仮面ライダーフェイル   作:ケサランパサラン

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凶兆

 

 暇な時間は、昔から音楽を聴く。

 自室の椅子にもたれて、顔を天井に向けながら瞼の裏を見て、イヤホンから流れてくる音に身を委ねる。ランキングの上位に来た曲を少し聞いて、無造作にプレイリストに突っ込んだものをシャッフル再生。

 

 そうして思考を手放す。

 眠っているわけでもない、ただ音を聞いているだけ。

 

 特別好き、というわけではない。ただ空いた時間に打ち込めるような趣味はなく……いつも気力と時間が足りないから、こういうことでしか暇つぶしができなかったから。

 

「————」

 

 お気に入りの曲が流れてきた時だけ、少しだけ口ずさんでみる。

 

「——だあっ!いっ………はい、もしもし」

『あ、奏多君?急で申し訳ないけど——』

 

 急にどでかい着信音が耳を突いて椅子から転げ落ち、その拍子にいろんなところを打ってしまった。痛みに耐えながら応答すると星羅さんが、身体を打った部分をさすっている俺のことなんかお構いなしに話し始める。

 

『———というわけだから、悪いけど代わりに……聞いてる?』

「聞いてますよ、代わりにデータを送っておけばいいんでしょう。やっておきます」

『ありがとう、今から戻るから待ってて。弁当でも買ってくるよ』

「……りょーかい」

『ん、じゃ』

 

 床で仰向けに大の字になりながら、少しの間ぼーっとして立ち上がり階下に降りて星羅さんのpcを開く。観測結果と現地で書いたのであろう所感をデータと文書に揃えて、フーガの本部へと送る。

 急ぎの用事だったのか、自分では本部と関わりがないから分からないが……

 

「………」

 

 いや、一人で考えても仕方ないか。

 それにしても……

 

「弁当……珍しいこともある」

 

 いや、そもそもあの人が外に出ることが珍しいか。本当ならミストラクションの跡地の計測も俺が付き添うのだが、最近働きすぎ、休んでろと言われ、代わりに三澤さんが同行している。

 

「………ふぅ」

 

 あとどれだけの間、戦っていられるだろうか。

 自分が代えの効かない存在だという自覚はあるが、自分を使い潰すことでしか自分の存在価値を示すことが出来ない。

 

 いくら休んでも取れない疲れのようなものが、戦いのたびに増えていくのが分かる。

 湧き上がってくるのは焦燥ではなく、諦観。

 

「……洗濯物、乾いたかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハンバーグ弁当……

 子供扱い、とも思ったけれど、そういえば自分の好みを伝えたこともあまりなかったか。いや嫌いというわけではないが。

 

「あ゛ー、疲れたぁ〜……」

「風呂は入ってくださいよ」

「君は本当に口うるさいなあ、三澤くんならそんなこと言わないのに」

「いや風呂は入ってください」

「あ゛ー、これだから男は…」

 

 三澤さんと目を合わせて苦笑する。

 

 日中送られてきたあのデータの意味をちゃんと聞いておきたいところだったけれど、どう見ても今そういう話をしてくれそうな雰囲気ではない。必要なことならそのうち話してくれるだろうとは思っている。

 

「二人ともレディの扱いってものを……待て、そもそも私がレディとして見られていないのでは……?」

「珍しく冴えてますね」

「いつも冴えてるが。私のIQを教えてやろうか?165だぞ165、研究室にいた頃に測ったやつだけど」

 

 取り止めのない話、談笑。

 なんというか、凄く久々な気がする。身体の緊張が一気にほぐれていくような、そんな感覚。

 

 普段あまりこうして話すことがないからだろうか、星羅さんも三澤さんも楽しそうに話しながら食事をしており、たまに話題を振られて返事する程度だがこっちも和やかな気分になる。

 

「……眠いな」

「おやおやおやァ、食べてすぐにおねむだなんてまだまだ子供だねェ!」

「良い子は寝る時間かァ〜?」

「うっぜぇな……」

 

 いけない、と口元を手で押さえる。煽りがいつもより増えて思わず口が悪くなってしまった。別に言ったところで雰囲気が悪くもならないし、なんなら煽りが加速するだけだが。

 

「ふぅ………さて、話があるんだけど」

「……コーヒー淹れます?」

「あ、お願い」

 

 急に改まった様子になられるのがなんだか変な感じがして、思わず茶化すみたいになってしまった。まあ言ってしまったものは仕方ない、と3人分のコーヒーを用意して席に戻る。

 

