【宇宙から】ブルアカ✖️恩人三部作のクロスオーバー【キヴォトスへ】 作:財団先生
アツコ「先生は好きなお花ってあるの?」
花壇の手入れをしている中で、アツコからそんな質問をされた。
“あるよ。桜も向日葵も好きだけど、一番好きなのは『月光草』だね”
アツコ「げっこうそう?初めて聞く名前」
“私の前職で育てているお花だよ”
アツコ「どんなお花なの?」
“この月光草は、小規模な山林の一部に生息している多年生植物で、月光草の中心部は、月のような見た目をした果実なんだ。見た目は向日葵のようだけど、果実がクルミ科に似ているみたいだ。現に、果実からはクルミのように種子があるらしい”
アツコ「食べられるのかな?」
“食べれるけど、オススメしないよ?
短期間の幸福感を与える幻覚症状を引き起こすけど、非常に高い発がん性物質を含んでいるんだ”
アツコ「そう。残念」
“この花は宇藤という女性が所有していた森林から発見されたんだ。月光草は、この森林以外の場所では半年以内に枯死してしまうほど弱い植物なんだ。それに、温度変化には比較的強い耐性を持っているけど、栄養素不足と水不足に非常に弱い上に雑草の侵入によって容易に駆逐されてしまうんだ”
アツコ「手入れが大変そうなお花ね。宇藤さんっていう人が管理していたのかな」
“そうなんだ。彼女は、2、3年ほど管理していたみたいだ”
アツコ「今は管理していないの?」
“……宇藤さんは、月光草の生息エリアの中心に位置する小屋で生活・小屋内のベッドにて白骨化していたところを発見されたよ”
アツコ「亡くなっていたんだ……でもどうしてそんな所で彼女は、生活していたんだろう?森林の中だなんて大変なのに」
“小屋には、彼女の日記が見つかったんだ。その彼女の日記を元にどうして森林にある小屋で生活していたのか話そうか。
2005年5月3日。戸高さんという男性からの連絡が危険な仕事をしていると聞かされていた彼女は、連絡が来ないことは初めてでは無かったので特に問題にしておらず、彼の無事を祈りながら就寝したそうだ。だけどこの日以降、戸高さんならの連絡が途絶えてしまい、彼女の待ち続ける日々が始まったんだ”
アツコ「戸高さんって人を待ってたんだ。帰らない人を待ち続けるなんて辛くなかったのかな?」
“どうだろうね。辛かったと思うよ。だけど待ち続けたんだ。
2005年5月10日。連絡が途絶えて一週間が経過した。以前2に週間も連絡がこなかったことから、そのときと同じ状況だと判断して、夜の空を見上げていたそうだ。日記には、戸高さんとの出会いがかかれていて、森で迷い泣きそうな宇藤さんを、戸高さんが月明りを頼りに導いてくれたことがきっかけらしい”
アツコ「とてもロマンチックね」
“ああ。物語のような出会いだ。
2005年6月2日。連絡が途絶えて1ヶ月後、彼女は、最後に送ったメールを何度も見返していたみたいだ。そんなことをしても、寂しくなるだけだと分かっていてもしてしまうようだね。それと、『夜宵園芸』というお花屋さんについて記載されていたよ。下見に行く予定を立てていたようだ。戸高さんはお花が好きらしく、一緒に行こうと思っていたらしい。
アツコ「宇藤さんは、戸高さんのことを好きなんだって伝わってくる」
“ああ。その心は尊いものだ。
2005年6月7日。この日に下見をしてきたらしい。たくさんのお花があって楽しかったらしい。そしてこの日に写真に写った月光草を見つけたそうだ。彼女は、その写真がとてもきれいで印象に残っていたそうだ。今度、月光草について店員に聞こうと思うほどにね”
アツコ「月光草。どんな風なんだろう」
“とても美しい花だったよ。
2005年6月10日。この日は花について聞きに行ったみたいだ。月光草は、希少で、育てるのがとても難しく、育つ土地が限られるせいで、購入して育てるにはとてもお金がかかるそうで、具体的な金額の高さに驚きすぎて心臓が止まるかと思ったそうだ”
2005年8月31日。それでも諦めきれなかったのか彼女は、いつも月光草の写真を眺めていたそうだ。そんな彼女を見兼ねてか、店員さんは月の花の値引きを提案してくれたみたいだ。彼女は、月光草を買うために仕事を増やして購入しようと行動し始めたんだ。
アツコ「どこまでも戸高さんの為なんだね」
“日記には『私が必ず戸高さんを照らす月を手に入れて見せます。待っていてください』って書いていたみたいだ”
アツコ「なんか照れくさくなっちゃうね」
“そうだね。
2006年7月19日。この日にようやく月光草を購入することができたようだ。森林をまとめて購入しているみたいだね。『かならずこの土地をお花畑にして見せます! そうしたら、きっと戸高さんも帰ってくる場所を見つけられるはずです』って日記に綴ってあった”
アツコ「全て、戸高さんのためのお花畑なんだね」
“それから、戸高さんと連絡が途絶えてからずっと待ち続けた。
