仮面ライダーフェイル   作:ケサランパサラン

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黄霧四塞

 

 フェイルドライバーと、変身後のフェイルの装甲の各所に埋め込まれた動力炉、プラズマコアは常にエネルギーを生成し続けフェイルの素体を活性化させ、装甲にエネルギーを供給し動きの補助や銃撃の弾丸となるエネルギー弾の生成まで、その戦闘能力の補助を幅広く担っている。

 

 フェイルの特徴として挙げられるのがまさにそのプラズマコア。稼働率を上げることでフェイルの身体能力を向上させることが可能になる。スラスターなどによる加速やエネルギーを使った攻撃などもあるが、身体能力の向上は稼働率を上げるだけで基本的に怪人態のミストを凌駕することが可能なほどの強化幅を持つ。

 これはプラズマコアを搭載した一般火器や砲台にはない特徴だ。負荷に耐えるために再構築された肉体をすり減らし続けることを代償に、フルスペックを引き出せばどんなミストでも確実に撃滅することができる……

 

 それが仮面ライダーフェイルの設計思想だ。

 

 

 

 だというのに。

 

「ほらほらどうしたァ!もっとアゲてけよ!」

 

 決して稼働率を限界まで上げているわけではない、オーバーフロー状態であるPOCと比べれば今のフェイルのスペックは半分にも満たないほどだろう。

 この程度の稼働率でも通常の戦闘時であればミストに対し遅れをとることはない、のに。

 

「さっきからすっトロイんだよォ!!」

「っ…!」

 

 剣を投げて牽制し、同時に距離を詰めて剣を避けて回避行動を取った隙に後ろに回り込み、エネルギーを収束させた拳を突き出すが、手首を掴まれ、大きく投げ飛ばされる。

 

「データが回収できるまで消極的に戦って時間を稼ごうって魂胆なんだろうが……あんまり舐めてっとあっという間に喰い殺しちまうぜ?」

「フーッ……」

 

 装甲の換装、軽量化及びプラズマコアによる動作補助に特化したフェイルの装甲。ベルトから射出され、今装備している装備を弾き飛ばし身体の各所に装着される。

 戦闘時間の長期化による変身後の反動とは別に、長時間稼働し続けたプラズマコアは冷却を必要となる事もある。データの収集にどれくらいの時間がかかるのか分からない以上無闇に稼働率は上げられない。

 

 少し打ち合いをした感じ、どうやら向こうは反応速度が優れているようだ。こちらがスピードを上げて対応していくしかない。攻撃を喰らった時のリスクは増えるが、今はこれがベストと判断する。

 

 

 銃を取り出し、内蔵されたプラズマコアを稼働させて速射に特化したエネルギー弾を放ちながら距離を詰める。通常の実弾を使う銃くらいの弾速は出ているはずだが簡単に反応して弾いてくる。

 右手に逆手に持ってトンファーのように持ち、そのまま速度を上げて人喰いに対し攻撃を仕掛ける。

 向こうの腕に生えている棘を防ぎ、格闘戦を成立させるために防御を兼ねた運用。人喰い自身にはそこまでのスピードはないようだが、こちらの攻撃には的確に反応してくる。

 

「ッ!?」

 

 何度か噛み合った後、人喰いが突然地面に向けて棘を発射した。難なく避けるが着弾と同時に炸裂しこちらの動きが少し止まってしまう、

 

「そうらァッ!」

 

 勢いよく突き出された棘、銃を構えて防御するが刺突を正面から受け止めてバラバラに分解されると同時にこちらの身体も勢いよく吹き飛ばされる。

 身体を捻って体勢を立て直し、左手を地面に擦りながら減速、バラバラにされた銃に内蔵されていた青色の光を放っているプラズマコアを握り締め直接接続、その稼働率を急激に限界ギリギリにまで上げる。

 

 エネルギーの放出先を失ったプラズマコアはエネルギーを保持できずに自爆する。

 

