文化祭が終わってしばらく。
今日は久し振りに暁山家の二人と遊びにきた。
「ちょっと見るだけ、見るだけだから」
「うん、見たら満足するはずだから」
賭けてもいいけど無理だと思う。
モールに入っているセレクトショップが、今シーズンの新作を仕入れたらしい。
聞きつけた二人に誘われて、私はため息を吐いた。
鏡見てみなよ。
そんなに目をギラつかせてる二人が見るだけで満足できるとは思えない。
絶対買いたくなるに決まってる。
「うわぁ〜っ! 何このバッグカワイイ〜っ!」
「え、ちょっと瑞希これ似合いそう。着てみない?」
「何これあざと過ぎ〜、フリルはたくさん付ければ良いってものでも……ある! カワイイ!」
「あ、こっちは花妃が着たらむしろアリかも」
「むしろって何……うわ、パンクな服」
モールでウィンドウショッピングをするつもりが、気が付けば三人揃って色々と買い物をしていた。
分かりきっていた結末である。
「で、今日は何の用なの?」
「……ん? 用?」
「昨日の通話で、お願いがあるって言ってなかった?」
私が訊くと、バニラシェイクを飲んでいた優希は首を傾げた。
瑞希ちゃんがそんな姉をジト目で見上げる。
「お姉ちゃん、アレじゃないの? モデルが〜とか言ってたヤツ」
「モデル……あっ。うん、言ったね。言った」
その反応は忘れてたでしょ。
ショッピングに夢中になって誘った本人が用事を忘れるなんて、と私も瑞希ちゃんに倣って湿度の高い視線を送った。
「ごめんごめん。思ったより豊作だったから、ついね」
「まあいいんだけど、モデル? がどうしたの?」
「あのね―――花妃、ちょっとバイトしてみない?」
バイトというのはつまり、優希のお手伝いだった。
優希が通っている高校の服飾科では、専門学校の受験に向けたポートフォリオ作りをしていて。
私が優希のデザインした服を着て、それを写真に撮る。
その写真をポートフォリオに載せたい、と優希は言ってきたのだ。
今までこれといったお返しもできず彼女に助けられてきた身としては、断る理由がなかった。
「……」
「カワイイっ!」
チャタタタタタタタタ。
パシャ。
「次、ちょっと肩越しに振り返る感じで……うん」
「カワイイ〜!」
チャタタタタタタタタ。
パシャ。
「次は正面から、視線は脇の地面を見詰めて……」
「いいねいいね! イイ感じだよ〜!」
チャタタタタタタタタ。
パシャ。
「……」
あのさ。
優希の口数が珍しく少ないのはいいとして。
その横で胡散臭いカメラマンみたいな掛け声しながら連写キメてくる瑞希ちゃんには、どういう対応をしたら良いの?
シャッター音が怖いくらい鳴ってるんだけど。
その写真何に使うの?
「顔がイイ! 顔面だけで大怪獣バトルに参戦できるよ!」
できなくて良いかな。
どういう状況かも分からないし。
「この写真をピクシェアに上げれば万バズ間違いなしだね!」
「やめてね」
「瑞希、ダメだよ」
そうだよ。
「SNSに上げるんだったら、被写体ともっと近い距離感を演出しないと。友達を不意打ちで撮りました、って感じのアングルとポーズで」
「それもそっか」
違うよ。
こんなところで優希に裏切られるとは思ってなかった。
私が抗議しようと口を開くより先に、瑞希ちゃんが近付いてくる。
「花妃さん、急に真横からカメラ向けられて驚いた、って表情お願い!」
「しない。ていうか優希、写真はもう良いの?」
「まだ撮るけど、今は」
パシャ。
「瑞希が可愛い写真撮る」
「へっ……?」
弱肉強食。
哀れ瑞希ちゃんは姉の餌食になった。
そのあとノリノリでポーズとってたけど。
◇
東雲絵名はキレた。
「はぁ〜!? 何なのコイツ……!」
ちょっと前に作成したSNS―――ピクシェアのアカウント。
それは元々、自身が描いた絵を投稿するために用意したものだった。
液タブを手に入れて以来、描いた絵のほとんどは投稿してきた。
今回のはいつもより上手く描けた気がする。
この絵なら私の伝えたいことが分かってもらえるかも。
このテーマは、きっと沢山の人に共感してもらえるはず。
それでも、彼女の絵が注目を浴びることはなかった。
ピクシェアを利用している人たちは、アニメや漫画のイラストしか理解できないのだろう。
そうに違いない。そうでなきゃ、私は……私には。
「な〜にが……!」
何度も自分が認められることを期待して、何度でも否定される苦しみを抱えて日々を過ごしている。
過ごしていたのだが。
その日のトレンドに上がってきた投稿は、絵名にとって断じて許せないものだった。
「何が、『顔が良過ぎるお姉ちゃんの友達を隠し撮りしてみた(本人許可済み)』よ!?」
分かるんだから!
目を丸くして驚いたような表情浮かべてるけど、隠し撮りするような一瞬でこんな完璧な角度にレンズ置けるワケない!
一番可愛く撮れる角度を小一時間掛けて探したに決まってる。
大体背景からしてここ人の家の中でしょ?
ってことはその “お姉ちゃん” とやらの家だとして、なんで友達の家に行くのにこんなバチバチにキメた服着てんのよ。
ファッションショーかってくらいの格好じゃない。
全然隠し撮りしてない!
お姉ちゃんの友達って何!? そのバズるのにちょうど良さそうなポジション何なの!?
そこにこんな綺麗な人が収まってるってどんな確率!?
「……」
絵名は頭の中でまくし立てて、息切れした。
こーいうのがいっちばん見てらんないんだから!
こんな完璧な一枚を撮っておいて、日常の一コマみたいに投稿してさ。
気付かれないと思ってるあたりがムカつくし、実際誰も気にしてないのもムカつく。
何このいいねの数。
人気アイドルのオフショット並……いや、それ以上なんだけど。
何このいいねの数。
絵名は二度見した。
投稿に対するコメントも覗いてみると、『可愛過ぎる』『ASRUNの子に似てる!』、『雫様そっくり』、『雫推しから見ても否定できないレベルで似てる』など。
「ASRUNって……有名なアイドルグループだよね」
こんな投稿が一件しかない一般人と似てるなんて騒がれて、その子もかわいそうに。
そう思いながらも絵名は検索した。
だって気になっちゃったんだから、しょうがないでしょ。
「えっと、“ASRUN 雫” っと……うわ、ホントに似てる」
似ている、どころか同一人物を疑うものの、よく見れば顔のパーツが少しずつ異なっている。
もう双子なんじゃないの?
彼女はほぼ真実まで辿り着いたところで、スマホをベッドに放り投げた。
「あーもう、こんなヤツに構ってる場合じゃないんだった……先生から言われたところ、来週までに直さないと……」
SNSのトレンドを覗いたのは他でもない彼女自身だったが、絵名はそれをこの写真を投稿したヤツのせい、ということにする。
毎週通っている絵画教室で、今日もまたこれでもかとこき下ろされて帰ってきたのだ。
来週、見直してもらうためには今日自分が考えていたことを忘れないうちに描き直さないと。
「次は絶対、褒めてもらうんだから」
呟いて、絵具をペイントパレットに絞り出した。
彼女はかなり独り言が多い方だった。
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バースデー…