日野森家の長女は音楽に嫌われている   作:Lős

6 / 23
一緒に歌いました

えちえちさんを見守るスレ Part48

133:名無しのファン

 こんな曲作れたんかワレェ!

 

135:名無しのファン

 今まですまんかった

 これからはずっとこの路線でいてくれ

 

137:名無しのファン

 えちえちさんに何があったのか

 その謎を解明するため、我々はアマゾンの奥地へと向かった

 

138:名無しのファン

 >>137 何の意味もなかったね

 

140:名無しのファン

 曲の雰囲気変わり過ぎやろ

 

143:名無しのファン

 誰が普通に良い曲を作れと言った

 お前に求められているのはそうじゃないだろ

 

146:名無しのファン

 >>143 少なくとも俺は言った

 

150:名無しのファン

 言うまでもなくみんな思ってただろ

 歌のメロディーも声もいいんだから伴奏ももっと普通の曲作れって

 

153:名無しのファン

 違うんだよ

 えちえちさんの曲は、もっと狂気に満ちてて、それで……!

 

156:名無しのファン

 また勝手に解釈違い起こしてる…

 

161:名無しのファン

 公式との解釈違いはただの勘違い定期

 

162:名無しのファン

 公式が勝手に言ってるだけ定期

 

163:名無しのファン

 実際この曲どうなん?

 俺は初めて聴いたとき、俺もとうとう感染したかと思ったんだけど

 

167:名無しのファン

 H.H. の曲を理解した人たちのこと感染者って呼ぶのやめなよ

 

172:名無しのファン

 ある日突然“理解”るようになるらしいな

 これもう脳のバグだろ

 

175:名無しのファン

 >>163 これまで認知してなかった層も入ってきてる

 普通に良曲で殴られてるだけだから安心しろ

 

177:名無しのファン

 マジでずっとこういうの作っててほしい

 

180:名無しのファン

 この曲に会えてよかった

 なんか励まされたわ

 

183:名無しのファン

 演奏だけじゃなくて、歌もこれまでの曲よりも優しい感じする

 

186:名無しのファン

 曲を聴く人たちに向けて歌ってくれてる感がある

 今までの曲は、こっちに一切矢印が向いてなかった

 それも好きだったけど

 

190:名無しのファン

 >>186 これ

 

194:名無しのファン

 作詞担当変わったんかな

 

196:名無しのファン

 作曲か編曲も変わってる気がする

 

197:名無しのファン

 バンドメンバーも総入れ替えされたよな

 変わってないのはボーカルだけ

 

199:名無しのファン

 (※えちえちさんは一人で活動していることを概要欄で宣言しています)

 

200:名無しのファン

 じゃあもともと多重人格で

 そのうちの何人かが家出したんだろ

 

203:名無しのファン

 家出は草

 

207:名無しのファン

 多重人格は冗談としても

 今回の曲って一曲の中で雰囲気コロコロ変わってないか? 俺の気のせい?

 

210:名無しのファン

 >>207 AメロBメロサビで伝わってくるメッセージが全部違う

 一番と二番でもサビ以外は歌詞の内容が一貫してない

 でもそれは伝える側じゃなくて、伝えたい相手が違うだけなんだと思う

 

213:名無しのファン

 >>210 お前……“理解”ってるな?

 

218:名無しのファン

 一番では『もう少しだけ待ってて』って言ってるのに

 二番だと『一歩踏み出してみて』って言ってくる

 一貫してないってのはこういうこと?

 

222:名無しのファン

 >>218 そうじゃね?

 他にも、後ろを振り返らせようとしてたり前を向かせようとしてたりする

 

226:名無しのファン

 おは両面宿儺

 

227:名無しのファン

 メッセージとかは分からんが

 ぼくはにばんがすき

 

230:名無しのファン

 わいはいちばんがすき

 

234:名無しのファン

 この曲がアップロードされたのって

 なんか特別な日だったりしたっけ

 

239:名無しのファン

 いや

 えちえちさん活動開始一周年とか何にも気にしない人だから

 五年目のときも何もなかったし

 

241:名無しのファン

 気にしないどころか

 たぶん本人は気付いてすらないぞ

 

243:名無しのファン

 この曲を機に引退、とかないよな

 

247:名無しのファン

 ワンチャンありえなくはなさそう

 

249:名無しのファン

 待ってくれ

 この曲から入った新規としてそれは困る

 

253:名無しのファン

 だが概要欄もなあ

 なんか清楚で気になるっちゃ気になる

 『この歌がたくさんの人に届きますように』って

 

256:名無しのファン

 えちえちさんはSNSもやってないし

 もともと不定期だし

 

257:名無しのファン

 【速報】えちえちさん、初めて曲をカバーされる

 

 

 

 

 

 私にとってそれは、特別な曲になった。

 

 

