仮面ライダーフェイル   作:ケサランパサラン

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10年前

 霧幻界、世界各地でその特殊な霧の世界は発生し観測されているが、10年前のそれほどの被害を出した事例は他にない。

 それほどこの町で……根振(ねふり)市で起きた霧幻界発生現象は異常であり、後にミストラクションと呼ばれるほどのものとなった。

 

 

 午前11時21分、霧幻界の根振市上空への出現が確認される。

 午前11時24分、上空より全長50mを超える超大型ミストが発生、根振市北部へと降り立ち無差別破壊行為を開始する。

 午前11時33分、超大型ミストが自壊し霧となって霧散する。発生から消失までの9分間の間に町の半分が瓦礫の山と化す。

 

 午前11時37分、霧幻界の消失が確認される。

 

 また超大型ミストの発生と同時にミストも大量に根振市に発生したと見られ、その総数は300を超えるとされている。

 もっともその300体のミストのうちおよそ半数は超大型ミストの破壊行為に巻き込まれ消失し、残った150体のうち数十体はミストラクションの後、人間を取り込み擬態する前に軍によって排除された。

 

 生き残ったミストたちは人間を取り込み擬態する個体と霧となって根張市を彷徨う個体に別れる。今この町で起きているミスト事件の大半はこの時の個体だと見られている。

 

 

「公表されている分だとこのくらいだと思うんだけど、どうかな」

「まあ…詳しい時間までは把握してなかったですけど、大体私が知っている知識と変わらないです」

「そうか」

 

 浅い呼吸を繰り返して息を整える星羅。

 

「私も一応当事者なんですけど何も覚えていなくって…」

「まあ無理もない。あのあたりに住んでいた住民で生きていること自体が奇跡のようなものだ、実際生存率は………いやよそう」

 

 無配慮な話をそのまま続けてしまいそうになり、申し訳なさそうに肩をすくめる星羅。その姿を見て玲奈は気にしなくていいと伝える。

 

「……まあ、ここからがフーガと国が隠している部分だ」

「………聞いておいてなんですけど、私が知っちゃってもいいんでしょうか、そんな話」

「いーよいーよ、私は探究心を尊重してやることをモットーにしててね。知りたいという欲求は尊いものだから」

「はあ……なるほど……?」

 

 椅子に座りながら体を伸ばして身体をほぐしつつ、話していい内容と話しては行けない内容を再確認する。

 

「霧幻界…言ってしまえばミストの故郷みたいなものだけれど、世間一般だと10年前以降現れていないという認識であっているかな」

「はい、そう聞いてます」

「あれ嘘」

「はい?」

 

 あまりにもあっけなくそう言ってくる星羅に思わず聞き返してしまう玲奈。

 

「実は半年に一回くらいのペースで出てきてる」

「え……えぇ!?」

「そうなるから公表されてないんだよね」

 

 霧幻界の出現、それは言わば全ての元凶と等しいことだ。それが半年に一回のペースで起きているということは、毎度毎度ミストラクションの時のようにミストの大量発生、超大型個体による被害が起こる可能性があるということだ。

 想像するだけで血の気が引いていくのを感じる玲奈。

 

「で、でもそんなの見たって話聞いたことが…」

「霧の世界だからね、顕現度合いにも差があるのさ」

「差?」

 

 玲奈の疑問に頷き、自分の頭より上の場所に手を置いて度合いを示す星羅。

 

「10年前のあれはそう…言うなれば完全顕現、空を覆い、誰の目にも見えるほどの深い霧。こっち側とあっち側の世界が限りなく近づいた状態、だから自然とミストによる影響も大きくなってしまった」

 

 手の位置を自分の首より下ほどの高さまで下げる星羅。

 

「で、いつも起こってるのが大体10年前の半分以下、まあ高くても3割くらいの顕現度合い。このくらいだとうす〜い霧にしか見えないし、そんなのが空にちょっとあったところで誰も気づきゃしないってわけ」

「そうだったんだ……誰も気づかないくらいなら影響って……」

「もちろんある」

「あるんだ……」

 

 ただの無害な霧が町の上空に出ているだけなら、ただ少し気候の変な町だなとそれだけで終わる話なのだ。

 

「今出現し続けているミスト、あれを全部出どころを10年前のミストラクションだと思っているのがほとんどだろうけれど、さっきも行った通り霧幻界は何度も発生している。その度にミストも少しずつではあるけれど増えているのさ」

 

 そこまで聞いて、なんとなく自分たち一般市民に情報が伏せられている理由を理解する玲奈。要するに不安要素が多すぎるからだ。フーガも国ももちろん最善を尽くそうとしているが、それでは補えないほどの不安。

 自分たちを安心させるため、言い方を変えれば効率よく統制するために……

 

「フーガがこの10年で排除してきたミストは200を優に超える。人間に擬態する前の個体も含めてね」

「………そう、ですか」

 

 俯く玲奈。事実を伝えただけとはいえやはり怖がらせてしまったかと申し訳なくなってくる星羅。

 

「まあミストの出現が収まることがないというだけだ。その被害を止めるためにフーガがいるわけで、だからそんなに心配する必要は……」

「あっいや、そうじゃないんです」

「…?」

「……奏多くんが、私に何も伝えなかった理由が少しわかった気がして」

 

 何かを思い出すように上の方を向いて、ぽつりぽつりと話し始める玲奈。

 

「奏多くん昔から何か抱え込んでるというか、私を危険なことから遠ざけてて………自分はミストのこと追いかけてるくせに」

「………そうか」

 

 まあ確かに2年も連絡を取らずに失踪のようなことをするのはいかがなものかとは思うが、奏多の考えも理解している星羅はそこまで強く責める気にはならなかった。

 何より、玲奈にミストと距離を取らせるようにさせたのは自分自身なのだから。

 

