仮面ライダーフェイル   作:ケサランパサラン

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精算

「……奏多」

「ああ、分かってる」

 

 向こう側とこちら側の境界が揺らぐのを感じる。ミストに近い存在になったせいか、以前よりも霧をはっきりと認識できる。

 

「開くぞ」

 

 根振市の北部、その上空で何かが開く。

 霧がとてつもない勢いで噴出し、その下方の瓦礫の街と化している俺たちの町に降り注ぐ。あっという間に霧に包まれて、中を伺うことができなくなった。

 第二次霧幻侵攻、だが以前よりも霧の発生も量も桁違いに多く、止まる気配がない。どれだけの霧があの世界に溜め込まれているのか……

 

「急ごう、あのまま霧がこっち側に流れ続けてたら取り返しがつかなくなる」

「ああ。……突入する、中で何があるかわからない。しっかり捕まっててくれ」

「うん!」

 

 霧に包まれた俺たちの故郷。

 あの場所に映し出された決戦の地へ霧をかき分けて入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、ここからは私一人で行く」

「……本当にいいんですか?」

「あぁ、これは私の問題だからね」

 

 車で送ってくれた三澤くんが心配そうにこちらを見てくる。

 奏多くんたちを見送った後やってきたのはフーガの本部、武装が保管されている倉庫や隊員の駐屯所、宿舎がある。

 

「君には君の役割があるだろ?よろしく頼むよ」

「ですが……」

「分かるだろ、これは清算なんだ」

「清算って……」

 

 彼らに役目があるように、私にも役目がある。

 父の研究を継いで、彼らに繋げること、それがきっと私の役割だったんだ。私に残された役目はあと少しだけ。

 

「父だけじゃない、私のもだよ。……まとめて一括払いしてくるさ」

「だからって何も…」

「なあに、1番の重荷は彼らが背負ってくれるんだ、尻拭いを押し付けたんだ分はやることやらないとね」

 

 荷物を持って扉を開く。

 

「じゃ、頼んだよ」

「……了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、どういうつもりだ?再三の招集命令を無視して、今更顔を出すなど。今の状況を理解しているのか?」

「えぇしていますとも、貴方達よりもね」

 

 フーガ上層部の連中が集まっている部屋。表示されているモニターを見れば、今起こっている霧幻侵攻の対応をしていることが分かる。

 

「ならば一体何の用だ、自分のやるべき事も分からないのか」

「分かっていますとも。……だからここにいるのだから」

 

 荷物から資料を取り出して乱雑に投げる。封筒からこぼれ落ちた資料を幹部の一人が拾いって目を丸くする。

 

「ばっバカな……貴様どこでこれを」

「それを答える義理はない」

 

 私が投げ捨てたのはフーガが秘密裏に製造した兵器や外国への不法な兵器輸出の証拠。公にされればまず間違いなく即座に組織が解体されるであろう情報の数々。

 

「プラズマコアを含めた対ミストのために開発されてきた様々な技術を兵器に転用、戦争の道具として売り出した上で兵器を貯蔵している。ったく……戦車や装甲車、地雷が対ミストで役に立つわけもなし」

「わっ、我々はただミストの進化に対応するために——」

「私に申し開きしてどうすんだか、馬鹿馬鹿しい」

 

 どう考えても対人を想定した装備の数々に加えて、破壊規模の大きいものは町への被害を考慮して造れないと決まっていただろうに。

 

「別にあんたらの企みには興味はない。勝手に兵器製造して、戦争企んでようが何しようが、そこは関係ない」

「何を……散々フーガのために武器設計をしてきたのは貴様も同じであろうが!!」

「だからここにいんだよ、察し悪いジジイだな」

 

 懐から手に収まるサイズの機械を手に取り、見せつけるように左手に持つ。

 

「プラズマコアは父が開発した優秀な動力炉だが、その動作維持のためにOSを組み込んで運用する必要がある。上手く管理しないと熱暴走して自壊してしまうから」

「………まさか」

「これを起動すれば、この基地内にあるプラズマコアを搭載した兵器が全て暴走し始める。莫大なエネルギーを生み出したそばから内包し続け、そう時間が経たないうちに……ドカンって」

 

 幹部連中がどよめき、一斉に席を立ち始める。

 