「……今日、三澤くんに同行してもらって計測に出かけた。送ったデータには目を通しただろうけど、改めて結果とそれに対する私の意見……予測を聞いてもらう」

 

 さっきまでの穏やかな雰囲気はどこへやら、一気に空気が張り詰める。空間が静まり返り、時計の針の音がカチカチと耳の中に入り込んでくる。

 

「近々、ミストラクション……もしくはそれに準じる現象が、前回と同じ座標……つまりあの跡地全域で起こり得る、そういう観測結果が出た」

「………」

「あの場所で不安定ながら確認され続けていた霧……霧幻界から漏れ出してきたもの。それの濃度の数値が大きく上下したかと思えば、霧そのものの性質が不安定になっていた。何かしらの前兆だと考えるのが妥当なところだろう」

 

 根振市北部で起きた10年前のミストラクション。その時に発生し、わずか10分の間に破壊の限りを尽くした超大型ミスト。町を瓦礫の山と化し、その跡地は今も復興の目処が立っていない。

 理由は色々あるが、1番はまた同じ場所でミストラクションが起こるのではないかと危惧されていたから。今回の観測で、その懸念通りの予測結果が出てきたことになる。

 

 根振市北部の跡地は立入禁止区域となり、この10年間、ミストへの対抗手段に重きを置いてきたフーガも、その調査は本格的には出来ていない。端の方に観測所を設けて傍観するだけだ。

 

「……具体的にいつっていうのは?」

「分からない、直感では一週間。なにぶん、参考にできるデータがないからな。今日は私が行ったが、フーガには人を派遣してより詳細なデータを収集させるように要請した。明日明後日になればちゃんとした予測も立てられるかもしれないが」

 

 一週間……短いな。

 

「市民には?」

「その辺どうするかは上のお偉方の考えることだ、私には関係ない。それよりも今話さなきゃいけないのは、ことが起こったときの私達の立ち回りだ」

「………事態の収束が目的ではないと?」

「まあ…そうなる」

 

 星羅さんの説明によれば、あくまで推測だが10年前ほどの規模にはならない、という予想を立てているらしい。あの時のような超大型ミストが現れるという可能性は低い、という希望的観測を述べられた。

 

「実際に事が起こるまで分からないが……私は、今度起こる現象はミストラクションとは別のものになると考えている」

「……それは」

「霧幻界……あの霧の性質を、思い返すんだ」

 

 三澤さんが会話に入ってくる。

 霧……ミストやフェイルを構成している、灰色の霧。ミストは人間を意志を持った霧が取り込む事で生まれ、フェイルの変身にもその霧が用いられている。

 

 つまり霧の性質とは……

 

「情報の記録と……再現?」

「そうだ。ミストラクションは確かにミストの発生の契機にはなったが、それ自体であのとき発生したミストはそこまで多かったわけじゃない。ミストラクションや今回の数値の異変は、夢幻界がこちら側の世界に近づく事で起こっている事だと考えられている」

「夢幻界……同じ場所……性質…」

 

 顎に手を当て唸りながら思考を整理していく。あくまで起こり得る事象の一つの可能性ということなのだろうけれど……

 

「……ああ違うんだ、別に問題を出したかったわけじゃないんだ。悪い癖だな。結論から言おう」

 

 コーヒーを一度、口の中に流し込んでからこちらの手をまっすぐ見て、星羅さんは口を開く。

 

「今は瓦礫と化して放置されている根振市北部……10年前のあの場所が、一時的に再現される可能性がある」

「……再現」

「あの時、壊されゆく町を包み込んでいた霧が、人だけでなくその町の情報まで記録し、再現したとしたら……同じ場所で起こる今度の異変が、あの時の霧だったなら」

 

 ………それは。

 

「でも、時間が巻き戻るわけじゃない……それに何の意味が」

「意味ならあるんだ。君には……三澤くんは知っているけれど、君には話したことの無い事だ。もし私の考え通りのことが起こった場合……これはチャンスなんだ」

 

 あまり見ない表情だ。

 必死というか……なりふり構っていられないといった様子。どう見ても余裕がなく、追い詰められているような表情。

 

「星羅さん……」

「……ごめん、私もちょっと……興奮してるんだ、詳しいことはまた時間のできた時に話す。資料やデータを纏めながら気持ちと考えもまとめて………いや、一旦寝た方がいいか?…三澤くんも付き合ってもらって悪かったね」

「呼んでくれればいつでも飛んで行きますよ」

 

 深いため息をついて、コーヒーを飲み干す星羅さん。

 

「まあ何にせよ……君たちには苦労をかけることになる。ごめん」

 

