仮面ライダーフェイル   作:ケサランパサラン

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F:AI:L

 

「お疲れ、何ともないかい?」

「はい。あと何回かはこのままやれそうな感じです」

「無理はしなくていいが……アイギスの力に特に反動はなさそうでよかった」

 

 あれから数日の間、出現したミストの対応に私が当てられた。特に苦戦することもなく仮面ライダーの……アイギスの力を使って、倒して、回収して、帰ってくる。

 多ければ1日に3回くらい出動することもあって、流石にネットやニュースでもおかしいって言われ始めてる。

 

 星羅さんは以前の霧幻侵攻の影響かもしれないって。霧の量が増えた結果か、波瑠や幽玄……あの人喰いがけしかけてるのかもしれないけど……

 

「例の装備の開発は済んだ、また後で試してみてくれ」

「えっ早っ……めちゃくちゃ早くないですか?」

「ロウくんの協力のおかげだよ。彼女の力は役に立つ」

「あぁ……」

 

 ロウは私より正確に、安定した状態で負荷も少なく霧で物質を再現することができる。本人曰く私の再現能力はロウのより自由にできるらしいけどその分負荷も大きいらしい。

 心なしか誇らしげにしてたけど。

 

 星羅さんのお父さんの研究データに残ってた装備や、私用の新しいものもロウのおかげで随分開発がやりやすくなったって聞く。私も手伝ってみたけど、想像できないものを作り出すのは私にはちょっと難しかった。

 

「……三澤さんはもう動いて平気なんですか?今日も私のことを迎えにきてくれたけど」

「あれはあれで落ち込んでるんだ。結局自分が背負えなかったとか何とか言って。……やらせてやってくれ、その方が彼の為にもいい」

「はぁ……」

 

 つまり本当はまだ身体は良くないと……

 そりゃそうか、私が到着するまでだいぶ奮闘してたみたいだし……変身が出来なくたって、やれることはやっておきたいものか。

 

「まあ頑丈な奴だからな、いざという時は盾にしてやってくれ」

「そんな非道い事…」

「ははっ、冗談冗談」

「それに私の方が頑丈ですよ」

「そういう問題?」

 

 盾になるなら私の方が適任だし、うん。

 なんというか、みんな心に余裕が生まれたのを感じる。ついこの前までは奏多くんがいなくて、仮面ライダーがいなくて、不安ばっかりだったけど。

 私がいるから、なんだよね、多分。

 

「……んぎぎ、慣れない…」

「ん?」

「あいや、なんでもないです」

 

 実感が、いつまでもやってこない。

 彼がいない世界はやっぱり、どこか夢みたいにふわふわとしていて。

 

 危機感がないのは不味いよなぁ〜〜……

 

「……いつ行動を起こすと思います?波瑠たち」

「…さあ。霧幻侵攻まで潜んでいるかもしれないし、今この瞬間にでも奇襲をしかけてくるかもしれない。どちらにせよ、何か行動を起こさなければ際限なく流れ込んでくる霧幻界の霧に飲まれて、私たちの世界はそれはもう大変なことになるだろうね」

 

 星羅さんはずっと研究データと睨めっこをしている。やっぱりどうしても解読不可能な部分があるらしく、そこに何かがあるに違いないと睨んでいるけれど……結局何も分からないままらしい。

 せめて出来ることをと、データの中から使えそうな装備をロウと一緒に開発していたりするけど……

 

「あの件は……結論は出たかい?」

「すみません、それはまだ………やっぱり私の一存で決めていいことじゃない気がして」

「…そうか」

 

 星羅さんに判断を委ねられたあの件。

 可能性があるなら、それに賭けるべきなのかもしれない。彼ならそうするべきだって言うのかもしれない。

 

 だけど……

 

 彼が私に普通の人として生きて欲しいって、そう思っていたのと同じくらい、私も彼に普通の人として生きて欲しいって思ってる。だから……でも……

 

「……焦らすわけじゃないが、いつかは決断しなきゃいけない時が来る。そしてそれを下せるのはこの世で君しかいない。やるにしろやらないにしろ、それを決めるのは君だ。…私はそれを尊重するよ」