「……ミストは進化する、というのは知っているかな」

 

 星羅の言葉に顔を上げた玲奈が頷く。

 

「あれはフーガに撃滅、もしくは擬態限界や他の要因で自壊してしまったミストが霧幻界に戻ることで起きている」

「……?ミストが倒された後も生きているってことですか?」

「いや、正確に言えば倒された後の霧だ」

 

 ミストは霧の怪人、人に擬態し、怪人の形を取り……そうやって実態を得ているがその本質は変わらず特殊な霧だ。だから傷口からは霧のようなものが噴出し、倒されると霧となって霧散する。

 

「あの霧はいわば情報の塊なんだ。そのミストの変異だとか適応、進化、能力に記憶……そういった情報があの霧には込められている」

「……それが霧幻界に戻ると、どうなるんですか?」

「……ちょっと待ってて」

 

 そう言って席を立った星羅はキッチンに行き、冷蔵庫から何かを取り出しコップに水を入れて戻ってきた。

 

「えっと……」

「このコップの水が霧幻界」

「え?あっはい」

「そしてこのペットボトルに入ったコーヒーがミストだと思って」

「は、はあ……」

 

 あまりの脈絡のなさに困惑が表情に出てしまうが、おそらくこれからわかりやすく説明してくれるのだろうと口を閉じて聞く体制に入る玲奈。

 

「このコップの水からミストが生まれるわけだけど、ミストはこの世界で活動していくにつれそれぞれの進化や適応して、経験を積むんだ。そしてコーヒーになる」

「なるほ…ど?コーヒー……?」

「そしてこのコーヒーが……ミストが倒されて霧になって、霧幻界に戻ってしまうと…」

 

 コップの中にコーヒーを注ぐ星羅。

 

「水で割られるんだ」

「……??」

「今のは冗談」

「えぇ……?」

 

 納得しようとしたところをまた脈略のない冗談を入れられ困惑させられる玲奈。

 

「まあこうして混ざってしまうわけだ。そしてまたこのコップの水からミストが生まれる、するとどうなるか」

「……コーヒーの混ざったミストが生まれる…?」

「そういうこと、だからフーガはミストを構成しているあの霧を回収しているわけだ。それを元にして次に生まれるミストが進化しないように」

 

 コーヒーの混ざった水を一気に飲み干し「まっず」と溢す星羅。

 

(あっやっぱりこの人変な人だな…)

 

 変な納得をした玲奈。

 

「まあこの何が混ざるかにもよるんだが………君にはフーガ最大の汚点……は言い過ぎかもしれないが、一つのやらかしを伝えておく」

「やらかし…?」

「10年前、ミストラクションが起きた時から今に至るまでフーガが撃滅できていない個体……()()()()ミスト」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 根張市北部を見渡せる高台がある。買い物ついでにそこに寄った奏多がぼーっと眺める。

 

「……今はまだ平気か」

 

 体にこれといった不調はない。戦闘時も問題なく戦えているし、検査の結果も良好。

 

「…まだまだ、終わるわけにはいかない」

 

 10年前のあの日から。

 潰れた家族の姿を見た時から、1人だけ生き残ったということを理解した時から、ずっとその意味を求めてきた。

 

「…死んでも守るよ」

 

 まだ瓦礫だらけで撤去の進んでいない町。立ち入り禁止となった自分の住んでいた地を……自分たちの家があったであろう場所を静かに眺め、1人決意を固める奏多。

 

 

「——良い眺めだよなァ、ここはよ」

 

 驚いて振り向く。

 気付かぬうちに背後に立っていたその男が、自分と同じように柵に手を置いてもたれかかり景色を眺める。

 

「…良い眺め?」

「おっと気を悪くしたか?そりゃ悪かった」

「いや……別に」

 

 短い髪の茶髪の男。

 

「俺にとっても思い出深い場所だからよ、こうやって一望できるのがいいなって思っただけだ」

「………」

 

 良い眺め、思い出深い。

 言葉の一つ一つがいちいち引っかかる、その所作でさえ怪しく思えてくる。

 

「もう10年も経つんだもんなあ、時間の流れってのはこういうのを言うんだろうなァ」

 

 そう言って柵から手を離し、高台を降りる階段へと向かっていく男。その男から片時も目を離さない奏多。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人を喰うミスト?」

「10年前、人に擬態したその個体を見つけたフーガはあろうことかそれを取り逃し、その後2度と人を喰うミストを確認できていない」

「……じゃあそのミストは…」

 

 既に自壊し、霧幻界の霧と混ざってしまったのでは。そうなると人を喰うミストが大量に現れるということになるのではないか。

 その考えを否定するように星羅が首を横に振り、口を開く。

 

「言っただろう、人を喰うミストを確認できていないって」

「……あっ」

 

 ミストが人に擬態してその状態を維持できるのは長くても5年。5年経って自壊しミストが霧幻界と混ざり、新たなミストが生まれてくるのなら。人を喰べる特徴を得たミストが発生するのであれば。

 5年間一体も人を喰うミストを確認できていないのはおかしい。

 

人喰い(マンイーター)……そう識別名を与えられたそのミストは今も生きている可能性がある」

「……5年の寿命を超えた、人を喰うミスト…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怪しんで追いかけてきた青年を撒いたその男は路地裏に入り、何かを咀嚼していた。

 大きな何か……ちょうど人一人分くらいの、肉の塊。

 

「……仮面ライダーってのは、どんな味がするんだろうなァ」

 

 はらわたを引き摺り出しながら、心底楽しそうにそう呟いていた。

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