 私では彼女を救う音楽は作れない。

 

 私は彼女たちのように人に夢を見せる音楽も作れない。

 

 私は彼/彼女たちのように人を笑顔にする音楽も作れない。

 

 私は彼/彼女たちのように人を熱くする音楽も作れない。

 

 私は彼女たちのように今を生きる音楽も作れない。

 

 私は彼/彼女たちのように人々の気持ちを声に乗せることもできない。

 

 

 私は人のために曲を作らない。

 私は私の父と母、妹たち、そして学校の友人たちというこの小さな世界のために歌ってきた。

 

 そんな私が作る、最初で最後のセカイのための曲。

 

 『Untitled』とともに、前世からの “私” が抱え続けた想いは消えた。

 前世の私はどうして(・・・・)いつから(・・・・)『日野森雫』を好きになったのか。

 それは、もはや私が気にするべきことではなくなった。

 あるいは、想いは消えたのではなく昇華されたのかもしれない。

 

 この世界の私は見も知らぬ彼ら彼女らの元へ、この歌が届きますように。

 

 

 

 

 今日も豆腐たちに向けた公園ライブをする。

 私が屋外で思いっきり声を出したくなった日とも言う。

 身体の余分な力を抜くべく深呼吸をしていると、ちょうど視界の端を通り過ぎようとした女の子が立ち止まった。

 

「ふんふんふーん……ん?」

 

 カクン、と後ろ髪を引っ張られたような挙動をして、辺りを見渡す女の子。

 私を見つけると、駆け寄ってきて胸の前で両手を組む。

 

「おねーさん、もしかしてこれから歌う感じ!?」

「そうだけど……なんで分かったの?」

 

 すごいね。

 第六感?

 

「分かるよ! 歌おうとしてる空気だったもん!」

「空気……?」

「おねーさんが歌うの見ててもいい?」

「リクエストとかは聞いてあげられないけど」

「全然いいよ!」

 

 元気な子だ。

 志歩ちゃんと同じくらいの歳に見える。

 前世の記憶も、なんとなく疼くような……まあ、歌い終わったときにまだ居たら名前聞けばいっか。

 

 息を吸って、遠くを見つめる。

 

「―――……」

「……っ!」

 

 そして、声を出す。

 

「♪―――っ!」

 

「!」

 

 夏はね、セミがうるさいんだよね。

 自分の声が少し聞こえにくくなるのが苦手で、今も声がブレた。

 ただ、湿度が高いせいか声がよく通る気がして、そこは好きだった。

 声をもっと大きく。

 もっと遠くまで。

 

「♪―――! ――! ―――!」

 

「っ!?」

 

 歌うのは楽しい。

 リズムとメロディーがあれば、言葉以上の情報を伝えられる気がする。

 自分は歌が好きだっていう気持ちも乗せられる。

 

「……っ」

 

 その気持ちが、目の前の彼女にも伝わったのかもしれない。

 私の歌い出しとともに身体を硬直させていた女の子が、意を決したように足を踏み出した。

 何故だろう、足を微かに震えさせながら一歩一歩と私に近付いてきた彼女は、やがて私の隣に立つ。

 

「……、―――♪」

「♪―――! ――!」

 

 そして、息を吸い込んだ彼女は私と同じように歌い始めた。

 私は、歌を途切れさせることなく女の子へと目を向ける。

 彼女も挑戦的な瞳で私を見上げてきて―――私たちは同時に笑った。

 

 自分の中でボルテージを上げる。

 女の子も頑張ってそれに付いてくる。

 

 中々度胸のある子のようだった。

 

 

「……今日も疲れた……いや、いつもより疲れた……」

「はぁ、はぁ、はっ……」

 

 なんとなく、“これが最後の歌” と二人で決めて歌いきった後で、私たちは公園の地面に座り込んでいた。

 しかし季節は夏。

 小学生と思われる彼女を炎天下で何時間も歌わせて、中学生の私も座りっぱなしはマズい。

 

「……飲み物買ってくるね。何が良い?」

「はぁ、は、そんな……」

「んー、よし。汗かいただろうしスポドリにしよっか」

「……おね、がいしま……」

 

 ベンチに置いていた鞄から財布を手に取り、自販機で二つのスポドリを買った。

 キャップを開けてからボトルを女の子に手渡す。

 

「いただきます……んぐ」

「どうぞ」

 

 ベコベコとボトルを凹ませながら飲む少女に思わず笑って、私も口を付けた。

 おいしい。

 

「……ねえ、あなたの名前は?」

 

 半ば確信して、私は問い掛ける。

 

「んぐ……、杏だよ! 白石杏! おねーさんは?」

「私は、日野森花妃。よろしくね」

「花妃さん……すっごく良い歌だった!」

 

 瞳の奥で炎を揺らめかせた少女が笑った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。