仮面ライダーフェイル   作:ケサランパサラン

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空を見上げて

「……ん、んぅ」

 

 身体が重い。

 私なんでこんなに疲れてるんだっけ……?えっと確か、アイギスに変身して、戦って、傷だらけになって……それで奏多が……

 

「……あっそだ奏多!!」

「うおっ声でけっ……」

「はぇ?」

 

 大声を上げながら飛び起きると、両耳を手で塞いでうるさそうにしている彼がすぐ隣に座って、そこにいた。

 

「……本物?」

「は?……まあ、今はミストみたいなもんだし、偽物って言えば偽物かもな」

「………抱きついていい?」

「なんでだよ。……暑いんだけど、お前元気だな…」

 

 あぁ、力強い鼓動の音がちゃんと聞こえる。血の通った体温も、僅かな息遣いもちゃんと、ちゃんとここにある。

 

「っ……おかえりぃぃぃ……」

「ったく、昨日やったろそれ……ただいま、玲奈」

「ゔん……」

 

 ようやく、色んなことの実感が湧いてきた。

 彼が帰ってきたっていうことが、彼がいなくなっていたことを証明する。寂しさを感じていないと思っていた私の心が今初めて、安心したせいでちゃんと寂しいって思えている。

 

「……で、いつまでそうしてんの」

「あと30分くらい……」

「長いって」

「んぁ〜〜っ」

 

 無理やり引き剥がされた……

 

「……あれ、私もっと派手に怪我してなかったっけ」

 

 自分の姿を見てみるけど、傷なんかひとつもない綺麗なお肌をしている。……なんか前よりすべすべな気がするんだけど、なんだこれ。

 

「勝手に修復されてたぞ、ミストみたいに」

「ミストみたいにかぁ………すっかり、二人揃ってバケモノの仲間入りだね」

「よく言うよ、お前が1番バケモノだっての」

「女の子に言う言葉じゃなくない?」

「確かに、今のはミストに言う言葉だったかも」

「もう、イジワル言うんだから。……フフッ」

 

 凄く、懐かしい。

 この関係を壊してしまったのは私だけれど……それでもずっと、彼が遠くへ行ってしまったような気がしていたから。

 仮面ライダーになってからの彼はずっと、何かに迫られているような感じがしていたから。……私の前で凄く自然に笑ってくれる彼の姿を見て、心が軽くなる。

 

「あれ、そういえばロウは?」

「あの変な髪の毛の子か。……なんかお邪魔になるから〜とか言って外に出てったな」

「……どこでそんなこと覚えたんだか」

 

 まあ私と彼の関係に余程興味あったみたいだし……意外とそういう話好きなのかな?

 

「……ごめん、色々黙ってて」

「いいよ別に、私だってもう子供じゃないんだし、奏多の気持ちも分かってるつもりだから」

「…もう、そんなに経ったんだな」

「……そうだね」

 

 あれからもう十年。

 ようやく、私たちの時間が進み始めたような気がする。

 

「今までのこと別に謝る必要はないけどさ、あの時も言ったけど……これからはちゃんと私にも背負わせてよね。……隣にいたいし、いてほしいんだ」

「…あぁ、約束する。これからは隣で一緒に戦ってくれ」

「……うん!」

 

 …気づかないふりしてるけど、私今奏多のベッドで寝てたんだよね。

 ………もう出よっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあおはよう二人とも。玲奈くんの方も、もう身体は大丈夫かい?」

「はい、元気いっぱい……ではないけど、今日しっかり休めば万全の状態にはなると思います」

「復帰早いな……私たちのせいで無理をさせてしまったね、守ってくれて、ありがとう」

「いえいえ」

 

 奏多に部屋から出てもらって、服を着替えて星羅さんのいるところまで一緒に降りてきた。相変わらずちゃんと休めていないみたいで顔色はあんまりよくないけど……どこか吹っ切れた表情をしている気がする。

 

