日野森家の長女は音楽に嫌われている   作:Lős

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可決されました

 

 カレンダー見ていて、ふと思い出した。

 今日は私の知っている『桐谷遥』の誕生日だ。

 このセカイの彼女も同じなのだろうかとASRUNの事務所のサイトを覗いてみたら、ページのトップではメンバー募集のオーディションが告知されていた。

 ついでに桐谷遥のソロ曲の公募も。

 

 曲の公募。

 なるほど。

 

 私は何となくイメージを膨らませる。

 アイドル桐谷遥と言えば……うん、やっぱり青だろう。青と言えば海、夏……水飛沫とイルカ、とか。

 彼女は身体能力も高いし、アップテンポで飛び跳ねたり動きが大きくなるような曲でも大丈夫だろう。

 それから、初めてのソロ曲……なら、これからもっとステップアップしていくようなイメージも入れたら良いかもしれない。

 ……で、海だとやっぱり季節感のズレが気になる。

 今の季節は秋だから―――温暖な海を目指して泳ぎ回るイルカと、その背に乗って夏から飛び出し、世界を見て回る遥ちゃん。これだ。

 

 目の前にあったシンセサイザーに手を伸ばして、頭の中にある光景を音にしようとする。

 ほとんど無意識の行動だった。

 海の水飛沫だから跳ねるリズムで……。

 歌詞もクールな遥ちゃんよりは笑顔の彼女に当て書きするように。

 

「よし」

 

 そうして思いの外スムーズに出来上がった曲を、私は公募に出した。

 連絡先? 名義?

 仕事用のメアドとか持ってないし……というか採用される可能性は無いに等しいだろうし、プライベートのメアドでいっか。

 名義は『H.H.』で、と。

 

 さて、今日は穂波ちゃんに何を中心に練習してもらうか考えないと。

 

 

 

 

 年の暮れもだんだんと近付く十一月中旬。

 

 一歌ちゃんたちはいよいよ、全員集まってバンドとしての演奏に挑戦するらしい。

 さっきまでこの部屋で最後の練習をしていた志歩ちゃんと穂波ちゃんは、ほんの十分ほど前に天馬家へと出掛けていった。

 穂波ちゃんのドラム練習を本当にギリギリのところで乗り切った私は、今こうしてベッドで寛いでいる。

 中々に大変だった。

 

 “花妃さんが叩いているところも見てみたいです!” って何の悪気もなく言うんだもんね。

 私が叩いたらもうすごいことになっちゃうから。もうやばいから。

 勢いだけでそう断ってやり過ごしてきた。

 その度に志歩ちゃんからの “普通に言えばいいのに……” という呆れた視線が突き刺さったけど、私は穂波ちゃんにとって頼れるお姉さんのままでいたかったのだ。

 

「―――はーちゃん、お風呂が空いたわ」

 

 ベッドでゴロゴロしていると、襖の向こうから雫ちゃんの声がした。

 

「ありがとー」

 

 返事をして立ち上がる。

 窓の外を見れば、もう暗くなり始めていた。

 志歩ちゃんが帰る頃には真っ暗になっているだろうし、連絡して迎えに行こうかな。

 

 

「しくしく……」

 

 お迎えは素気なく断られてしまった。

 私一人で帰れるから、とのことだった。

 お風呂上がりの私は泣いた。

 

「な、泣かないではーちゃん。しぃちゃんもはーちゃんのことが嫌いになったわけじゃないと思うの、だから……」

「雫……」

 

 私は泣き止んだ。

 わざわざ居間で泣いていたのは、ぶっちゃけ最近勉強で忙しそうな雫ちゃんに構ってもらいたかっただけである。

 宮女の中等部に入りたい、と毎日頑張っているのだ。

 一緒に通えるのは小学校以来になるからもちろん応援したいのだけど、それはそれ。

 

「雫はどう? 勉強で何か困ったこととかない? 勉強以外でも、何でも」

「困ったこと……?」

「そう。何でも」

 

 まるで嘘のように涙を引っ込めた私を見て戸惑った様子の雫ちゃんに私は繰り返した。

 

「うーん、特に思い付かないわ……」

「そう? なら良かった―――」

「―――あっ、でも瑞希ちゃんがこの前、不思議なことを言っていたわ」

 

 思い出したわ、と笑顔で両手を合わせる雫ちゃん。

 この前というと、勉強の息抜きに瑞希ちゃんと遊びに行かせた日のことだろうか。

 一体何を言われたのか。

 

「私には良く分からなかったのだけれど、何かのオーディションに私の名前と写真で応募した、って。大丈夫なのかしら」

「―――!?」

 

 ミズキチャン!?