「馬鹿な……血迷ったか!!今の状況を理解しているのか!?そんなことをすればミストへの対抗策が……」

「仮面ライダー等という訳のわからないものの開発のために支援してやったのは誰だと思っている!!」

「だから私はあの男の子供など……」

「ごちゃごちゃと……もう必要ないんだよ、あんたら老害は。——っ!」

 

 幹部連中の中の一人が懐から拳銃を取り出し、その銃口をこちらに向けたのを見て直ぐに身体を逸らすが、左手ごと装置を撃ち抜かれ、破損した装置が床へと転がり、左手から血が床に流れ落ちる。

 

「いっ……」

「残念だよ、仁礼星羅。君は父親とは違うと思っていたのだがね」

「…八島」

 

 八島文彦、フーガを根振市に根づかせてきた張本人、表立って代表として行動し、人々から支持を集めている男。裏では人体実験を繰り返し兵器開発を主導……政治に参入しようとしているという話も聞いている。

 

「君の企みは潰えた。愚かにも反逆しようとしたのはそれ相応の罰は与えるが……君の技術力は惜しい、これからは地下室が君の研究室だ、いいな?」

「……くくっ」

 

 笑い出す私を見て怪訝そうな表情を浮かべる八島。穴の空いた左手の痛みを堪えながら立ち上がり、奴らを睨みつける。

 

「一体誰が()()()()()()()()…なんて言ったんだよ」

「なっ……貴様ァ!!」

「そんなもん、玄関先でとっくに済ませてきたっての」

 

 左肩に銃弾が撃ち込まれ、痛みで絶叫しそうになるのを歯を食いしばって必死に堪える。

 私が重荷を背負わせてきた彼は、浅ましいエゴを背負わせてきた彼はもっと苦しんできたんだ、私にこの程度で根を上げる資格はない。

 

「……ははっ、死に損ないに構ってる暇あるんですか?さっさと尻尾巻いて逃げないと全部崩れ落ちますよ?」

「っ……クソっ!!」

 

 私に目もくれず部屋から出ていく奴ら。それを見届けた後、誰もいなくなった部屋で一人床に崩れ落ちた。

 

「はぁ……痛いんだよちくしょうが…」

 

 程なくして武器貯蔵庫の方から大きな爆発音が聞こえ、大きな揺れと共にバランスを崩した建物が崩壊していく。床が斜めを向き、身体が転がっていくのを痛みに耐えて感じながら、彼らに思いを馳せる。 

 

 

「……ちゃんと、成し遂げてくれよ」

 

 

 父の罪は、きちんと私が精算する。尻拭いは任せてしまったが、それまで背負う必要ない、私が全部、私の罪ごと持っていく。

 柱が崩れ、部屋ごと落下していくのを浮遊感と共に感じながら、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

「あぁ、でも……クソ親父の顔拝んでみるのも、まあ悪かないかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ついこの前見たばかりの景色、何よりも懐かしい景色、それに構わずに進んで行く。

 耳に入ってくる声に、聞こえないふりをするように。

 

「……ねえ、これってさ」

「前より霧の濃度が濃くなってるんだろう、前は人影みたいなのしか見えなかったが……」

 

 今は朧げながら人が見えて、音じゃないが、情報として会話が頭の中に入ってくるような奇妙な感覚がある。

 もう記憶がないから覚えちゃいないが、あの時死んでしまった人々がいる。その彼らも霧幻界に行って、ミストとなっていたかもしれないが……いずれにせよ歪な仕組みだ、終わらせなくちゃいけない。

 

「このまま突っ切るぞ、方角はこっちで合ってるか?」

「うん、あの研究所のあったところのすぐ近く。そこに霧幻界への入り口がある」

 

 玲奈の感覚に従ってバイクを進ませる。

 俺の身体に回している腕が、ぎゅっと強張ったのを感じた。

 

「……怖いか?」

「ううん、そうじゃないけど……星羅さんのお父さんがどうなったかは分かったけど、結局私のお父さんはどうなっちゃったんだろうなぁって」

「……」

 

 仁礼宗次郎の遺体がなかったのは霧幻界を複数回観測する中で身体がミストに近づいてしまったから、だというのが星羅さんの見解だった。人を取り込んでいないミストは死亡すると霧となって霧散してしまうから。

 それなら玲奈の父親……紫藤瑛二も同じようにして消えたと考えるのが普通だろう。元となった人間の遺体が見つかっていないだけか、そもそもそんな人間が存在していなかったかは分からないが。