 そう言って、星羅さんは自室の方に行ってしまった。何だかいつもより小さく見えたその背中を、三澤さんと一緒に見つめる。

 

「……おかしな話だよな、誰よりも苦労してるのはあの人だってのに」

「…三澤さん」

「あん人のこと、よろしく頼むわ。身体壊さないように見てやっててくれ」

 

 

 さっきまで、気が抜けそうなくらい緩い雰囲気だったのに。

 眠気ももう、すっかりなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、起きて朝の支度をしている中すぐに緊急要請が入った。

 

 

 バイクに乗りながら変身し、射出された勢いのまま目的地へのナビゲートを聞く。場所は玲奈の通っている大学からそう遠く無い市街地。

 

 

 空中でバイクを自動制御に切り替え、タイミングを見計らって飛び降りる。高度87mからの自由落下。

 

 

【Plasma Burst】

 

 

 装甲から青色の閃光が漏れ出す。そのままの勢いで片足を曲げ、もう片方の足を伸ばし、地上にいるミストに向かって足を打ちつけた。

 落下に加えたスラスターの勢いそのまま落ちてくるこちらに気づく間も無く、ミストは身体を貫かれ崩壊していく。

 

 その残霧を回収し、すぐさま周囲の状況を確認する。

 

「……3体」

 

 ミストはその性質上基本的に群れることはない。現れたとしても同時に2体、偶然が重なってそれだ。

 

『一体一体はそれほど…第二世代ってところか。だがそれよりも状況が異常事態だ、最新の注意を払ってくれ』

「了解」

 

 2体同時に現れれば珍しい事案としてフーガ内で共有される、それが今回に関しては、さっき仕留めたのを加えて4体。背景調査をさせられる人のことを思うと可哀想でならない。

 とか考えてる余裕があるかどうか。

 

 長剣を取り出し構える。

 どうやら全員言葉を話すタイプではないらしい、三体から一気に話しかけられても困るのでこれに関しては助かった。

 

 しかしここは市街地ど真ん中、道路……相手が一体ならともかくこうも数がいられると周囲への戦いの被害は馬鹿にならない。

 

 と、考えているとバイザーに近くの公園に印を打たれたマップが表示された。星羅さんが気を利かせてくれたらしい。

 

 

 三体いるうちの一体……身軽そうなのが突っ込んできた。剣で受け止めるとそこへ大柄なやつが肥大化した右腕を叩きつけてくる。後ろに下がって避ければ残った一体がよくわからないエネルギー弾をいくつもこちらに向けて飛ばしてきた。

 後ろに下がりながらこちらも銃で牽制しつつ、公園の方まで誘導していく。周辺住民の避難が終わっているのは確認しているので、そこは気兼ねなく動ける。

 

『全員原型が分からないほどの複合型……最近じゃ珍しくなくなってきたけれど、妙だね』

「ためになるアドバイスとかはありますかね」

『POCは禁止、通常稼働でどうにかして。最近は目に余る』

 

 いや……いつもと違うイレギュラーだからこそ必要だと思うんですが。

 しかし最近の戦いのことを言われると何も言い返せなくなるため、小さく了解と返すことしかできなかった。というかアドバイスないし。

 

 

 なんとか公園まで誘導してきた。周囲のブランコやらジャングルジムやらは壊れるかもしれないが、まあ家に穴を開けるとかよりはマシだろうと割り切る。

 

 

 こちらが足を止めて銃で牽制、それを見た途端に身軽なミストが突っ込んでくる。低稼働状態じゃ対応するのも一苦労なため出力を上げて受け止める。そこへ右腕をさらに肥大化させたミストが、上空から物凄い勢いで振り下ろしてくる。地面が割れ、避けた先の足場が不安定になったところに最後のミストの遠距離攻撃。

 

 さっきと全く同じパターンだが連携は取れている。これも始めてのこと。会話はしていないが意思の疎通はできているようだ。

 

「低稼働低稼働……」

 

 例の一件を前にして汚染度の上昇でダウン、なんてわけにもいかないのは分かっている。どうやって三体をスムーズに片付けるかだが……まあやるだけやってみよう。

 

「よっ」

 

 剣を地面に突き刺し、また素早い動きで突っ込んで鋭い爪を伸ばしてきたそのミストの攻撃を、事前に一瞬だけ稼働率を上げた状態で受け止め、その腕を掴んで後ろに回して固める。

 

「ッ———」

 

 盾にされているミストを見て、攻撃の手を止めてしまう残り二体のミスト。このままとどめを刺すこともできるが、今のこの止まった状態は都合がいい。

 

