仮面ライダーフェイル   作:ケサランパサラン

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目覚めの

 

「何してんの」

「……黄昏てる」

「…楽しいの、それ」

「全然。……嫌なことばっかり考えちゃいそうだから、何も考えないようにしてる」

「はぁ……全然分かんないけど」

 

 この研究所は、意外と窓からの見晴らしはいい。街の外れにはあるけど、その分周りに建物は無くて景色はいいし、遠くの方にはちゃんと街が見える。

 

「ロウは?家に帰らなくていいの?」

「さっき電話入れた。あいつらに目をつけられたかもしれないし、もしそうならこっちに居る方が安全そうだなって。巻き込まないためにも」

「…意外としっかりしてる」

 

 何となく星羅さんや三澤さんの方には居づらいのか、私にくっついてくる。まあ……素性知ってるの私くらいだろうし、そりゃそうかも。

 

「……聞きそびれてたけど、なんでトラックであそこに来たの?」

「………窓の外から、あの場所に向かうお前と、明らかに様子の変なもう一人が見えたから……数十分迷った挙句突入した、だけ」

「なにそれ」

 

 絶対に家から出ないとか言ってたくせに。

 話している表情はどこか気まずそうで、私と目を合わせようとはしない。

 

「……そんなに私が心配だった?」

「ハァ……どんな反応を期待してるのか知らないけれど、ボクはいちいち付き合ってやらないからな」

「カワイクないなぁ…」

 

 だからってそんなにふんぞり帰って言われてもね。背丈低いから子供が遊んでるようにしか見えない。

 

「…無理してるなら休んだ方がいいんじゃないの」

「ううん、身体はもう何ともないよ」

「そうじゃなくて」

 

 なんだ、やっぱり私のことが心配なんじゃん。

 表情が顔に出やすいのだろうか、随分可愛らしい表情でこちらを見上げてくる。指摘したら機嫌を悪くするので言わないけど。

 

「……まあ、あんまり実感なくって。色々ありすぎたから」

「………」

「も〜、なんか言ってよ〜」

 

 おどけてそう言っては見たけれど、まあ意味はなくすごく気まずそうな顔をしている。こういう妙に共感してくるところ見てるとミストって感じがしない。まあ髪の毛をもう隠す気もないのか、いつものようにゆらゆらしているんだけれど。

 

「……さて」

 

 あんまりこうしていても仕方ないんだよな〜、現実逃避だし。ずっと星羅さんに気を遣わせてるし……気にしてないって何回も言ってるのにな。

 

「私はそろそろ戻るよ、ちゃんと話聞かないとダメだから。ロウはどうする?」

「……気まずいしここにいる」

「そっか」

 

 窓を閉めて、椅子に座ってこちらを見つめるロウの横を通り過ぎて扉を開く。

 

 ……彼、ずっとこの部屋で生活してたんだなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、いいのかい」

「はい。……そんな申し訳なさそうにしないでくださいって、やりにくいですし」

「そうは、言ってもね…」

「もう…」

 

 星羅さんが色々私に負い目を感じているのは分かる。その中でも1番大きいのは……

 PCの前に座っている星羅さんと向かえ合わせになるように、三澤さんが引っ張ってきてくれた椅子に座らせてもらう。

 

「私が気を失ってた間のこと、もう一度ちゃんと話してもらえますか?」

「……分かった。君が気を失ったあと、私達はロウくんの運転するトラックに乗って障害物と、湧いてくるミストを撥ね飛ばしながら霧に包まれた根振市北部を脱した。そこからはフーガの車両に乗り換えて私の運転でこの研究所までやってきた。……流石に交通ルール知ってそうには見えなかったからね」

 

 それに関しては正解だと思う。

 というかそもそも子供が運転してるの誰かに目撃されたら別の問題起こってただろうし……

 

「そこから奏多くんや君を研究所の中へ運んで、処置を済ませて……三澤くんも私も泥のように眠っていた。霧幻侵攻から一日、君が目を覚ますまでの間、勝手ながら色々検査させてもらった。結果はここにあるが……まあ、これは後でいい」

 

 何枚かの紙の束を机の端でパンパンと当てて、話を続ける星羅さん。

 

「ロウくんには……少し言い方が悪いが、尋問のような形で話を聞かせてもらった。……彼女もあの幽玄やミラと同じ完成体、またはそれに近い存在であることは間違いない、ということも分かったら」

「あー……ごめんなさい。そのうち星羅さんたちに相談しないといけないって思ってたんですけど」

「いや、いいんだ。彼女に敵意はないことは分かったし、話していたその事情の裏付けも取れた」

 

 ……意外と柔軟なんだなフーガって。

 いやでもこの場合って星羅さんが特別なのかな。

 

「まあ、にわかには信じられない話だが……そんなもの、昨日のうちにいくつ見たんだって話だしね」

「……ですね」

 

 そこで少し、沈黙が流れる。

 それが耐えられなくて、気づけばもっと後に聞こうと思っていたことを口走ってしまっていた。

 

「あの、奏多くんは……」

「………こっちに、来てくれるかい」

「……はい」

 

