仮面ライダーフェイル   作:ケサランパサラン

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先行き

 

「あー……久しぶり?ハハ……」

「………」

 

 動かない。

 こちらをじっと見つめたまま動かない。

 

「どうして……」

「え?」

「どうして!黙って急に2年もいなくなっちゃったの!!」

 

 剥き出しになる怒りの感情。

 

「連絡しても既読だけして一切返事しないし電話には出ないし何も言ってくれないし!どこか遠いところに行ったのかと思って半分諦めてたらこ、こんなとこで会うなんて……」

「あー、玲奈ちょっと…」

「ずっと私がどんな気持ちだったか分かる!?分かんないよね!分かってたら連絡くらいしてくれるもんね!!」

「ちょ……」

 

 人目をかなり集まってしまっている。これでは側から見ると痴話喧嘩だ、居心地悪いからあの会場を去ったのに出た瞬間これでは何のために出たのか分からなくなってしまう。

 いや今はそれどころではないと頭を振って考える奏多。

 

「悪かった、悪かったからとりあえず場所変えよう、な?」

「何それ、私とのことより周りの目線の方が大事だってこと!?………場所は変えるけど!」

 

 ちゃんと周囲は見れたらしい、場を離れる奏多の後ろを恥ずかしそうについて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、さっきは急に怒鳴ったりして」

「…いや、俺が悪いんだよ」

「理由もなくあんなことしないのは知ってるよ。何か仕方ない理由があったんだよね」

「………まあ、そうだけど」

 

 まさかこんなところで出くわしてしまうとは。同じ町に住んでるんだからいつかは出会うとは思ってはいたがよりにもよってこのタイミングで、こんな場所でとは。

 そう考え今すぐにでも頭を抱えてうずくまりたい奏多だったが、今は玲奈とのことを考えなければならないとしてるんだろうけど考え直す。

 

「でも、その理由は教えてくれなくちゃ嫌だよ」

「うん。……詳しくは言えないんだけど、その………」

「……?」

 

 顔を見て思わず黙り込んでしまう。色々な要因が重なって何を話していいのか分からなくなってしまった。

 

「とにかくその、巻き込みたくなかったんだ。それには会わないのが一番で……」

「……危ないことしてるの?」

「あー……部分的には………そう、かも……?」

 

 嘘である。

 話題の仮面ライダーとなってミストと正面から戦うことが危ないことでなければなんだというのか。

 

「……元気でやれてる?」

「…まあ、そこそこかな」

「ならいいけど……」

 

 心配をかけてしまっているのはわかっていたが、あそごで激怒されるほどとは思っていなかった。

 

(既読つけるだけじゃダメだったか……)

 

 いいわけがない。

 

「……そっちはどうなんだ?あの後大学進学したんだろ?」

「あっうん、といってもこの街のだけどね。結局離れられなくって…」

「……そうか」

 

 玲奈とは10年前のあの日、互いに両親を失ってからずっと支え合ってきた仲だった。高校まで近い距離感で過ごしていたが、高校卒業と同時に奏多が一方的に距離を置いた形になってしまっている。

 

「……もう、10年も経つんだね」

「…そうだな」

「変わっちゃったね、色々」

「……そうだな」

 

 大規模破壊を行ったミスト、今でこそ特殊個体の暴走が招いた結果とされているが、当時は一種の災害のような扱いをされていた。

 木々はへし折れ、ビルは倒壊し、瓦礫の中に人と死体が埋まっていくあの景色。

 

「正直、まだ思い出すと震えが止まらなくなる」

「……玲奈」

「実感がなかったっていうのかな。小さい頃は何も理解できなくて、自分の周りに起こった出来事がどんなものなのかも分かってなくて………でも時間が経てば経つほどその傷跡がよりはっきり見えるような気がして」

 

 視野が広がる、傷が見える。

 

「急にいなくならないでよ、みんなみたいにもう帰ってこなくなっちゃうのかと思っちゃうから」

「…ごめん」

 