 

「今ならそれも知れるのかなって」

「……確かめに行くか?」

「ううん、大丈夫。あの時が戻ってくる訳じゃないし……今はそれよりもやらなきゃならないことがあるから」

「……そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バイクを走らせ続けて数分、玲奈の勘通り、旧仁礼研究所近くの上空に霧幻界との入り口が存在していた。目には見えないが、ここまで近づけば流石の俺でも認識することができる。

 あとはあの中に突入して役目を果たすだけ、だというのに。

 

 研究所の前に、奴らはいた。

 

「よお、奇遇だなァ」

「呼びつけておいてよく言う」

「まあそう言うなよ」

 

 幽玄……人喰いのミストと、玲奈が波瑠と呼ぶミスト、ミラ。

 どちらも人間の姿で、俺たちの行く手を塞いでいる。

 

「玲奈」

「うん」

「おいおい、少しくらい話しに付き合ってくれたっていいだろ?」

「俺を食うんじゃなかったのか?」

「オレは仲間意識が強い方なんだ」

 

 ドライバーを装着しようとしていた手を止めて、じっと人喰いの方を見つめる。不意打ちがあったとしても玲奈なら気づいてくれるだろう。

 

「ミストってのは自分たちで増えることもできない悲しい種族だからな。だからオレは同じ孤独な同族たちのために種族全体の進化を促してやりたいと思ってる」

「だったら人間が、この世界がどうなってもいいと?」

「所詮は違う生き物だ、生存競争に負けた方から消えていく。それだけの単純な話よ」

 

 随分と自分達に都合のいい論理を振り翳している。

 

「お前ら二人はもう既にミストの仲間入りだ、それもここにいる四人は種として完成に近い存在。ここに来ちゃいないがあのもう一人も深めれば五人………オレたち全員が力を合わされば犠牲を出さずとも、ミストを進化させることが可能かもしれない」

「……だから、お前らの方につけと?」

「オレも考え直したんだ、悪かない話だろ?無益な争いをしなくて済む、ミストを一つの個として成立させれば人間たちが拒絶する理由もなくなるはずだろ?」

 

 目を見る限り、どうやら本気のようだ。

 どれだけ俺たち二人の返答に期待しているかは分からないが……もしこちらが承諾すればそのために動こうとするんだろう。

 

「どうだ?」

「断る」

「……何故だ」

 

 人喰いが敵意を剥き出しにし、周囲の霧が揺れ始める。

 

「悪いが話はもうミストがどうとかそういう次元の問題じゃなくなってんだ、この世界が滅ぶかどうか、そういう話になってんだ」

「霧幻界のことか?それなら——」

「それに勘違いしてるようだから教えてやるが……俺も玲奈も人間だ、ミストじゃない」

「……奏多」

 

 ミストの境遇に同情してやることもできるが、それでも俺たちは人間として生きていく。これまでずっとそうしてきたように。

 

「話を戻そう。生存競争って言ったな?その通りだ」

 

 玲奈と目を合わせて、互いのドライバーを腰に装着する。

 

「勝ったほうがこれからの世界を生きていく、今から始めるのはそういう闘争だ。……分かりやすくていいだろ」

「……あァ、残念だよ」

 

 ミラと人喰いの身体が霧に包まれ、怪人の姿となる。

 人喰いの方が幾分か姿形が変わっているように見えるが……気配から見て同族を何人か食って己の糧としたか?仲間意識が強いだなんて、聞いて呆れるが。

 

「玲奈、行こう」

「うん、一緒に!」

 

 

【Order:Code.FAIL】

【Order:Code.AIGIS】

 

 互いに目を見合わせ、白色の霧の入ったヘイズチューブを同じ動作でドライバーへとセットする。

 これが最後の戦いだと、そう覚悟を決めて。

 

「変身!」

「変身っ!」

 

【Awaking The Liberator FAIL】

【Incarnate The Seeker AIGIS】

 

 

 二人の身体が霧に包まれ、姿を変えていく。

 純白の翼に包まれた戦士と、白銀の鎧を纏った戦士。

 

 フェイルとアイギス……二人の仮面ライダーが、ここに並び立った。

 

「終わらせよう、今日で必ず」

「変えるんだ、俺たちの世界を」

 

 

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