仮面ライダーフェイル   作:ケサランパサラン

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 入室を認められ、陰鬱な気分が顔に出ないように押し殺しながら扉を押して中に入る。明かりを落とされた大部屋の中にはモニターを囲むようにして席が置かれ、偉そうな御仁たちがふんぞり返っている。

 

 昨日作成した資料がすでに大きなモニターに表示され、白衣を着た自分がそれの邪魔にならない位置に立つ。

 

「資料は読ませてもらったよ。順調なようじゃないか」

「どうも」

「君の担当している兵器開発の方も滞らないようで安心したよ。こちらの要求をこなして成果も出している、言うことはないな」

「……どうも」

 

 父が残したCode.FAILの研究を引き継ぐにはフーガの傘下に入るしかなかった。元研究員だった父の残したソレを持っていたのはここだったから。

 

「君の父の残したプロジェクトを復元し実現させた。フェイル……あれは素晴らしい、各国の最新鋭兵器と比べてもあれに勝るものは少ないだろう」

「お言葉ですが…」

「言わずとも分かっている」

 

 被せんなクソ。

 名前なんか覚えちゃいない奴らが次々に口を開き、好き勝手言ってくる。仮面ライダーがどうの、民衆からの評価がどうの。

 明確なミストへの対策を講じることなんかしちゃいない。末端の研究者はしているだろうが、こいつらにとっては興味のないことでしかない。

 

「あれの稼働データは今の我々にとって最も必要なものだ。より一層データ収集に力を入れてもらわねばならない。父親とは違うということを見せてくれたまえ、仁礼星羅研究員」

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です」

「………三澤くんか」

「今日だったんですね、報告日」

「はぁ………」

 

 本部のベンチで放心しているところを三澤くんに発見され、その辺で買ってきたのであろう缶コーヒーを手渡される。

 

「上層部全員爆殺してやろうかな」

「物騒すぎる」

「もうこの本部ごと爆破解体してやろうかな。あいつら現場のこと何も考えちゃいないし………自分たちの利益と立場のことしか考えちゃいない」

 

 別にハナから期待なんかしちゃいなかったけれど、ああいう人種と顔を突き合わせて話さなきゃいけないっていうのがあまりにも鬱陶しい。

 

「………どちらにせよ、どこかであいつらとは手を切らなきゃならないんだけれども」

「今さらですけどここフーガの施設ですよ、あんまり不用意なこと口にしない方がいいと思いますが」

「………」

 

 コーヒーを喉の奥に流し込む。

 ………微糖。

 

「あいつは、上手くやってますかね」

「奏多くんのことなら、上手くはやってないね。相変わらず危なっかしくて……自分のことが見えてない」

「だろうなぁ…」

「やっぱり気になるのかい?()()()として」

「まあ兄貴分だし。俺が勝手に思ってるだけかもしんないけど」

 

 忙しなく動いている人の流れを見ながら、久々に二人きりで話をしているということに気がつく。

 

「俺が背負っていられれば、あんな若い奴を危険に晒す必要なんかなかったんだから」

「君だって若いだろうに」

「それはお互い様ですよ。というか10年前あいつ10歳ですよ?……本当なら、全部忘れて静かに過ごしていてもらいたいもんなんですが」

「本人がそれは望まないだろうな」

「………」

 

 フェイルに変身できるのは彼だけ。必然とその役割が彼にだけ課せられることになる。

 奏多くんは、そんな自分の運命に納得している。むしろ望んでいると言ってもいい。フェイルとなり戦うことを、自分の本望だと、使命だと認識して……

 

「情けない話ですよ、本当に」

「……そうだな」

 

 またコーヒーを啜って顔を上げる。

 誰よりも自分の命を、自分の存在を削って戦う彼を、一人で行かせてしまうわけにはいかない。

 

「頼りにしてるよ、三澤くん」

「………何ですか急に」

「彼には彼の戦いが。………私たちには私たちの戦いがあるってことさ」

「…なるほど」

 

 嬉しそうに笑ったあと、立ち上がって自分の持ち場へと戻って行こうとする彼。

 

「ここでの用事済んだら呼んでください。帰り、送りますよ」

「……助かるよ」

「いえいえ」

 

 去っていくその背を目で追う。

 

 三澤悠平。

 柊木奏多がフェイルシステムに完全な適合を示すまでは、本来彼が被験者……もとい、変身者となるはずだった。今はフーガの実働部隊として動いているけれど、本来彼は………

 

「父親とは違う、か」

 

 上層部の人間に言われた言葉を思い出す。研究資料を持ち出し、独断でプロジェクトを進め、ミストラクションに巻き込まれ命を落とした父とは違うところを見せてみろと。

 

「………チッ」

 

 無意識に、飲み干した缶コーヒーを握りつぶしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうかした?」

「あぁいや……ちょっと疲れてて」

「だよね?今日なんか顔色悪かったし…」

 

 ぼーっとしてしまっていたのを玲奈に指摘される。星羅さんのいない研究所は物静かで、いつもとは違う雰囲気が漂っている。

 

「話、どこまで聞いてた?」

「えーっと……星羅さんに聞きたいことがあって、それが……なんだっけ」

「まだ話してないよ。まあ連絡取らずに急に訪ねてきた私も悪かったけど、まさか本部の方に行ってていないなんて……」

 

