仮面ライダーフェイル   作:ケサランパサラン

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アイギス

 

「白い、フェイル……?」

 

 彼女が変身したその姿を見て思わずそう呟いてしまう。恐らくあの姿も紫藤玲奈、彼女が見たフェイルの姿を基にして再現しているのだろう。プラズマコアこそないように映るが、シルエットはかなり似ている。

 決定的なのは色の違いだが……

 

「ほっ」

 

 そんな掛け声と共に彼女は跳び上がる。

 尋常じゃない脚力で地を蹴ったわけでもないのに、軽々と空へと飛び立つ。

 三体のミストがそれぞれ攻撃を空に向け撃ち落とそうとするが、自由に空を駆け回る白い仮面ライダーを捉えることはできず接近を許してしまう。

 

 彼女がまず狙いをつけたのは蜘蛛糸を飛ばしてくる変異体、凄まじい勢いで空から後ろに回り込み、拳を一発背後から捩じ込む。

 ミストが大きく吹き飛ばされると同時に周囲を突風が駆け巡る。プラズマコアによって強化したそれとは全く異なる別の力があの攻撃には込められている。

 

 接近を振り払おうと全ての腕をむちゃくちゃに振るうミスト、それを急制動と急加速を繰り返すめちゃくちゃな動きで掻い潜り、拳をミストの胴体に捩じ込んでさっきと同じように吹き飛ばしている。

 フェイルが稲妻のような速さと動きだとすれば、あれは風とでも言えばいいだろうか。そこまでの瞬発力はないが、滑らかな動きと動作で滑るように敵の懐に入り込み衝撃を与える。

 

「……だが」

 

 確かに動きでは圧倒している、しかし敵を吹き飛ばしているだけだ。衝撃こそあれど致命打になるような攻撃はなく、拳と足で攻撃しているだけだ。

 プラズマコアのエネルギーを直接身体でぶつける行動は衝撃の反動が大きく、かといって反動を恐れて攻撃をしていても有効打にはならない。だからフェイルの基本武装には近接戦闘用の剣や遠距離に対応するための銃が入っている。

 プラズマコアがない分、素の身体能力とあの突風のような力で底上げはしているのだろうが……

 

「くそっ」

 

 何か出来ることはないか。再変身すればあいつの二の舞だろうし、かと言って通常兵器を生身で使ってなんとかなる相手でもない。

 何か…何か……

 

 縋る思いで周囲を見渡す。まず目に入ったのは彼女が俺から奪い取り、用済みだとして適当に放り投げられ、地面に転がっているフェイルドライバー。内蔵されている装備のほぼ全てを俺が使い切ってしまったため出来ることは何も……

 

「……どっか。どっかに残ってんだろ一個くらいっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ!」

 

 何かを殴りつけるっていうのは、傷つけるっていうのは、必要なことだと分かっていてもあまり良い気はしない。本当に、そういうのと縁のない人生を今まで送ってきたから。

 普通の人生を送ってきたのが、なんでこんなことになってるんだろうね。

 

 

 腕に風を纏って、こっちに向かって飛んでくる火の玉を正面から受けて立って、思いっきり殴りつける。物凄い風が吹いて、火の玉は爆発する前に霧散する。

 

「ああっもう邪魔だなあっ!」

 

 こっちは波瑠と話をしに来てるっていうのに、なんでそんなに邪魔ばっかり……吹っ飛ばしても吹っ飛ばしても、何度でも私の方に向かってくる。波瑠はずっと、興味深そうにこちらを見るだけ。

 

 

 奏多ならもっと上手くやれてたんだろうな。

 私が真似出来るのは結局上っ面までで、彼みたいに上手く出来るわけじゃない。そこから先は全部私次第。

 

 こっちに向かって飛ばしてくる蜘蛛糸を腕を振るって風で逸らす。右腕を絡め取ってきたうねうねのミストを、そいつごとめちゃくちゃに移動して振り回して、思いっきり身体を捻って引きちぎってやる。そのまま遠くまで飛んでいって建物に衝突した。 

