仮面ライダーフェイル   作:ケサランパサラン

21 / 32
雲散霧消

 

 

「奏多…?」

 

 ミストの化け物と仮面ライダーが戦っていて……仮面ライダーの腕が吹き飛んだと思ったら、そこから奏多が現れて……

 

 二本角の化け物と目が合う。私の方を見ると化け物はその吊り上がった目を細めて、尖った歯の見える口を開けて笑ったような表情を浮かべた。

 

「役者は揃ったみてえだなァ。ここまで案内ご苦労さん、ミラ」

「ミラ……?波瑠?」

 

 誰かの名を読んだかと思えば、私をここまで連れてきた波瑠が化け物の方に歩いて行く。名前を呼んでもこちらを振り返ることはなく、そのまま化け物の近くまで行ってしまった。

 

「案内って……ミラって、どういうこと?」

 

 私が聞いても波瑠は、静かにこちらを見つめるだけ。

 

「どういう、ことだ…」

「…奏多!」

 

 何も理解が追いつかない、けれど苦しそうに悶えている奏多の方に駆け寄る。触れてみて気がついた。

 体温が、恐ろしく冷たい。それになんだか……身体が軽い。

 

「なんで玲奈がここにいる……役者ってのは…案内ってのはなんだ、どういう意味だ……答えろっ!!」

「そう急かすな。心配せずともちゃァんと、一から説明してやるよ。その前にそうだな……紫藤玲奈、お前が自分のことを知らないとなァ」

「私…?」

「なァ、仁礼星羅さんよォ!」

 

 化け物が見ていた方を見ると、建物の中から星羅さんが苦虫を噛み潰したような表情で出てきていた。

 なんで奏多と星羅さんが……いや、でも……

 

「教えてやれよ!そいつが本当は何なのか……知ってるんだろ?」

「………はぁ」

 

 奏多の方を心配そうに見つめる星羅さん。

 

「ダメだ、星羅さん……それは——」

「遅かれ早かれ、だ。……いずれにせよ、こうなってしまっては仕方がない」

「でも……」

「なに……二人は何を知ってるの?」

 

 波瑠が言ってた、私の知りたいことを知れるっていうのは……こういう意味?

 

「……玲奈くん。落ち着いて、よく聞きたまえ」

 

 息を吸って、吐く。

 星羅さんがその一つの動作を終えるまでの時間が、とてつもなく長く感じられて。彼女の口元に視線が釘付けにされて。

 

「君は……」

 

 あの人の言葉の一つ一つが頭の中に響くような、そんな感覚に襲われて。

 

 

「君の父親は……ミストだ」

「———え」

 

 その言葉を聞いて、そんな短い音が、私の口から漏れ出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは私の父、仁礼宗次郎が残し、ミストラクションの被害を受けてもなお無事だった数少ないデータのうちの一つ。

 そのデータの中にはまだの10歳の少女、紫藤玲奈とその父親、紫藤瑛二、そして母親の紫藤紗奈。三人に関するレポートが記されていた。これはそれを参照した話だ。

 

 

 

 紫藤瑛二と私の父、仁礼宗次郎は知り合いだった。紫藤瑛二はミストである自分の身体を被験体として調査してもらうことを望んでいた。

 その理由は、娘である紫藤玲奈の身体について知るため。

 

 紫藤紗奈は紫藤瑛二がミストであることを知っていた。知った上で愛し合い、子を産み、育てていた。

 ミストの擬態限界は本来5年であり、また成長も老いもしない。それを越えて10年以上普通の人間として生き、本来ミストが持つはずのない繁殖機能を有していた紫藤瑛二は、ある意味ミストの生命としての完成体に近い存在だったと言えるだろう。

 紫藤紗奈の中で受精し、産まれた胎児は、産まれもって霧幻界の霧に適応した存在、ミストと人間のハーフ———

 

 それが、紫藤玲奈。

 

 自らの娘の異常性に、同族であるが故に気づいた紫藤瑛二はミストについての研究をしているという仁礼宗次郎にコンタクトを取り、自らを被験体として提供し、娘が無事に成長できるのか、自分の血がどう作用するのかを知ろうとしていた。

 願わくは、普通の人間として生きて欲しいと。

 

