【宇宙から】ブルアカ✖️恩人三部作のクロスオーバー【キヴォトスへ】 作:財団先生
“エージェント・蒼井は『償い』を完了させ、元の世界に戻ってきた日の出来事だ。
エージェント・蒼井が帰ってきたことにいち早く気づいた財団は一人のエージェントを派遣することにした。エージェント・戸神だ”
ミカ「感動の再会……の筈だよね。なのに嫌な予感しかしないんだけど……」
サオリ「ああ。何故だか取り返しのつかないことが起きる気がする」
エージェント・戸神は教会内に入り、かつての先輩と再開した。教会に『償い』に行った時と変わらない姿をしていたことから直ぐに分かったのだろう。彼はエージェント・蒼井に声をかけた。
戸神「やっぱり……蒼井先輩ですか!」
蒼井「お前……戸神か。ずいぶんと老けたな」
戸神「蒼井先輩はお変わりないですね……おかえりなさい」
蒼井「おう、ただいま」
エージェント・蒼井はエージェント・戸神の先輩であり師匠ともいえる存在だった。当時、大学生だった戸神を見出し財団に紹介したのはエージェント・蒼井だ。
エージェント・片岡の後任としてツーマンセルを組み後輩指導をしていた間柄だ”
サオリ「……少し懐かしいな」
“そっか、サオリも後輩指導をしていたんだったね。
エージェント・蒼井はエージェント・戸神に対して現在の日付を聞いた。
蒼井「俺が教会に入ってから何年経った?」
戸神「20年と7か月です。今は2036年の12月。おっと。先輩、御帰還直後で申し訳ありませんが、あなたは財団の管理下に置かれます。全身の精密検査、対話部門によるカウンセリング、ミルグラム検査などを受けることになるでしょう」
蒼井「ずいぶんと"財団の犬"らしくなったな。けどエージェントにしちゃあ牙が抜かれすぎに見える」
戸神「20年も経てば色々変わります。財団は恐るべきシステムで、ひどく正しい。僕は先輩とは違う。先輩のようにならないよう生きてきたんです」
実際、エージェント・戸神は死亡扱いとなったエージェント・蒼井の葬式の後、財団エージェントとして大きく成長した。我武者羅に働き続け、蒼井譲りの手練手管を駆使し、財団の牙となって手柄を上げ続けた。
財団からドロップアウトした蒼井の弟子だと冷ややかに見ていた周囲の人間も次第に彼を評価していった。エージェントの鑑、素晴らしい財団の駒だと。蒼井の名は薄れていき戸神の名が広まるようになった。
戸神「では従っていただけますね?」
蒼井「おれも収容される側になるとはな」
エージェント・蒼井は苦笑したように話した”
ミカ「やっぱり、普通に感動の再会だよね?」
サオリ「二人は仲が良いのだということは分かるが……」
“不穏な空気になるのはここからだ。財団の職員として働く以上、エージェント・蒼井のやったことは許されるものではない。最悪、殺されかねないものだった。だが、今回財団の結論はそうではなかった。エージェント・蒼井の
「殺さないのか?」
という問いにエージェント・戸神は答えた。
戸神「検査の必要はありますが、とくに大きな異常性の発現などはしていないじゃないですか。一定の手続きを経ればエージェントに復帰できると思います」
蒼井「はっ、エージェントに復帰」
その答えにエージェント・蒼井は鼻で笑った。
蒼井「俺は違反を起こした身だぜ。このままおとなしく復帰できるなんて思えねえ。いいとこ記憶処理されての解雇だ。殺されたほうがましだろ────あぁ。そういうことか」
何かを確信したようにエージェント・蒼井はエージェント・戸神に質問した。
蒼井「なぁ戸神。なんでお前がここにいるんだ?」
戸神「教会の担当だからです。先輩を知るためにここまで来たんですよ」
蒼井「けど一人で教会の中に入るのはおかしいだろ」
戸神「先輩がそれを言いますか?機動部隊はすぐ外に待機させています。僕一人で来たのは先輩に警戒されないため、それと先輩が異常なく本物か判断するためです」
蒼井「本物、本物、くくく」
戸神「どうしたんですか先輩。何かヘンですよ。もしかしてあなたは……」
蒼井「じゃあ俺からも言わせてくれ。安全装置を外した袖仕込み銃を掌に収めてるのはどうしたんだ」
戸神「教会内ですよ!?警戒するのが当たり前じゃないですか!」
蒼井「くっくっく」
戸神「何がおかしいんですか」
蒼井「なあ、俺の罪は本当に許されたのか?20年ごときの拷問で許されるような罪だったのか」
戸神「シスター・カタリナの言っていることなんてでたらめです」
蒼井「そうでたらめだ。俺の罪は許されるもんじゃない……。神は俺を許したように見せているだけだ。そうだろ?」
戸神「訳が分かりません。信じる神なんて存在しません。神が許したからじゃない、あんたは自分の努力でここに立っているんだ!」”
ミカ「ダメっ、このままじゃ……」
サオリ「エージェント・蒼井はどうしたんだ?これじゃまるで……」
“言っただろう?自罰的になっちゃダメだって。
明らかに様子が変わったエージェント・蒼井にエージェント・戸神は銃を構えた。
戸神「蒼井先輩、従ってください。あなたは通常の精神状態じゃありません。異常性の影響下にある可能性もあります」
