仮面ライダーフェイル   作:ケサランパサラン

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ソピアに触れる

 

 

 死者を甦らせる、その行為は意味することは一体何だろうか。

 死、生あるもの全てに平等に訪れる事象であり、全ての終着点、人の意識の行き着く場所。全ての生き物は死ぬために生まれてくる、なんていう考え方すらある。

 

 であれば、万物に課せられた摂理、それに反する死者蘇生とはどれだけの罪だろうか。これから私が成そうとしている愚行は、神に逆らうに等しい罪なのだろうか。

 もしそうなのだとしたら、全く問題はない。

 

 何故ならば、神は存在しないから。

 存在しないものに叛逆しようというのはただただ滑稽な行為である。例え滑稽であろうとも、もう一度彼女に会えるのなら、私はどんな罪だって背負おう。

 

 死は平等であるが、死は公平ではない。

 

 もし公平であるならば、誰よりも美しい心を持っていた彼女が、あんなにあっけなく死ぬはずなどないのだから。

 こんなにも酷い世界を作ったのが神だというのなら、私は決して、それを神だと認めることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 最初の記録だろうか。

 日付の最も古い文書から読んでみてこれだ、家族を失って辛いのは十二分に理解するが、こうやってなりふり構わず死者の蘇生なんてものに心血を注ごうとする自分の父親を見るのはなかなかくるものがある。

 

「……彼はまだ死んじゃいない」

 

 もし貴方が罪を重ねたというのなら、せめてそれに見合う功を見つけ出していてくれ。もう戻らない命よりも、今消え掛かっている命を救う手立てを、考えついていてくれ。

 

 

 

 何かあるごとに日誌のように成果や現状を書き連ねている文書は後回しにする。今必要なのはあの男がフェイルシステムなんていうものを考えつく過程で一体何があったのか、何を発見したのか、だ。

 奏多くんに撮ってもらったあの観測装置だが、やはり使用用途が不明であり父が何かを観測するために自ら建造したものなのだろうが……実物がなければそれを知ることもできない。

 

 それに関するデータも欲しいところだが……

 

 

「……これか?」

 

【霧幻界観測結果】

 そう書かれたファイルを開いてゾッとする。

 とても読めたものじゃない、なんと表現したものか……父はあの観測装置を通して霧幻界を()()、それを不可解な文字列として表現した……のだろうか。

 

 

 ログからして、全ての研究は霧幻界を観測した結果を端緒として始まっているように読み取れる。つまり、あの観測装置で見たものがある種全ての始まりだと言える、ということになる。

 

「一体何を視たんだ、貴方は」

 

 どうやら研究所に置いてあった霧は、紫藤瑛二から提供されたもののようだ。紫藤玲奈のことを調べる代わりに、自己から切り離した真っ新な……霧幻界に存在する霧と全く同じものを提供したということらしい。それをあの観測装置にセットして、その霧を介することで霧幻界の観測を可能としていたようだが……

 

 肝心の観測結果がこれでは……

 

「……後回し」

 

 書いてある文字列に全く意味がないとは思えない。何か法則があれば解読し、書いてあることを読み取ることも可能かもしれない。……あまり期待はしないようにするが。

 他のデータは崩れているとは言え言語の体を成しているあたり、この観測行為によって頭がどうにかなっているとしか思えない。

 

 

 

 ただ。

 霧幻界、もしくはその霧を使って母を甦らせようとしていたのは間違いないのだろう。甦らせる、という行為がどういうものなのかは全く分からんが、とにかく死者蘇生の手がかりが観測することで得られたということなのだろう。

 

 ロウくんの話を聞く限りでは彼女は死んだ直後の少女の肉体を取り込んで擬態した、ということらしい。一般的にはミストは擬態したその時の状態をそのままコピーするため、本来なら死んでいるところとも思うが……擬態は成功した。

 しかし彼女と他のミストで違う点は、どうやら彼女は怪人態になれないこと。代わりに擬態をしている状態で姿が少し変化すること、そしてあらゆる物を自らの霧を媒体に自由に複製できること。

 そして、おそらくその少女本人とは違う人格が目覚めていること。まあこれに関してはあのミラや幽玄と名乗る完成体とされるミストも同じ特徴を持っているが……

 

 完成体は霧に関してある程度自由に干渉する能力を得るのか?……これは今は一旦置いておこう。今考えなければならないのは……

 