 ミストについて興味を持たれるのは、正直あまりいい気はしない。とはいえ無理に遠ざけてしまったら逆に関わりを持とうとされる気もするし……

 

「あぁ、それで俺が代わりに聞いておくって話したんだったか」

「そうそう。それで聞きたいことなんだけど……」

 

 ミストが5年以上生きることができる可能性……

 

「人を喰べるミストが5年以上生きてるかもしれないって話は聞いたんだけど……そうじゃない、普通のミストが5年以上生きる可能性ってないのかな〜って。……7年とか」

「……俺の見解でいいなら、とりあえず言えるけど」

 

 頷いた玲奈を見て、自分の手元に目線を向ける。

 

「そもそも5年以上擬態を維持できた個体を確認できていない、っていうのが、ミストの寿命が現在は5年とされている理由。もしかしたらそれ以上生きるミストもいるのかもしれないけど、その前にフーガが倒してしまっているから」

「……そっか、そうだよね」

「だから今、現在進行形で5年以上問題なく擬態を維持できているミストがいないって断言はできない」

 

 ミストに寿命が存在するのは、その存在を構成している霧の劣化が原因……だとはよく言われている。

 

「ミストが現れてからたったの10年……しかも発生地は極めて限定的。調査も難航しているし……まだまだ知らないことの方が多い」

 

 特殊個体と呼ばれるミストは現状人喰いだけ。けれどもそれ以外にも似たような個体がいないとは限らない。なぜなら未発覚のミストがまだまだ潜んでいるから。

 

「まあ星羅さんにまた聞いて、返答はメッセージで送るよ。全然違う答え返ってくるかもしれないし」

「ありがとう。……ごめんね、なんか困らせちゃってるみたいで」

「………」

 

 なんでそんなことを、と。そう言おうとして口を閉じた。雰囲気に出てしまっていたのだろうと、申し訳なさそうにしている玲奈を見てそう思った。

 

「大学の友達の、波瑠って子に言われたんだ。分からないものを分からないままにできることの方が分からない……って」

「………」

「その通りだなって思ったんだ。少なくとも私は、分からないものに怯えるより、ちゃんと理解してから怖がりたい。……変なこと言ってるけども」

 

 俺がミストから遠ざけようとしていたのは分かっているんだろう。そのワケをどう解釈しているのかは分からないが……それでも玲奈は「知りたい」と、そう言っている。

 

「だから私は……今はまだ無理かもしれないけれど……いつか、奏多くんが抱え込んでるものも知りたいって思ってる」

「………」

「何驚いた顔してるの?分かるよ、そのくらい」

「……そっか」

 

 思わず目を逸らしてしまった。

 彼女の眼はあまりにも凛としていて、目を合わせて話すにはあまりにも隠していることが多すぎた。

 

「君が抱え込んでるものを一緒に背負って……どうにかすることができたら、その時は……前の私たちに戻りたいなって」

 

 何も言えなかった。

 その言葉が、その感情が、俺に向けられていることに耐えられなくて。何も応えてやれないことが辛くて。

 

「ごめん」

「……謝らないでいいよ。……なんかもっとどうでもいい話しよっか!なんかこう……人の色恋の話とかさ!」

「俺……知り合いほとんど連絡とってない」

「ごめん…」

「謝らないでいいよ」

 

 まあ実際連絡断ってるのは俺からだし、あまり付き合いがいい方でもなかった。浮ついた話なんかそれこそ……

 

「そっちは……」

「私もまあ……大学にそんなに友達いないし……」

「さっき言ってた波瑠っていうのは………」

「あっそれは友達」

 

 分からないことを分からないもままにできることの方が分からない、か……随分と知的好奇心が旺盛なようだ。

 分からないから知りたくもないことだってあるだろうに。

 

「ちょっと不思議な子なんだけど……何個か一緒の授業を取ってて、それでね。あとなんかやたらと私に話しかけてくる」

「友達なんだろ?」

「なる前からすっごく話しかけてきたんだよね…なんでなんだろう、ほんとに」

 

 自分の友達なのでは……

 やたらと不思議がっているあたり、ずっと疑問には思っていたんだろう。玲奈が大学でどんなふうに過ごしているか分からないが。

 そもそも大学生活をしていないから想像もつかない。

 

「あの子といい、私の周りって結構……」

「………ん?」

「ああいや、なんでもないよ。それより……もし今度時間取れたら、一緒にどこか行かない?遊園地とか、水族館とか…」

「…行けたら、な」

「なにそれ」

「忙しいんだよ、悪いけど」

 

 不満そうにしたかと思えば、途端に暗い表情になる玲奈。

 

「……心配になるよ、時々」

「やりたくてやってることだから」

「尚更」

「………」

 

 いつまで隠し通せるだろうか。いつまで隠さなければいけないだろうか。望むのは、無関係のまま全てが解決すること。

 けれど彼女の本質が、きっとそうはさせてくれない。

 

 

 

 時間が来たといい研究所を去っていく玲奈を見送って手を振りながら、10年前のその姿と今の姿を重ね合わせる。

 

「………はぁ」

 

 ずっと裏切り続けるのはやはり、いい気はしない。

 それでも———

 

「………晩御飯の支度するか」

 

 おなかすいた!と投げやりに送られてきた星羅さんからのメッセージを見て肩の力が抜ける。

 

 今も昔も、俺の生きる理由は何一つ変わってはいない。

 ただ、証明したいだけ。

 

 生きてる理由を。

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