蒼井「そうだ。そうして俺は撃たれて死ぬ……」
戸神「コートから手を挙げてください」
蒼井「戸神、俺を撃てるのか?甘っちょろかったお前が」
戸神「撃てます」
蒼井「可愛い後輩に撃たれて殺される。神はなかなか粋な罰を用意したもんだぜ」
戸神「先輩目を覚ましてください!あなたが信じる神なんて存在しない!拷問は終わったんだ!」
双方に緊張感が走る。お互い、いつでも撃ち合える状況だ。
戸神「ところで先輩……。そこの柱に何かあるんですか?」
それはエージェント・戸神のハッタリだった。エージェント・蒼井が柱へと意識を向けていたのを察知し、隙を作り出した。
そしてその隙を見逃さすエージェント・蒼井の右脚を撃ち抜いた。この場の駆け引きにおいては蒼井が敗北したように見えた。だが。
蒼井「判断が早いな。本物の戸神だったらもっとモタモタしてた。それにそんなピンポイントで狙えるほど銃は上手くねえ」
撃たれた程度の痛みではエージェント・蒼井を止めることはできず、このまま戦闘になった”
ミカ「そんな……どうして?」
サオリ「……アズサ」
“戸神「いい加減にしてください。僕は僕だ。僕は20年間、常に蒼井先輩の影を感じてきました。エージェントとして成長しても、蒼井の弟子と言われ続けた。でも、僕は逃げずにずっと抱え続けた!エージェントになるために、あんたとは違う方法であんたを救うために──!」
撃ち合いは激しさを増した。だが、決着は直ぐに着く。人を生かしたまま捕まえるのは難しい。そのことが勝敗を分けた。
蒼井「じゃあな、戸神の偽物」
エージェント・蒼井の放った銃弾はエージェント・戸神の額を貫いた。赤い花束が頭から噴き出し床に赤が広がった。
蒼井「おら、どうした。起き上がって俺を殺せよ。これぐらいの抵抗で終わる拷問じゃなかっただろ?」
警戒しながらエージェント・戸神の死体に銃を向ける。エージェント・蒼井はまだ拷問が続いていると考えていたようだ”
ミカ「こんなのってないよ……」
サオリ「……私もこうなっていたのかもしれないな」
“銃声を聞きつけた機動部隊員はエージェント・戸神の死体の横に立ちすぐしているエージェント・蒼井を確認した。
蒼井「俺を殺すのは戸神じゃないのか。ああ、後輩を自分の手で殺めて?それで殺されるという罰か」
ある機動部隊員は即座に状況を判断し、蒼井を拘束した。別の機動部隊員は戸神の体に駆け寄り、そして拳を床に叩きつけた。先ほどまで荘厳な静けさに包まれていた教会は今や混迷と喧騒で溢れていた。
蒼井「俺を殺すのはお前か?それともお前か?さぁ早く殺せよ」
蒼井「なぁ殺せよ。違う、理奈には手をかけるな。俺を殺せ」
蒼井「殺せ!俺を早く殺せよ!俺の罪はまだ償えてない!」
暴れる蒼井に機動部隊員は何も言わなかった”
ミカ「どうしてこうなっちゃったのかな……?」
“色々原因はあるが、1つは20年と7ヶ月という時間を理解していなかったのだろう”
ミカ「時間?」
“20年もあれば新人だったとしても中堅からベテランと呼ばれるぐらいにはなる。その時間の重さを理解していなかった。だからこそ新人の頃と比べて偽物だと判断した。結局、彼はまた、向き合うのを辞め、目を逸らしたんだ”
ミカ「……」
サオリ「……エージェント・蒼井は柱の方に意識を向けていたようだが、何があったんだ?」
“エージェント・片岡の身体だ”
ミカ「そっか!生き返ったんだ!それなら少しはマシな結果に……」
“アレを生き返ったとは言えない”
ミカ「え?」
“『蒼井さん……』
『蒼井さん』
『蒼井さん』
『蒼井さん蒼井さん』
『蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん蒼井さん』”
ミカ「っ」
サオリ「っ」
ミカとサオリは背筋が凍ったような感覚に陥った。思わず声が漏れるほどに。
“まるで壊れたレコーダーのように『蒼井さん』としか言わない。感情も意思も何もない。こんなのを生き返ったなんて言わないだろう?”
ミカ「20年間頑張ってその結果がこれ?救いなんてないじゃん」
サオリ「やるせないな」
“エージェント・蒼井は現在、『自身を殺すように』と言う頻度は減ってるが、代わりに教会へ行かせてくれと言っている。今も尚”
サオリ「また懺悔するつもりなのか?」
“……もし教会に行けたとしても『償い』を受けることはできないだろう。あの教会にいたシスター・カタリナは二度と過ちを犯すなといったから”
ミカ「……」
サオリ「……」
“ミカ、サオリ。罪は償わなければいけない。だけどね、自罰的になったら見なくてはいけないものも見れなくなってしまうんだ。
エージェント・蒼井の心はとうに壊れて、あの教会から出れなくなってしまったんだろう。君達にはそうなってほしくないんだ”
ミカ「……私はどうすればいいのかな?自分を責め続けても何も解決しないなら私はどう償えばいいのかな?」
サオリ「私にも教えてほしい。先生が考える償い方を」
“……そうだね。じゃあ、もう一人の男の話をしよう。罪から逃げた先で、罪に向き合うことにした男の話を”