仮面ライダーフェイル   作:ケサランパサラン

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訪問

「………ふぅん」

 

 星羅は忙しなく掃除や片付けをしている奏多をぼーっと眺めていた。手際よく済ませていくが、なかなか終わらないことが気になり始める。

 

「この研究所ってそんなに汚かったっけ?」

「汚……くはないですけど、見られちゃまずいものとか色々あるじゃないですか」

「ああ、確かに」

 

 適当にまとめておいた研究資料のファイルなどを抱えて物置を往復する奏多を見つめながら、星羅もつけたままのパソコンの電源を一旦落としておくことにした。

 

「なんかそれっぽいリビングとかありますけどここ一応研究所ですしね」

「まあここで寝泊まりしてるわけだし家みたいなのだろう」

「だから今必死に掃除してんですよ、星羅さんもそれ着替えてください」

 

 ピシッと指を指され自分の服装を見つめてみる。なんと機能的で快適な服装だろうか、このまま床に就くこともできる。これほどまでに合理的な服装はないだろう、改めてその素晴らしさを再確認する。

 困った、着替える理由が一つも見当たらない。

 

「………まあたまにはいいか、言う通り着替えてくるよ」

「あれ今日は素直……最悪押し入れに監禁して不在と言い張ろうかと思ってたのに」

「怖いこと考えるな?」

 

 やれやれと言葉をこぼしつつ階段を上がり自室へと向かう。

 研究資料などは下の階においたままなので、自室は意外と綺麗になっている。というよりは服とベッドとテレビがあるくらいなので散らかりようがないと言った方が正しいか。

 

「……紫藤玲奈(しどうれいな)

 

 何かを思い出すように天井を見つめ、思い出したようにパジャマを脱ぎ始める。

 

 追悼式はあのミストの発生後再開し、通常通り執り行われた。あの一件はインパクトはあったものの、今のこの町にはミストに対抗する手段があるということを知らしめる結果のようになった。

 

「……あくどいことしてくるやつがいるのは知っていたけれど…」

 

 実験にミストを使うのは仕方のないことだ。それに伴う人間の被害者も事実上黙認されてしまっている。

 問題はわざわざ人の多くいる場所で解き放ったことだ。アピールのためとはいえ、あまりにも度が過ぎたパフォーマンスだろう。

 

「こうなってくると全部怪しくなってくるんだよなあ……三澤くんには一応調査頼んでるけど……」

 

 あれはあれでそれなりの立場だからなあと、仕事を押し付けてしまうことに若干の申し訳なさを感じる。しかしながら星羅たちの周りで一番フーガで自由に動けるのは三澤なのでそうする他ない。

 

「……白衣は着たほうが雰囲気出るのかなあ?」

 

 可愛がっている彼のためだ、多少はカッコいい大人を演じてやるのが務めというものだろう。そういって適当に選んだ服の上から誰も見ていないのにも関わらず勢いよく白衣を羽織った。

 

「……窮屈だな」

 

 そうぼやきつつ鏡の前に立つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ…だよね」

 

 何故か傾いている看板「仁礼研究所」の看板を何度も確かめ、場所が合っていることを確認する玲奈。

 

 先日全く既読がつかなかったことを問い詰めると想像以上に奏多が罪悪感を感じており、これはチャンスと思いどこで働いているのか知りたいとダメ元で頼み込んでみると、意外にもこれがすんなりと通った。

 それどころか実際にその場所に来てみるかと聞かれ、そんなにあっさり教えてくれるのなら、今まで連絡すら取っていなかったのはなんなのかと思いつつ気になりはするので、日付を決めて足を運び、今ここにいる。

 

「なんか怪しいけど……」

 

恐る恐るインターホンを押す玲奈。

 返事がこないなと不思議に思いつつ、少し経ってもう一度押そうとしたところで扉が開き人が出てきた。

 

「い、いらっしゃい玲奈…」

「奏多くん、本当にこんなところで働いてたんだ」

「ま、まあ……知人の紹介みたいな感じで……」

 

 どこかよそよそしい態度に少し疑問を感じつつ、促されるままに研究所の中へと入っていく。

 立て看板こそ何故かガタついていたが中は意外と小綺麗であり、普段から掃除をまめにしているのが伝わってくる。

 

「へぇ……なんか、思ってたのと違うというか……家?」

「まあここで生活してるから自然とそんな感じに……」

「研究所って言うからもっと怪しいというか、機械でいっぱいなのかと思ってた」

「もちろん機械はあるけど、ここは生活スペースみたいなもんだから…」

「ふぅん?」

 

 実際は事前に計器などもまとめて物置にねじ込んだ結果であるので、普段はもっと機械が置いてあるのだが。

 

「とりあえず座ってゆっくりして……」

「うんありがと。……その、所長って人はどこにいるの?」

「それは……」

「———私をお呼びかな!?」

 

 無駄によく通る大きな声、それが階段の上から聞こえてくる。

 奏多と玲奈が2人揃って……片方は眉間に皺を寄せ嫌そうな顔をしながら、その声が聞こえた方に視線を向ける。

 

「やあやあ君が紫藤玲奈クンか、奏多くんから話は聞いているよ」

「わあっ、白衣着ていかにもって感じ。えっとあなたが……」

「いかにも、私こそがこの仁礼研究所の所長、仁礼星羅さ」

「おぉ〜……なんか濃い人だね」

「まあ………そう、だな…?」

 