 自身のプラズマコアの稼働率を上げて人喰いに再接近、爆発寸前の小サイズのプラズマコアを敵の目の前に放り投げる。

 対応されるだろう、だがこちらは後ろに回り込みながら新たに剣を取り出して地面を蹴って突き出す。

 いくら反射神経が良くとも視界外からの攻撃は何が来るか判別はできないだろう。そして目の前には明らかに爆発しようとしている物体。

 

 どちらかは確実に当たる。

 そう確信を持った時、人喰いの赤と黒の身体が禍々しい色の光を放ったかと思えば、周囲に奴の棘がいくつも生成されそのまま全方位に乱射してきた。

 

 

 咄嗟で剣と比較的装甲の厚い胸の部分を被せて受けるが、陽動のプラズマコアも棘の発射により相殺され、こちら側の攻撃も失敗に終わった。

 

「悪い、別に腕からじゃなくても飛ばせんだよなこれが。言ってなかったか?」

「クソッ…」

 

 掠っただけで洒落にならないダメージが入る。装甲のないいくつかの箇所に傷が出来、そこから灰色の霧が漏れ出す。身体の自己修復機能で傷は塞がるが、漏れ出した霧は戻らない?

 軽量特化の装備では本当に一撃でやられかねないと考え、再び通常装甲に換装する。装甲の予備はあまりドライバーには内蔵されていない、そうポンポン入れ替えられるものでもない。

 

「しかししぶといな、今の防ぐか。オレァ身体蜂の巣にする気でやったんだがなあ」

 

 違和感が頭の中に渦巻く。

 ただ反射神経がずば抜けているだけなら、さっきのこちらの攻撃をあそこまで完璧に防げるだろうか。

 

【Plasma Burst】

 

 確かめる必要がある。

 銃を取り出し、ドライバーと内蔵された二つのプラズマコアから供給を受け、巨大なエネルギー弾を生成し人喰いに向けて放つ。

 

 目的は目眩し、早くもないエネルギー弾に対し向こうは棘を飛ばす事で相殺するだろう。しかしそれによる爆発により敵の視界が奪われる。

 

 ドライバーに内蔵されている装備を使い切る勢いで仕掛ける。

 

「何考えてるか知らんが無駄だぜ」

「やってから考えるさ」

 

 高稼働状態を維持したまま飛び上がる。人喰いのいる地点に向けてベルトから射出される大量の銃や剣、使ったことのないような装備たち。雨のように降り注ぐそれらを追い越すようにスラスターを噴かしながら着地。

 

【Plasma Burst】

 

 再びの超高稼働状態に入る。

 

 もしただ反射神経がいいだけなら、上空から大量に武器が降り注ぐその状況ではどれが本命の攻撃かは分からないはず。

 さらにそこにダメ押しで、遠隔で操作したバイクを突っ込ませ、それに続くように別方向から剣を持った自身が全力で切り掛かる。

 

 撹乱に加えたフェイント、さらに全力の本命。

 

「……チッ」

 

 バイクを手で受け止め、剣を腕の棘で防御されていた。

 ただの反射神経では説明がつかないほど的確な判断と対応、小細工も通用しないほどの正確さ。

 

 

 急いで距離を取り、再びの発光を始めた人喰いの身体から距離を取る。全方位に乱射される棘を今度は剣で弾き落としながら防ぎ切る。

 

「感知能力……」

「ご名答」

 

 機嫌の良さそうに人喰いは頭に生えた2本のツノをチョンチョンと触れて語り始める。

 

「オレは周囲に薄い膜のように自身の霧を張り巡らせている。この中に入ったものはなんであろうと肌で触れたかのように感じ取ることができる。いくら小細工してこようが意味ないんだよ」

 

 パッと思いつくのはPOCによる高速の飽和攻撃だが……アレはダメだ、こんな場所で戦闘継続不可能になるリスクは負えない。

 

「こういうのなんて言うんだったか、骨折り損のくたびれもうけってやつ?」

「……物知りじゃないか」

「勤勉なんでなァ、オレは。人間(お前ら)のことも沢山勉強させてもらったぜ?」

 

