仮面ライダーフェイル 作:ケサランパサラン
ミストと霧幻界の出現はは全世界で起きている現象だが、特に日本、とりわけこの根振町で多く確認される。ミストラクションのような大きな事件が起きたのも、この町が世界で初めて。
「ミスト事件発生、またも仮面ライダーが解決……」
ぼーっとスマホを眺めて記事の見出しを読み上げる玲奈。
ミストによる事件の中には表立って公表されていないものもそれなりにある、と先日行った研究所で星羅から聞いたのを思い出す。
適当に目についた見出しの記事にアクセスして、それを読み上げる。
【娘がミストの被害を受けた両親、その悲痛な心境を語る】
記事の内容は、三年前に娘がミスト事件の被害者となり一年以上病院に入院することになった両親の悲しみとミストに対する憎しみが込められた演説についてだった。
娘を傷つけられ、娘の時間を奪われ、家族の時間を奪われ、愛情を奪われた。ミストがつけた傷跡は今でも悲しみに満ちている。
ミストに取り込まれた人間の救出は早期であればあるほどその後遺症が軽度になっていく。
玲奈が知っている限りでもっとも早かった事例は、1ヶ月程度ミストに取り込まれていた男性の事例。意識もはっきりしており、1週間程度で退院していたと、そうメディアに報じられていたのを覚えている。
「……それは稀」
家族や親しい人が、その人物について違和感を感じ、警察やフーガが調査をし、ミストであることが発覚した場合、ようやくミストの撃滅の許可が降りる。
言ってしまえば、誰かが気づいて疑わなければいくらでも長引く可能性があるということ。
そして発覚が遅ければ遅いほどミストから解放した後の後遺症も重くなる。
意識障害、言語障害、身体の麻痺……そもそも意識が戻らないなど。
「……なんでミストは、人間に成り代わろうとするんだろう」
これも長年の疑問だったのにも関わらず、詳しそうな星羅に聞くのを忘れてしまっていた。
「奏多くんとも結局あんまり話せなかったし……また時間取れるかな…」
かなり緊張していた様子の奏多の姿を思い出し、なんだか昔に戻ったようだと笑う玲奈。そのあとすぐに星羅の言葉を思い出す。
「
本来ミストは人間に成り代わろうとするだけで、人間を積極的に襲う習性があるわけではない。だがそれはあくまで現段階のミストにおける話。
もし今この街に潜伏しているミストが全員突如として人を襲う習性を得てしまったら……
考えるだけで身震いがする。
「奏多くん……危ないことは嫌だよ…」
久しぶりに動いている奏多とのメッセージのやり取りをぼーっと眺め、寂しくそう呟いた。
「はい、調整済んだよ」
「ありがとうございます」
星羅に調整を頼んでいた『フェイルドライバー』を受け取る奏多、それと同時に緑色の変身時にも使っているような筒状のものを受け取る。
「その新しいヘイズチューブも調整が終わった。使う事態にならないのが一番だけど……まあ備えあれば憂いなしだね」
「珍しい……本部に送ったら戻ってこないのが大体なのに」
『ヘイズチューブ』と呼ばれたその筒城のものを興味深そうに眺めて感心していると、突然部屋の扉が開いた。
「オレが色々手配したからですよそれは」
「やあやあ三澤くんいらっしゃい」
「こんにちは三澤さん」
「こんちは」
軽い挨拶を交わしながら鞄からファイルを取り出し、星羅へと手渡す三澤と呼ばれた男。背が高く奏多よりも肉体が鍛えられているということが衣服越しにも見て取れる。
「いやあ、いつも済まないね。君みたいな立場の人間がいるとこっちも動きやすくて助かってるよ」
「こき使うのも程々にして欲しいもんですが………星羅さんの睨んだ通り、あの日のミストは八島とその他幹部連中の仕込みで間違いないですね」
「やっぱりかぁ…」
八島………フーガの幹部の1人。
以前の追悼式で演説をしていたのを覚えている、あの日のミストの襲撃は不自然な箇所が多いとは思っていたが、やはり上の自作自演だったかと分かりやすく表情に不機嫌を示す奏多。
「それ機密文書のコピーでバレたらまずいんで、読んだらシュレッダーにかけといてください、頼んますよ本当に」
「分かってる分かってる。いざとなったらこの研究所ごと全部ドカンしてまるごと証拠隠滅してやるからさ」
冗談に聞こえないなと、苦笑いを浮かべる奏多と三澤。
「奏多、身体の調子はどうだ」
「おかげさまで。フーガの皆さんが頑張ってくれるから、俺もそんなに積極的に活動せずにいられてますし」
「ならいいが……無理だけはするなよ」
「はい、ありがとうございます」
「おいおい、私のことも労ってくれよ〜」
「あんたはそのだらしない格好どうにかして欲しいんだけど…」