 立ち上がった星羅さんの後ろをついていくようにして、研究所の奥の方へと歩いていく。

 

 

 居住空間からは離れて地下へと進む階段を降りて、薄暗い空間の中、仰向けに寝かされて身体に色んな管がひっついている奏多くんが、そこにいた。

 

 

「フェイル……仮面ライダーは、その変身者の身体をミストの霧に変換して怪人態に相当する肉体を構築する、そういう仕組みで出来ている。戦いで傷ついたり、多く力を使えば使うほどその身体を構成する霧を消耗し、人間に戻った時に影響する。……そういうモノなんだ」

「………」

 

 起きる気配はない。

 身体は綺麗で、傷一つなくて、今すぐにでも目を開きそうなくらいなんてことなさそうに、なんでなんだろう。

 生気を感じないって、こういうことだろうか。

 

「あの戦いで彼は右腕を失い、大量の自己を構成する霧を失った上で再変身し、限界を超えた力を引き出した。……その代償がこれだ」

「……でも、生きている…そうなんですよね?」

 

 星羅さんの顔を見つめる。どんな顔をしてしまっていただろうか、私の表情を見て苦しそうに目を背けて……握っている拳に力が入っているのが分かった。

 

「……死んではいない。そう言った方が、正しい」

「………」

「本当にっ、すまない」

「だから…なんで、謝るんですか」

 

 そんな風にされたら。

 本当に、死んじゃったみたいじゃないですか。

 

「こうならないよう、ずっと彼を見てきたつもりだったのにな。結局私は、彼に命を削る力しか与えられず……罵ってくれて構わない。気が済むまで殴ってくれて構わない。…彼は、私の酷く浅ましいエゴを、それでも背負ってくれていた。ただそれだけなのにっ…」

 

 罵るって、殴るって。

 そんなこと出来るわけないのに。

 

「私の目的のために彼を利用していた……私はっ」

「だからって、私に懺悔しないでくださいよ」

 

 あぁ、微笑めているだろうか、私は。

 だって……自分のすぐ隣でこんなやり取りされてちゃ、きっと彼も嫌だろうし。

 

 話していくうちに崩れ落ちていった星羅さんの、弱々しい手を取る。

 

「私も付き合い長いから分かるんです。奏多が貴方のこと、本気で尊敬してたことくらい。……ホント言えば、ちょっと妬いちゃうくらい」

 

 あの頃は不思議な関係だなあって、そう思ってただけだけど。

 今ならちゃんと、彼の声色の答えも、目つきの理由も分かるはずだから。

 

「それに彼は……ううん、仮面ライダーはたくさんの人達を…私を、守って救ってきたじゃないですか。きっとそれは奏多だって誇りに思ってるはずです」

「玲奈くん…」

 

 それにその力は、彼が望んで手に入れたもののはずだから、

 

「だからどうか謝らないで。……これから出来ることを探しましょう、一緒に。私に出来ることならなんだってやりますから」

「っ……あぁ、そうだな……良い年した大人がこう慰められてちゃ世話ないなっ……」

 

 そのあと、星羅さんが落ち着くまで待って。

 まだ状況が飲み込めていないだけの私も……そんな彼女の姿を見ているうちに、少し泣きそうになって、必死に堪えて。

 

 一緒に、階段を登って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……見苦しいところをお見せしたが、やらなきゃいけないことはいくらでもある。とにかく最優先の目的をはっきりさせよう」

「最優先…ですか?」

「そう。問題は山積みだが……目下我々にとって最も重要で危惧しなければならない問題」

 

 ホワイトボードを三澤さんに持って来させて次々と文字を書いていく星羅さん。箇条書きにされた問題の一覧と、その横に最優先と大きく書かれた文字がある。

 

「我々にとって最も危険なのはこれ、『人喰い』だ」

「幽玄…って言うんでしたっけ」

「そうだ。こいつは独自の目的をもって行動しており、それを達成するための必須事項が君、『紫藤玲奈』の殺害だ」

「おぉ……」

 

 なんか変な声でちゃった。

 だってこう……ねぇ?

 

「本人の口からはミストの進化を促すことだと言っていたが……まあそれを差し置いてもだ。人喰いは危険なミストであることは変わりないし、君を殺そうとしている」

「それが最優先で考えなきゃいけない問題だと」

「そういうことだ」

 

 人喰い、と書かれた文字列から線を引っ張り、最優先の文字と繋ぐ星羅さん。うん、分かりやすい。

 

「じゃあこの人喰いにどう対抗するかという話だが……玲奈くん」

「…あっはい!」

「あの時使っていた純白の霧……あれを行使することはできるかい?」

「あれですか?えーっと……やってみなきゃ分からないけど、あんまり期待しない方がいい、カモ……」

 

 怪人態……でいいのかな。

 あの姿にはなれるかもだけど、あそこまでのめちゃくちゃを同じようにできるかと言われると……自信はない。というかできる気はしない。

 

「……そうか。あれは明らかに異常だったし、能力の覚醒によって生じた一時的な高揚状態とでも考えた方が道理だろうね」

「面目ないです…」

「いや、それでもあれは間違いなく君の力なんだ。君が特別であることには変わりないよ」

「実感湧かないなぁ…」

 

