仮面ライダーフェイル 作:ケサランパサラン
「玲奈」
「うん」
【Luft Burst】
【Plasma Burst】
玲奈が風を纏わせたリングを受け取り、俺がプラズマコアで強化した身体能力と、俺の銀色の霧を纏わせて思いっきりぶん投げる。豪風を吹かせながら高速で飛んでいくリングはミラと人喰いの間を割り、両者を風で押し出し、周囲の霧を吹き飛ばして分断する。
そのまま玲奈と同時に突撃し、それぞれ交戦を開始する。こっちは人喰いと剣で切り結び玲奈たちから距離を取る様に立ち回る。
玲奈はミラ、俺は人喰いと決着をつけると事前に決めていた。
「随分血の気が多いじゃねェか、なァ?」
「暇じゃないんでね、遊んでやる暇はないんだよ」
「遊んでる暇があるのか、よ!!」
長剣と人喰いの棘がぶつかり合う。人喰いの姿はついこの間とは違って赤と黒だけでなく様々な色が身体の各所に刻まれていた。人喰いの中に複数の気配があるのを感じる、やはり共食いをしたのだろう。
「変化するってのは生の特権だよなァ?停滞し続けるお前ら人間と違って、俺たちミストは変わって、変わって、変わり続ける。お前だってそうだろ?ミストになって変わったじゃねえか」
「お前が人間語んなよ、少しずつ変わってきたんだ、
撃ち出された棘を回避しようとするが、目の前で棘が破裂して小さな棘となって周囲に拡散する。プラズマコアの高稼働状態ですぐに距離をとって回避するが、続け様に何発も撃ち込まれ続ける。
「変わった?笑わせんなよ、いつまで他者を誹りあって、傷つけあって、争い続けてんだよお前らは」
「常套句だな!自分に都合のいい物差しで物言いやがって!」
「そいつァお互い様だなァ!!」
奴の腕の棘が異常に肥大化していく。
こちらも剣に霧を纏わせて、撃ち出された極大の棘に合わせて長剣を身体を回転させながら投げて棘と相殺させる。直前で炸裂し破片を周囲に拡散させたが、剣が纏っている白銀の霧に触れたものは例外なく霧となって霧散していく。
「俺は停滞を望まない、変化を渇望する。永遠の停滞を嫌い、劇的な変化を、進化のみを選び続ける!!そいつがオレの生き方さァ!!」
「お前のその身勝手な願望で何人犠牲になってると思ってる!」
「知らねェよ!何度も言わせんなよこいつは生存競争なんだ!闘争に敗北した奴から淘汰されていく、なんてことのない当たり前のことなんだ!」
奴の身体が変化していく。
腕はより強大に、脚の形は鳥類に近く、肥大化した胴体には歯のついた口が大きく開いている。どんどん人の形からかけ離れ、様々な生き物の特徴をごちゃ混ぜにしたその姿は、まさにキメラと言うにふさわしいものになっていた。
「お前が人間を名乗るのならそのまま停滞していろ。だがオレは、
「———っ!!」
莫大なエネルギーの増大、奴の腹の口に収束した紫色のエネルギーがビーム状となって真っ直ぐこっちに向かってくる。回避が間に合わず手に持っていた剣に銀色の霧を纏わせてビームを霧散させ続けることしかできない。
その状態のまましばらく耐えていたが、先にこちらの霧が削り取られ剣が折れる。ベルトから装甲を乱雑に射出して盾がわりにして直撃を避けるが、衝撃で身体が大きく吹っ飛ばされた。
スラスターを噴かして無理やり姿勢制御しながら、折れた剣を地面に突き刺し減速する。
「変わる変わるって……そんなに大事か、それが」
剣を投げ捨て、新たな剣をドライバーから射出し手に取る。
「劇的な変化もいらない、静寂な永遠もいらない。ただ緩やかな今と明日を望む……それがそんなに悪いことか?」
「良いか悪いかじゃないってのがまだ分かんねェのか?世界は今、オレたちに変わることを強いてるんだろうが」
「……だったら」