 大柄なミストとこちらを挟むような位置にゆっくりと移動する後方のミスト。挟み撃ちにしようという魂胆なのだろう、ゆっくり、ゆっくりと動いている。

 

 

 そうして静止した状態を破ったのは、空から落下してきた鉄屑。および俺が乗ってきたバイク。ブースターを全力でふかしながら勢いよく落下してきたそのバイクは、大柄なミストを上から押しつぶす。地面が割れるほどの勢いを受けながらも、なんとか受け止めている。

 

 こちらはそのまま間髪入れずに高稼働にした身体で腕を固めていた身軽なミストを後方から挟み込もうとしていたミストの方にぶん投げる。

 

【Plasma Burst】

 

 困惑して受け止めたミストごと、地面に突き刺していた長剣を手に取って、スラスター全開で推進力にしてその身体を串刺しにする。背中から霧が吹き出し、その身体が消失していくのを確認して自分に衝突してきたバイクを右腕で放り投げてきたのを避ける。

 あらゆる衝撃を受けても機能が停止しないように節制されたその機体は常軌を逸した頑丈さで、背後からジャングルジムに向かって飛んでいったが、遊具の方は原型を留めていない。

 

 

 仲間がやられた怒りだろうか、雄叫びを上げながらこちらに走ってくるのを見つつ残霧を回収する。いちいちこの動作を挟まなきゃならないのが複数を相手取る時に面倒な作業だ。

 

 振り下ろされた右腕を身体を捻って避け、地面に刺さったその腕を掴んで身体を大きく回して頭部に向かって蹴りを入れる。仰け反ったがすぐに腕を引き抜かれ、こちらも振り回され少し飛ばされる。

 

『——変異だ』

 

 通算から星羅さんの危機迫った声が聞こえてくる。

 ミストの身体の表面が赤黒くなり、異常なまでにさらに肥大化した右腕。身体のバランスを保つためか下半身もさらに屈強になり、一回りほど身体が巨大化した。肌は相当な熱を持っているのか、表面から蒸気が上がっている。

 

 試しに銃撃を何度かしてみるが、防ぐこともなく肌に触れた瞬間にエネルギー弾が弾けた。向こうの様子を見ても蚊に刺される程度の感覚なのだろう、一切意に介さずにその剛腕を振り抜いた。

 発生した暴風に踏ん張りが効かずに吹き飛ばされる。剣を地面に突き刺して身体を固定したところにいつの間に接近したのか、その右腕を今度は直撃させるように振ってくる。

 

 とんでもない筋力量、とんでもない質量、かろうじて剣でガードしたがそれに吹き飛ばされ、後ろの滑り台にぶつかりへし折りながら空中へと弾き出された。

 

 

 一瞬意識が飛び、気づいた時には空の上から落下していた。100mほど吹っ飛ばされただろうか、流石にそこまではいかないか。意識を失っている間も右手は半分ほどに折られた剣をしっかりと握っていた。

 自由落下しているこちらを、地表でエネルギーを集中させて迎え討とうしているミスト。当たれば普通に粉微塵だろう。

 

 

 ただまあ、視野は広く持った方がいい。

 

 遠隔操作で起動したバイクはジャングルジムの瓦礫の中から飛び出し、力を溜めているミストの背中を勢いよく突いた。傷こそついていないが体勢を大きく崩されたミストは激昂しながらバイクを掴み、一度思いっきり地面に打ち付けながら天高く放り投げた。

 

 落下しないように自動制御を遠隔で起動しつつ、以前の一件で回収した残霧から収集したヘイズチューブがベルトにセットされる。

 身体への負荷が少ないよう、長剣を装備している時にのみ効果が肉体の変化ではなく、霧を利用した装備の強化にチューニングされたあの鎌を持ったミストのもの。

 

 折られた剣先は生物的な刃に塗り替えられ、緑色の光を放っている。

 

【Plasma Burst】

 

 三度の超高稼働状態。

 スラスターを緩やかに起動しながら落下速度を上げ、右腕の溜めが解除されたミストに向けて振り下ろす。

 

 肥大化した腕を掲げて防御するが、ヘイズチューブとプラズマコアの超高稼働状態の上乗せされた攻撃を防ぐことはできず、そのまま腕を切り裂き、ミストの胴体を上から断ち切った。

 

 だけれど、浅い。

 

 腕の防御で勢いを殺され致命打には至らなかった、傷口からは霧が勢いよく噴出しているが、消失にいたるほどではない。

 加えて相手は変異体———

 