 距離を取るだけのつもりだった。ミストに関わることをしているのを知られたくなくて、無理やり距離をとったけど、それは玲奈を傷つけているだけだった。

 いや、そんなことは最初から分かっていた。分かっていたはずなのに、こうして面と向かってその思いを告げられて胸が痛む。

 

「……聞かれたくないなら聞かないけどさ、返事くらいはしてよ」

「…うん」

「ちゃんと元気でやってるの?」

「まあ、それなりに」

「危ないことはしないでよね」

「……善処するよ」

 

 見透かされているのかもしれない、自分がどんなことをしているのか。お互いに幼馴染だったのだから、互いに相手が何を考えているのかうっすらとわかる。それは2年の空白があった今でも変わらない。

 

「奏多くんまでいなくなっちゃったら、私何するかわかんないよ」

「……なら、危ないことはできないな」

「………」

「………」

 

 数分の沈黙、それを破ったのは耳につけている通信機からの連絡だった。

 

『奏多くんまだ会場にいる!?』

「………ごめん玲奈、ちょっと用事できた」

「え?」

「終わったら連絡するよ、ごめん」

「ちょっと……行っちゃった」

 

 2年経っても変わらないように見えたが、やはりどこか遠くへ行ってしまった、そんな思いが拭えなかった。

 

「一体、どこを見てるの…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「対象発見、戦闘体制に入ります」

 

 会場にミストが出現した、そう聞かされ急いで人のいない場所で変身し指定されたポイントに急いだ。

 

「……随分と避難が早い」

『…元よりフーガ隊員がいたからね、それよりあのミスト…』

「…?どうしました?」

『いや、今は気にしないでいい。戦いに集中してくれ』

 

 そうやって濁されて気にするなと言われても気になってしまう。

 そう思いつつ目の前の敵を正面から見据える。狼のような頭部に猫を思わせるような手足をしたミスト。

 

「複合型……また珍しい」

 

 ミストは人間を模るように、様々な生き物の特徴を再現した怪人の姿を取る。元となった素体がいないせいかこうして歪な形になることがほとんどだが、それでも複数の生き物の特徴が混在した個体は特異なものとなる。

 

「ああ?誰だお前…」

「……知らないのも珍しいな」

 

 随分と有名になってしまった自覚がある奏多だったが、どうやら目の前のミストは仮面ライダーのことを知らない様子だった。

 

「別に知る必要はない、さっさと倒させてもらう」

「ケッ……ようやく自由になれたんだ。テメェみたいな気色の悪いやつにやられてたまるかよお!!」

 

 瞬く間に姿を消した。というよりは高速移動により視界から消えたと言った方が正しい。

 肉眼では到底追うことのできない速度だが変身により強化された動体視力と感覚、そして備え付けのセンサーにより接近を感知し、身を翻してそのまま腹にカウンターで蹴りを入れる。

 

「猫の俊敏性に狼の牙……速さの割に攻撃が大振りで歪だ」

「うっるせえ!!」

 

 また同じように速度だけに頼り今度は飛び蹴りで突っ込んでくるが、同じように避けて足を掴んでそのまま振り回し投げ飛ばした。

 

(複合型にしてはバランスが悪いような……これじゃまるで数世代前の…)

 

「クソックソックソッ!!もう時間もねえってのにテメェなんざに……テメェなんざに!!やっと抜け出せたと思ったのに……ッ」

「……抜け出せた?なんの話———」

「テメェに言う話なんか、一個もねえよォ!!」

 

 さらに速くなったミスト。また立ち止まり動きを察知しようと気配に集中する。

 

「———なっ!」

 

 今度は正面から突っ込んでくるのかと思いきや少し離れた場所を高速で突っ切り、すれ違うように背後へとすっ飛んで行った。

 

「逃すわけ——」

 

 ドライバーから球型ユニットが射出され、白色の重心の長いハンドガンのようなものがフェイルの手に収まる。

 