なんだかこの研究所に来たばかりの頃を思い出すようだなと、苦言を呈されいつものようにパジャマの正当性を訴える星羅と淡々と正論を述べる三澤を見てそう感じる奏多。
「まあ言っても聞かないんだろうし好きにすりゃあいいですけど……じゃ、俺は忙しいんでこの辺で。奏多も、無理はするなよ」
「…はい、そっちも頑張ってください」
「おう」
よほど忙しいのか、もてなす暇もなく去って行ってしまった。
「フーガの隊長もして内情も探って……大変ですよね、三澤さん」
「そうだねぇ、働き者の彼をこき使うやつがいるだなんて、私はそいつのことを許せないよ」
「突っ込みませんよ」
「冷たいなあ」
この研究所は実質的にフーガがから独立しているようなもの。フーガからの干渉をあまり受けないが、裏を返せばこちらから向こうに干渉することができないということでもある。
その隔たりを解決しているのが三澤というわけだ。数少ないこの研究所外部の人間の協力者と言ってもいい。
「……玲奈には、どこまで話したんです?」
「んー?ミストのちょっとした生態と、私達のやってることの誤魔化しと……あと、マンイーターについて」
「…マンイーターですか」
もし、誰かを殺したとして。
その遺体を隠さなければいけないとして。
その遺体を丸々喰って、消化してしまったら。それは永久に殺人ではなく行方不明として片付けられてしまうのではないか。人を喰うなんてことはそれを可能にしてしまう。
「10年間この街に潜伏して人を食い続けているのならもっと被害者が出ているはずだろう?ということは奴はこの街の外で悠々とカニバリズムライフを送っている可能性が高いということだ」
「………」
当時の自分に何かができたわけではないとはいえ、それにより被害者が増え続けているであろうことを気にしない、というわけにもいかない。
「見つけて、斃さないと」
「……そうだな、いつ戻ってきても不思議ではないし……もうそろそろあの時期だしね」
「…そうか、もうすぐか」
きっと、人喰いと相対するのは仮面ライダーである自分になる。10年以上生きている変異個体……一筋縄じゃ行かないかもしれないが、必ず斃さなければいけない。
脳裏に玲奈の姿を思い浮かべながら、気を引き締める奏多。
「……強化外骨格に新機能も足しておいたんだ。プラズマコアのオーバーヒートは気にしなきゃいけないけど、きっと役に立つはず」
「…ありがとうございます、色々」
「私は君を死地に送り出しているようなものだし……責任は取らせてくれ」
しんみりした様子の星羅を見てらしくないなと感じる奏多。
「俺の意思ですよ。星羅さんは手伝ってくれてるんじゃないですか」
「己の身を削るようなことを本来は容認すべきではない。………こんなんでも一応、君の保護者だからね」
「……もう20ですよ、俺」
玲奈と話して何か思うところがあったのだろうかと、星羅の俯いた表情を見つめる奏多。
「……10年前のあの日のことを、思い出しちゃってね」
「………それなら、10年前のあの日にも言った通りです。これは俺の意思だ、星羅さんは俺の手伝いをしてくれているだけ。……気負わないでくださいよ、あなたがそんなだとこっちまで調子が狂う」
「…ふん、生意気言って」
この研究所に住み始めたのは2年前から。だが二人の付き合いはそれより以前、ミストラクションの日まで遡る。
まだ幼く傷を負った子どもの彼方と、まだ研究者になったばかりの星羅。
「たまにはあの時の子供が大きくなったなって感傷に———」
サイレンが鳴る。
フーガからの緊急要請、それを知らせるサイレン。迅速な解決や戦略が必要な場合に申請される、仮面ライダーへの緊急要請。
「ああもうタイミング悪いなあ!」
「帰ったら続き聞かせてくださいよ」
「ヤダね!!絶対!!」
地下への階段を降り、射出装置に固定されているバイクに跨る奏多。そしてすぐにフェイルドライバーを腰に装着し、灰色のヘイズチューブをドライバーの右側に装填する。
【Order:Code.FAIL】
「変身」
【Approval The Executioner FAIL】
機械の装甲を纏った灰色の戦士はハンドルを強く握りしめる。
『座標は飛びながらバイザーに送るけど制御はこっちでするから振り落とされないように。3つ数えたら射出するから』
「了解」
間もなくバイクが勢いよく動き出し身体に強い負荷がかかる。研究所の庭から盛り上がってきた不自然な機械の装置から黒い塊が射出され、上空まで打ち上がった後翼を展開する。
『戦闘能力が高い個体らしく避難もまだ済んでいないみたいだ、気を引き締めなよ。それと、健闘を祈る」
「了解…!」