「…はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……休講」

 

 スマホに表示された大学の時間割を眺めてそう呟く。

 

 この数日で街の様子は随分変わってしまった。外を出歩く人は少なくなったし、大学は休みの授業が増えた。元から行けてなかったけど。

 町のとこを見てもフーガの人を見かけるし、北部には誰も近づかないように厳重に警備の人が立っている。

 

「づがれだ」

「あ、おかえり。どうだった?」

「づがれだ」

「あ、うん」

 

 ロウは相当星羅さんにこき使われているみたいで、こうやってへとへとになって部屋に戻ってくる。

 

「こんなに疲れるんならさっさと世界滅べばいいと思う」

「洒落になんないよ…」

 

 過激な発言に苦笑しながら、今日もまた1日が終わろうとする。

 明日が怖いのはいつぶりだろうか、ずっと静かな日々を過ごしてきたから。時々押しつぶされそうになる。

 いつまで続くだろうか。

 

 いつまでも続いた方がいいのだろうか。

 

「……ねえ」

「ん?」

 

 ロウに声をかけられて顔を上げる。もしかして顔に出ちゃってたかな。

 

「ずっと気になってたんだけど」

「うん」

「彼のこと好きなの?」

「ぅん??」

 

 彼とは?好きとは?

 

「いやだから、今意識不明のあの」

「ど〜〜〜してそう思ったのかな?」

「状況的に」

「状況的に…」

 

 状況的に……状況なんだ。

 状況的に私奏多のことが好きって思われてんだ、はぇ…。

 

「……よく分かんないかな、うん」

「分からないとは…?」

「言葉通りの意味だよ」

 

 まあ側から見てそう見えるんだったら説得力ないだろうけど。

 

「ずっと一緒だったんだ、ちっちゃい頃から二人きりでね。なんて言えばいいかな……分かんないかもしれないけど、私の世界には彼しかいないみたいな」

 

 互いに身を寄せられるのがお互いしかいなかったから。ずっと一緒で、何するにも一緒で……

 

「好きは好きだったけど、男の子としてとか……そんなこと考えてる余裕なかったんだ。何かに追われるみたいにずっと必死で生きてきたから……普通の子みたいに振る舞えるまで、必死で」

「普通の子?」

「そりゃあ家族を亡くしたばっかりの施設育ちの子供だよ?奏多だって前はもっと……それはいいか」

 

 なんだか懐かしい、人に話すことなんて滅多になかったから。

 

「……じゃあ、やっぱり好きじゃない?」

「どおだろおね?」

「どっち」

「そんなに気になるかなぁ〜」

 

 普通に小っ恥ずかしいからなぁ、うーん……

 

「高校の時ね。周りのみんなが彼氏がどうのこうのって話し始めてさ。高校でも私彼と一緒なこと多かったから、周りの子達にもこう……揶揄われるとか、冷やかしみたいなのされるというか」

 

 まあ私もそういう年頃だったから、興味なかったわけじゃないんだけど……

 

「まあ、その……雰囲気というか…勢いで告白?しちゃってさ」

「……それで?」

「丁重にお断りされて、色々気まずくなって、気づいたら高校卒業して音信不通になって……はぁ」

 

 思い出したくないことを思い出してしまった。めちゃくちゃ嫌な気分、ただでさえ気分が落ち込んでたのにこれだ、はぁ。

 

「まあ……今になって思えば何やってんだとも思うし、彼の気持ちも分かるけど。いやあバカだったなあ……」

「…結局好きなの?好きじゃないの?」

「んぐ……しつこいなこいつ。話聞いたら大体分かるでしょ!」

「なんで怒ってるのさ」

「怒るよそりゃあ!」

 

 今の流れで本気で分からないんだったら同じ人とは思えない。

 人じゃないか、私もこいつも。

 

「……大切な人だよ、好きかどうか関係なく。自分と同じくらい大切な人。なんでそんなこと聞くの?」

「いや……何を躊躇っているんだろうと」

「え?」

「え?」

 

 私の疑問の声にオウム返しのようにしてくるロウ。

 

「……そっかぁ」

 

