹立つ……都合のいい身体して……
「ミストの身体は人間の身体を忠実に再現している。けれどそれはあくまで上っ面で……生理現象は取り込んだ人間の身体を利用して行っているから、基本的に外傷を受けるとか以外では判別がつかないはず」
「まあ、そんな簡単にわかるなら5年も経ってようやくミストだって判明することなんかないだろうし」
10年前のあの事件で街を破壊したのは超大型ミストだと言われている。もしこの世界にいるミスト全員があの大きさになって暴れ回ったらと思うと冷や汗が流れてくる。
「………この前、昔の知り合いの彼女がミストだったって分かってさ。彼すっごい傷ついたらしくって」
「ボクに言ったって罪悪感なんか感じないぞ」
「そんなんじゃないってば。ただ………悲しいなって」
出会った時のように公園の遊具の中から外を覗き見て、道を歩く人を目で追う。みんなどこかにミストがいるんじゃないかって、そういう潜在的な恐怖を押し殺しながら生活している。
後ろでお菓子をバリボリ食べているこのミストみたいなのが、どこかにいるんじゃないかって。
「………なんだ、あげないぞ」
「いらないし」
「じゃあなんだその物欲しそうな目は」
「してないっての!呆れてんの!」
自分たちの種族がみんなに嫌われてるっていう自覚ないのかな………どんな気持ちで毎日過ごしているんだか……
「ミストには決まった形がない。だから自分の在り方を求めて人間を取り込んで擬態しようとする。少なくともボクはそうだった」
「………」
「悪びれたところで何かになるわけでもない。罪滅ぼしをしたいわけでもない、ただひたすらに、純粋に、生きたいだけ」
「生きたいだけ……」
「憎悪を向けられるのも嫌悪されるのも、そんなのは皆分かりきっている。ただそうすることでしか生きられないから……ミストはそうしないと生きることもできないから」
誰が彼らを作ったんだろう。
自然に発生したというには奇怪で、何かから進化したというには連続性がない。
「争うしかないんだろう。相容れない相手を淘汰するまで」
「……淘汰」
「ミストの同化による駆逐と、人間によるミストという知性の淘汰。………まあ、ボクはこうやって7年生きてきた、いつ滅ぼされたって悔いはないよ」
「………え」
7年。
ミストの寿命は、5年。
「どうして……」
「……ああ、そういえば普通のミストはそんなに生きないんだっけか。別に嘘を言ってるんじゃない、気づいたらそれだけ経っていた」
星羅さんから聞いた人喰いのミストの話が思い起こされた。
目の前のミストが一瞬そうなのではないかと疑うけれど、あれは10年前の話で、本人の話では7年前と言っているから一致しない。
それに、とてもこの子が人を食べるなんて思えない。
「………人を喰べるミストって、知ってる?」
「なんだそれ、猟奇的だなぁ。絶対美味しくないと思うんだけど」
「だよね……」
人喰いのミストとは別の、5年の枷から解き放たれたミスト。
思えば初めて出会った時のあの灰色に変色した髪も、人間に擬態したミストがそういう姿になったっていう記録とかを見た覚えはない。
「……そろそろ帰るよ、また来るね」
「次はキャラメルが食べたい」
「はいはい、持ってくるよ」
一度、どこかで気持ちと情報を整理した方がいいのかもしれない。
「あー、身体重い……」
「調子に乗ってPOCなんかするからだ、あとで反動が来るのは分かりきってただろうに」
「遠くから見てるだけの人には分からないでしょうね」
「言ったなこいつ……」
身体に繋がれた管を外してベッドから立ち上がる。一瞬頭がクラクラしたが何もないように振る舞って部屋から出ようとする。
「強がるな。こっちは数値で見えてるんだからそんなことしたって意味ないぞ」
「………」
「あと着替えろ」
「じゃ部屋から出ていってくれます?」
「……確かに」
素直に従って部屋から出ていった星羅さんを見届けて、服を脱いでクローゼットを開く。適当に目についたのを取って、ハンガーから外して身につける。
自室から出ていつもの部屋に戻ると、人に着替えろと言ったくせに自分は相変わらずパジャマ姿の星羅さんがいた。
「さておはよう、4日かかってようやく復帰か。その場のノリでいい加減なことするのはこれっきりにしてもらいたいね」