「奏多くんの方も、変わりはないかい」

「はい、身体が軽いのなんのって」

「ふゥん……正直玲奈くんの血が拒絶反応を引き起こしてそのまま死ぬくらいのことは覚悟してたんだが」

 

 えっ、聞いてないんですけど。

 

「まあ読み通り、玲奈くんの因子を取り込むことでフェイルの変身に対する耐性を得ていたんだな。なんで身体を色々弄った三澤くんよりも奏多くんの方が適性があったのか長年の疑問だったが……」

「……?」

 

 ニヤリ、と笑う星羅さんの表情に、なんだか嫌な予感がする。

 

「君たち……さては小さい頃にキスとかしたね?」

「……っ!!?!?!?!?なっ、ななななな何を言ってるんですか星羅さん!!?」

「あー……そういえば昔あった気がする。ついでにそのあと高熱出して寝込んだ気も」

「奏多ぁッッッ!!?!!!!?!」

 

 ちょっと待っ……なんでそんな平気そうな顔してそんなこと言えるの!!?恥じらいはミストになっちゃった時に人の心捨てちゃったの!?ねえ!ねえってば!!

 何不思議そうな顔してんの!!!

 

「はーっ、顔あっっつ……」

「ははっ、そう恥ずかしがらなくてもいい。そのおかげで彼はフェイルとして長い間戦うことができた訳だし、今こうして戻って来れたんだから」

「そーゆー問題じゃ……いやもうそんなことはよくって!!」

「割と大事な話だと思うけれど?」

 

 私に恥をかかせるのは全く大事じゃない!!

 ってそうじゃなくて!

 

「これからどうするんですかって!!その……奏多が目覚めてくれたのはいいけど、肝心の霧幻界をどうするかは」

「そのことについては昨日のうちに具体的な方策を立てておいた。奏多くんのおかげで研究データの訳のわからなかったところも解読することができたしね」

「あ、そうなんですね」

 

 私が奏多のベッドで泥みたいに眠ってた間色々話が進んでたみたいだ。……ダメだまだなんかソワソワしちゃう、もうとっくの昔に思い出さないようにって封じ込めてた記憶が……

 

「作戦の要は玲奈くん、君だ」

「あ、え、私?」

 

 羞恥心で狼狽えてるところに急にビシッと指をさされて間抜けなリアクションをとってしまう。

 

「詳しい説明は……奏多くんから話してもらおうか」

「俺ですか?」

「ついでに、買い出しにも行ってきてくれ」

「……へ?買い出し?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なるほど並行世界に死後の世界……は、話がちょっと壮大すぎない?あんまりイメージできなくて…」

「まあ、そうだよな」

 

 星羅さんに言われるがまま、二人っきりで買い出しにも出かけさせられた。ミストの発生件数が増えてきているこの頃では外出する人が減っているけど、スーパーとかショッピングモールは普通にやっているから、買い物する場所がないわけじゃない。

 

「とにかく……私と奏多がその霧幻界の壁っていうのをぶっ壊せば、色々解決するってことだよね?」

「まあその認識で合ってるよ」

「…明日かあ」

 

 

 明日、作戦を決行するって。

 そう急に言われて流石に戸惑うけれど……奏多が平然としているから、それを見ていると私も段々と落ち着いてくる。やっぱり隣にいてくれるだけでも安心できる。

 

 

「じゃあ今のこの買い出しって、その……決起集会?みたいな感じのなのかな」

「……まあ正直危機感がないんじゃないかとも思うんだけどな。多分買い出しに行かせたのも、二人っきりになる時間をくれたんだと思う」

「そっか……星羅さんってちゃんと大人だよねぇ」

「………私生活酷いもんだけどな、あの人」

「へ、そうなの?」

「まあ……うん」

 

 BBQ用の具材とかお菓子とか色々買ってるところだけど、三澤さんも来るのかな。ロウってご飯どのくらい食べるんだろう。

 

