仮面ライダーフェイル 作:ケサランパサラン
へいらっしゃい!と勢いのいい挨拶に二本指を立てて案内された席に着く星羅と奏多。
「……外食って、ラーメンですか」
「なんだい?高級イタリアンとかホテルレストランがよかったのかい?」
「期待してなかったと言えば嘘になりますね」
「かわいいとこ残ってるじゃないか」
ラーメン選ぶところは正直可愛くはないなと、口には出さないが眉を顰めて思う奏多。
「まあ若い男なんてみんなラーメンが好きなもんでしょ。ほらほら好きなのを選びたまえ」
「俺麺類ならパスタのほうが…」
「かわいくないなぁ」
そんな会話をしつつ同じメニュー表を眺めて手短に決めて星羅が注文をする。
「昨日はすぐに寝てしまったから伝え忘れたけれど、検査結果」
「……聞かなくても予想はつきますけど」
「まあ聞きなって。予想通り汚染度数が上がっていた、ステージが1から2……正直、今も少し身体が重いんじゃないかい?」
「日常生活する分には問題ないですよ」
「まあプラズマコアの稼働率も高かったし、ヘイズチューブによる変化もあった。これで済んでるのはむしろ軽症と言えるかな」
手を開いたり閉じたりしている奏多を少し見つめて、ラーメンを作っている店員の方へ視点を戻す星羅。
「やっぱりヘイズチューブの情報を取り込んだ分の変化は負担になるね。旧型より変化は抑えてあるとはいえ…」
「まあ元より装甲で蓋をしてるようなものですし、そのための強化外骨格ですからね」
「ネットで見たよ、黒鉄の騎士だっけ?かっこいいじゃないのさ」
「塗装でもしますか?」
「金メッキとかいいんじゃない?」
仮面ライダーは灰色の体に黒の装甲を纏っている。特に狙った配色ではなく、実用性だけしか考えていないためただの素の色なのである。
「……やっぱり増えてますね、フーガだけで対応できないミスト」
「まあねぇ、細かい区分で言えば今は……第三世代ってところ?フーガの装備もよくなって第二世代まではどうにかなるけど、それ以降はどうにもね」
戦闘力の低い個体が第一世代、そこから進化を重ね、ある一定の基準に達した時点から次の世代へと区分分けされる。
「フーガの方の武器開発もしなきゃならないって考えるとこの仕事辞めたくなるよ」
「俺が路頭に迷うじゃないですか」
「君のは仕事じゃなくて私の趣味さ」
机の上に置かれたラーメンを見て匂いを嗅ぎ、箸を割って食べ始める。
「あづ…」
「ははは、猫舌かい坊や?」
「チッ…」
「本気の舌打ちはやめてね、怖いから」
そこから先は2人とも口を開かずに、ただ一心に麺を啜っていた。
「ふぅ〜、じゃあ私昼寝するから、晩御飯になったら起こしてね」
「はいはい」
「今日は何聴いて寝ようかなぁ…」
早くもパジャマに着替えてベッドへ向かっていった星羅。今朝の眠そうな目を擦っていた姿を思い出し、今日は大人しく寝かせてやろうと静かに見守っていると、奏多のスマホが鳴った。
「……玲奈」
玲奈からの通知、そのメッセージを読んですぐに返事を送ったあと、今まさにイヤホンをつけようとしている星羅に話しかける。
「今日夜は何か買ってきます、何か食べたいものは?」
「んー?なんでも」
「じゃあラーメンの出前取っときますね」
「冗談だろ……おい待て、嘘だよね?ちょっとー?」
呼び止める星羅を無視して、待ち合わせの場所へと向かった。
「…あ、ごめんね今日は急に」
「いやいいよ、暇だったし」
駅前広場、ベンチに座って待っていた玲奈は奏多を見て立ち上がり近寄ってくる。
「前は結局ちゃんと話できなかったし、もし時間あればちゃんと……と思って」
「あー……星羅さんに何もされなかったか?」
「特に何もないけど……星羅さんが?どうして?」
「いや……なんでもない」
下手に何か誤魔化すと墓穴を掘ってしまいそうではぐらかしてしまう。玲奈は不思議そうに首を傾げるが、仕事の関係だし色々あるのだろうと1人納得する。
「…というか、下の名前で呼ぶんだね、あの人のこと」
「…玲奈だって下の名前じゃないか」
「私は奏多くんのうつったから」
「はあ」
頭をポリポリと掻きつつ、なんだか面倒くさい状態になってないか?と玲奈の方に気をやる。
「あの人仁礼って呼ぶと嫌がるんだよ、理由は知らないけど」
「へぇ……でも名乗る時は苗字もだったし、看板だって仁礼研究所って」
「ああ、あの古そうな看板な。建物は新しいのに不思議だよな、聞いてもらぐらかされるけど」
色々と複雑なんだろう、と玲奈に説明してどうにか納得した様子なのを見てホッと息を吐く奏多。
「とりあえず行こっか」
「行くってどこに?」
「ん?私の家」
「なんで??」
「え?」
「え?」
互いに疑問符を浮かべ続ける。
「え、だって外だとゆっくり話せないし」
「カフェとかでよくない…?」
「2人っきりがいいんだけど……」
「う、うぅん……」
(幼馴染……高校まではずっと一緒にいたとはいえ………)
お互いにもう子供と言える歳でもない。
気軽に男を家に上げると言う玲奈のことも心配だが、自分の誇りや信念のようなものが玲奈の家に行くことを拒んでいた。
「ほら、ミストラクション被害者って補助金とか出るでしょ?アパートとかだと割引とかもかかるし、施設出た後一人暮らししてるんだ」
「あぁ……その、気をつけてな?防犯とか…」
「心配性だなあ」
親がいないということは、生活は自分でやっていかなくてはならないということ。玲奈がその辺りはしっかりしているのは分かっているとはいえ、一人暮らしと聞いて心配にならざるを得ない奏多。
「まあ、1人で寂しいってのもあるし……ね?」
「………ぐぅ」
一方的に連絡を切って姿をくらましたような形になっていたのは事実、そこの負い目をついてくるように上目遣いで訴えてくる。
「……分かった」
渋々承諾したのを見て、玲奈は嬉しそうに笑うのだった。
「うへへ〜、自分の家持つのってやっぱり夢だよねぇ」
「一軒家なら自分の家って言えるかもな」
「うるさいな」
部屋を見渡す。
至って普通の部屋、キッチンがあり、洗面台があり、トイレがあり、お風呂があり、それなりの広さで……
(かなりいい部屋なのでは…?)