 体内に霧を保持しながら生きる紫藤玲奈は、ミストと人間の中間の存在であり、また完成体とも言える存在である紫藤瑛二の霧と、遺伝子を受け継いだその潜在能力は未知数である、と。

 

 父は、そう結論付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お父さんが、ミストって…」

「…話はまだ終わってないんだ」

 

 星羅さんの視線が奏多の方に向けられる。

 

「話そうか?」

「いえ……自分で、伝えます」

「…そうか」

 

 奏多の方をじっと見つめる。私の方を一瞬だけチラッと見た彼と目があって、すぐに彼は視線を下に戻した。

 

「あの日……10年前のあの日、俺は瓦礫の下から君を引っ張り出して、背負って、とにかく無事な方に連れていこうとしたんだ。怪我をしていたから……その時、周りからミストが何体も現れた。まるで君を狙っているかのように」

 

 私は、ミストラクションの起こった時の記憶がない。だから私が知ることは、彼が話してくれたことだけだ。

 だけどこの話は、一度だって聞いたことはない。

 

「ミストが襲い掛かろうとしたその時、君が突然目を覚まして……よくわからない力で、周囲のミストを全部消してしまった。綺麗さっぱり…最初からそこにいなかったかのように」

「………なに、それ」

「俺も……よく、覚えてないんだ。そこからはもう、訳の分からないまま無我夢中で走っていたから」

 

 私がミスト人間のハーフで…よく分からない力を使っていて。私のお父さんはずっと昔からミストで、私が生まれるよりも前からミストで、お母さんはそれを知っていて。

 

「ずっと……隠していた。君が自分の力に気づかないように、本当の自分に気づかないように。……そうするのが玲奈の幸せだって、信じて……」

 

 分からない……分からない、何も。

 だって、お父さんはお父さんだし、お母さんだってお母さんで。二人とも普通の、私のお父さんとお母さんで。私だってずっと、普通の女の子で。そんなこと急に言われたって。

 奏多だって、普通の幼馴染だし……なんでそれが、仮面ライダーに……

 

 ………でも。

 

「っ…!」

 

 何かが頭の中で噛み合うような、そんな感覚がして。思わず口元を手で押さえてしまう。

 

 

 ずっと、変な感覚がしていた。

 久々に会った奏多くんの感じが、少し変に感じていたのも。擬態の限界が近づいてこれから暴走しようっていうミストが、何となく分かっていたのも、父さんの遺体が見つからなかったのも……もしかすれば。

 

 頭の中で色んな光景が何度も何度も、繰り返し再生される。今までの時間で抱いた疑問や、違和感を全て洗い出すように、何度も、何度も。

 

 

 

「そうさ、そいつは完全な生命体としてのミスト。オレやミラのような、

不完全な完成体とは違ってなァ」

「完成体……?」

「そうさ!変異、適応を繰り返し何年だって生きれるようになったオレたちミストの次の段階!それが完成体さ!!」

 

 私が…完全な、ミストとしての生命体?

 

「だがオレは知っていた、おっさんともう一人の男が話していた内容……どうやらオレたちの他にもっと完璧で!完全な!完成されたミストがいるってなァ!それを調べるためにミラに人間に紛れ込ませ、真の完成体であるお前を探させていたってわけよ」

「……そう、なの?」

 

 私が聞いても、波瑠は何も答えない。ただただ静かに佇んでいるだけ。

 

「玲奈を見つけて……ここに連れてきて、一体どうするつもりだ」

「分かりきってること聞くなよ仮面ライダーさんよォ。そんなもん()にするに決まってんだろ。俺たちミストの進化のための、なァ…?」

「ひっ…」

 

 ぎょろりと、化け物の目がこちらを向いた。本能的に恐怖を感じて後退り、その背中を奏多がそっと抱いてくれる。

 

「なるほど……これでようやくハッキリしたわけだ」

「奏多……?」

 

 怖い、何が何だか分からなくて、理解できないのが怖くて、理解するのが怖くて。立ち上がる彼の手を、縋るように握り続けることしかできなくて。優しく微笑み返す彼の強さに、甘えるしかなくて。

 

「大丈夫。俺が守るから……星羅さんと一緒にいてくれ」

 

 彼の言うままに、その場から逃げ出すことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奏多くん……その状態での再変身は危険だ、命に関わる」