 

 このまま長引かせても不利になるだけ、もっと別の何かをしなくっちゃ。奏多と同じ場所に立てるくらい、追いつけるくらいのことを。

 

「もっと……もっと力を———」

「受け取れぇええっ!!」

「——へっ!?」

 

 何かが飛んできて私のすぐ近くに突き刺さった、もう少しであたるところだった、すっごい危なかった。

 

「これって…」

 

 三澤さんが大声と共に投げてきたそれを見てハッとする。

 奏多が、仮面ライダーが使っていたあの剣。 

 

「…よし」

 

 その剣を抜き取って、自分の霧を纏わせる。

 私の霧に変換しやすいように読み取って、複製する。あのドライバーを新しく作った時みたいに新しい剣を……私の身体と同じ、白色の剣を。

 

「そうだよね、違うんだもんね」

 

 私と奏多は違う。なんでも全く同じに出来るわけじゃないし、する必要もない。彼には彼の得意があって、私には私の得意があって。

 

 

 だから!

 

 

「私は!私の!!やり方でぇぇっ!!」

 

 

 白い剣を何本も、何本も何本も、数え切れないくらいのたくさんの剣を作り出す。宙に浮いているそれはゆっくりミストたちの方を向いて静止する。必要なのはただ一つ。

 

「いっけぇぇーっ!!」

 

 それらを押し出す()

 私の力で生み出された剣が、私の力で飛んでいく。風によって飛ばされて、風を切って、風よりも早く飛んでいく。

 我ながらあまりにも殺意の塊の剣の雨がミストたちに降り注ぐ。撃ち落とそうとしていたり、弾き落としたり絡め取ろうとしていたりしていたけど数と速さが違いすぎて貫かれていく。

 

「っ……ふうぅぅぅぅっ……」

 

 全部の剣が突き刺さって、霧散していくのを見てようやく身体の力を抜ける。すぐにでもこの変身を解いて……どう解くのか分からないんだけども、とにかく横になりたい気分なんだけど。

 

「これで……よーやく、落ち着いて話せるね?波瑠」

「………」

 

 今は目の前のばかやろーのことだ。

 形を保てなくなったミストと私の作り出した剣が霧散していくその霧の中から、彼女はこちらをまっすぐ見据えて現れた。

 

「どれだけ抗おうとも、霧幻界とこちら側の世界が繋がり、重なり合う日はくる。今の君にならそれがなんとなく理解できているはず」

「なんのことだか……」

「どうしてそこまでする?平穏に暮らしていた君が、そこまでの力を手にしてまで抗う?」

「はぁ〜〜っっ……ほんっとにいっつも質問ばっか…」

 

 少しは自分の頭で考えてみてほしい、ほんとに。

 

「私はただ守りたいだけ。自分も、大切な人も、好きな人も、みんな」

 

 失いたくないんだ、もう。

 何も知らないままなのは、ごめんなんだ。

 

「いつか全部、全てが幻に終わるとしても?」

「知ろうとすることを、私は諦めたくない。……波瑠が言ったんだよ、知らないことを知らないままにはしておけないって」

「………」

 

 踵を返して、霧の中に消えていく波瑠。

 

「…次会う時は、もう加減はできない」

「……どうしても、やらなくちゃいけないの?」

「それが役目だから」

「………そっか」

 

 姿の消えていく彼女をじーっと見つめ続けて。

 完全にいなくなった途端に、全身の力が抜けて地面に仰向けに倒れ込んだ。その拍子に変身も解除されて、馴染みある私の身体に戻る。

 

「……お疲れ」

「…三澤さんも」

 

 まだ何も成し遂げてないけど、それでも。

 やりきったって、そんな感じがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんというかこう……理屈は分からないんだけど、とにかく出来て……全能感と言いますか。望んだことが望んだままに出来る感覚といいますか……」