バイトはしているだろうが、一人暮らしの大学生が住むことできる部屋ではないのではと感じる奏多。
「こういうところに住めるの思うと施設育ちでよかったとか思っちゃうね」
「……正直羨ましい」
「奏多くんだってあそこ広いじゃん」
「いや………違うんだよ、うん、違う」
「…?」
普通の大学生として暮らせている星羅への羨ましさを噛み殺す。自分で選んだ道なのだからと、モヤモヤする思いを押し殺す。
「………写真」
「…ああ、施設の時のだね。奏多くん何も持って行かずに出て行っちゃったから、代わりに私がいくつか貰っておいたんだよ」
「道理で見覚えがあるなと……」
ミストラクションの後、親が子供の生活を保障できない期間、子供を預ける施設が出来ていた。無論フーガの関連施設ではあるが。
彼方も星羅も8年間ほど、そこで生活していた形になる。
孤児は、自立できる歳になるまでその施設にいた。
「……ずっと寂しかったからさ。施設にいた時はずっと奏多くんと一緒だったから、急にいなくなっちゃって。一人暮らしなんてしたらもっと寂しくて」
「………ごめん」
「ううんいいの、今こうやって話せてるし」
奏多は高校卒業後の当てがあるといい、大学受験をせず、誰にも何も言わず星羅の元へと行った。
「まあ傷つかなかったって言ったら嘘になるけど」
「本当にごめん、ほんとに」
心の底から申し訳なさそうにしている奏多を見て、満足したようにフッと笑う玲奈。
「……何か、気になることがあるんだよね」
「………」
「昔から私に言わずに何か抱え込んでるみたいだったから……きっと、今それを追ってる最中なんだよね」
「…そう、だな」
それより深いことは玲奈は聞いてこなかった。
答えが返ってこないことを分かっていたから、聞かなかった。
「奏多くん昔から意味のないことはしないから……やってる余裕がなさそうって言ったほうがいいのかな?」
「………」
「まあでもだから、きっと今やってることは奏多くんにとってはどうしてもやらないといけないことなんだよね」
歩み寄ってくる。
一度は突き放したのに、何も話せていないのに、勝手に察してきて、深い詮索はせずに優しく歩み寄ってくる。
「やりたいことやってるならそれでもいいけどさ。全部終わったら……ちゃんと、私のとこまで帰ってきて欲しいな」
表情こそ笑っているけれど。
その言葉には確かに寂しさが見え隠れしていて。
「…そうだな」
そう答えるしかなかった。
「………いやあ、それにしてもカッコよくなったね!2年も会わなきゃそりゃあ雰囲気変わるだろうけどさ!」
「………そんなことないと思うけど」
「………」
「………」
「な、なんだその目は」
呆れたような目を向けられたじろぐ奏多。
「……私も2年会わなくなって、雰囲気変わってない?」
「雰囲気は変わってないけど」
「………」
「なんだその膨れっ面、不細工になってるぞ」
「なんだとぅ!!?」
ドタドタと詰め寄ってくる玲奈から逃げる奏多だったが、広いと思った部屋も逃げるにはあまりにも狭く一瞬で部屋の隅まで追いやられる。
「ほら!ちゃんと見て!服だってちゃんと選んで買ってるしメイクもしてるし髪の毛も昔より気を遣ってるんだけどなぁ!?」
「ぐぅ……」
「ねえほら、言いなさいよ、ほら」
「分かった分かった……可愛くなったよ。これでいいだろ」
「昔の私は可愛くなかったんだ、ふぅん」
「め!ん!ど!く!せえな!!」
「あっははは!!」
愉快そうに、そして満足げに笑って戻っていく玲奈を密かに睨みつける奏多。
「昔から、ずっと私のこと気にかけてくれてたでしょ?」
懐かしむように話し始める玲奈。
「寂しいのは本当だけどさ、私以外のことでやりたいことがあって、それをちゃんとやれてるなら私はそれでもいいんだ。奏多くんには奏多くんの人生歩んでほしいから」
その言葉に含まれる寂しさには、彼女のいう別の寂しさが含まれているような気がして。
「だから、私は待ってるよ。奏多くんを……ううん、
「………そっか」
その言葉を肯定することも否定することもできず、ただ短くそう答えることしかできなかった。
「うわどうしたのこの量。中華とピザと寿司と……私たち2人っきりの異文化交流でもするの?」
「いや、その………なんか、口が酸っぱくて」
「……?」