「え……」

「だからって、やらなきゃここで全員殺されておしまいだ」

 

 星羅さんの警告を無視し、腰にドライバーを装着する。

 

「……分かっているな、私たちの目的は——」

「研究データでしょう。分かってる、分かってますが……」

 

 灰色の霧が込められたヘイズチューブをドライバーに装填する。

 

【Order:Code.FAIL】

 

「こいつらが狙っているのは、玲奈だ」

「奏多……」

「だったらこいつらは……俺にとって…命に変えてもここで斃さなきゃいけない相手なんだ!!」

 

 玲奈と、己の全存在のために。

 

「変身ッッ!!」

 

 乱暴に、ドライバーのトリガーを右へと力任せに引く。

 

【Approval The Executioner FAIL】

 

 音声が鳴り、再度俺の体はフェイルに適した身体へと再構築され、ベルトから射出された装甲が身体を覆う。再度変身した俺を見て、人喰いは嘲笑うような笑みを浮かべる。

 

「第二回戦かァ?俺は別に構わんが、そこの二人守りながら戦えんのか、ええ?」

「心配しなくても、テメェは今ここで終わりにしてやるよ」

 

 

【Order:Code.Blazer】

 

 

 冷たく響く機械音声。

 それを聞いた星羅さんが声を荒げる。

 

「待つんだ!今その状態でそんなもの!!戻れなくなるぞ!!」

 

【Emergency:Safety System Non-active】

 

「っ!!このっ……大馬鹿野郎がっ!!!!」

「……後、頼みます」

 

 焦った様子で端末を開く星羅さんに短く、そう伝えて。不安そうにこちらを見つめている玲奈を一瞥して。

 プラズマコアを解放する。

 

 

【Plasma Over Clock】

 

 

 胸部のプラズマコアが激しい光を放ち、迸るエネルギーを受けた身体から白く変色した輝く霧が放出されていく、まるで翼のように。

 ブレイザー、フェイルの出せる最大スペック、完全な奥の手。プラズマコアが自壊せず安全に運用できるよう設けられた十秒間の稼働による強制変身解除、そのシステムを。

 

 今、切った。

 

 

「いいねェ…高鳴ってきたァ!こいよ仮面ライダー!!全部喰い尽くしてやるよォ!!」

「腹ぁ壊しても知らねェぞ…!!」

 

 

 閃光が駆け抜ける。

 極限まで高められた知覚でも、自分でさえも認識が追いつけないほど高速の動き、攻撃。それが一秒間の間に何度も、何度も、何度も、何度も、敵の周りを駆け回る。

 

 剣を振り、防御される。人喰いの感知能力はこの状態のフェイルの動きにも対応できるが、それでもあちらの防御が間に合わないほどの速度で攻撃し続ければいずれ突破できる。

 

 エネルギーを過度に流し込まれた剣が人喰いの棘との打ち合いで折れる。人喰いの上空から浴びせた剣をまとめて回収し人喰いの周囲に突き刺していく。

 折れたそばから手に取り、攻撃し続けるために。

 次第に奴の身体に傷が刻まれていく。

 

 10秒を超えた時点でバイザーの表示を全て切る、目障りだから。

 

「ぐおォッ!!」

 

 回転しながら突っ込み、人喰いの腕の棘に向けて四度剣をねじ込む。何度も衝撃を与えられた棘はついに砕け、そのまま奴の右腕を断ち切った。反撃され左腕で剣を破壊され掴みかかられるがスラスターを最大出力で噴かし飛び越え、最後の一本の剣を手に取る。

 

 

【Plasma Full Burst】

 

 

 剣を、全身全霊で投げ飛ばす。

 流れるエネルギーと激しい動作に耐えきれず右腕の装甲が自壊する。構わずに走り出し投げた剣に続くように飛び、右脚を突き出す。

 

 投げた剣を、そして突っ込んでくる俺を迎撃するために、赤黒い光を放ちながら生成した棘をこちらに向けて乱射してくる。だがそれよりも早く剣が奴の肩に突き刺さる。

 

 これで仕留める。

 乱射された棘が装甲を砕き、身体を貫き、えぐる。身体を構成している霧の総量がどんどん少なくなっていく、それでも構わない。

 

 加速しろ、確実に貫くために。

 

 

 

 

 あの日、なんでお前は生き残った。

 居場所を失い家族を失い、1人だけこんな世界に取り残されて。

 

 何の為に?