プラズマコアによって生成されたエネルギーが全身を駆け巡る。
「そんな世界をぶっ壊すのが、俺の役目だ」
剣をもう一本取り出して両手に構える。
白銀の霧を纏い、全ての霧を断ち切れるように。
駆け出したこちらを迎え撃つように人喰いをは棘をこちらに向けて乱射してくる。それを伏せて飛んで走って避けて、避けきれない分は剣で棘を断ち切る。
棘を飛ばしながら腹部の口にエネルギーを貯めて放出してきたのを、右手に持った剣を前方に投げることで迎え撃つ。そのまま射線から外れて横から人喰いに切り掛かる。
エネルギーの放出を維持しなければ剣に貫かれる不自由な状況、切り上げるよう剣を払ったが、突如人喰いに生えてきたもう一本の腕に剣を持っている手の方を直接弾かれる。
「チィッ」
放出と剣の均衡が崩れ、霧を剥がされた剣が吹き飛ばされ、ゆっくりと人喰いがこちらに向き直る。
人からかけ離れた形になったかと思えば、今度は腕が追加で2本生えてきた。もちろんその腕にも棘は搭載されている。
「オレは進化し続ける。お前がどれだけ小細工しようが早くなろうが、オレはその度に自分の存在を一つ上の段階へと昇華させる。……お前に勝ち目なんざねェよ」
さらに弾幕の密度を増した棘が視界を埋め尽くす。
「クソッ」
これを掻い潜らないと近寄れない。近寄ったところで有効打を与えるのにも苦労するというのにこれだ。
「つくづく、厄介な奴らだよ…!」
「ああもうっ!!」
波瑠を奏多たちの方から分断させたのはいいけれど、周囲にこれだけの量のミストが潜んでいるとは思わなかった。まあこれだけ周囲が霧に囲まれているのだから当然だと言えば当然なんだけど。
一番の問題は、波瑠の力。
なんとなく分かっていたけれど、波瑠の力は霧に何かしらを投影する力。彼女が何度もやっていた霧で姿を隠していたあれはそれを利用したものなんだと思う。
交戦を開始して早々に姿を消した波瑠はどこかに潜んでミストたちをけしかけてくる。そのミスト一人一人に波瑠自身の怪人の姿を投影して。
「どいてッ!」
リングで加速をつけて回し蹴りを放って周囲に張りついていたミストを一掃するけれど、直ぐにミストが周囲に沸いてくる。
こういう自我も力も弱い雑魚ならまだいい、問題は……
「——っ!?」
嫌な気配がして身体を逸らすと、周囲に張り付いていた波瑠の姿をしたミストから液体の滴った針のようなものが口から飛び出してきて私のいたところの空気を割いていた。
直ぐに風で無理やり引き剥がして、上空に飛んで回避する。けれどそれを逃すまいとまた波瑠の姿をしたミストが複数体後を追って飛んでくる。
下にリングをつけて風を飛ばして落とそうとするけれど、そのうちの一体が高速で飛んで私の頭上を、もう一体が口から何かネバネバしたものを飛ばしてくる。それごと下にいるミストを風で撃ち落とすけれど、背後を取ってきたミストには対応しきれずに思いっきり背中を地面に向けて蹴り落とされてしまう。
これだ、何が厄介かってちゃんと変異体相当の奴らまで全員同じ姿をしているもんだから区別がつかなくてどうしても対応が遅れる。よくよく見ればそれぞれ気配が違うけれど、それをいちいち確かめている余裕はもちろんない。
【Luft Burst】
両手に持ったリングを自分の周囲を巡らせるように吹かせた風に乗せて、私の周りをぐるぐると周回するように回らせ続ける。地面に着地した側から動き回って、近づいてくるミストを斬り、そのままさらにリングを増やしていく。
「こそこそ隠れてないでさぁ!お話ししよう、よっ!!」
周囲のリングに霧をさらに纏わせて刃を大きくして、鋭い風を纏わせながら回転速度を上げて解き放った。
複数の刃が周囲に放たれ、近くにいたミスト全員の胴体を真っ二つにして撃破する。