珍しく本気で怒っているのを感じて肩をすくめて目線を逸らす。そんな俺の様子を見てため息をついた星羅さんがまた話し始める。
「まあ、君に何でもかんでも押し付けている汚い奴が言えたものじゃないか。どちらにせよ、自分のことは大切にしてくれ」
「……すみません」
「よし、この話はこれで終わり」
手をパンと鳴らしてそう言い切った星羅さん。
「とにかくまだしばらくは安静に。とはいえ要請が出れば出てもらうことになるけども……明日私は本部に行かなきゃならないからね」
「あぁ、もうそんな日でしたっけ」
「まあ資金援助はフーガにしてもらってるしねぇ……本当に嫌なんだけど、いかないってわけにはいかないし」
憂鬱そうに頬杖をついてそう言う姿を見て申し訳ない気持ちになる。本人にとっては俺にだけ戦わせてしまっているっていう認識なんだろうけれど、俺からすれば戦い以外の全てを任せてしまっていると思っているから。
「そういうわけで明日は私の身の回りの世話をしなくて済むってわけだ。よかったね!」
「朝起こすの俺ですよね」
「流石に病み上がりに頼まないよ、そのくらい自分で起きるとも」
まあ確かにここ数日は俺は仕事も何もできない状況だったけれど……
「………そういえば、俺が寝てた割には部屋は綺麗ですね」
「ああ、いつも君が綺麗にまとめてくれてるから散らかってるのに耐えられなくて、いらないもの全部物置とかその他諸々にぶち込んで放置してたからね」
「なるほど。結局俺が片付けるハメになると」
「元気になってくれてよかった」
ため息をつく。ズボラなのは分かりきっていたけども……まあ本来俺の仕事だったわけだし、仕方ないか。
「君が寝てる間に回収したあのミストの残霧も調整を終えておいた。まあ正直ヘイズチューブによる身体強化は勧められないんだけども」
「手札が増えたくらいに思っておきます」
「そうしてくれ。私は今から明日のための資料とか準備するから…」
「前日にすることでは………いや俺のせいですよね、すんませんした」
「ほんとにね!」
………結局、高橋への連絡は星羅さんと三澤さんがしてくれた。数日寝込んだだけで色んな人に迷惑がかかって、尻拭いをさせてしまう。
自分の身勝手さが今さら身に染みてくる。
「………まあ身体もなまってるだろうし、明日はどこかへ出かけてくるといい。気分転換も含めてさ」
「…そうします」
「今回……といってももう何日も前だが、あのミストは確かに今まで相対してきた中でも一番と言って良いほどの戦闘力を持っていた。解析に回したが……そういう個体という結論としか出なかった」
それが意味するのは、あのミストは何らかの特殊な個体というわけではないということ。あくまで戦闘に長けた通常のミストであり、よく言われる人喰いのような特殊なものではない。
「私たち人間は何百、何千万もの時をかけてゆっくりと進化してきた。だがミストのそれはあまりにも驚異的で………このままだといずれ、なすすべなく飲み込まれるだろうね」
「……根本的な解決方法を見つけなきゃ、ですね」
「………考えは一応あるんだけどね。あまりにも足りないものが多すぎて、ただの妄想でしかないよ、ずっと」
人間がいくら足踏みしていようと、ミストは待ってはくれない。増えて、成長し、変化を遂げて……そう遠くない未来、人間を全て飲み込んでしまう。
「とにかく、目下は人喰いの捜索だ。現状唯一と言える特殊個体、調査と分析……そして排除」
「ここまで見つからないっていうことは……」
「相当頭がキレて、こっち側の勢力を認識している。………人間に明確な敵意を持っている可能性が否めない、ただの憶測に過ぎないが……」
ミストにそんなつもりはなくても、人類はどんどん追い詰められていく。ただ生きているだけなのに、その行動が人類との共生の可能性をどんどん消していく。
「闘争だよ、これは。生き残りをかけた生存競争」
「………」
「君にばかり辛い思いをさせて申し訳ないけれど……君が必要なんだ。戦ってくれ、私たちのために」
「もちろんです」
ヘイズチューブを握りしめながらまっすぐと、星羅さんに向けてそう言い切った。
決意で不安を、噛み殺して。