【宇宙から】ブルアカ✖️恩人三部作のクロスオーバー【キヴォトスへ】 作:財団先生
とある廃墟。そこにはアリウススクワッドの生徒達が拠点にしている場所だ。
私は手土産に今日の晩飯の弁当を持参してやってきていた。
アツコ「お久しぶり、先生」
“久しぶり。皆は元気?”
アツコ「ええ。皆、元気よ」
“それならいい。はい、これお土産のお弁当”
ミサキ「ありがとう。先生」
ヒヨリ「うあぁぁぁん!これを受け取ったら対価に何されるかわかりません!もしかしたらエッなこともされるかもしれません!こうなったら、お菓子を追加してください!」
“相変わらず図太いな!まあ、お菓子もあるけど”
ヒヨリ「うへへ、ありがとうございます先生」
アツコ、ミサキ、ヒヨリの3人は相変わらず元気そうで一安心である。私も一緒に夕飯を食べようと席に着く。
ミサキ「あれ?一つ多い」
ミサキがいつもより一つ弁当が多いのに気がついたようだ。
“ああ、それはね……”
サオリ「すまない、先生。待たせた」
サオリのことを話そうと思っていたら、本人がやってきた。
ミサキ「サオリ姉さん!」
ヒヨリ「うわぁ!お久しぶりですね!」
アツコ「サッちゃん、どうしてここに?」
“私が呼んだんだ。自分探しの途中でも仲間に会うのに理由はいらないだろう?”
サオリ「そうだな。会わない内に忘れられては困るからな」
アツコ「サッちゃんのこと忘れないから安心して」
サオリ「そうか。そうだな」
“サオリ。皆で食べよう”
私はテーブルにある弁当を指差しながらサオリを誘った。
今日の弁当はミートソーススパゲティである。皆は弁当を『美味しい』と言いながら完食してくれた。
夕食を食べ終わり、ゆっくりする時間になると、サオリが話の続きを聞いてきた。
サオリ「先生、そろそろいいだろうか?あの子がどうなったのか話してほしい」
アツコ「あの子?」
ヒヨリ「2人だけの話だなんてずるいです!私達にも話してください!」
ミサキ「ヒヨリの言う通り、私達にも教えてほしい」
“そうだね。まずは廃デパートのお話をしよう。そう、きっかけはーーー”
私はアリウスの3人にもSCP-544-jpの話をすることになった。その調査員の覚悟を聞いたを3人はそれぞれ違う表情をした。
ヒヨリ「うあぁぁぁん!皆から忘れられるだなんて耐えられません!私なら全力で逃げてしまいます!」
アツコ「サッちゃんの様子に違和感があったのはこの話を聞いたからだったんだ」
ミサキ「……忘れられたいと思ったことが何度もあるけど、もう考えるのやめようかな」
サオリ「改めて聞くと、少しの時間で調査員の心が大きく変化したことがよく分かるな。罪悪感があったからこそ『忘れられたい』と思っていたのかもな」
“それで、その子の後日談が知りたいんだよね?”