 

 価値ある命になれ。

 意味ある命になれ。

 証明しろ、生き残ってしまったお前の存在価値を。

 守り通せ、お前が今こうして立っている理由を。

 

 そのためなら———

 

 

「命だって賭けられる…!!」

 

 

 

 棘如きで、加速したこの身体は止まらない。

 思考もしがらみも後悔も、何もかも置き去りにする速度で。

 

 この足が、人喰いの身体を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 35秒っ……!

 手元の端末でフェイルの制御システムにハッキングし、切られた強制変身解除システムを復旧させるのにかかった時間が、これかっ…!

 

「奏多っ!!」

 

 変身が解除され、その場に倒れ込む彼の身体を玲奈くんが支える。

 よくもまあ、爆発せずに動き続けたものだ。オーバーヒートでドライバーそのものが破損し、変身解除システムすら起動しない可能性すらあった。そうなっていれば彼は……

 

 いや、どちらにしても同じことか。

 

「奏多…?ねえ、奏多っ!星羅さん奏多が!」

 

 彼女の叫び声に、私はただ顔を逸らすことしかできない。こうなることは分かり切っていた、それでもやり通したのは彼の意志だ。……止められなかった、間に合わなかった自分が情けない。

 

「ククッ……はっははははっはァ!!死ぬところだったぜ、こいつ!」

「チッ…あれでも仕留めきれなかったか」

 

 右腕を失い、全身に傷を負い、剣が突き刺さり、左側の腹部を抉られてもなお、その存在を保ち続けている人喰い……幽玄。ギリギリのところで致命傷を回避したのだろうが……これじゃあ彼が命を賭けた意味が…

 

「気に入った!お前は絶対に喰ってやる、死肉になってもな!!二人まとめて、逝かしてやるよォッ!!」

「っ!逃げるんだ、早く!!

 

 幽玄が残った左腕の棘を玲奈くんと奏多くんに向ける。彼女もハッとして奏多くんを抱えたまま避けようとするが……避けれるはずがない。

 

「くそっ」

 

 何ができるわけでもないのに。戦えるわけでもないのに、私には走り出すことしかできなかった。

 

 

 

 棘が発射される、その瞬間。

 銃声と共に幽玄の肉体から火花が上がる。

 

 

「ウオオオオッ!!」

「———三澤くん!!?」

 

 バイクに乗り、ロケットランチャーを構えてこちらへ真っ直ぐ突っ込んでくる。あの時通信が切れてからこの地点までそのままやってきたのか…!

 

「チィッ」

 

 放たれた弾丸に合わせるように発射された棘がぶつかり、激しい爆発を起こす。バイクのハンドルを切ってこちら側に向かってくる三澤くん。

 

「状況はっ!!」

 

 素早く通常火器に持ち替え牽制しそう言ってくる。

 

「人喰いと遭遇、フェイルが交戦したが継戦不可能!データはまだ建物の中で移行中、もう終わっていると思いたいが…」

「ならこのバイクに乗って、そこの二人も連れてデータを回収してここから離れてください!時間は稼ぎます!!」

「バカっ……君まで失えるか!!」

 

 ふざけたことをぬかす彼に叫んでしまう。今この状況で三澤くんまで失ってしまっては、私はもう……

 

「出来損ないに構う余裕があるんですかッ!!」

「しかしっ……」

「黙って行けってんだよ!!」

「っ……すまない!」

 

 

 彼の叫び、その覚悟を全身で感じる。

 玲奈くんに奏多くんを背負うようにいい、私は急いで研究所の中に戻り、移行の終わったUSBメモリを引き抜いてバイクの方へと戻る。

 

「っ……まあそりゃ見逃すわけないか…」

 

 バイクの前に立ちはだかるように、ミラと呼ばれていた少女が玲奈くんと見つめ合っていた。人喰いの話と状況から推察するに、彼女が友人として玲奈くんに近づき、その存在に確証を得てここまで連れてきたということになるが…

 

「波瑠…なんでこんなことを……」

「……それが私、ミラの役割だったから」

 

