仮面ライダーフェイル   作:ケサランパサラン

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仁礼星羅

「………うーん」

「何してるの、ロウ」

 

 今日も今日とて、私は公園を根城にしているミスト……家族に知られながらもその暮らしをずっと続けている不思議な存在、ロウに会いに来た。今日持ってきたお菓子はお煎餅とかのちょっと懐かしい感じのやつ。

 

「ねぇってば」

 

 いつもならお菓子の入った袋をぶんどりにくるくせに、今日に限っては遊具の上に登って、北の空をじーっと見上げていた。明らかにいつもと違う雰囲気に自然と警戒心が強まる。

 なんか習慣になってるけど、相手はまだまだ分からないことの多い未知の存在、いつ気が変わって襲いかかってきたりするか……なんて。

 

「ロウ…?」

「……ねえ、4日後って何してる?」

「4日後?えと……普通に大学で授業を受けて、夕方には家に帰るけど……」

「…出来るだけ外に出ない方がいいよ」

 

 急に何を言い出すかと思えば……説明を求めようと口を開いた瞬間、彼女がまた語り出した。

 

「予感、直感、本能……なんて言えばいいのか分からないけれど、確信にも似た何かがあるのは事実。断言できる、何かが起こる」

「何かって……何」

「それが分かってたらちゃんと伝えてる」

 

 高い場所から飛び降りて、私の持っている袋を奪い取り中身を確認し始めるロウ。思わせぶりなことを言うだけ言って……

 

「別に、自分から喜んで巻き込まれるって言うんなら止めやしないし。ボクはただ、お菓子くれる人がいなくなられたら困るなあって思って教えてあげただけだよ」

「……カワイクないなあ」

 

 別に信用していないってわけじゃないけれど、言ってることがあまりにもあやふやすぎて……イマイチ危機感とかが湧いてこない。何かが起こるって言われても……

 

「……それって、危険なこと?」

「起こってみなきゃ分からないけど……まあ、愉快なことではないと思う」

「ふーん…」

 

 もしかしたら、そのことを奏多くんや星羅さんに伝えた方がいいのかもしれないけれど……そんな確証のない、よく分からない話を伝えられたって向こうも困るだろうし…

 第一、それをどうやって知ったんだって聞かれたら返答にすごく困る。実は知り合いにお菓子ばっか食ってるミストがいて……なんて、とてもじゃないけれど言えない。

 

「……ロウはどうするの?」

「………分からない」

「分からないって、自分のことでしょ?」

「自分のこともよく理解してないんだ、自信なんか持てない。自分でもなんで普通のミストよりも長くこの状態を維持できているのか分からないのに」

 

 人にそんなに危険だ危ないって言うんだったら、自分だって家で大人しくしておいた方がいいだろうに。

 

「……知ってる?ついこの前の一家全員がミストだったってニュース」

「知ってる、今朝テレビで見た」

「あんたテレビとか見るんだ……」

 

 いやまあ、そりゃそうか。他のミストだってテレビくらい見てるか……変な感じ。

 

「上手くやってたね、擬態がバレるとしたら最も一緒に過ごしてきた時間が長い肉親だろうし、そこをまとめて集団で擬態してしまえば、少なくとも限界が来るでは発覚するリスクを抑えられる」

 

 実際、ミストかもしれないと通報が入るのはほとんどが家族や恋人かららしい。まあそりゃ他人から見て分かるものでもないし……

 ぱっと見で分かるなら、ミストはこんなに潜伏できてない……んだよね?

 

「まあ偶々だろうけど、ああやって集団で擬態できたら楽だろうな」

「……ニュースだと急に怪人態になって暴れ出したって言ってたけど……なんでなんだろう。擬態してた期間はそんなに長くなかったーって、言ってたけど」

「さぁね。怪我するところを誰かに見られたとかじゃないのかな」

「うーん……」

 

 4日後。

 何かが起こると言われれば、それまで長いような気もするし、短いような気もする。出来ることは……特にないかも。そもそも何が起こるかも全く分からないし。

 

「…次、何持ってこようか」

「たけのこのやつ」

「……きのこ?」

「たけのこ」

 

 カワイクないなぁ……ほんと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コーヒー淹れましたよ」

「……ん」

 

 人喰いが現れて以降、めっきり星羅さんの口数は減った、取り憑かれたようにコンピューターの前で何かをやっているけれど……なんだか話しかけられる雰囲気ではない。

 いつも鬱陶しいくらいに話しかけてくる人がこうも静かだと……なんというか、不安になる。

 

「…根を詰めるのはよくないですよ、そろそろ休ん……」

 

 それでもこれ以上は見ていられないと、声をかけた時に見えた画面には、でっかい犬の画像が映し出されていた。

 

「……何してたんですか?」

「癒し」

 

 じゅっ……重症だ……!!