「もう、話すことはない」
「フーッ……冷たいじゃん」
「私の役目は時間稼ぎ、幽玄が合流するまであなたを削り続ける」
ミストは無尽蔵にやってくる。
明らかに霧幻侵攻の影響だ、流石にこの量はおかしいし……最初に変身した時にいたような普通のより強いミストもちらほら感じ取れる。でもそういうの全部まとめて同じ見た目にされているんだから厄介極まりない。
波瑠の声のしてきた方に意識を向けてみるけれど、霧に紛れて姿を消しているのか、そもそも霧とミストが多すぎて特定の一人を探し当てるっていうのも難しい。
全力をぶっ放せばここら一帯の霧を全部吹き飛ばして炙り出すこともできるだろうけれど、後に大仕事が控えているからやりすぎてガス欠になってしまっては元も子もない。
「っ!」
一体のミストが殴りかかってくる、それを迎え撃とうと振ったリングは空を切ってその姿が霧散する。
その後ろから突進してきていたミストを視認した時には既に遅く、どう考えても当たっていない距離から尖った棘のようなものが飛び出した肩に突進されて軽く吹き飛ばされる。見えないけどしっかり実体はあるんだからたまったもんじゃない。
それに加えて、等々何もない場所に姿を投影してきた、こうなってくるといよいよ判別してられなくなる。
実体のない分身と実体のある敵が入り混じって、視界は妨害してくるし紛らわしいし分かんないし鬱陶しいし。
イライラしてる中で異様な気配の集団を感じる、ミストはミストだけれど今まで見てきたものと違うような。
すぐに霧で防御するための壁を作り出した瞬間に、銃声のようなものが聞こえると同時に壁に鋭い衝撃が無数に伝わってくる。
「……銃」
霧幻界の霧が溢れ出したことで進化がさらに進んだのだろうか。
これまでミストが自分の特徴として再現できるのは生物としての特徴……多分情報のフィードバックと動植物の意識が霧幻界に集積したことによる情報の蓄積のおかげだと思うけれど。
無機物の再現、それも銃火器のような複雑なものを再現している。私やロウのような複製じゃない特徴として再現したもの。
「いよいよって感じ……」
急がなきゃ、このままこうしていても仕方ない。
【Luft Burst】
「フーッ……!」
まだまだ、彼には届かない。
リングの中に通る風を絞って細くしていく。分散なんてしようのないくらい細く、早く、強く。
一気に風の出力を上げた途端、私の体はとてつもない速さで前へと飛び出した。すれ違いざまにミストを斬って斬って斬りまくって、分身を出してフェイントされても、そもそも追いつかせなければいいと。
ただひたすらに加速し続ける。
彼はこれよりももっと速い力を制御していたんだ、私だってもっと自由にやってやる。
遠くの方で銃撃をしてくる方のミストも急接近してリングをぶん投げて一掃する。視界が目まぐるしく変わる中、自分の勘だけを頼りにミストを殲滅していく。
「っ…!」
次の瞬間、周囲が波瑠で埋め尽くされた、人の姿や怪人の姿も入り混じった、見ていたら頭がおかしくなりそうな光景。これじゃ本当に何の区別もつかない。
だけどこんな目眩し、何も意味はない。
「そんな寝ぼけた分身でぇ!!」
前方にリングを投げて、それに追従するように駆け抜けて前方へ思いっきり跳ぶ。上から見るとどれだけ分身を出して私を惑わせようとしていたかがよく分かる。
霧への投影ができなくたって、私には私のやれることがある。
白色の霧を全身から大量に放出する。
散っていった高濃度の霧はそれぞれ集まっていき、人一人くらいの形になって固まっていく。
少し経って宙に現れたのは無数のアイギス、実体を持たない分身じゃない、私が私の霧で作り出した、言ってしまえば新しい体、それが数え切れないくらいに現れる。