「ふゥン……まあ君の霧が媒介になっているのは間違いないんだろうけれど……つくづく規格外だね、君は」

「いやぁはは、それほどでも」

 

 帰ったら労いと感謝もほどほどに、星羅さんに凄まじい量の質問責めにあった。どうやって変身したのかとか、そのドライバーの成分を調査していいのかとか、あの風はどういう原理なのか……とか。

 自分でもこの感覚にちゃんと説明をつけることは難しいんだけど……とにかく出来たからやった、以外のことは答えづらい。

 

「幽玄が棘と感知能力なのだとしたら、君の力は複製と風……ということになるのかな、今のところ。ロウくんのそれともまた違うもののように思えるが」

「どうなんですかね」

 

 そんな会話をしながらささっと採血されて検査機にかけられる。星羅さん明らかにテンション上がってるというか、ハイになってる?

 

「……やはり。前回の覚醒と今回の仮面ライダーへの変身、短期間の二度の大規模な変化によって、君の遺伝子の中にあった特別な因子が完全に活性化している」

「…えーと、つまり?」

「完全に力に目覚めた……というところかな。君がどこまで力を行使するかによるけれど」

 

 力……

 なんとなく自分の手のひらを見つめて閉じたり開いたりしてみる。……確かに自分の中の何かが変わったのは分かるし……世界の見え方も、ほんのちょっと変わった気がする。

 

「しかしフェイルシステムを自身の身体に適した機構に組み替えて複製するとは……いや、どちらかといえば変身という事象の再現に近いのかな。データを見る限りこのドライバーは君があの姿になるための、謂わば()のようなものだと感じているが」

「えーっと、その……」

「……あいや、すまない」

 

 絶対テンション上がってるな、もっと元気なかったもん。

 

「その……あの時自分がそこまで考えついてたかは分からないんですけど、とにかく必死だったから。ただ力が必要で……でも、ちょっと前まで普通の大学生やってた私に力がポンって出てきても、色々大変だろうなあって」

 

 人の身に負えない力の怖さは……ちょっと分かってたから。

 

「だから……守る力があればいいなって。彼がずっと私のこと守ってくれたみたいに、そんな力だったら私にも扱えるかなって」

「……なるほど」

 

 うまく説明できてるか分かんなかったけど、なんか納得してもらえたみたい。

 

「だからAIGIS(アイギス)か……いいと思う。少なくともフェイルなんてのよりは健全な名前だ」

「は、はあ……ありがとうございます…?」

「とにかく二人とも、無事に帰ってきてくれて何よりだ」

 

 無事……

 三澤さんは別に傷とかはないんだけど、凄く調子が悪そうに寝込んでしまった。星羅さんは問題ないって言っていたけれど……

 

「君の方は本当に何も異常はないのかい?」

「あっはい、私はなんとも。疲労感がまあまあありますけど……」

「そうか……」

 

 何か攻撃とか喰らっても、結局元の身体に戻ってしまえば傷とかは何もなくなる。ただ身体を構成している霧がなくなると、自分の中の大事な何かが欠けたような感覚が残る。

 

「奏多くんのあの状態は、身体を構成するのに足りなくなった部分を霧で取り繕って補っている状態なんだ。だから彼の今の身体は恐ろしく軽く、霧に置換された部分は機能を失っている」

「……それって、戻るんですか?すぐじゃなくても、いつかは……」

 

 星羅さんは私から目を逸らして、残念そうに首を振った。その様子を見て胸が締め付けられるような思いになる。

 結局研究成果の中には、ああなった彼の身体を元に戻す方法はなかったらしい。

 

「身体の細胞を培養して補っていけば、いつかは目覚めるかもしれないが……どれだけの時間がかかることになるか」

「…そう、ですか」

 

 彼のいない生活には、大学に入ってからの時間で慣らされてしまった。だからなんとなく、彼の目覚めない時間も受け入れてしまっている自分がいる。

 