 急いで星羅さんの身体を担ぎ上げて、寝室にまで持って行ってベッドの上に放り投げた。カーテンを閉めて電気も消して一切使っていないアロマキャンドルを掘り起こして火をつけて布団を被せる。

 

「いや……やりすぎでしょ」

「星羅さん……疲れてるんですよ」

「疲れてるけど……疲れてるけどさ、あまりにも行動が早すぎて正気に戻っちゃったよ。そのキャンドル消して、匂いが好かない」

「あっ、はい」

 

 四六時中パジャマで生活している利点が初めて認識できた、着替えさせずとも寝る状態に無理やり持っていける。そんなくだらないことを考えながら火を消した。

 

「心配かけて悪かったよ、そんなに驚かれるとは……」

「驚くっていうか怖いんですよ!何時間も無言で何してるのかなと思ったら大型犬の画像延々と眺めてるなんて」

「昔ちっさい頃にお婆ちゃんが飼ってた犬なんだ。懐かしいなあ……って」

「ん触れ辛い……けど、どっちにしろまともな状態とは思えないんですよ!」

 

 こっちは精神科の予約入れるために病院調べるとこまで行きかけたってのに……

 

「……やっぱり、あの人喰いの言葉の件ですか」

「…違うって言ったら、信用する?」

「いいえ全く」

「だよね」

 

 はぁ、と深いため息をついて身体を起こす星羅さん。

 

「別に私はまともだよ、癒しを求めて昔の記憶にトリップしてたのは本当だけど。……君って、私の父親と母親に関してどこまで知ってる?」

 

 藪から棒すぎる。

 星羅さんの両親って……

 

「………触れ辛くないですかそれ」

「まァね〜!!どっちも死んでるもん!私ら仲間だねっ」

「………」

「ドン引きしてる」

 

 そりゃするでしょう、リアクションのしようもない。

 

「母親は私がまだ小学生のうちに死んだんだ、だからあまり記憶も残ってない。父親は……まあ、なんとなく分かってるよね」

「ミスト研究の第一人者、仁礼宗次郎……フェイルシステムの生みの親」

 

 ミストについて調べていればその名前は必ずと言っていいほど挙がる。ミストラクションに巻き込まれて命を落とすところまで含めて……

 ミストに対抗するために必要な高効率のエネルギー生産機構であるプラズマコアを開発したことからも、ただミストについて調べている研究者だけではなく開発者としての能力も持ち合わせていたとされる。もし存命だったならばミスト研究が十年は先に進んでいたと言われる人物。

 

「フェイルシステムは父が亡くなったあと残っていたデータを私が復元して、フーガの支援の元実用化したものだ。原型は私の父が開発している」

「……それが何の話に?」

 

 ずっと、あの人喰いが最後に言い残していったセリフが頭の中で反響している。

 『母親に会いたいか』

 確かにあのミストはそう言っていた、それも星羅さんに向けて。

 星羅さんの周りに人喰いの正体に繋がるものがあるのではないか、そう思わずにはいられなくなった。

 

「……私と君の付き合いも、随分長くなるね」

「…はぁ」

「私は……柊木奏多という存在を、運命共同体のようなものだと思っている。だから少し長くなるけれど……聞いて欲しい」

 

 淡々と、しかし真剣な眼差しで、星羅さんは語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 母親のことは、もう随分と小さな頃のことになるから記憶も曖昧。けれど葬式をした時の、父親の見たこともないような哀しげな眼だけが、ずっと記憶に残り続けている。

 

 母が死んで以降父は家にいなくなることが自然と増えた。優秀な研究者だったからかお金に困ることはなかったけれど、元から仕事で家にいないことが多かったのに、もはや家を避けるかのように仕事に打ち込み出したのを覚えている。

 

 記憶に残っている父親の姿は、そんな血の繋がっている他人とすら言えるようなものの方が多くなってしまった。私は子供心ながらにこの人は私への興味関心が失せてしまったのだなと、そう気づいてしまった。

 一人で過ごす時間が増え、それが日常になっていく。私の生活が、父も母もいないものに定義づけられていくのには、そう時間は掛からなかった。

 

 

 そんなある日、珍しく……本当に珍しいことに、父から電話がかかってきた。私もすでに独り暮らしをしていたから、もうこのまま生きているうちに会えることなんてないんじゃないかと、そんな風にすら思っていたから。その頃の私は、父の研究内容になんて全く興味がなかったから。

 

 

『お母さんにもう一度、会いたくないか』

「は?」

 

 数年ぶりに聞いた父の言葉は、気でも触れたとしか思えないものだった。だけれど、電話越しに聞く父の声はどこか、昔のような活力を感じるもので。

 それが心底薄気味悪くて、理解に苦しんで。

 

 穏やかに過ごしていく自分の人生に、得体の知れないものを持ち込まれたような気がして……2度とかけてくるなと、そう言い捨てて電話を切った。

 それが、ミストラクションの起こる二日前の話。

 あの時の言葉の真意を問う前に、根振市の半分ごと消え去ってしまった。

 何を考えていたのか、何をしていたのか。

 私のことをないがしろにしてまで研究に打ち込んで、その先で私に伝えてきたあの言葉……その意味。

 