同じ姿をした怪人と仮面ライダーが地面と空にそれぞれ無数に漂っている異様な光景、少し前までの私が見ていたらとても現実とは思えなかっただろう。
だけど…
「これでイーブン…!!」
私の意思に従って、分身が風を纏いながら地面に向けて突撃していく。風と共に攻撃を繰り出して敵のミストも分身も全部蹴散らして霧を晴らしていく。風をめちゃくちゃに起こして、リングを複数投げて地形ごと全部切り刻んでいく。
霧を大量に放出した影響で一瞬頭がクラっとしたけれど、踏ん張って空中から下を見続ける。
姿を投影していた霧が晴れていき、本来の姿が見えるようになった側から分身が突撃して撃破していく。それが何度も繰り返され次第にミストが霧散し消失していき、風で霧が晴れていく中、ようやく波瑠の気配を感じることができた。
「見ぃつけたっ!!」
「…っ!」
手が空いた分身を回収して霧として私の中に戻しながら波瑠の方へと突っ込む。また身体から出した霧に身を隠そうとしていたけれど、近くに着地した拍子に思いっきり霧を風で吹き飛ばして阻止する。
「滅茶苦茶ばっかりしてっ…」
「陰険よりマシだっての!」
【Luft Burst】
風で無理やり波瑠の体を引き寄せ、風を纏った足で近寄ってくるその胴体に足を突き出す。衝突した瞬間に突風が周囲に吹き荒れ、周囲を構成している霧ですら吹き飛んで元の瓦礫の街に一時的に戻ってしまう。
風が収まった時、波瑠の姿は人間に戻って、地面にペタンと座り込んでいた。自分の両手を見つめて不思議そうにしている。
他のミストが全員いなくなったのを確認してから、分身を私の身体の中に戻していく。全部回収してしまえば消耗も抑えられるってわけだ。
「……なんで」
「友達だもん、一応ね」
「………」
蹴りを波瑠に当てた時、風で霧を吹き飛ばすのと一緒に波瑠の中の霧に干渉して、怪人態になれないようにした。波瑠自身に傷はないけれど、これでもう戦うことはできないし、霧への干渉の力も奪った。
他のミストはともかく波瑠はちゃんと話せるから、本当はずっとこうしたかった。
「寂しかったんだよね、ホントは」
「…え」
波瑠の手を握って目線の高さを合わせて仮面越しに話しかける。
「普通のミストとも違って、もちろん人間でもなくて……だから幽玄に付き合ってあげてたんでしょ?」
「……私は」
「少なくとも私は。……一緒にいて嫌じゃなかったよ」
「………玲奈」
手を離して立ち上がる、まだやることが残ってるから。
「じゃあ、またね」
「チィッ」
「ほらほらどうしたァ!そんなもんかよォ!!」
棘の弾幕が激しすぎて近寄れない、近づけば近づいた分だけ向こうの射撃精度も上がる、近づいたところでどれだけ速度を上げても感知で対応されるし、そもそも腕が4本もあってやりづらいったらありゃしない。
次第に向こうの狙いの正確になり、動きでも読まれているのか避けきることができなくなってきた。装甲を掠って少しずつこちらを削り取ってくる。
「…やれるか?」
試運転もできずに説明だけされてそのまま来てしまったが、星羅さんとロウから預かっているものがある。自分でも動作のよくわかっていないものを土壇場で使うのは出来れば避けたかったが……
際限なく進化していく奴を突破するには不確定要素に賭けるくらいのことはしなければならないか。
何せ一度負けているのだから。
「——何企んでるかしらねェが」
「っ!?」
しくじった、さっきから固定砲台に徹されていたから向こうの機動力がどれだけ上がっているのかが頭から抜け落ちていた。