 私たちが乗ってきたバイクも今は幽玄の近くにある。離脱するには目の前のそれに乗るしかない。

 懐から拳銃を取り出し、目の前の彼女に向ける。

 

「……どいてもらおうか、今すぐに」

「ちょっ、待って星羅さんっ、彼女は——」

「敵だ!!君の命を狙っている敵なんだ!!」

「っ……」

 

 安全装置を外し、引き金に手をかける。

 

「警告はした」

 

 発砲音と共に鉛玉が敵に向かって発射されるが、着弾する直前にその姿が霧散してしまう。奴は姿を消すことができるのか、それとも……いやそんなことより。

 

「どこへっ……ぐうっ!?」

 

 周囲を警戒しているところに首を捕まれ圧迫、そのまま身体を持ち上げられ抵抗できなくなる。目の前にはさっきまでの少女の姿ではなく、女性的な姿となった怪人態のミスト。

 ジリジリと力を強め、首を締めてくる。

 

「く、そっ………」

 

 視界の端では身体の再生がどんどん進む幽玄と、飛ばされた棘をなんとか避け続けているものの、既に身体の各所から血を流している三澤くんの姿が映った。

 

 ここまでか。

 これまでの人生を振り返る暇も与えられず、首を絞める力は強まり次第に視界が暗くなっていく。

 

 

 まだ、何もなし得ていないというのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「星羅さんっ!やめて波瑠!ねえっ!!」

 

 姿を変えた彼女に私の言葉は届かない。

 助けに来てくれた人も、あの化け物の相手をしているのに精一杯でこっちを助けに来れそうにはない。

 

 背中に背負っている奏多くんは、びっくりするくらい軽くて……呼吸もしていなくて。

 

 星羅さんは今、私の友達だと思っていた子に首を締められて殺されそうになっている。

 

 

「助けてっ……助けてよ、奏多っ……」

 

 

 危ないことから遠ざけて、いつだってそばに居てくれた彼。人知れず仮面ライダーとしてミストを倒し続けて、みんなのことを守ってくれていた彼。

 自分だって辛いはずなのに、人のことばっかり、私のことばっかり考えていた彼。強くて優しい彼。

 

 

 いくら助けを求めても、目覚めてはくれない。

 

 

 彼はいつだって戦ってきたのに。

 多分仮面ライダーになったのだって……私を守る為なのに。私を生かす為に戦って、星羅さんもあの人も戦って……

 

 

 いつだって、私は何も出来ていない。

 彼はいつだって守ろうとしてくれたのに、戦って戦って、傷ついても戦い抜いていたのに。こんなに身体が軽くなってまで……

 

 

「……っ!!」

 

 

 私が、守らなきゃ。

 彼を……みんなを助けてあげなきゃ。

 

 

 変わらなきゃ、いけないんだ。

 彼らの言うとおり、私にも力があるって言うのから。

 

 

 お父さん、お母さん。

 お願い、力を貸して———!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 波動が、周囲に響き渡った。

 身体の芯にまで響くような、そんな波動が。

 

「けほっ、けほっ……」

 

 戻ってきた意識を必死に、逃がさないように、手繰り寄せるように。波動を起こしているその場所に目を向ける。

 

 そこには彼女がいた、そして変わろうとしていた。

 身体から純白の霧が溢れ出し、彼女の身体を覆っていく。ミスト本来の姿……いや、彼女にとっての新しい姿に。

 

「玲奈くん……」

 

 穢れのない純白な肉体が構成されていく。

 天使の翼に包まれたかのような身体、その姿を見て光を放っているのかと錯覚するほどに。これまで確認したどのミストとも違う特異な姿。

 

 

「ククッ…!!なるほどなァ、これが紫藤玲奈……覚醒したなァ!!」

 

 三澤くんに構わずに再生が済んだ両腕で棘を乱射してくる幽玄。同時に姿を消すミラ。

 

 

 それを彼女は、腕を一振りするだけで。

 たったそれだけの簡単な動作で、飛来する棘を消去し、姿を消して背後に迫っていたミラを吹き飛ばした。その波動に触れた全ての霧が、彼女の思いのままになるように。

 

「凄い、これが……」

 

 呆けてしまっている私を他所に、彼女は空へと手をかざす。

 彼女の身体から漏れ出した純白の霧が、彼女の意思によって空へと昇っていく、空の一点に向けて高く、高く。

 