「……やっぱり、戦うことになるのかな、波瑠と」

「十中八九そうだろうな。……知り合いと戦うことになるの、やっぱり嫌か?」

「まあそりゃ好きで戦う訳じゃないけど……必要なことだから、ちゃんとやるよ、私」

「…そうか、安心した」

「ふふん、私だってもう一人の仮面ライダーなんだからね」

「そうだったな、頼りにしてるよ」

「……えへ」

 

 決行の時がもうすぐそこにまで迫っているっていうのに、こんなにも落ち着いていて……心が凪いでいる。

 

「ずぅっと、こんな穏やかな時間が続けばいいのにね」

「そのために戦うんだよ、仮面ライダーは」

「おぉ……流石、大先輩の言葉は響くな〜」

「茶化すなよ」

 

 ずっと一緒だったけど、離れてる間にお互い随分と変わってしまって。

 私の知らない奏多がいて、奏多の知らない私がいて。でもきっと人ってそういうもので、それでもやっぱり、私は彼と一緒がいい。

 

 隣で、同じ歩幅で歩いていたい。

 

 

「……ねえ」

「ん?」

「その、さ」

 

 喉まで出かけた言葉を、ぐっと飲み込む。

 言うならもっと、ちゃんとした時がいい。

 

「ううん、やっぱりなんでもない」

「………ミストって太るのかって話?」

「違うわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう日が暮れてすっかり辺りは暗くなったけど。

 研究所の前、つい昨日戦いを繰り広げた場所で、今現在BBQが開催されていた。なんか三澤さんがずっと焼いてて、他の四人がもらって食べるだけになってる。

 

「……なんか、気が抜けるなぁ」

「それが目的だからね」

 

 星羅さんが近寄ってくるけど、その吐息からする匂いに少し顔を顰めてしまう。

 

「お酒飲んでるんですか?」

「いやあもう最近ずっと忙しくてねぇ……フェイルの新しい装備もロウくんのおかげで形になったし、あとはもう明日、やるべきことをやるだけだから」

 

 そういえば飲んでるところ見たことないけど……いやあの状況で飲める訳ないしそりゃあそうか。

 

「明日……私と奏多で根振市の北部に向かうのは分かったんですけど、星羅さんと三澤さんはどうするんです?あとロウも」

「ロウくんには自分の家に戻っていてもらうつもりだよ。もしかしたら、明日が人類最後の日になるかもしれないからね」

「う……そう言われると一気に不安に…」

「なあに冗談冗談」

「酔ってます?」

「うん」

 

 酔ってんだ……

 でもそっか……元々狙われるかもしれないから研究所にいただけだしね。あの子の居場所は別であるんだから、そこにいるのが1番いいよね。

 

「三澤くんは私についてくるって言って聞かなくてね……私は私でケリをつけなければならないことがあるから」カ、

「……それって?」

「大人の戦いってやつさ、君たちは君たちの戦いのことだけ考えていればいい。この世界が滅ぶかどうかは君たちの手にかかってるんだから」

「ゔ……プレッシャーかけないでくださいよぉ…」

「ははっ」

 

 愉快そうに笑ってくれちゃって……なんか意外と適当だなぁこの人。オンオフ激しいのかな。

 

「私たちに出来るのは、君たちの背中を押して送り出すことだけだからね。……そのくらいしか、出来ないから」

「……そんなことないですよ」

 

 ずっと負い目を感じているんだ、この人は。

 奏多に背負わせて、私に背負わせて、自分では何もできていないって、そういうことを考えてるんだろうな。

 

「奏多を仮面ライダーにして、たくさんの人を救ってきた。それが巡り巡って、私も戦えるようになって……そのおかげで明日、一緒に決戦に向かうことができるんです」

「……玲奈くん」

「ありがとうございます、彼を仮面ライダーにしてくれて」

「………君、良い子だなあ〜〜〜」

「わっ」

 

 へにゃっとした笑顔を浮かべた星羅さんに急に背中を叩かれて押し出される。

 