 間抜けなやり取りの後、勝手に納得する私。そんな私を見て首を傾げて不思議そうにしている。

 

「そうだよねぇ……うーん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奏多」

 

 未だ目を覚まさない彼の頬に、そっと手を当てる。

 人ってこんなに冷たくなれるんだって、そんな感想が湧いてきた。

 

 力に目覚めてから色んなものの見方が変わった。

 今の彼は、どこか遠くと繋がってしまっている。それを呼び戻してあげないと、彼は帰ってこない。

 

「早く起きてくれないと。言いたいこと沢山あるのに」

 

 これじゃ文句の一つも言えやしない。

 いつも一緒だったのに、勝手にいなくなって。

 

「君がいない世界は、やっぱりやだよ」

 

 今の私があるのは奏多のおかげだから。

 奏多があの日、私を連れて逃げ出して、ずっとそばに居てくれたから……君に生かされて、私はここに立っていられるんだから。

 やっぱり、好きかどうかなんて関係ない、それよりももっと前から大切な人なんだ。

 

「今度は、私が守るよ。ずっとそうしてくれたみたいにさ」

 

 貴方の今まで背負ってきた苦しみも痛みをちゃんと分かってあげることはできないけれど。

 同じ分だけ、私も背負いたい。

 

 

「……先に行って、待ってるからね」

 

 

 用は済んだ、もう迷いはない。

 あとは、私のやるべきことをやるだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待たせたね」

 

 研究所の前。

 団体のお客様がお越しのようで、少し待ってもらっていた。

 

「それで?答えを聞こうじゃねえか」

 

 赤と黒の化け物……幽玄が口を開く。前見た時と少し……姿が変わっているような気がする。気のせいかもしれないけど。

 加えて後ろには二桁以上は確実にいるであろうミストに、怪人の姿になっている波瑠。随分な大所帯で押しかけられてこっちはいい迷惑だ。

 

 いきなり襲撃してきたけど特に攻撃は仕掛けて来ず、研究所の前で静止している。これだけミストが密集しているせいだろうか、周囲の霧が少し濃くなっている。

 

「答えって、なんの?」

「大人しく着いてきてくれねえかなってェ話だよ、ミラから聞いてなかったか?」

 

 星羅さんも三澤さんもロウも研究所の外にまで出てきている。研究所の中にいるとこっそり侵入されたりして襲われたら怖いから、私の手の届く範囲にいてもらっている。戦場になる場所まで出てくるのは危ないけれど……研究所の中には奏多がいる。狙われて、巻き込まれたりしたら溜まったものじゃない。

 それに向こうの狙いは私一人、研究所を背に、みんなの前に立ってアイギスドライバーを腰に装着する。

 

「で、回答は?」

「もちろん、徹底抗戦!」

 

【Order:Code.AIGIS】

 

 やれやれ、と言った様子で首を振っている幽玄。波瑠の方を見てみるけど怪人の姿から表情を読み取ることはできなくて、その人間離れした仏頂面みたいなのがじっとこちらを見つめ続けている。

 

「変身!」

 

【Incarnate The Seeker AIGIS】

 

 フェイルを真似た音声がドライバーから流れて、私の身体を作り変えていく。もう何度もなった姿、けれどその手には初めてのものが握られている。

 刃が黄色に光る、リング状の武器。それが両手に収まっていた。

 

 たしか双月っていう名前らしい。

 ロウと星羅さんが私のために設計して作って、私が今こうして複製した。

 

「無理はするな、奴らの狙いは君なんだ、いざとなったら君だけでも」

「お断りです!!」

 

 彼の帰ってくる場所に私たちがいなくちゃ、話になんない。

 研究所も、彼も、星羅さんたちも全部守り通す。

 

「行け」

 

 幽玄が手を前に突き出したのを合図に、後ろに控えていたミストが何体もこちらに向かってくる。足の速い奴、走るたびに地面を凹ませている奴、剣みたいなのを持っている奴、色々いる。

 前みたいに沢山剣を生み出して飛ばせば一網打尽には出来るんだと思う。でもあれは消費が激しいし、多分それじゃあの人喰いは仕留められない。

 奏多があれだけ頑張っても倒しきれなかったんだから。

 