「まさか……霧幻界との入り口を」

 

 上空で霧が弾けた。

 手元の端末で観測データを受信するが、確かに霧幻侵攻の反応が途絶えている。

 この世界に流入し続けていたあの世界の霧が、止まった……

 

「……ハハッ、ふざけやがる」

 

 なんだ、これは。

 彼女は一体何をしている、何を可能としている。彼女に何が起きたと言うんだ。これが……ミストと人間の間に生まれた者の力だと…

 

「うっ……」

「玲奈くん!!」

 

 何に耐えられなくなったのか、怪人態を維持できなくなった彼女が人間の姿に戻り、その場に倒れ込むのを見て急いで駆け寄り支える。少し呼吸が荒くなっているが意識はあるし、脈も正常……

 

「やはり!オレの目に間違いはなかった!!」

 

 狂ったように笑い声をあげ、立ち上がり叫び始める幽玄。さっき彼女が放った波動により身体の自由が効かないのか、その動きはぎこちない。

 

「紫藤玲奈ァ!お前こそオレたちミストが進化するために必要な贄だ!!今すぐにその息の根を止めて、あの世界に捧げ———」

「……はっ?」

 

 素っ頓狂な声が口から漏れてしまった。

 

 敵意をむき出しにしてこちらに少しずつ近寄っていた幽玄を、突然乱入してきたトラックが吹き飛ばしてしまったのだから。

 

「……は?え?なんで?」

「うぅ、ん……?」

 

 玲奈くんが苦しそうに瞼を開いて、私と同じように驚いている。しかし、その理由は私とは少し違うようで。

 

「ろ、ロウ…!?」

 

 そのトラックの運転席いる髪の毛が灰色の霧のようになっているその少女を見て、心底驚いたように叫んだ。その謎の運転手はこちらを見るなり勢いよくハンドルを切り、私たちの近くで停車した。

 

「乗って!早く!!」

「なんであなたがここにっ…」

「説明は後!!」

 

 何も分からない、何も分からないがどうやら彼女は味方のようだ。そう信じるしかない状況になってしまっている。

 少し離れている三澤くんと頷き合い、私は玲奈くんを抱えてトラックの荷台へ。彼が奏多くんを背負って後から乗ってきた。

 

「ハハハハハァッ!!まさかもう一人、俺たちの他に完成体のミストがいたとはなァ!!お前ら全員、まとめて贄に———」

「うるさい黙ってろ!!」

「なっ———」

 

 謎の運転手は自らの霧をロケットランチャーへと変化させ、既にズタボロの幽玄に向けて撃ち込んだ。驚愕の表情のまま爆発に飲み込まれたのを見向きもせずに、彼女は明らかに異常に長い足を伸ばしてアクセルを踏んでトラックを走らせる。

 私はそれを、呆然と見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「………っ、ハァ〜!!」

「ねえ!誰か道案内してよ!!ボクはそいつに向けて一直線に来ただけなんだからさあ!」

「あ、あぁ、私がやろう。とりあえずこのまま道なりに進んでくれ、多少ぶつかっても構わないから」

 

 追撃や、追ってくる様子がないことからようやく、危機を脱したのだと。そう実感して思いっきり息を吐いたら怒られてしまう。扉を開けて助手席にと座る。

 

「全く、完全に目をつけられたよアレ。だからボクは———」

 

 なんかぶつくさ文句を言いながら運転をしている。

 本当に、なんなんだこの子は。……ミスト、なんだろうが……

 

「……三澤くん、二人は」

 

 後ろで傷の手当てをしている彼に悪いと思いながらも、奏多くんと玲奈くんの様子を見ている。

 

「彼女は疲れて眠っているだけのようです。呼吸も脈も正常……ただ奏多が……」

「……そうか、分かった」

 

 

 三澤くんを失わずに済んだ。

 あれだけの危機的状況で、何度も奇跡が起きて、今こうして生きている。私も、彼も、玲奈くんも。

 

 

 ただ一人、この奇跡を繋いでくれた彼だけが、目を覚まさない。

 

 

「………」

 

 

 USBメモリをじっと眺める。

 願わくば、ここに……鍵が在らんことを。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。