 瓦礫の中から残っていた少ないデータを解読して、その中からミストへの対抗手段【Code.FAIL】を見つける。

 それをきっかけに、私は父の背中を追っていくことになった。ただひたすらに学び、考え、父の残したものを理解するために。

 

 

 

 

 

 

「人喰いのあの言葉、あれは確かに私の父があの時電話で話した言葉だった。なぜ、それをあいつが知っているのか……」

「……遺体って」

「残っていなかった。父が研究していた場所は霧幻界とこちら側が繋がった場所のほぼ直下だったとされているから……超大型ミストによる被害が最も酷かった場所だ。フェイルシステムのデータが残っていただけ奇跡だったよ」

 

 今も行方不明の人なんて、沢山いる。

 そう話す星羅さんの視線は窓の外、ミストラクションで壊滅した地下の方角へと向いていた。

 

「だからまあ……もし、人喰いが私の父を喰っていたとしたら……喰った人間に擬態できるとしたら、その記憶からあの言葉が出てきていたとしても、不思議じゃない……かも」

「今度起こり得る事象と、人喰いの存在。……その二つが星羅さんのお父さん、仁礼宗次郎さんへと繋がる手掛かりかも知れない」

「……そうなる」

 

 もし仁礼宗次郎の研究資料が全て手に入ったとしたら、謎に包まれたミストや霧幻界についての調査が大きく前進するかも知れない。年々増加するミストに対する根本的な解決につながるものがあるのかも……

 

「すまない。本当は民衆や君の目的のためにフェイルを使うべきなのに……私のエゴに、君を巻き込もうとしている」

「そんなの今更ですよ。……顔をあげてください、らしくない」

 

 ミストに関する情報も、人喰いの存在も、星羅さんの事情を抜きにしても放っては置けない事柄だ。謝る必要なんか微塵もないし……それをいうなら、エゴに巻き込んでいるのはこちらの方だ。

 

「感謝してるんです、力を与えてくれたこと、役割をくれたこと。そのおかげで俺は今こうやって戦うことができている」

 

 星羅さんのおかげで、玲奈を守ることができる。

 

「人喰いの狙いが何かは分かりませんが……守って見せます。玲奈も、貴方も、他の人たちも」

「……自分も勘定に入れろ、バカ」

「いって」

 

 何故デコピンを……

 

「くくっ……一丁前に年食って大人になった気かも知れないけど、私からすればまだまだお子ちゃまなんだよ」

「……別にそんなつもりじゃ」

「ありがと、聞いてくれて。仕事に戻るよ」

「………無理しないでくださいよ」

「お互いにね」

 

 さっきよりも幾分か明るい表情で部屋を出ていく星羅さん。

 考えることも、背負うものも多いあの人に比べれば、ただ命を削ればいいだけの自分なんて楽なものだ。

 

「……連絡入れるか」

 

 自分も部屋を出て、星羅さんの邪魔をしないようにベランダに出る。

 

 

 

 

 協議の結果、4日後に起こり得る事象……名付けられたのは『霧幻侵攻』

 それが起こるかもしれない、という情報は伏せられることが決まった。起こると決まったわけではないこと、万一起こったとしても予想される被害地域はミストラクションと同じ。つまり現在は立入禁止区域となっている場所。

 事前に通達して下手に混乱を招くことを恐れて日和ったとも思えるそれに、万が一でも彼女が巻き込まれないように。

 

 

「……あ、もしもし」

『もしもし、珍しいね、どうかした?』

「少し話があってさ」

 

 直ぐに電話に出た彼女の声色は普段通り。いきなり本題に入るよりも近況を聞いたりした方がいいか、なんて考えるよりも早く口が動いてしまっている。

 

「その……もしかしたらの話なんだけど。4日後にミスト絡みの……ちょっと大きめな事が起こるかもしれなくて」

『えっ』

「…玲奈?」

『ううん、なんでもない』

 

 戸惑いの言葉が返ってくるとばかり思っていたから、驚愕、と言った感じの反応をされてこちらも少し驚く。

 

「確定してる事じゃないんだけど、一応伝えて置こうと思って。何かあったらすぐに避難して安全な場所にいて欲しい」

『う、うん。分かった、覚えとく。……奏多くんは?」

「俺は…やることあるから」

 

 一緒にいてやることはできない。本当はずっとそばにいてやりたいけれど。

 

『そっか……気をつけてね』

「…そっちも。それじゃ」

 

 言いたいことを飲み込んだ。

 そんな感じの雰囲気を感じ取ってしまって、逃げるように通話を切ってしまった。

 

 

 彼女に全てを打ち明けるのは……全てに片が付いたからにしたいから。

 

「…情けね〜」

 

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