 襲いかかってくるミストの攻撃を順々にいなしていく。リングを使って弾いて、切って、囲まれたら風で無理やり脱出する。

 

 奏多は、フェイルは敵を倒す一撃だけ力を込めて倒していたらしい。私が見たあの姿は本当の奥の手だったって聞いたけれど。

 

 要は効率よく戦えってことなんだ。

 ずっとフルスロットルじゃすぐに息切れしてしまう、だから私も。

 

 

「彼みたいに!」

 

【Luft Burst】

 

 

 私の意思に呼応してドライバーからまた新しい音が鳴る。

 リング状の武器としての機能の他に、私の拡散しがちな風の力に指向性を持たせる補助器具としての役割を持つ双月が、その中心の穴を通して風を絞り、ジェット噴射のように私の身体を押し出す。

 

 以前の比じゃない速度で加速した私の身体が、ミストたちの間を駆け抜ける。その勢いのままリングを突き出してミストたちの身体を切りつけていく。

 リングから風を逆噴射し停止、複数体のミストが一気に身体を維持できなくなり霧散していく。

 

「っ!」

 

 間髪入れずに大量の飛び道具がこっちに向かって飛んでくる。針みたいなのから瓦礫まで色々、到底避け切れる量でもない。かといって避ければ後ろの研究所や皆んなが巻き込まれる。

 取れる手段は全部防ぐ一択。

 

 右手のリングを風を纏わせて投げ、それを弧を描くように風を吹かせてそれに乗せる。私の前に壁を作るようにリングを飛ばしその纏う風とリング自身で攻撃を全てかき消し、私の手元に戻ってこさせる。

 

 

「ははっ、有象無象じゃ相手になんねェか」

 

 愉快そうに笑った幽玄が一歩前に出る。

 

「いいねェ……人間とミストの混ざった味も喰ってみてェと思ってたんだよなァ」

「……殺してはダメ」

「そう心配すんなって。なァに、腕の一本くらいは食ったっていいだろ」

「………」

「勝手なこと言ってくれちゃって…」

 

 両腕の2本の棘を構え、こっちに向かってくる幽玄。二つのリングを構えて迎え撃つ。

 突き出された棘にリングを合わせて防御するけど、片腕だけで相当な重さがあり両腕で防御をせざるを得ない。そこにもう片方の棘を突き出され崩される。追撃を喰らう前に風に乗って一旦後ろに下がるが、すぐに詰め寄ってきてまた棘を振り翳してくる。

 素のパワーで大分押されているれている。私の風の速度で一瞬のパワーは上乗せできても、鍔迫り合いになった時に絶対に打ち勝てない。

 

「ほらほら、そんなもんなのか?あんまり失望させんなよ!」

 

 あの時の奏多くんの……青白い光を放つフェイルでもこのミストの感知能力を掻い潜って倒し切ることはできなかった。どうやって突破するか……考えてても仕方がない。

 思い立ったらすぐ行動に移す。

 

 リングの穴を前方に突き出して全力で風を送り込む。幽玄が少し吹き飛ばされ、私は反動で大きく後ろに下がる。攻撃じゃなくて距離を取ること自体が目的。

 ある程度距離が離れたのを見て、また接近される前に手に持ったリングを投げて、投げて、複製して、投げて、投げて、投げ続ける。私が投げつけた無数のリングは弾かれ、高く空を舞う。

 

「なんだァヤケクソかァ?」

 

 当然そんなわけはない。

 上空に弾かれたリングは再び風に乗り、弧を描いて幽玄の方へと向かう。全方位からのリングの囲いの収縮、逃げ場は既にどこにもない。鳥籠のように囲えば向こうも避ける以外の行動をせざるを得ない。

 

【Luft Burst】

 

 幽玄が赤黒いオーラを発して、全方位に棘を乱射し始めたのを見てこっちもリングに風を強く纏わせる。

 適当に打っているように見えるけれど、その棘の狙いは正確で的確にリングを撃ち落としていく。

 