「……一つだけ、考えがある。出来ればこれだけはやりたくなかったし、賭けになるが…最終的な判断は、君に委ねる」

「……考えって?」

「それは———」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 白色のフェイルドライバー……まあ名前をつけるならアイギスドライバーになるのかなぁ。ロウの正確な複製とはまた違った複製、私が仮面ライダーになるための鍵のようなもの。

 実際自分の身体から生み出したもので自分の身体を変化させてるわけだから、やってること自体は怪人態のそれとあんまり変わらないんだろうけど……

 

「……私ってなんなんだろ」

 

 窓から見える月は遠く、小さくて、簡単に指でつまめそうな気すらする。なんでも出来る、そんな感覚がある今は本当にそうとすら思える。

 

「霧って、なんなのかな」

「……何を今更、急に」

「だって、変じゃない?怪物になったりすると思ったら、こんなものまで作れたり……そもそも何にでも変質するって言う時点で随分変なものだよ」

 

 眠たそうにしているロウに話しかける。

 ミストも眠たくなるんだ、やっぱり。目を擦りながらも彼女は私の質問にはちゃんと考えて答えてくれる。

 

「その答えが、あの研究データにあるんじゃないの」

「変な言語?で書かれてて肝心な部分はなーんにも読み取れないんだってさ。霧が本質的に何かっていうのは沢山の人がずっと考えてきたことだけど……未だに答えは出ない」

 

 霧は意思を持っている。意思を持った霧が、人間を取り込んで、人格を真似てミストとなる。

 どういう生態なんだろうか、それって。生き物というよりは妖怪だとか怪異だとか、そういう風なものって言われた方が納得はできる。

 でも彼らは生きている。

 

「ロウはどう思ってる?」

「………早く寝なよ」

「夜も眠れないよぅ」

「……」

 

 すっごい嫌そうな顔。

 

「既存の学説に当てはまるなら、霧幻界とは虚数領域であり、霧、ミストというのは虚数的なものということになるんだと思う」

「虚数領域…って?」

「考え方によるけど……集合的無意識だとか、観測できない世界、正に対応する負の世界……そういうものって考えるのが自然なんだと思う。なんとなく分かるんじゃない?霧幻界とこの世界は引き合ってるって」

「……うーん」

 

 分かるかと言われれば、分かってしまうような気がしてしまう。

 霧幻界……こちら側は認識することができず、ただあの霧が沢山あることしか分からないあの世界との入り口は、今も開こうとしている。

 

 空気の詰まった風船みたいに、中に詰まった霧が漏れ出してくるような感覚と、それとは別に霧自体がこの世界に向けてやってきているような、そんな感覚。

 

「…ミストって、犬とか猫とか、鳥とか虫とか、あと植物とか。そういうのには擬態しようとしないじゃん?ずっと人ばっかに擬態してるし、人になりたいって思ってる気がする」

 

 そう、ミストは人になりたがってる。成り変わることしかできないからそうしているだけで。

 

「あの霧が何なのかはまだよく分からないけど……ミストがどういうものなのかは、なんとなく分かる気がするんだ」

 

 

 

 けれど、霧幻界をそのままにはしておけない。

 研究データを見た星羅さんの考えと、今の私のこの感覚で分かること。

 

 次の霧幻侵攻……また霧幻界との境界が開けば、今度はもう閉じることはできない。

 

 霧幻界とこの世界の融合が始まってしまうと。

 それは、阻止しなくちゃならない。

 

 今の自分に出来ること、それを見つけなきゃ。この力でちゃんと、守り通さなきゃ。

 

「私が守るよ、ちゃんと」

 

 君の分まで。

 

 

 ほんとは、私は。

 君さえいれば、それでも———

 

 

「……もう寝ていい?」

「あっごめんね?おやすみ」

「おやすみ」

 

 君の心が、この世界にいない。

 そんな夜が、なんだかいつもより寂しく感じた。

 

 

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