サオリ「そうだ。忘れ去られた彼女のその後が気になる」
“じゃあ、話そうか。
少女は財団に保護された後、両親の元へ返そうとした。しかし、結果は失敗に終わってしまったんだ。なぜなら、少女の両親は少女のことを覚えていなかったからだ”
サオリ「やはり、両親にも忘れられていたのか」
ヒヨリ「えへへ、やっぱり、人生は辛いものなんですね」
“少女を両親の元へ返せなかったことが悔しかったのか財団職員の中には泣いて悔しがる人もいたほどだ。その日、彼女にとって人生最悪の日になった”
ミサキ「博士や研究員達も思ったより人の心があるんだね。調査員の扱いからてっきり残酷な人たちかと思ってたよ」
“財団は残酷ではなく冷酷である。目的のことなら調査員のようなことをするけれど、好きでやっているわけじゃないんだ。話の職員達もそうだからこそ、少女を両親の元へ返せなかったことが悔しいんだ”
“その後、少女は財団が運営する養育施設に預けられ、。名前を失った彼女は新しく『良子』という名前を手に入れた。
財団の人間は時々、彼女の様子を見にきていたことが何度かあったみたいだ。千代巳という新米エージェントとすぐに仲良くなったみたいだ。チョミってあだ名で呼ぶほどに。
授業参観になれば両親の代わりにたくさんの職員達がやってきてくれたそうだ。教室に全く入りきらず、その日は体育室で授業を受けるほどにね
彼女はたくさんの財団職員に家族として愛されていたのだろうね”
サオリ「ようやく彼女は普通の生活を送れるようになったのだな」
アツコ「たくさんの人が彼女を助けているんだね」
“だが、その幸せは長くなかった。彼女は再び家族を失うことになる。後に『嘆きの水曜日事件』と呼ばれる死者86名、重軽傷者102名、行方不明者が41名の前代未聞の大事件だ。簡単に言えば小規模な財団ヘイロー事件が起きたと考えてもらえばいい。
そして、その事件に少女の両親代わりをしていた職員が大勢いなくなったんだ”
サオリ「そんなっ、ようやく前に進めたというのにか!?」
ヒヨリ「やっぱり人生は苦しくて、辛いことばかりなんですね!私の人生も彼女のようにまた不幸が襲ってくるんです!もうおしまいです!」
ミサキ「やっぱり、そう上手くはいかないものなんだね」
“そうだね。でもね、家族を失った彼女だけど前を向いて足掻く職員達を見て彼女も前を向く覚悟を決めたそうだ”
サオリ「強いな。彼女も財団の人間も」
“私達、財団の人間は諦めが悪いんだ。最後の最後まで諦めずに足掻き続けるだろうね”
ミサキ「エデン条約の先生はまさにそうだったね」
“エデン条約の一件は諦めていいものじゃなかったからね。
それから少女は成長し、大学3年生になったある日、彼女はチョミさんに進路相談をしたそうだ。
その頃、彼女に恋人ができたようで、財団関係について相談したかったみたいだ”
サオリ「恋人ができたのか」
“その恋人は後に旦那さんになったみたいだよ?”
アツコ「結婚まで……羨ましいな。だけど、どうして財団関係で相談を?」
“財団は機密組織だ。だから財団のことは誰にも話すことはできない。例え、恋人だろうと、親であろうともだ”
アツコ「やっぱり財団ってそういう組織なんだ」
ヒヨリ「それにしてはこうしてペラペラと話してますけど……」
“この世界に財団はないからセーフ!”
サオリ「それでいいのか?先生……」
“いいの、いいの。続けるよ。
その時、恋人は就職先が決まっていたみたいだったんだ。しかも、内定先は誰でも知っている有名企業の研究職。
ただ、その企業は財団と関係ないところだったんだ。付き合っていた時には既に決まっていたみたいなんだ”
ミサキ「それなら、恋人に隠し事しなくちゃいけないね。そのことについて相談をしたいのかな?」
“彼女は恋人に隠し事をしたくなかったらしい。彼女のような立場の人間は財団に就職しない場合、記憶処理を施して財団の記憶の一切を忘れることが普通なんだ”
ヒヨリ「じゃあ……隠し通すか忘れるかしかないじゃないですか!えへへ……やっぱり人生そう簡単に上手くはいきませんよね……」
アツコ「じゃあ、彼女は忘れることを選んだのかな……」
“いや、彼女は財団に就職しているよ。チョミさんへの相談内容は恋人を財団に就職するように説得する方法だったんだ”
サオリ「なるほど。恋人を財団に引き込むのか。考えたな」
ヒヨリ「でも……どうしてそこまでして財団に就職したいんでしょうか?」