 そんな奴に向かって真っ直ぐ、風と力を目一杯込めてリングをぶん投げた。風を纏いながら、風を切っていくそのリングは撃ち落とすために正確に発射された棘を纏っている風で跳ね除けて、オーラを発している幽玄の腹へと突き刺さった。

 

「グッ…」

 

 これだけやってようやく一撃、刺さりはしたけど深くはないのが感覚で分かった。奏多に身体に風穴開けられても生きてた奴だから相当しぶといんだ。

 トドメを刺さなきゃ、終わらない。

 

「このまま———っ!」

 

 傷を負って怯んだように見せかけて、近寄ってトドメを刺そうとした私に向けて棘を2本発射してくる。足りないリングを作り出して防御するけれど、ちゃんと形になる前に棘が当たったせいで構成している霧が霧散して、私の肩に当たる。勢いは少し殺したから突き刺さらなかったけれど体勢が崩れてしまった。

 その隙に幽玄が目の前まで接近してくる。ぎょっとしてリングで風を噴射して後ろに下がろうとしたが、幽玄が身体を捻ったかと思えばその後ろに控えていたミストたちが遠距離攻撃を仕掛けてきた。

 

「くぅっ…!」

 

 幽玄に射線を隠され、直前まで気が付かなかったためちゃんと防御ができずもろに喰らってしまう。身体を吹き飛ばされ地面を転がる。なんとか身体を起こしたけれど、また同じように攻撃を仕掛けてこようとしているミストたちが目に入った。

 

「第二射」

「っ———」

 

 幽玄の声、反射的に身体が防御姿勢を取ろうとして硬直してしまう。

 

「視野が狭くなってんじゃねえか?」

 

 そしてまた目の前にまで接近してきた幽玄に対応が遅れ、その棘を突き出すと同時に発射され、タイミングをずらされて防御もままならずに直撃してしまった。

 身体を覆っている装甲とぶつかって激しい火花を上げる。装甲を突き抜けて私の身体にまで入ってきて、損傷した箇所から白い霧が漏れ出ていく。

 

「っ……!」

 

 そんな私に構わず2度目の一斉射撃、ミストたちの攻撃は今度は広く拡散している。

 私が自分に当たる分だけ守ろうとすれば、後ろにいるみんなに当たるように。

 

「ああっもう!!」

 

 風を操って攻撃の軌道を逸らす。

 

 全部、私に向かって飛んでくるように。

 

 

 視界が真っ白になって、衝撃で思考が途絶える。

 それでも意識を飛ばさないように、必死に、耐えて、耐えて、耐え続けて。

 

 攻撃が止むと同時に、変身が解除されてしまった。

 傷こそないけれど、自分を構成している霧が明確に減ったのが分かる。

 

「はぁっ、はぁっ……」

「さて……もう一度聞こうか、大人しく着いてこい。ここで殺したくはないんでなァ」

「おこと、わりっ……」

「そうか」

 

 淡々とした返答。

 次の一斉射撃がくる。

 

 

 霧を出して、アイギスの装甲をイメージして前方に壁を作る。後ろのみんなを守れるように。

 

「ぐぅぅっ…」

 

 衝撃があまりにも強い。壁を維持するだけで精一杯で、再変身する余裕もない。

 自分の正面以外の壁の維持に注力して、攻撃を生身で受け止める。みんなを守るために。

 

「玲奈くんッ!!」

 

 星羅さんの声が聞こえる。

 私は頑丈だから、生身で攻撃を喰らったって平気だ。ただ身体中が傷だらけになって、身体の外に流れ出ていく血が霧になって霧散していっているだけだ。

 

 

「もう一度聞く、俺たちに——」

「黙って、なよ…」

「……いいね、強情なのは嫌いじゃないぜ」

 

 

 再びの一斉射撃。

 

 

「逃げるんだ玲奈くんッッ!!」

「逃げらんないんですよ」

 

 例え星羅さんたちが逃げたとしても、私は研究所を守らないといけない。彼が目覚めるまで、私は……絶対に。

 

「守り通さなきゃ、いけないんだっ!!」

 

 

 あの時の感覚が蘇る。

 初めて力を使った時の、あの感覚。

 