 頭を指でトントンと突く人喰い。

 

「実に文明的な生き物だよなァ。本能を超えて何かを慈しみ、愛そうとする。食糧を生み出し、貨幣でやり取りして文明を作る」

「……何が言いたい」

「…じゃ、それが出来るミストも同じ人間ってことでよくねェか?」

 

 こちらが遠隔操作して飛ばし、横になっているバイクに腰掛ける人喰い。……隙だらけだが、感知されるのなら有効打はない。

 

「オレたちミストだって同じように感じて、食べて、話すことができる。お前らが作った文明に適応することができる。ただ擬態しなきゃならないってのと、五年しか生きられないっていう2点を除けば、オレたちは普通の人間として生きていくことができる」

「詭弁を……お前らはその擬態をするために一人の人間を犠牲にするだろうが…!そしてお前は何人もの人を…!!」

「そりゃあお互い様だろ?」

「あ゛…?」

 

 そう言ってこちらに指を向けてくる。

 

「何人、ミストを殺した?」

「っ……」

「あいつらだって愛していた奴はいたし、憎んでいた奴はいた。それが誰かの記憶の延長線にあるものでも、その気持ちに嘘はないとオレは思うがな」

「テメェにそんなことを語る資格があるとでも…」

「オレは今まで喰った奴のこと、全員覚えてるぜ?…お前はどうだ?」

 

 その問いに、返せる言葉は持ち合わせていなかった。

 数えきれないほど、斃してきたから。

 

「覚えてねェよな!そりゃそうだ!撃滅だなんて言葉を使って誤魔化しちゃいるが、テメェらフーガのやってることは立派なミスト()殺しだ!殺人鬼同士仲良くしようぜ、なァ?」

「黙れっ!!」

 

 そんな言葉しか出てこない。

 奴の言っていることは事実で……無理やり割り切って飲み込んでいた思考だ。

 ミストにも感情が、思考があるのは嫌というほど知っている。それらを誰よりも蹂躙してきたのは他の誰でもない、自分自身なのだから。

 

「人間ってのは自分にとって不都合な存在を駆逐してきた、いつだってな。思想や肌の色の違う他の民族、害獣、個人的な憎悪を向ける相手……それと同じだろ?」

 

 人の業、人の性。

 

「生存競争さ。お前とオレ、人間とミスト、共存できない二つの種が互いの存亡をかけて殺し(喰い)合う。そう難しいこと考えるなよ、お前ら人間がいつだってやってきたことだろ?」

 

 嘲笑が含まれた奴の言葉をただただ聞き続ける。

 

「オレの望みはミストの進化、依代を必要としない単独での存在の維持。それの何が悪い?お前らにとっていい事なんじゃねえのか?」

「ミストは……力を持っている。他者を簡単に傷つけられるだけの力が。それが単一で存在できるようになったとして、向かう先はミストに人権を与えろという主張、または独立の要求…ああそうだな、確かに人間にとって不都合さ」

 

 そもそもどうやって進化させるつもりか知らないが……共存するには、俺たちには違いが多すぎる。そして綺麗事を吐くには犠牲が多すぎた。

 

「だが……10年前のあの日、この場所で起こったミストラクション……超大型ミストの破壊行為に始まった、ミストによる被害。そんなものが受け入れられるわけがない、論理的にも、感情的にも」

「ん〜、最もらしい意見だな」

 

 ミストさえ……こんな霧さえなければ、玲奈も俺も……星羅さんだって。

 この町はこの姿のまま、俺たちの町であるはずだったのに。

 

「お前らは霧幻界に還って、ただの霧としてずっといればいいのに。何度も何度も何度も何度も、俺たちの世界に来ては傷つけ、勝手に滅んで……俺たちのこの傷を……この痛みを分かろうとしない」

()()を求めてるからな、オレたちは」

「それに……テメェは何十人も喰い殺したんだろうが。お前の存在だけは、俺たちは絶対に許してはいけない」

 