「ないだろっ!」

 

 視界センサーとエイム補助、身体能力による精密な動作。高速で逃げ去っていくミストの背中を速度に特化した弾丸が撃ち抜いた。

 

「がぁっ!」

 

 体制を崩しゴロゴロと転がり続けるミスト。その隙にフェイルはドライバー上部のトリガーを稼働させて銃身にエネルギーを集約させる。

 

【Plasma Burst】

 

 超エネルギーの弾丸がミストの身体へと命中し、爆発と共にその肉体を焼き尽くす。

 エネルギーが収まった後、ミストの身体が少しずつ霧散して行っていた。

 

「……畜生」

 

 ミストは恨めしそうにそう言い捨て、完全に霧散し素体となった男性の肉体だけが残った。

 

「……回収、しないと」

 

 空の容器のようなものに霧散したミストであったものを収容し蓋をする。近づいてくるフーガ隊員をよそに先に被害者の確認を開始する。

 

「………」

 

 さっきのミストが言っていた「もう時間もねえってのに」という言葉を思い出す。おそらく己の擬態限界を予期していたのだろう、息がないのはそういうことだとそう結論づける。

 ミストに取り込まれている時間が長いほど、ミストから解放した後の症状が重くなっていく。もし生きていて目を覚ましたとしても重い後遺症が残るはずだ、これでは目覚めるか怪しかっただろう。

 

「………まさか、な」

 

 今回は不可解な点が多かった。

 

「………」

 

 その場を去っていくフェイルの視界にはマスコミの姿があった。ここぞとばかりにそのカメラに戦う姿を収めてくれていたらしい、仮面の中で静かに睨みつけ会場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デモンストレーション、だろうね」

「見せ物だったと?」

「ああ」

 

 研究所に戻ってくると、同じように違和感を感じてきた星羅の考察の説明会が始まった。

 

「確かにこれだけの人が集まった会場、それも追悼式は絶好のアピール会場だ。突発的なミスト事件の発生にフーガが完璧に避難誘導し、住民の被害はもちろんゼロに抑える。その上で色んな意味で話題を呼んでいる仮面ライダーとミストを戦わせて世間にその有用性をアピールする……」

「………なるほど」

 

 要するにフーガ上層部の仕組んだ茶番劇だったということだ。マスコミが仮面ライダーの戦いを撮りにくるのも織り込み済みだったのだろう。

 

「それにあのミスト、過去によその研究所で見たことがあったんだ。その後の処遇については聞いていなかったが……こういう使われ方をするなんてね」

「………待ってください、それってつまり……」

 

 嫌な予想が浮かぶ奏多の考えを見透かし、そして肯定するように神妙な面持ちで頷く星羅。

 

「一人の人間を実験動物にしていたに等しい。まあおそらく凶悪犯罪者とかにミストを掛け合わせたとかそんなところだろうけど……」

「………」

 

 例えそれが誰であったにしろ、命を弄ぶようなことをしていい道理はない。拳を強く握りしめる奏多の姿を見て、星羅は眉を顰める。

 

「……まあ、あまり人を悪く言えた立場じゃないんだけどね、私は」

「…星羅さん」

「この件は私が調査しておく。仮面ライダーはあくまで私の管轄だ、フーガ所属とはいえ勝手なことをされて黙っておくわけにはいかない」

「お願いします」

 

 たまたま今日は会場にいたからその場で変身して駆けつけたが、もしそうでなければ以前のようにバイクで空をかっとび現場に向かっていたことだろう。

 

「あとは私に任せて今日はもう休みな?君の身体は大事なんだからな」

「……そうですね」

 

 ここまで真剣な表情をする星羅は珍しいと思いつつ、変わらず自分の身体を気にかけてくれることに少し安堵する。

 

「ああそうだ」

 

 立ち上がり自室に戻ろうとしたところで思い出したように呼び止められる。

 

「スマホ、すごい通知来てるけど」

「…………………あっ」

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