「ダメ押し」

 

 残っている全エネルギーを右の拳に集中、切り裂いた胴の傷を抉って身体の内部で炸裂させる。

 

 

 表面の硬さは相当だったが内側は霧なのがミスト、大したエネルギーは込められていないが、大きな傷から霧が大量に噴出している状態で内側から破裂させられれば……

 

「っ…!」

 

 ミストでは珍しい、大きな衝撃を伴う消失反応。

 残された中年ほどの男性の肉体に傷がないのを確認してから残霧を回収した。

 

 

 

 

「ふぅ……撃滅完了」

『お疲れ様。なかなかスマートだったんじゃないか』

「3回もあんな大技して……まあ軽く済んだ方なのかもしれないけど」

 

 フーガに通信を入れて被害者の回収に回ってもらう。公園に移動してくる前のは回収されただろうけど、なにぶんこんなところに3人も転がってしまっている。状態の確認もまだ出来ていない、せめて身体は起こしておいた方がいいか。

 回収が済むまで返信は解除できないが……今から反動が怖いな。

 

 そう思い目の前の男性に近寄ろうとした時。

 

 

「見事なもんだな」

「———ッ!?」

 

 背後から声がして、急いで振り向いて距離を取る。

 なんだ、どこから現れた。

 こちらが全く気配に気づくことなく背後に立っていたこの男はなんだ。今の発言の真意はなんだ、何者だ。

 

 折れている長剣を投げ捨て、新しい剣をベルトから射出し手に取る。

 

「なんだ、俺のことをお探しじゃなかったのか?握手ならしてやらんでもないんだが」

「………何の話だ」

「んだよ物分かりが悪いなァ」

 

 知り合い……いやそんな訳ない。記憶にないし何より仮面をかぶっているこの姿で、こちらが誰かを認識できているはずがない。

 何より目の前の飄々とした男に対し、直感のようなものが全力で警鐘を鳴らしている。こんな奴が知り合いにいてたまるか。

 

「分からないなら……そこに転がってるの、喰って教えてやろうか?」

「———」

 

 

 人喰い(マンイーター)

 

 

「おっと……そう警戒すんなよ、ただ挨拶しにきただけじゃねえか」

 

 手を挙げて抵抗の意はないことを示そうとしている。

 信じると思ってるのか、本気で。

 

「誰が———」

「近々始まる祭りについて、教えてやろうと思っただけなんだがな」

「っ………」

 

 喋らせよう。

 通信から星羅さんの淡々とした言葉が聞こえてきた。

 

「……祭り?」

「そう、祭り。この町の北の方に瓦礫があるだろ。あと数日で、あそこが祭りの会場になる、それをお前さんらに伝えたくってな。特に仮面ライダー、お前に。そのためにそこの一家にまとめて化けてる俺の仲間たちを唆してやったんだぜ?」

 

 長剣を握る力が自然と強まる。

 ここで交戦を開始してもいいが、相手はイレギュラー中のイレギュラー個体。こっちは3回も大技を出して、負担の少ないとはいえヘイズチューブによる変化も使っている。

 分が悪いし、何も予想がつかない。

 

 今ここでやり合って、勝ち目があるか……

 それを見越して留まれ、という意味合いで星羅さんはああ言ったのか。

 

「お前らにとっても懐かしいものが見られるだろうさ。せいぜい心待ちにしておけよ」

「待っ———」

「ああそうだ」

 

 逃げるような素振りを見せたくせに立ち止まり、こちらに向き直る人喰い。

 

「星羅って奴が知り合いなら伝えてくれよ、それとも聞いてるか?まあどっちでもいいか」

「…!?」

 

 なんだ、なんで星羅さんの名前が出てくる、何で。

 

「母親に会いたいか」

「……は?」

「そんじゃあそういうこった。また会おうぜ」

 

 そう言い残して、人喰いは跳び上がり、建物の屋根の上を飛び跳ねてどこか遠くへと飛び去っていった。

 

『追いかけなくていい』

「……了解」

『すまない。少し……考えを整理させてくれ』

 

 通信はそれっきり途絶えた。

 

 

 

 あの人喰いとの会話は時間にして5分とかかっていなかったのだろう、間も無くしてフーガがやってきて被害者を回収していった。

 

「………」

 

 移動し、周囲に人のいないことを確認して変身を解除する。

 

 

「何が……何が何なんだよ、ったく……」

 

 理解の追いつかないことばかりで、反動で重くなっていく身体を壁で支えながら、ただただ天を仰いでいた。

 

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