「はーちゃん。おうた、きかせてほしいの」
「ねーちゃ。おうた」
「「おうた」」
私、六歳。雫ちゃんは二歳。志歩ちゃん一歳。
可愛い盛りの妹たちの頼みとあらば私はなんだってやってみせる。
「おうたね? よーし、じゃあお姉ちゃん頑張って弾き語りでも―――」
「「それはやー!」」
「……」
知ってた。
私は壁に立て掛けられていたギターを肩に掛けようとして、そっと元の位置に戻した。
分かってます。どうせ私は何を弾いても叩いてもダメな女。
歌しか求められてないんだって。
「じゃあ……証城寺の狸囃子、歌おっか。いくよ? せーの、―――♪」
志歩ちゃんを膝の上に抱えているせいか、雫ちゃんは腕に抱きついてくる。
二歳になってかなりはっきりと話せるようになった雫ちゃんだけど、私が歌っていても一緒に歌ってはくれない。
いつも楽しそうににこにこと笑いながら、体を揺らして私が歌うのを聴いている。
「し、しょーじっ♪」
志歩ちゃんは、歌おうとはしているんだけどまだ上手く発声できないみたいだった。
それでも大変機嫌良さそうに口を開くので、私としては眼福である。
うちの妹たちは今日も天才可愛い。
音楽の授業で鍵盤ハーモニカを吹き鳴らしたら音楽の先生から『日野森さんのそれは演奏じゃなくてテロよ』と言われました。
鍵盤ハーモニカの音を出すのは今後一切禁止だそうです。
次回、日野森花妃の音楽の成績はどうなってしまうのか。
乞うご期待。
「しょうがないわよ、それは」
「ああ。花妃のアレを定期的に聞かされる他の子たちが可哀想だ」
「ひどい」
私の話を聞いた父と母からの評価は散々だった。
アレ、とは随分な言われようである。
私の耳にはちゃんとした音に聞こえるんだから、きっといつか私の音楽を理解してくれる人が現れる……はず。
一人のときにたまに練習してるけど、上達だってしているくらいなのだ。私の感覚では。
「カスタネットどころかマラカスでさえこの世の終わりみたいな音を出すんだから、鍵盤ハーモニカもダメだろうとは思っていたわ」
「やはり花妃は嫌われてるんだな、音楽に」
「そ、そんなことないし……音楽の先生に褒められたこともあるし……」
「歌で、でしょ」
「歌で、だろう」
「ぐっ……」
仲良し夫婦め。図星である。
音楽の時間では授業の始めに二、三曲を歌うんだけど、そこでは私の素晴らしい歌声が披露されている。
先生には家で歌の練習をしているのか、お家の方のお仕事は、と聞かれたりもした。
たぶん親は関係ないし、妹たちに童謡を聞かせているだけである。
「はーちゃんのおうた、だいすきよ!」
「おうた。すしっ」
もう天下無双の可愛さ。
聞いた? 今の志歩ちゃんの言葉。
私も志歩ちゃんすしっ。
雫ちゃんもだんだん喋れるようになってきて、ことあるごとに私に告白してくる。
志歩ちゃんと、父と母にもよく告白している。
魔性の雫ちゃんである。
「この分だとリコーダーも絶望的だな」
「そうね……」
だろうけども。
そんな、養豚場の豚を見るような目をしなくたっていいと思うんだ。
なお、音楽の成績は歌と楽器で相殺されてB評価でした。
音楽活動がしたい。
妹たちから尊敬される姉でありたい。
「〜〜〜♪」
ということで、とりあえず楽曲を投稿してみることにした。
楽器はボロクソに言われている私だけど、DAWソフト―――パソコンへの打ち込みなら何も問題はないはずだ。
楽器も一通り触っているため、音作りに戸惑うことはなかった。
これまでに私の耳が拾い、私の頭の中で氾濫していた音のほんの一部を掬い上げてソフトに打ち込む。
これなら不協和音とは言われまい。
私は出来上がったメロディーを通しで流した。
テントンテケテレデッデッジャン!!
「うんうん、良いね」
ピャー! デンデケダカダカ!!
「最近の流行りからも大きくは外れてないし」
ジャダッダダッベーン!!
「あとは、私の歌をミックスして……」
271:名無しさん
すごいの見つけた
hπps://nicotu.be/JkTUCOA2q?si=8XC7G2TMpiDhOV1
272:名無しさん
>>271 低評価多過ぎワロタ
まあ見てやるか
277:名無しさん
>>271 投稿主の名前見たことないな
278:名無しさん
新人だと?
俺が見てやる
280:名無しさん
すごいのって言い方がもう怪しい
良いのか悪いのか明言しろ
281:名無しさん
油断した
クソが
285:名無しさん
>>271 やってくれたなおい
286:名無しさん
鼓膜死んだwww
は? 鼓膜死んだが?(真顔)
288:名無しさん
なんや
291:名無しさん
>>271 お前もう船降りろ
292:名無しさん
ブラクラか
リンク見た感じ普通の動画サイトっぽいけど
297:名無しさん
ビックリ系のホラー動画では?
301:名無しさん
なんだろこれ
不協和音?
302:名無しさん
深海魚の叫び声みたいな音
307:名無しさん
怖い怖い
踏みたくないから誰か動画の内容教えてくれ
308:名無しさん
サムネ真っ黒でワカンネ
312:名無しさん
これ動画じゃないな
黒い静止画に音が入ってるだけ
316:名無しさん
音?
曲じゃないってことか
321:名無しさん
いや、曲。
だと思う。たぶん
323:名無しさん
恐らく曲ってどういうことやねん
324:名無しさん
>>323 歌ってる声はある
ただ後ろで流れてる音はな…なんだこれ
325:名無しさん
聞いてて不愉快
生理的に無理な音
326:名無しさん
逆に気になってきた
327:名無しさん
え?
普通にめっちゃいい曲じゃない?
328:名無しさん
ボーカルが抜群に良いから
悪魔的なバックバンドが中和されてる
329:名無しさん
>>327 スレ民を罠に嵌めようとするのはやめるんだ
331:名無しさん
>>327 どこがやねん
333:名無しさん
歌はマジでいいな
335:名無しさん
誰が歌ってんだこれ
アカペラ出せアカペラ
336:名無しさん
伴奏とのギャップで歌が良く聞こえるだけとか
338:名無しさん
>>336 歌声とのギャップでなおさら伴奏がゴミに聞こえる
340:名無しさん
良くわからんけど俺この曲めっちゃ好き
チャンネル登録してきた
一通りスクロールした私はキレた。
「―――深海魚じゃないが??」
なんだコイツら。
好き勝手言いやがって。
アカペラ出せだと? 逆張りでインスト曲出してやろうか。
「はーちゃん、おふろはいりたいの」
「!」
背中越しに天使の声が掛かる。
私はレスバを仕掛けるべくキーボードの上をカサカサと動き回りかけた手を止め、即座にパソコンを閉じた。
やはり掲示板は悪しき文明だ。
雫ちゃんの目に触れさせてはならない。
「お風呂ね。でも、お母さんと志歩と一緒に入らなくていいの?」
「はーちゃんとはいりたいの……」
私に嫌がられたように感じたのか、眉をハの字に曲げて悲しそうな顔をする雫ちゃん。
私は過呼吸を起こさないように苦心した。
あかんこのままじゃ死ぬ。
「よしじゃあお姉ちゃんと一緒に入ろうすぐ行こう」
「わっ……!」
雫ちゃんの膝下に手を差し込み、反対の手は背中に添えて雫ちゃんを抱き上げる。
そのままお風呂場まで直行した。