「ほら、こんなしょうもない大人に構ってないで、あそこでカッコつけて黄昏てる奴のとこ行ってきな!」

「えぇ?絡みにきたのそっちじゃないですか!」

「はっはっはっは」

「このっ、酔っ払いめ……フフッ」

 

 星羅さんに言われた通り歩いて行って、一人離れたところで月を眺めている彼の背中を思いっきり引っ叩く。

 

「いてっ……なに?」

「何してんのさ」

「別になんもしてないけど……」

「ふぅん……隣いても良い?」

「わざわざ聞くなよ」

「ん……」

 

 隣に立って、同じように月を見上げる。

 少しの間そうしていて……彼が先に口を開いた。

 

「間違ってたのかなって」

「え?」

「お前を遠ざけて、静かな世界で生きれるようにして……俺がずっと命を削って、戦い続ければいいんだと思ってた。でも結局、玲奈がいないとどうにもならなかったから」

 

 やっぱりそういうこと考えてたのか。

 

「気づいてたよ、関わらせたくないんだろうなってのも、私にずっと申し訳なさそうにしてたのも。ずっと一緒にいるんだもん、そのくらい何となく分かるよ」

 

 そうしたがる君の気持ちも分かってたから、私もそれ以上踏み込まなかったけれど。

 

「間違ってようが間違ってなかろうが、君が今ここにして、その隣に私がいる。それが嬉しいんだ、私は」

「…そうだな」

「……ねえ、覚えてる?高校の時の……アレ」

「アレか、よく覚えてるよ、気まず過ぎて」

「言わないでよ」

「ははっ」

 

 今にして思えば本当に一緒にいすぎだったけれど……私にとってはそれが普通で当たり前だったんだから仕方ない。

 

「ほら……私たちももう二十歳で、お酒も飲める年になったわけじゃない?もう大人の一員なわけでさ。昔のこと思い出してバカだったなあとか、そんな風に思うこともあるけどさ」

 

 肩を寄せる。

 彼の温もりを感じたくて、ゆっくり。彼は何も言わずに、ただ月を眺めているだけで。それでも私は言葉を続ける。

 

「けど……やっぱり今思い返しても、あの時の気持ちは勘違いだとか、気の迷いとかじゃなくてさ、私の本当の気持ちなんだ」

「……うん」

 

 今なら君の気持ちがちゃんと分かる。

 ずっと一緒にいたからとか、私の血が入っちゃってるからとか、そんなことは関係なくて。

 もっと簡単で、単純な理由。

 

 

「好きだよ、奏多」

「……俺もだよ、玲奈」

 

 

 月を眺めながら、手と手が絡み合う。

 彼のあたたかさが、体の芯にまで伝わってくる。

 

 

「綺麗だな、月」

「うん、ほんとに」

 

 

 雲で月が隠れるまで、ずっとそうしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、ヘルメット」

「あそっか、義務だもんね」

「そ、道中で警察に引っかかりたくはないだろ」

「確かに」

 

 彼に手渡されたヘルメットを被って、バイクの後ろに乗る。遅れて前に座った彼の身体に手を回して、振り落とされないように。

 

「それじゃ、よろしく頼んだよ」

「はい!」

「星羅さんも、お気をつけて。三澤さん、星羅さんのことよろしく頼みます」

「そっちも。…負けんなよ」

「当然」

 

 3人が見送りに来てくれる。

 星羅さんと三澤さんと話して、ロウの方に視線を向ける。

 

「ちゃんとお母さんのこと、守ってあげなよ」

「……子供扱いやめてってば」

「ふふっ……それじゃあ行こっか」

「あぁ」

 

 奏多くんがバイクのアクセルを回す。

 黒色のバイクが力強く走り出して、目的地へと向かう。

 

「「行ってきます!」」

 

 向かう先は、私たちの育った場所。

 全てを終わらせて、変えるために。

 

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