「死亡直後であれば擬態は成立する…?」

 

 少し考えにくい。

 ロウくんが擬態をすることができたのは死亡直後というより彼女自身の霧が特異な物だったら。そう考えた方が納得はいく。

 

 

 

 結論として、ミストを使った死者の蘇生というのは……本来であれば不可能なはずだ。例外が実際にこの研究所に今いる以上断言はしにくいが……

 そもそもの問題としてミストは自らがミストだという自覚は必ず持っている。生き返ったとしてそれは自己同一性の欠如だろうし。

 

 第一、母の遺体はとっくに残っていない。

 焼いて、骨になって、供養されている。それとも骨から情報を復元してミストとして生まれ変わらせようとでもしていたのか?

 

「………」

 

 いずれにせよ、あまり腑に落ちない。

 具体的な方法がどこかに書かれているのかもしれないが……もし観測結果のように支離滅裂な文章が書かれているところに該当するのであれば、少々絶望的かもしれない。

 

 

「……次」

 

 

 ……フェイルの武装案?

 閲覧してみれば私が以前復元したデータには含まれていなかったよく分からない武装が出てくるわ出てくるわ……

 

「こんなもの考えて……武器商人にでもなるつもりだったのか。……人のこと言えたもんじゃないな」

 

 フェイルの目的は進化するミストへの対抗手段として考えた物、そうフェイルシステムのデータには記されていたが……ここに載っている物は少々過剰に思える。とはいえ、あの幽玄というミストのことを思えば私の設計した物では不十分だった、ということになるが。

 

フェイル(失敗作)、ね……」

 

 単純に変身者への負担が大きすぎることから、プロトタイプとしての暫定的な名称……まあ結局、私には再現することが精一杯で何も発展させてやれなかったが。

 

「………」

 

 今更後悔したところで遅いが、それでも考えずにはいられない。彼に命まで賭けさせてしまったのは私の落ち度だ、彼女に刺されても仕方ないとすら思っている。

 彼の危うさに気づいていたはずなのに、彼の自己犠牲に甘んじて最善を尽くそうとしなかった。くだらない理想とエゴを押し付けて、自分も何かを成し得た気になっていた。

 

「フーッ……」

 

 肺に溜まった空気を勢いよく吐き出したところで、この意識から逃れることはできない。

 

「…やってる場合じゃないな」

 

 フェイルについての項目が他にもあるのなら、そこに変身の代償に関するものもあるかもしれない。もしかするとそこから……彼を救い出す方法が見つかるかも。

 時間がない。少なくとも、後悔をしている時間は全く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……根を詰めすぎちゃ先にあんたがぶっ倒れますよ」

「分かるだろ、私にできる償いはこれしかないんだ」

「だったら尚更だ。……子供みたいな意地は張らんでくださいよ」

「…分かったよ」

 

 三澤くんにそう言われ、ようやく視線を画面から外した。随分多くの文字列を読み解いていたせいかとんでもなく目が痛い、あと頭も。

 

「…あんたがそんなことをして、奏多が——」

「ただの自罰精神でやってるんじゃない。……これしかないんだ、私には」

 

 私の戦いはこれだ。

 銃の引き金すらまともに引いたことのない私に出来ることはこれくらいしかない。後ろで引きこもって、兵器を開発して、若者を戦場に送り出して……こんなことしか、私にはできない。

 

「………あいつのことで責任を感じてるのなら、それは俺たち二人の責任だ。あんただけに背負わせやしない」

 

 違う、私が背負うべきものなんだ、君の分まで。

 

「元々フェイルシステムは俺が使うはずのものだった。それをただ、適性があるってだけであんな子供に押し付けて、自分はのうのうと……俺は、誰よりも何も背負えていないのに」

「最終的な判断を下したのは私だ。君より彼の方がその資質を有していた。……そして目的も。自分の都合で君たちを利用したに過ぎない」

「だからこそだ」

 

 彼が机の上に勢いよく手をつき、こちらに向かって顔を近づける。

 

「俺が、フェイルになる」

「……無理だ、君の適合調整はもう何年も前に」

「だからそれと、ドライバーの調整も合わせてやってくれって言ってんだ。……それとも、今から彼女に適した変身機構でも作るつもりですか」

「……」

 