“彼女曰く『絶対に記憶処理を受けたくなかったんです。私は、覚えてなきゃいけないので』だそうだ”
サオリ「覚えておかなきゃいけないって……まさか覚えて」
“そう。彼女は覚えていたんだ。彼女は全てに忘れられた後の調査員に会っている。彼女だけが彼を覚えているんだ”
サオリ「そうか。覚えているのか。調査員さんのことを」
“何十年も経った今でもよく覚えているらしい。
『皆さんがお待ちでした』というアナウンスを最後に、放送室の扉が開いたこと。
扉からもう世界の誰一人覚えていない、オレンジ色の服の少しくたびれた男性と私の目が合ったこと。
涙ぐんだ瞳の中に、覚悟の光が宿っている。恐怖にこわばった顔の中に、優しくぎこちない微笑みを残そうと必死になっている表情。
そして彼は震える手で私の頭を少し撫でて、『よう、お嬢ちゃん』。そう声をかけてくれたことを。
ずっと鮮明に。そして、許されるのならばあの廃デパートにもう一度行こうと思っていたようだ”
アツコ「彼女は廃デパートに行けたの?」
“ああ。無事に再びあの廃デパートに訪れることができたよ。ただ……”
アツコ「ただ?」
“廃デパートの異常性の性質上、2分間という限られた時間しか話せないんだ”
サオリ「たった2分か」
ヒヨリ「こんな短時間で放送室まで行くなんて無理ですよ!不可能です!」
“いや、放送室まで行く必要はない。廃デパートの入口からでも放送室に声が届く。だからこそ、彼女も入口で叫ぶように想いを伝えることにした。
『……覚えていますか?』
『ずっと長い間、私はここで迷子になっていて……貴方に助けて貰いました』
『私、それから元気に生きてきました!友達も、恋人もできました!旅行にも行って、大学も卒業して、私、財団の職員になりました!』
『私は貴方を覚えています!貴方を覚えたまま、生きていくから!貴方のおかげで、私は、私は』
『私は、楽しく生きてこれました!ありがとう、ごめんなさい、私は貴方の優しさに甘えます!貴方を覚えて、生きていきます!』
彼女は涙を拭いて、静寂が戻った冷たい廊下の先を見つめる。返事が返ってくることはないと予想していた彼女は廃デパートから退散しようとした。
そこに、ジジ……とノイズの音がした”
サオリ「まさかっ!」
“皆がハッとして天井の音声機器を見上げる。ノイズは徐々に大きくなる。そして……
——久しぶりだな。嬢ちゃん
アナウンスが流れたんだ”
サオリ「彼女の想いはちゃんと届いたんだな」
アツコ「そうだね、サッちゃん。でも先生、どうしてそこまで彼女のことをそこまで詳しく知っているの?」
“彼女は私の先輩なんだ。新人の頃、右も左もわからない私に親身になって財団について色々と教えてくれたよ。
放送室については、母の恩人について調べていた際にたまたま見つけてね。気になって先輩に聞いたんだ。
先輩は快く話してくれたけど、もしかしたら調査員のことを自分以外の誰かに覚えて欲しかったのかもね”
サオリ「忘れられる辛さを知っているからこその行動なのかもしれないな」
しばらく静寂に包まれた。その状況を変えたのはミサキだった。
ミサキ「……どうして先生はこの話を私たちに話したの?」
“先輩はこんなことを話していた。
『あの日、私は家族を失った。
あの放送室から救出された後、大人たちは私を何とか元の家に帰そうとしてくれた。
久しぶりに会った両親の顔は記憶より大分老けていて、記憶にないほどよそよそしかった。
現実が遠ざかるように音が消えて、そこからはぼんやりとしか覚えていない。
どんな表情をして両親「だった人」の言葉を聞いていたかもわからない。
気が付けば私を連れてきた細身のスーツを着た女性職員が、丁寧に挨拶をして家を去るところだった。
彼女が車に戻った後に、ハンドルを握ったまま泣いているのを見て、やっと私も大泣きした。
隣の付き添いの男性も、私の頭をぎこちなく撫でていた。
人生最悪の日だった。それでも、一見冷たいように見える彼らが、見た目とは裏腹にとても暖かいことを知った』
『私はまた家族を手に入れた。
その学校には私と同じような境遇の子供たちがたくさん居て、毎日大人たちが様子を見に来てくれていた。
優しい学校用務員の田村さん。照れ屋な清掃係の油山さん。
綿森博士と、研究室の人達。
財団で最年少の、まだスーツが似合わなかったころの新米エージェント千代巳。特に千代巳と私たちはすぐに彼女と仲良くなって、彼女にチョミとあだ名をつけた。