プラズマコアで加速しているこちらに追いつくスピードで急接近し、その腕を伸ばしてきた。ギリギリで棘を避けたが首を掴まれ持ち上げられる。全身のスラスター噴かして振り解こうとするが体を鷲掴みにしたその巨大な手は離さない。もう片方の手に長剣を奪われ投げ捨てられる。
「無駄だってこと、思い知れよォ!」
腹部の口からエネルギーが放たれる。
回避のしようもく、至近距離で直撃する。直前で霧を出して防御はしたがすぐに霧散し、身体が大きく突き上げられ宙に舞う。
「くっそ」
装甲が受け止めたとはいえ身体から霧が漏れ出していく。そして何より不味いのは身体が空中に投げ出されてしまっていることだ。スラスターはあくまで動きの補助に過ぎず自由に動き回れやしない。
そして落下の最中、人喰いが全ての腕と口をこちらに向けて一斉射撃をしようとしているのが目に入った。そもそも向こうの狙いが正確なのだからこのままで避け切ることは不可能だろう。
やるしかない。
【Order:Code.Fluegel】
既に攻撃は迫ってきている、ドライバーから複数パーツが射出され背部で組み上がっていくのを眺めながら、ただただ間に合うことを祈り続ける。
組み上がった瞬間、それに搭載されているブースターをすぐに噴かして無理やり攻撃を回避、重心がめちゃくちゃでバランスが取れず落下していく身体をどうにかしてスラスターやブースターを使って姿勢制御し、バランスを取って着地する。
「ふぅ……」
「あァ…?」
着地した俺の背中に大きな翼のような兵装が取り付けられている。4対の翼の形をした黒色の骨組みに銀色の羽、それを見た人喰いが怪訝そうな声を上げる。
「なんだァ?今度は羽虫にでもなんの——っ!!」
軽口を言っている幽玄のすぐ横を尋常じゃない速度で駆け抜ける。背中の翼全体が大型の推進機の役割を果たしており、それに加えてプラズマコアによる身体強化が合わさった結果、自分でも制御できないくらいの速度が出てしまっている。
ブレーキをかけるために全身のスラスターを噴かし身体を回転させて翼で逆噴射をかける。
「はっや……」
「チッ…」
フリューゲル、仁礼宗次郎の研究データの中にあったフェイルの背中に装着する翼の形をした大型拡張武装。姿勢制御するためのこの翼の形と、あり得ないほどの推力を備えたもの。直線に限った話ではあるが、これまでのフェイルを優に超える速度を出すことができる。
あまりにも推力が高く制御できたもんじゃないが……
まあ、速いのには慣れている。
「来いよ」
「………」
棘を構える人喰いに向けて、急加速して思いっきり突進をかける。手に持った長剣を振るうがやはり反応はされて向こうの棘とぶつかり合う。しかしこちらの規格外な速度に押し負けて人喰いの身体を吹き飛ばしながら押し込んでいく。
腹部からのエネルギーの放出に巻き込まれる前に地面を蹴って翼で一気に空中に上昇、そのまま身体を後ろに回転させて射出した銃にエネルギーを思いっきり回してエネルギー弾を放つ。
弾速がそこまでではないため直撃は避けられるが、爆発で煽られた身体にまた剣を構えて突進する。今度は二本の腕で受け止められ、ちゃんと踏ん張られて身体を押し込むまではいかなかった。
残りの二本の腕で棘を近距離で射出してくるが、人喰いを蹴って後ろに宙返りするように避けて、そのまま翼による加速で長剣をすれ違いざまに突き出す。人喰いの防御を掻い潜りその脇腹を貫いた。
「グッ……ハハッ、はえーはえー。だがそれだけか?」
「……しぶといな、嫌になるよ」
再生力も上がっているのか、今さっきつけた傷がもう塞がろうとしている。
「分かってんだろ?このままじゃ埒が明かねェって。世界の命運を決める戦いなんだ……出し切ろうぜ仮面ライダー!!」
「………」
世界の命運、ね。
そんなもの背負ったつもりじゃなかったんだがな。