 彼のいうことは最もだ、現状こちらの戦略は極めて少なく、急務は幽玄たちに対抗できる力をつけること。そのために必要なのはフェイルシステム……これは事実。

 玲奈くんであれば変身時の代償を踏み倒せる可能性もあるが……身体構造がそもそも違うのだから変身できない可能性の方が高い。そうなれば彼女のために新たなドライバーを作る必要があり……もちろん、そんな時間はない。

 

「……君まで失えない」

「まだそんなことを……」

「違う、違うんだ」

 

 父の研究資料を読み込んでいるうちに、一つの疑念が思い浮かんできた。

 これまで発生原因が不明だと思われていたミストラクション、もしそれが、人為的に発生させられたものだとしたら。

 

 もし……私の父が、ミストラクションを起こした張本人だとしたら。

 

「父の代わりに、私が贖罪をしなければならないんだ。もしかすれば私にも原因の一端があるのかもしれない。その業まで、君たちに背負わせるわけにはいかないんだ」

「……だったら?あんたが仮面ライダーにでもなりますか?」

「……」

 

 分かりきった質問をする。

 不可能だ、それが出来るなら最初からやっている。

 

「……昔から、ヒーローになるのが夢だった。実現できない夢だって知りながらもぼんやりと、頭の中にそんな考えがあって。だから貴方の計画に志願した」

「………覚えてるよ。しっかりとモルモットになって、色んな投薬を受ける被験体になることも命の保証もないことも伝えたのに、真っ直ぐな目でイエスしか言わなかったイカれたやつは君だけだったからね」

 

 フェイルシステムに耐えるには、ミストの霧に対するある程度の適合反応、もしくは投薬や実験による身体強度の底上げが必要だった。……三澤くんの数値は規定値とは程遠かったから、何度も人体実験のような真似をしたことを覚えている。というか、そう簡単に忘れられる内容ではない。

 

「腹が立っていたから。悲劇を産み続けるミストにも、そんなミストをなんとかしてくれるヒーローがどこからも現れてくれないことにも。……貴方の研究は、仮面ライダーは、きっと世界を変えてくれると思ったから」

 

 三澤くんより遥かに適性のあった奏多くんが志願して、彼がフェイルの候補から外れても、それでも私の計画に協力してくれた。奏多くんを弟のように可愛がって……

 

「俺は、礎になる覚悟はとっくの昔に出来ている。…‥本当ならあの時、人喰い相手に時間を稼いで終わっていたはずの命だ、躊躇いなんかない。貴方は世界を変えてくれる、それなら俺は貴方を守る、命をかけて。……それだけの話です」

「………」

 

 買い被りすぎだ。

 私の父の遺したものを啜っているだけに過ぎない。あの日突き放しておいて、今更知りたくなって、手遅れだと知りながら必死にその背中を追っているだけに過ぎない。

 それでもまだ、その目を私に向けてくれるというのなら。

 

「……分かった、フェイルシステムを再調整しよう。君の身体も、あの時の実験を再開する」

「…ありがとうございます」

 

 

 私にその資格が、その覚悟がないから、無責任にも力を他者に与え続けている。自らの身を削る力を、戦うための力を。

 

 それを彼らは喜んで振るう、自分の意思で。

 人の身には余る力を、羽ばたくための翼を私に押し付けられた彼も同じように、決意を固めたような表情を浮かべていた。私が言うまでもなく、その重みを彼らは理解している。

 

 

 私だけが、覚悟できないでいる。

 

 

 

 

 

 

 

「力は所詮力、それを扱う者の心次第で如何様にでも変化する」

「なんです急に」

「心構えみたいなもんだよ」

 

 これを得意げに説けるほど自分は立派な人間じゃないという自覚はあるが……それでも、その気になればいくらでも人を殺せる道具を一個人に託すというのだ、相応に責任はある。

 呆けた顔で私を見ている彼は、いつになく真面目な表情をしている私が不思議なのだろう。

 

「奏多くん、私はこの力を世のため人のために使え、なんて言うつもりはない。……そんなお優しい力じゃないことは、君も承知のことだろうが」

「………」

「この力は君が、君の守りたいもののために使え。そのための力だ」

 

 言い訳ならいくらでも思いつく。そのどれを並べても自分以外の他者に、私のエゴを背負わせていることには変わりない。

 

「これからよろしく頼む、仮面ライダー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんで急に思い出すかなぁ」

 

 誰もいなくなった暗い部屋、父の研究が映し出された画面の前で追憶する。

 一人の少年に、力を託してしまったあの時の記憶を。

 

 

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