 発射された攻撃を全部、私から発せられた波動が打ち消していく。

 あの日、とにかく必死でやって出来て、やり方が分からなかったことが今。

 でも、自分の霧がごっそりと減ってしまったのが分かる。

 あの時よりも規模も小さくて、効果も弱い。そのまま幽玄も戦どうにか出来たらよかったのに。

 

 

「っ……」

「もう限界だろ?最後通告だ。断ればお前の四肢をもいで連れていく」

「何度も、言わせないでっ」

「……そうかい」

 

 

 頭がぼーっとして、もう身体がちっとも動かない。

 私の限界って、こんなもんだったんだ。

 

 

 

 

「———フフッ」

「…あ?何がおかしい」

「いや……嬉しくって」

「何を………っ!?」

 

 

 異質な気配、それを遅れて感じ取った幽玄が後ろに下がる。

 研究所から出てきたその人物に驚愕するように。

 

 みんな、彼の方を見て動けない。

 一歩、また一歩と踏みしめるように歩く彼、その足音には確かな重さを感じる。ずっと無くしていた大切なものが戻ってきたような安心感、それを感じて、かろうじて立っていた足の力すら抜けて、身体が横に倒れる。

 

 それを、彼は優しく受け止めてくれる。

 

 

「もう、遅いよ」

「ごめん。……ただいま、玲奈」

「うん……おかえり、奏多」

 

 私をそっと、地面に座らせて、敵の方へと向く彼。

 

「ったく……もう少しで俺が行くとこだったろうが」

「すみません、三澤さん。俺が居ない間ありがとうございました」

「はぁ……ほら!」

 

 三澤さんの手によってフェイルドライバーが投げられて、奏多がそれを受け取る。感慨深そうにそれを見つめた彼は、深く息を吸って、それを腰に装着した。

 

「そいつはやっぱお前んだ、もう手放すんじゃねえぞ」

「…はい!」

 

 その様子を呆然として見ていることしかできなかった幽玄がハッとしたように口を開いた。

 

「お前……死んじゃいねェとは思っていたが、()()は一体どういうことだ。何故お前から同族の気配がする…?いや同族とかそういう話じゃねえ、これは……ククッ、クックックッ……」

 

 何かに気づいたようで、心の底から愉快そうに笑って、その棘を彼に向けて大きな声をあげる。

 

「テメェ、()()()()()()()な!そこの女と同じ匂いがする!紫藤玲奈の血を取り込むことで、新しいミストへと変化しやがったな!!」

「……だったらなんだ」

 

 幽玄の言う通り、戦いが始まる前に彼に血を輸血してきた。星羅さんの考えなら人間とミストのハーフである私の血を取り込むことで彼の身体を構成している霧にも変化が起きて、何かが起こるんじゃないかって、そういう話だったけど……

 どうやら正解だったみたい。

 

「いいねェ……いい!お前を喰い殺せなかったのが心残りだったんだ!!最高だぜフェイルゥ!!」

 

 狂ったように笑顔でこちらを睨みつけている幽玄。私があれだけ頑張っても、つけられた傷は腹のあそこだけ。

 

「奏多」

 

 私に残っている少ない霧で、ヘイズチューブを作り出す。

 中には私が使っているのと同じ白い色をした霧が入っている。でもこれはもっと特別な……私から彼への、贈り物。

 

「これからはちゃんと、一緒に居てくれるよね」

「……当たり前だ」

 

 彼は笑顔で、それを受け取って。

 ベルトに嵌め込んだ。

 

 

【Order:Code.FAIL】

 

 

「変身」

 

 

【Awaking The Liberator FAIL】

 

 

 白い輝きが彼を包んでいく。

 これまでは黒く変化していた彼の身体は銀色に肉体に変化して、身を包む黒鉄の装甲にも銀色のラインが刻まれ、そのラインが装甲を僅かに拡張していて、シルエットが変化している。

 プラズマコアの輝きが、彼の姿を照らす。

 

 黒鉄の戦士は、白銀の戦士となって、再びこの世界に舞い降りた。

 

「さあ、まとめてお引き取り願おうか」

 

 

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