「いいぜ、乗ってやるよ」
【Order:Code.Blazer】
プラズマコアの解放、こいつに使うのは2度目。
「ククッ……いいねェ!!最高だよお前はッッ!!!」
【Plasma Over Clock】
本来青白い光を放つプラズマコアのエネルギーが超高稼働状態となり、許容量を超えたエネルギーである白色のエネルギーを全身から迸らせる。身体が変わっているから身体の霧が大量に消耗する心配はしなくていいが、プラズマコアが暴走するのは避けなくてはならない。
10秒の制限は既に取っ払っているが、おそらく稼働限界は20秒程度、それを越えれば胸部のプラズマコアが強制的に冷却状態に移行してしまう。そうなればあとは甚振られるのを待つだけだ。
両手に長剣を持ち、その両方に白銀の霧を纏わせる。
「来い!!最後の殺し合いだァッ!!」
奴の声と同時に、白銀の閃光となって人喰いの方へ突撃する。攻撃は避けられるがすぐに方向転換し無理やり翼で再加速して以前よりも攻撃の密度を上げていく。
3度目の突撃で剣が奴の棘に弾かれたのを感じた。おそらく霧の密度を上げた上で霧散させられたそばから急激な再生を行っているのだろう。だからといってこちらのやる事は変わらない。
奴の四本の腕とこちらの二本の剣で斬り合いを繰り返し、数秒間の何十回もの打ち合いの後奴の腕を一本切り落とし、その隙にその胴体を貫く勢いで剣を突き出すが無理やり身体を捻られ腹部のエネルギー放出で引き剥がされる。
後ろに下がった時に重量を軽くするために翼の4対の銀色の羽をパージし、軽量化した身体でさらに加速しする。
スラスターを使って身体を斜めに回転させながら突撃させて、弾かれた拍子に空中へと飛び上がり、そのまま翼の推進力で急降下すると同時にもう一本の腕を切り落とした。
追撃に転じようした瞬間、また首を掴まれ地面へと叩きつけられた。両手に持った剣を突き刺して抵抗するが、その身を抉られても人喰いは気にする様子もなく、腕を再生させる余力もこちらに集中させて意地でもPOCを解除させようとしてくる。
「ぐっ…」
「このまま穴だらけにしてや———っ!?」
もう片方の腕の棘をこちらに向けて、俺の身体に突き立てようとした次の瞬間、銀色の羽が飛来して人喰いの腕を切り裂いた。
「なっ…」
怯んだ隙に振り解き翼の推進力で無理やり距離を取る。
周囲には浮遊している複数の銀色の羽、さっきの加速時に切り離したそれが翼から離れた後も単独で動いていた。
「終わらせよう」
俺の霧が込められたその羽は意志のまま、自由自在に動かすことができる。羽一つ一つに小規模のプラズマコアが組み込まれており、それらもPOCによるオーバーフロー状態になって白色のエネルギーを放出している。
それを刃へと転じ、高速で動き回りながら人喰いへと向かっていく。
「チィッ!!」
全方位への棘の乱射に加えて拡散させた腹部からのエネルギー放出、だがそれら全てをこちらの意志のままに回避し人喰いの方へ急制動と急加速を繰り返しながら突っ込んでいく。放出された白いエネルギーが軌跡となって、人喰いを網のように取り囲む。
当然向こうもなんとか回避しようとするが8枚もの羽に一斉に取り囲まれじわじわと身体を削られていく。
羽と人喰いの攻防の中、翼のエネルギーで急加速し直線上に人喰いの方へとぶっ飛び、剣に纏った白銀の霧で奴の右足を切り落とした。
機動力を奪い、その隙を逃さず残った腕と足を羽が集中攻撃し削り取って切り落とす。
翼による推進力の強化と意思による直接的な遠隔操作が可能な自律飛行ユニットである羽、その二つを兼ね備えているのがフリューゲル。仁礼宗次郎が考案し、星羅さんとロウによって手を加えられた大型拡張装備。