 分かり合えない、分かり合えるわけがない。

 お前たちミストは理解のできない化け物で、滅ぼすべき相手なのだから。

 

「確かに、お前たちは不完全なだけの、哀れな存在なのかもしれない。それでも滅ぼす。お前たちに心があったとしても……それでも俺は、お前たちの存在を否定する。俺に残ったモノを、守るために」

 

 プラズマコアの稼働率を上げる。

 星羅さんの方が済むまで、あとどのくらいだ。

 

「そのために俺は、仮面ライダーになったんだ」

 

 剣を構えるこちらの姿を見て、人喰いも立ち上がり、こちらに棘を向ける。

 

「話は終わりか?」

「そうだなァ……後はもう、滅ぼし合うしかないなァ?」

 

 星羅さんの方が済んだとして、ここから撤退する必要がある。むざむざと奴が見逃すとも思えないし……奴がここに来た理由がまだわからない。奴の望みは語っていたが、ここで何をしようとしているのかは不明のままだ。

 

「まあ別に、オレのプランにゃ全人類をミストと融合させる案もあったんで元から期待なんかしてなかったがな」

「だろうな」

 

 今話していたうちにある程度の冷却は済んだ。奴の感知能力をどうやって突破するかだが……周囲の霧が悪さをしているというのならそれごとまとめて吹き飛ば———

 

「っ!!」

 

 思考を遮る突き。

 一瞬でこちらに接近し胸目掛けて棘を突き出してきた。横に飛んで回避するが続け様にもう片方の腕で棘を飛ばしてくる。咄嗟に剣で防御し軌道を逸らすが右肩の装甲を掠め被弾してしまう。

 

「ふざけやがってっ」

 

 さっきまでの向こうの消極的な動きとは大違いだ。確実にこちらを殺しに来ている。

 気を抜いていては、本当にやられる。

 稼働率を上げろ、精神を研ぎ澄ませ。

 

 

 剣を持ったまま真っ直ぐ人喰いに向かって走り出す。接近と同時に勢いをつけたまま振った剣は容易く反応され腕の棘で防御される。だご剣を握っている手には大した力は入っていない。

 剣が弾かれ手から抜けて飛んでいくが、勢いづいた身体は止まらない。

 そのまま最小限、最短の動きで拳を奴の腹に捩じ込んだ。

 

 何かに弾かれたように吹き飛ばす人喰い。体勢を崩すほどではなくただ10メートルほど吹っ飛ばしただけだが……ようやくまともに一撃を入れられた。

 

 飛んでいった剣を拾って再度構え直す。

 小細工は意味がないと奴は言ったが、やりようはいくらでもある。ただこちらが防ぎ続けるだけでは削り殺されて終わりだ。

 

 思考を回せ、考えろ。

 重い一撃を与える、その方法を———

 

 

 

 

 

 

 

「なに、これ」

 

 

 声がした。

 何度も聞いた声、昔から聞き続けてきた声。今この場でするはずのない声に一瞬、思考と動きが止まり。

 

「玲奈———」

 

 人喰いの棘が俺の右腕を貫き、千切れ、宙を舞った。

 腕が千切れた箇所から勢い良く灰色の霧が噴き出し……それ越しに、彼女の姿が見えた。

 

「何で…ここに」

 

 落ちてきた腕が地面に落ち、霧散していくと同時に変身が解ける。身体に重大な損傷があることを検知したフェイルドライバーが、霧が身体から漏出することを防ぐために変身を解除し、肉体を元の人間のものへと再構築する。

 吹き飛んだ右手の感覚が戻り……その代償として全身の内側を針で突き刺すような痛みが体を襲う。

 

 

 何事もなく、平穏に暮らしていて欲しかったのに。

 知られることなく、生きていて欲しかったのに。

 

 

「え……なんで…」

 

 

 ああ、くそっ。

 

 

「奏多……?」

 

 

 なんで、ここにいんだよ。

 

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