授業参観には両親は来なかったけど、その代わりにたくさんの職員達がやってきた。
教室に全く入りきらなかったから、その日は体育室で授業を受けた。
皆がそれぞれに不幸だったけど、皆が愛されていた。子供も大人も全員が友達で、家族のように思っていた』
『私は家族を喪った。
小学校の最後の年に、あの恐ろしい事件があった。
学校にもサイレンが鳴り響いて、訓練通りに避難した。
クラスメイトは全員無事だったけれど、一番近くのサイトはめちゃくちゃになったと聞いた。
六年生の最後の授業参観で、まばらになった大人たちを見て、私はようやく理解した。
不幸は何度でも私の前に現れる事を』
『私の人生には他の人よりも傷が多い、と思う。
でも、人は多かれ少なかれ傷を負う。
施設がすぐに建て直され、失った人たちを礎に再出発するのを見た。
チョミさんが涙を拭いて新しいピアスを開けて、いつもと変わらず笑うのを見た。
中学、高校の参観日でまた人があふれて、教師が目を丸くするのを見た。
私が初めて助けられたあの日からずっと、私は不条理な運命と、それに立ち向かう人々の強さに触れ続けてきたのだ。
だから、今度は私が強くならなければ。
そう思う。…そう思うのだ』
ってね”
“なぜ、先輩の話をしたのか、だったね。答えは、先輩と君たちが似ているから。そして、先輩は君たちにとっても先輩となり得るからなんだ。
『過去を忘れろ』なんて言わない。『これからの人生は幸福に満ちている』なんて断言できない。不条理な運命はいつだって牙を剥くから。
私は、先輩のように傷の多い君たちにも『この世は虚しいものだ』と諦めるのではなく、アズサのように不条理な運命に立ち向かってほしいんだ”
サオリ「……私は変わることができているだろうか?」
“気づかないかもしれないけど、私から見たら確実に変わっているよ”
サオリ「そうか。それは良かった」
“他の皆も確実に変わっていっているよ。だけど、ゆっくりでいい。今は傷を癒す時間だからね”
ミサキ「先生」
“どうしたの?”
ミサキ「私はこんな世界に生きる意味を見出せない。彼女みたいに強くはなれない……だから、ごめん」
“今はそれでいいよ。生きる意味を見出せないなら、今はサオリやアツコ、ヒヨリのために生きていてくれ。『幸せになる』とは断言できないけど、先生として君たちの人生が少しでも幸せになるように協力するからさ”
サオリ「そうだな。私もミサキと一緒にいたい」
アツコ「私もミサキにずっと居てほしい」
ミサキ「ふーん……考えとく」
“すぐに考えが変わることはないからね。考えるだけでも大きな進歩かな。ヒヨリもミサキと一緒がいいだr……ヒヨリ?”
ヒヨリ「ふぁい?」
私はヒヨリの意見を聞きたくてヒヨリの方を向く。そこには頬を膨らませ、まるでハムスターのように見えるヒヨリがいた。
彼女の周辺にはたくさんのお菓子の包装紙のゴミが散乱していた。
“ヒヨリ、それみんなの分なんだけど……”
ヒヨリ「え゛[#「え゛」は縦中横]?……え、えへへ……食べちゃいました」
“全部食べたらダメだろ!?”
ヒヨリ「うあぁぁぁん!!ごめんなさい!だって、この後、先生にあんなことやこんなことをされると思ったら、今のうちに全部食べておこうと思って……」
“ヒヨリェ……”
ヒヨリ「先生、何ですかその目は!?やっぱり、あんなことやこんなことをするんですね!?やっぱり人生は苦しいことばかりです。それならお菓子を追加で買ってきてください!」
“はぁ……明日買ってくるから、それまで大人しくしていなさい”
アリウススクワッドの拠点を後にし、シャーレの部室に戻る。
外はすっかり暗くなり、夜風が心地よい。
今日の1日を振り返るとたくさんのことがあった。
“最後はヒヨリによってぐだぐだになったけど、ちゃんと話せたしいいか”
先生は夜空を見ながら呟いた。
【おまけ】
『進路相談』が報告書に載っていたら
『追記3: 日付20██/██/██。アイデンティティの問題からSCP-544-JP-Aことエージェント██をSCP-544-JPに閉じ込められたD-1104に接触させました。方法はSCP-544-JPの入口だけの侵入とし、2分間のみの会話を許可しました。以下は音声記録のから抜粋したものを書き写したものです』
の後に、廃デパートのことが書いてある。そして、この報告書も先生は読んでいる。