『戸高さん、早く帰ってきて、一緒にお花畑を作りましょう。私はまだ待っていますよ』
1日、一週間、一か月、一年。時間がどんどん過ぎていき、それでも彼女は待ち続けた。
『お花畑はあと1年もすれば完成しそうです。私はいつまでも待っています。ただ、少し辛いです。信じ続けるということは、こんなにも難しいことなんですね。心のどこかで、戸高さんがもう帰ってこないのではないかと疑ってしまっています。ダメなやつですね、私』
気づけば、戸高さんからの連絡が途絶えて4年が経過していた”
アツコ「ダメなやつなんかじゃない。待ち続けるなんてできることじゃない」
“彼女は、戸高さんと一緒に居たかっただけなんだろうね。それほどまでに彼が好きだったんだろうね。
2009年9月2日。この日が、彼女の運命を変えてしまったんだ。この日、彼女は月光草の種子を食べてしまったんだ。そして、戸高さんに会った幻覚を見てしまう”
アツコ「種子には発がん性物質が含まれているはず大変なんじゃないの?」
“その通りだ。だけど、彼女はそんな事知らない。日記にはこう記されていた。
『あれは幻だったのでしょうか。幻だとしても、これ以上嬉しいことはなかなかありません。これだけ待って、やっと会えたのですから』
彼女にとってどれほどの救いになったんだろうね。幻覚とはいえ、待ち人に会えたのだから。だからこそ、その先の行動は想像に容易い”
アツコ「まさか」
“彼女は、その日以来、種子を食べるようになった。毎日のように戸高さんと出会うことができる。彼女はとても幸せだったそうだ。だけと、同時に種子に含まれている発がん性物質に体は蝕まれていった。体調不良、関節痛、怠さ、風邪気味……ゆっくりと蝕んでいく。
2010年3月6日。この日、彼女は仕事中に倒れてしまう。病院に搬送され、検査の結果、癌が全身に存在していることが判明した。彼女の寿命は4ヶ月と持たないと診断された。
その日、彼女は月光草が気になってお花畑に見に行った。お花畑にいくつか枯れている月光草を見た彼女はようやく己の間違いに気づいてしまう。
『戸高さんが帰ってこられるように、戸高さんのために始めた花畑だというのに、いつの間にか自分が戸高さんに会えればよいと目的がすり替わっていたのです。そして脆い幻覚に身を任せて、花畑すらおろそかにしてしまいました。私は最低な人間です。きっと、この癌も報いなのでしょう』
彼女には、余りにも重たい報いだった”
アツコ「最低なんかじゃない。私だって同じ立場なら……」
“私も同じ選択をしていただろうね。だからこそ彼女を責めることができない。
彼女は再び再起した。戸高さんが帰ってくることを信じてあの場所で待ち続けることにした。お花畑の手入れを怠らず、彼から帰ってくることを信じ続けた。
『戸高さん、私は待っています。だから帰ってきてください。そうして、花畑で一緒に写真を撮りましょう』
彼女の願いはそれだけだから”
“それから、枯れかけていた花達も元気を取り戻していった。闘病生活に苦しみながら待ち続けた。
『立ち止まってしまった分を取り戻すのは難しいかもしれませんが、できるところまではやるつもりです』
できていたことが出来なくなっていき、辛い中、それでも彼女は頑張った。
腰をかがめることが出来なくなっていき、寝たきりの生活になっていった。
歩くことが困難になり、文字を書くことすら辛くなった。
『2010年6月27日
今日は少し調子が良かったので、月の花の実を植えてきました。今回植えた分が咲けば、土地は月の花でほぼいっぱいになるはずです。この目で見られないだろうことが、少し残念です。
今まで何度も、「私がやってきたことは無意味だったのか」と挫けそうになりました。本当に情けないですね。でも、今はもうそんなこと思いません。ここまでやってきてやっと、心の底からまた戸高さんに会えることを確信することができました。もちろん根拠なんてありませんが、根拠なんていらないのです。
今日は満月です。私はずっと、ここで待っています』
この日以降、日記はつけられていない”
アツコ「……戸高さんに会うことが出来なかったんだ。でもどうして戸高さんは会いに来なかったのかな?」
“戸高さんは私の前職の人間の一人だ。彼はとある作戦行動中に行方不明になってしまった。死体すら見つからず、死亡したと判断されてしまった”
アツコ「それじゃあ、宇藤さんが待ち続けた時間は無駄だったの?」
“……月光草のお花畑付近の森林で戸高さんの白骨化した遺体が発見されました。その地点は探索が行われていた場所で、当時遺体は存在していなかった。
戸高さんの遺体は、宇藤さんの遺体と共にお花畑にある小屋の脇に埋葬した。
月光草は、個体数を増やして、立派なお花畑になっているよ”
アツコ「どうして、戸高さんの遺体があったんだろう?」
“分からない。だけど私は、月光草が奇跡を起こし、二人を引き合わせたのだと思っているよ”