 小声でそう奏多に伝える玲奈だったが、当の奏多は明らかにふざけている星羅に対し、内心で何をしているんだお前はという困惑と掴み掛かりたい気持ちを抑えるので精一杯であった。

 

「あっ、いつも奏多くんがお世話になってます」

「いやいや、そう大したことはしていないよ」

 

 むしろ自分が世話をしている側だが、と喉まで出かかった言葉をため息をと共に飲み込んだ。

 

「さてさて、せっかくのお客人に歓迎をとお茶でも出したいところだったんだが、さっき確認したらちょうど茶葉を切らしてしまっていてね」

「あっいいですよ全然お構いなく」

「てわけで奏多クン買ってきて」

「…はっ!?」

 

 唐突なおつかい命令、思わず大声を上げる。

 

「ついでにこのメモに書いてるのも買ってきて」

「いやあの……何も今やらなくたって……」

「いいからいけって」

 

 どんどん奏多へと距離を詰めてくる星羅、耳元まで近づいたと思うと囁き声で話し始める。

 

「気まずいって表情に出てるんだよ、私が相手しとくから」

「…!」

 

 そんなに顔に出てしまっていたかと分かりやすく驚き、まさかの気遣いをされていることにさらに驚いてしまう。

 不思議そうにこちらを眺めている玲奈とウィンクとサムズアップを同時にする星羅を交互に見て、おつかいの命令に従うことにした。

 

「……ごめん玲奈、そういうことらしいから言ってくる」

「う、うん。行ってらっしゃい……」

 

 玲奈を星羅に任せることに一抹の不安を抱えながらも、この状況に居心地の悪さを感じているのは事実なので大人しく逃避という名のおつかいに身を投じていった奏多。

 その姿を見送った後、ふぅと息をついた星羅が玲奈の方は向き直る。

 

「さて、聞きたいことがあるなら答えるよ、紫藤くん?」

「は、はあ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フーガの関連施設……じゃあここはミストの?」

「その通り、とは言っても私がかなり好き勝手できる環境はあるけれどね。一応の所属はフーガというわけになるかな」

「奏多くん大学も行かずにそんなことしてたんだ……」

 

 柊木奏多と紫藤玲奈、両者が接触してしまった以上全てがバレてしまうまではそう時間はかからないだろう。なら無理に隠そうとするより、一旦何をしているのか、どんなことをしているのか、それをある程度明かした方が時間が稼げる。

 そう思い、玲奈を研究所に招くように奏多に勧めたのが星羅本人だった。

 

「研究って、例えばどんな感じのをしてるんですか?」

「ミストの体組織、霧幻界も含めた研究、あとは……仮面ライダーの戦闘データの収集……とかかな。割といろんなことをしてるけど、主なのを挙げるとこれくらいになる」

「仮面ライダー………」

 

 そう、仮面ライダーが奏多であることを明かすつもりはない。そもそも奏多が玲奈と距離を置いたのはこのミストとのことに関わりを持って欲しくなかったからだ。

 もし奏多が仮面ライダーということを知ってしまえば、必ず玲奈はより深いところまで関わろうとしてくるだろう。

 

(今はまだ、その段階ではない)

 

「仮面ライダーが気になるのかい?」

「気になると言えば気になる……というか、この街の人は大体気になってると思いますよ」

「それはそうだろうねぇ」

 

 仮面ライダー……正確に言えば仮面ライダーフェイル。それが本来の名前だが一般には仮面ライダーという名前だけが浸透している。

 

「……星羅さんって科学者なんですよね。仮面ライダーにも関わってたりするんですか?」

「うん?まあ部分的にはね」

「へぇ……」

「悪いけど中の人については答えられないよ。機密事項が多いんだ」

 

 柊木奏多が仮面ライダーの変身者ということをフーガ内でも知っているものはごく一部だ。基本的に仮面ライダーは謎の新戦力の戦士……そういう認識であり、それはフーガ内外でもそう変わらない。

 

「彼がここに来たのは2年前だ。その頃から連絡を取らなかったんだって?酷いやつだねぇ」

「まあ酷いやつなのはそうなんですけど、奏多くん……ずっと話には出さないけど、やっぱりずっと気にしてたんだ、だから……」

「………」

 

 口を閉じて考え込んだ様子の玲奈。

 

「…君も10年前、ミストラクションで奏多くんと同じように両親を亡くしたと聞いたけれど」

「はい。お互いできるだけ忘れるようにしてて……してたと思ってたんだけど………」

 

 恐らくそれは奏多が玲奈をミストからできるだけ遠ざけるためにやっていたのだろうなと、そう考える星羅。

 

「あの、星羅さん」

「……何?」

「教えてくれませんか、ミストラクションのこと。詳しいんですよね」

「………」

 

 奏多と星羅が案じていた通り踏み込んできた玲奈。こうなるから奏多も遠ざけていたのだろうが、これはその反動の面もあるかもしれないなと星羅は感じていた。

 

「確かに私はテレビとかに偉そうに出てる専門家を名乗った一般人なんかよりは遥かに詳しいが………それでも10年前のあの事件には未だ不可解な点も多い。それでも聞くかい?」

「はい。きっと知らないままじゃ進まないんです、私も奏多くんも」

「……そうか」

 

(聞いていた通り、芯が強そうだ)

 

 仮面ライダーのことはまだ知られてはいけない、改めてそれを再確認した星羅は数秒間目を閉じた後口を開いた。

 

「じゃあ話そうか。10年前の異常霧象および大規模破壊事件『ミストラクション』について。……私のわかっている範囲でね」

 

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