 ただただずっと必死で、何をどうしてああなったのかは今思い返しても全くわからない。体が勝手に動いていた…とでも言うような感じかな。

 

「まああれでもPOCであそこまで削れはしたんだ。やりようは……まあ、なくはないと思う。別に本部に丸投げしたっていいわけだが、狙いは君なわけだしね。最低限の自衛手段くらいは考えておかなきゃいけないわけだが……」

「自衛手段……あの姿になって戦う、とか」

「まあ最悪そうなるが……」

 

 戦えるのか。

 多分星羅さんと同じことを考えていて、目が合って数秒経った後お互いに首を傾げた。

 

「……それにしてもあの人喰い、ですか?今すぐに襲って来ないんですか?」

「…まあ恐らく、あの霧幻界との入り口が大きく開いたあの状況。あれこそが彼らにとって最も都合のいい状況だったんだろうね」

 

 あのっていうのは、星羅さんたちが霧幻侵攻って呼んでた、私たちの町が再現されていたあの状況のこと。

 私を殺して、私の情報を霧幻界に還元するのなら、この世界との繋がりが最も強いタイミングが望ましい……ってことだろうか。

 

「でもあれって、私が閉じたんですよね」

「まあそうだが……あの町を構成していた霧は霧幻界との繋がりが絶たれたために霧散したが、依然として上空には残っている。それに…」

「それに……?」

「第二次霧幻侵攻、その発生の予兆が既に観測されている」

「えっ」

 

 第二次って……ま、また?私が閉じたはずなのに……いやどうやって閉じたかは自分でもよくわかってないけど!

 

「無理やり閉じたその入り口がまた開こうとしている。霧幻界にも何かが起こっているのは確実なんだが……とにかくだ。それまでに奴らが何も仕掛けて来ないという確証があるわけじゃないが、リミットは確実にそのタイミングだろう」

「……また霧幻界との入り口が開いた時」

「確実に、奴らは君を殺しにくる」

 

 今度はきゅっと、胸が締め付けられるような感覚がやってくる。

 

「……そうならないための対抗策だが、済まない。まだ色々と考えている途中なんだ、もう少し待って欲しい」

「あぁそれはもう全然。……ひとつ質問なんですけど」

「なんだい?」

 

 質問する、と言った手前聞かなきゃいけないが、これって聞いていいのかなと少しだけ不安になる。……まあ聞くんだけど。

 

「その……私だけどこか遠くの場所に避難するとか……はダメなんですかね。逃げたいってわけじゃないんですけど……」

「……まあ、確かにその手段もなくはないよ」

 

 なくはないんだ、てっきりダメな理由があるのかと。

 

「最悪の場合、開いた霧幻界との繋がりを閉じられずに霧が際限なく流入して、ここら一体がミストで溢れかえる可能性すらあるからね」

「……ダメじゃないですか!」

「そう、ダメなんだ。可能性だけどね」

 

 まあ、私だけ逃げても向こうは地の果てまで追いかけてきそうだけど。どちらにせよ対抗策は考えないといけないって話か……

 

「情けない話だが、君を守らなきゃいけないのに、私たちは君に頼らざるを得ない状況に陥ってしまっている」

「ぷ、プレッシャー…」

 

 みんな私のことを買い被りすぎな気がするんだけど……今まで20年間、私は普通の女の子として生きてきたわけで……

 私に何が出来るんだろう。

 ずっと、彼に守ってもらうことしか出来なかった私に、何が。

 

「なんとかして見せるさ、具体的な方策はこれからだが……霧のことも、彼のことも。考えるのが私の役目だからね」

 

 不安に感じているのが表情に出てしまっていたのか、落ち着かせるように優しい声色でそう行ってくれる星羅さん。

 

「…ありがとうございます」

「うん。……私から話すことはとりあえずは以上。今からデータの解析に移る、というか専念するが…何かあったら三澤くんに言ってくれ、こき使ってくれて構わないよ」

「こき使っ……星羅さんも、無理しないでくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、と」

 

 彼女は自室…じゃないが、奏多くんの使っていた部屋に戻ったか。本当を言えばあのロウと名乗るミストにも話を聞きたいところだが、生憎時間がない。

 

 三澤くんは今は研究所についていてくれているが……

 フーガについてもやらなければならないことがあるが、それもまあ、今は考えなくていいだろう。

 

 

 父の残したデータの暗号化は、意外とすんなり解除できた。言っちゃなんだが10年以上前のセキュリティになる、今の技術水準でやればそう難しいことではなかった。

 だが問題なのは……データそのものが、不可解な配置で置かれていることだ。これはフェイルシステムでも同じだったのだが…

 

 

 まるで気でも狂ったかのように書き殴っているところがいくつもある。正常な判断を下せていたとは思えないが……どちらにせよ解読しないことには話は始まらない。

 やることは山積みなんだ、あまり時間は取らせないで欲しいものだ。

 

「さあ、久々にゆっくり話し合おうじゃないか、お父さん」

 

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