【宇宙から】ブルアカ✖️恩人三部作のクロスオーバー【キヴォトスへ】   作:財団先生

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イチカ、後輩編

私はイチカのモモトークで連絡を受け、シャーレ近くの公園で待ち合わせていた。

 

 イチカ「お待たせしたっす。先生」

 

 5分も経たないうちにイチカがやってきた。隣には同じ正義実現委員会の子がいるみたいだ。

 

 “全然待ってないよ。はい、これ”

 

 私は先ほど買った缶ジュースを二人に渡した。まさかイチカ以外の子もいるとは思っていなかったので自分の分も渡した。

 

 “それで?相談ってなに?”

 

 イチカ「それっすね。実は相談があるのは私じゃなくって後輩なんっす」

 

 “後輩?じゃあこの子が…”

 

 私は隣の子を見た。

 

 後輩「わ、私はイチカ先輩の後輩の正実モブコと言います。えっと、イチカ先輩が先生なら分かるかもって…」

 

 少し緊張しながら後輩ちゃんは自己紹介をしてくれた。

 

 “それで質問って?”

 

 後輩「先生は正しいって正義ってなんだと思いますか?」

 

 “どうしてそんな質問を?”

 

 後輩「その…分からなくなったんです。私は漠然とした正義感でこの組織に入りました。だから、ゲヘナは悪!って考えがあったんです」

 

 後輩「だけどエデン条約で私の中の何かが壊れました。ゲヘナは野蛮だって言ってたのに、空崎ヒナは先生を守っていました。アリウスの生徒たちは悪い大人に利用されて苦しんでました。ミカ様はアリウスの皆と仲良くなりたいと言っていました」

 

 後輩「どれも正しいはずなのにトリニティのゲヘナ嫌いは変わらず、アリウスは指名手配。挙げ句の果てにはミカ様を魔女呼ばわりです」

 

 後輩「分かりません。正しさってなんですか?正義って何ですか?」

 

 後輩ちゃんの心の叫びが聞こえてきそうだ。流石は正義実現を掲げてる組織の人間だ。とはいえ、私自身はこのような質問をされるとは思っても見なかったが。

 

 イチカ「それで先生。相談に乗ってくれるっすか?」

 

 “そりゃ勿論。そうだね。私が好きなキャラクターを元に正義とはを語ろうかな。故郷ではーーー”

 

 後輩「待って下さい!」

 

 後輩ちゃんは、話そうとした私の言葉を遮った。

 

 後輩「…先生はどうなんですか?」

 

 “ん?私かい?”

 

 後輩「そうです。先生の正義を知りたいです。学園を救ってきた先生なりの正義のあり方を教えてほしいです」

 

 どうやら彼女は、私の正義について知りたかったらしい。

 

 “そうか。なら話そうか。私の正義が固まった話を”

 

 “私の故郷で連続殺人事件が発生した。三ヶ月に8人も殺された事件です。その犯人として一人の少女が捕まりました。ちょうど君たちくらいの年齢かな”

 

 イチカ「いきなり重い話っすね。しかもそんな短期間で8人もとは恐ろしい犯人っす」

 

 後輩「そんな凶悪犯は罪を償わせないといけません」

 

 “現場に落ちていた凶器は成分分析ができない未知のものだった。そして私の前職の研究者たちはその凶器を調べるために彼女を死亡扱いにし、研究所へ連れて帰った”

 

 イチカ「何気に誘拐っすね」

 

 “…否定はしない。研究者たちは最初に彼女にインタビューすることにした。彼女はインタビューでこう語った。

 

『10年前、まだ私が小学生だった頃、私の両親は強盗に殺されました。私は自身の無力を嘆き、同時に悪への強い怒りを覚えたのです』

 

『その時から私には悪を断罪する正義の心を剣に変える力が目覚めました。剣道を学び、刀の扱いに自信を持てた時、私は断罪を始めました』

 

 そう答えた。だから人を殺したのか?研究者はそう問います。その質問に彼女は…

 

『人ではありません。悪です。あれらは人でなしの悪なのです』

 

 そう断言しました。警察に通報すれば良かったのでは?という質問にも…

 

『それでは意味がありません。たとえ警察が捕まえても、あれらは数年で野に放たれます』

 

 『悪を野放しにすれば、あれらは新たに罪を重ねることでしょう。故に、私は白銀の剣を振るい、悪を断罪し続けたのです』

 

 研究者はさらに質問します。貴女が殺した被害者の中には万引きをしただけの中学生もいました。彼らは殺すに値する罪を犯したと思いますか?

 

『罪は罪です。それを裁くのが正義の味方である私の使命。…悪に大きいも小さいも無いのです』

 

『罪は罪。小さな種は悪意を浴びて成長し、いずれは悪の花を咲かせることになります。そうなる前に芽を摘んだ。それだけのことです』

 

 そう口にしたのです”

 

 イチカ「いくら何でもやりすぎっす。これじゃ正義とは呼べないっすよ…」

 

 後輩「正義を言い訳にしているようにしか聞こえません……」

 

 “そうかもしれないね。そんな回答の中、研究者は疑問点があった。それは…彼女が最後に殺した男の子のことです”

 

 “貴女の幼馴染みの彼は品行方正、剣道部の主将を務め、次期生徒会長に推薦されるほど周りから信頼されていました。

 夜は自主的なパトロールをして連続殺人鬼を止めようとしており、警察官を目指すほどの正義感にあふれ、聞き取り調査をした全員が彼を正義の味方と言っていた男の子でした”