「変化か停滞、どちらかしか選べないなんておかしな話だ」
4枚の羽が達磨になった人喰いの胴体を突き刺し、そのまま空中へと持ち上げていく。
「時には立ち止まって、振り返って、そうやって進んでいく。それが生きるってことなんだって、俺は思うよ」
【Fluegel Plasma Full Burst】
右足に霧を纏い、突き刺さった羽に空中で固定されている人喰いに向かって、翼の最大出力で飛び立つ。人喰いと同じ高さまで一瞬で到達し
再び翼と全身のスラスターが激しく火を吹き、身体を加速させていく。
水平方向に急加速した身体が白い閃光となり、空中に貼り付けられた人喰いの身体を貫いた。
地面へと着地し、身体の芯を捉えた一撃、羽を翼へと格納し、オーバーフローしていたプラズマコアが冷却状態へと入っていく。
「……ククッ、負けだな、オレの」
地面に落下した、身体に大きな風穴の空いた人喰いが笑いながらそう言う。傷跡から流れ出ていく霧に止まる気配はない。てっきり即霧散して消えて無くなるものだと思っていたが、しぶとさは本物らしい。
「不完全な同胞たちを救う、それが自分の産まれ落ちてしまった理由だと、そのために生きてきた」
「…それで何人を喰ってきた」
「別に言い訳はしないさ、ただ知ろうとしただけだ」
身体がゆっくりと、少しずつ霧散していく人喰いをただ眺める。
「人は、何のために生きると思う?」
「……別に。生まれてしまったから、必死に生きてるだけだよ、みんな」
「…そうかい」
奴が満足そうにそう言った後、上空で霧が収束していくのを感じた。
霧幻界から溢れ出してきた霧が、ミストが集まって、一つの大きな個として形を成していく。
10年前のミストラクションで現れた超大型ミスト、その再来。
「なら踏み躙っていけ、お前らが生きるために。
あれがミストラクションの再現なのか、それとも新しく生まれたミストなのかはわからないが、いずれにせよ……
「奏多!」
向こうでも戦いを終えたのか、玲奈が慌てた様子でやってくる。
「行こう」
「うん」
手を取って、玲奈の風を受けて翼がさらに天高く飛翔する。
重力なんかお構いなしに、風に乗って、地上を離れて、上空でミストをその正面から二人で見据えて。
お互いに目を見合わせて、頷いた。
【Fluegel Plasma Burst】
【Luft Burst】
「おーおー、容赦ねえなァ…」
二人の仮面ライダーのキックによって、突き出した拳ごと貫かれ消えていくミストを眺めながら、幽玄がそうぼやく。手足を失い、あとは自分の存在が消えゆくのを待つことしかできない彼は、そのまま翼の風に乗って、霧幻界へと飛び去っていくその二人を見送ることしかできなかった。
「……ミラか、生きてたようで何よりだ」
「…死ぬの?」
「そうらしい」
「…そう」
淡白なやり取りのあと、ミラが幽玄の傍らに座り込む。
「巻き込んで悪かったな」
「……急に殊勝になられると気色が悪い」
「おォ、手厳しいなァ」
死に際とは思えないほど愉快そうに笑う幽玄に怪訝そうな表情を向ける。かと思えば静かに黙り込んで、また空の方をぼーっと眺め始める。
「まあ、そっちも手酷くやられたみたいだし、しばらくは大人しく生きるこったな。どうせこの世界はこれからも続いていくんだ、好きなようにやればいいさ」
「………これで満足?」
「これだけやりたいようにやったんだ、悔いはないさ」
「…そう」
ミラが立ち上がり、その場を離れていく。
「最後にこれだけ。……ありがとう、役割をくれて。…それじゃ」
「……ハッ、殊勝なのはどっちなんだか」
その後両者は一切言葉を交わすことなく、一人は霧の向こうに消え、一人はただの霧へと戻っていった。