 ちょっと待って。

 オーディションって……オーディション!?

 

「し、雫? その時の瑞希ちゃんがなんて言ってたか、ちょっと詳しく思い出してもらえる?」

 

 そして、雫ちゃんによる回想が行われた。

 

 

 あれは瑞希ちゃんの部屋で、お裁縫をしていた時のこと。

 

『あ、付けるボタン間違えた……ねえ、雫ちゃんって、宮益坂入るんだよね?』

『ええ、入りたいと思っているわ。はーちゃんとしぃちゃんと一緒なのよ』

 

 志歩ちゃんはまだ通ってないよ。

 

『あそこって確か、芸能人でも通いやすいんだっけ』

『あら。単位制があるとは聞いたから、そのおかげかもしれないわ』

『ふーん……じゃあやっぱり、ボクの判断は間違ってなかったみたいだね』

『え?』

 

 ここで、雫ちゃんは何のことかと尋ねた。

 当然だ。

 瑞希ちゃんは答えた。

 

『最近話題のアイドルグループがあるでしょ? ASRUNって! カワイイ子たちだよね〜!』

『あ……はーちゃんもテレビで良く見ているわ。ふふ、あの子たちが映ると、チャンネルを変えたがらないの』

『そうそう、花妃さん見る目ある〜! そこが今、ちょうどメンバーを募集しててさ』

『そうなのね』

『うん。だから、雫ちゃんの名前と写真で応募しておいたよ!』

『まあ、そうだったの。……ねえ瑞希ちゃん、このスカートのここ、キラキラさせたら素敵じゃないかしら』

『わっ、雫ちゃん天才! それ最高だよ!』

 

 以上。

 

 うん……うん。

 

「後でちょっと優希に電話するね」

「?」

 

 瑞希ちゃんのことは優希から叱ってもらうとして。

 

「雫。いい? 雫は、アイドルになっちゃうかもしれないんだよ」

「……? どうしてかしら」

「雫が応募されちゃったのは、アイドルになるためのオーディションだからだよ」

「……あら?」

「ASRUNのメンバー募集のオーディション、って言われたんでしょ?」

「……本当だわ」

 

 雫ちゃんは事ここに至ってようやく、自分の置かれた状況を理解したようだった。

 まあ、とばかりに目と口を丸くしている。

 遅過ぎる。流石に遅過ぎるよ雫ちゃん。

 

「今からでも連絡すれば、応募を辞退することはできると思う」

 

 そういう連絡は早い方が良いだろう。

 友達とか家族が勝手に応募しちゃったけど本人の意志は、っていうのはない話でもないだろうから。

 

「雫は、どうしたい?」

 

 ちなみに私はなってほしい。

 欲望だだ漏れだけど、雫ちゃんがアイドルになったら絶対可愛いから。

 アイドルは雫ちゃんの天職だと思う。

 ……事務所がアレでさえなければ、だけど。

 QTとチアデのプロデュースを致命的に間違えた事務所だけはやめてほしいよね。

 その点、ASRUNの事務所なら良いんじゃない? って思ってる。

 

「私は……以前から、素敵な人たちだと思っていたの」

「それは、アイドルが?」

「ええ。綺麗な衣装を着て、踊って……ファンの方たちを笑顔にして。……私もはーちゃんの歌を聞いて、たくさん元気をもらったもの」

 

 ん。

 私の名前がここで出てくるとは思わなかったけど、私の歌はそのためにあると言っても過言ではない。

 お姉ちゃん冥利に尽きる。

 

「だから私、なりたいわ―――アイドルに」

「……んー、体力仕事だし、色んな人の目に触れることになるし、大変だよ、って言おうと思ってたんだけど」

「それでも、なりたいと思ったの」

「だよね。分かった」

 

 雫ちゃんの目に珍しく力が入っている。

 雫ちゃんは本気だ。

 お姉ちゃんそういうの分かっちゃう。

 

「じゃあ、私は賛成だけど……帰ってきたらお父さんとお母さんにも、雫から説明できる?」

「頑張るわ」

「うん。二次審査は……一次には通ってるとして、もうすぐだね」

「……通っているかしら?」

「雫が通ってないわけないよ。最近ポスト空けてなかったし、確認してくるね」

 

 立ち上がろうとした雫ちゃんを引き留めて、私は外のポストを覗きに行った。

 

 

 案の定、チラシに紛れて分厚めの封筒が届いていた。




主人公の知識について

Leo/need ◯
MORE MORE JUMP! ◎
Vivid BAD SQUAD △
ワンダーランズ×ショウタイム △
25時、ナイトコードで。 ◎
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