 

 イチカ「完璧超人って感じがするっす。どう考えても殺されるような犯罪なんて起こしそうにないっすよ?」

 

 後輩「それに皆に正義の味方と言われるほどの人物です。そんなことしないと思います」

 

 “研究者は彼について質問しました。すると、彼の話題になった瞬間、彼女の言動に変化が見られました。

 

『え、あ、そう…ですね。マサくん…あ、違っ、か、彼は、その…純粋な人でした。世の中がどれだけ悪意に満ちているかも知らない、真っ直ぐな人。彼は私にお守りをくれました』

 

 『いつか、悪い人をみんなやっつけて、私が安心して笑えるように、正義の味方になるんだって。その約束の証なんだって。とても嬉しかった』

 

 『…だから、私も正義の味方になると決意したのです。彼に頼るのではなく、私が自分の意思で悪を裁こうと。絶望の淵にいた私に手を差し伸べてくれた優しい人のいる世界を守るため、正義の味方になるのだと』

 

 『彼ならば私と共に正義を成せるパートナーになれるはずだった』

 

『彼は私の断罪を知って…止めようとしたのです。あまつさえ、警察に自首をさせようと語りかけてきました。まるで私が悪かのように言ってきたのです。許せませんでした』

 

 『彼は私と同じ正義を掲げてはいなかった。…ただ、ただそれだけです』”

 

 後輩「つまり彼は返り討ちに会ってしまったってことですか?」

 

 イチカ「違う正義を掲げていた…っすか。少しきついっすね」

 

 “彼女は幼馴染について聞いてきました。

 

『マサくん…彼はどうなったのか知りたいんです』

 

 それは彼を気遣った言葉でした。…貴女が殺したんですよ?と研究者が問いました。その言葉には殺した人をなぜ気にするのかという意図がありました。

 

『はい、それは理解しています。彼は死んだ後、人々からどう思われているのでしょうか? 彼の正義の稚拙さは報道されましたか? 私の正義こそが正しいと証明されましたか? 私は…正義の味方になれましたか?』

 

 その言葉に呆れるように研究者は答えました。…連続殺人鬼と相討ちになった勇気ある少年、と新聞の見出しにありましたね。

 

『…そうですか。彼は…正義の味方になれたのですね。それは…なんとも妬ましいことですね』”

 

 イチカ「こいつ全然反省してないっすよ!!」

 

 後輩「少なくとも彼女の方が稚拙だと思います!」

 

 二人の大声が公園に響いた。

 

 “研究者たちは彼女を調査するために幼馴染の母親にもインタビューを試みた。彼女はこの一件で心を病み、カウンセリングを受けているみたいだ”

 

 イチカ「流石に誰でも心を病むんじゃないっすか?この状況…」

 

 “記録か彼女が話したことを言うよ。

 

『あの子はね、とっても良い子だったわ。家に来るときはいつも手作りのお菓子を持ってきてくれてね、とっても美味しいの。あれは亡くなったお母さまに似たんだと思うわ』

 

『彼女が犯人よね。でもね、それでも彼女は優しくて良い子なの。本当に良い子なのよ?』

 

『ああ、ごめんなさい。彼女ね、ご両親のお葬式の時…泣かなかったの。口をぎゅっと閉じて、くりくりっとした目で2つの棺をじっと見つめてたわ』

 

『私も気になったから、葬儀の後で聞いてみたの。そうしたらね、うちの息子が心配するから私は泣くわけにはいかないんだって、そう言ったの』

 

『まだ小学校上がりたての女の子が、私の息子を気遣って自分を押し殺してたの。自分がどれだけ傷付くことになろうと、他人のために気遣える優しい女の子』

 

 『彼女ね、嘘をつく時どうしても仰々しい話し方になるのよ。嘘をつける自分を演じてるの。そんな可愛くて良い子なのよ。気が付いたら私は彼女を抱き締めて泣いてたわ。なんて愛しいのだろうって。ヨシくんも彼女のそんなところにコロッとやられちゃったんでしょうね。

 ヨシくんはうちの子のこと。名前の下の方からとってヨシくん。それでね、ヨシくんはどんな悪者もやっつけられるくらい強くなって、君を守る正義の味方になるんだって言ってたわ。まだ自分は弱いから、もしもの時はこのお守りを使ってくれって、アルミホイル丸めたみたいな銀色のおもちゃの剣を渡したりしてね。

 そこで彼女も堪えきれなくなったみたいで、ようやく顔をくしゃくしゃにして泣いてくれたの。

 それからは私もヨシくんも施設に行った彼女を気にかけて、一緒に色んな所へ行ったわ。離婚することになって旦那も出ていったばっかりで、私達も寂しかったしね。1年もしない内に彼女も私にワガママを言ってくるくらい打ち解けてくれたの。もう娘も同然だったわ。

 それにね、彼女、今でもお守りを大切に持ってるのよ。健気でしょう?』

 

 『彼女は罪を犯したわ。でもね、それは優しいからこその罪だと思うの。普段から他人を気遣う彼女だからヨシくんのことに気付いたし、自分よりもヨシくんを気遣うような彼女だからこそ犯せた罪』

 

 『母親である私は気付くことすらできなかった。だから…』

 

『 あの子は正義の味方でも何でもないの。あの子はヨシくんの…』

 

 徘徊をし始めたのでここで鎮静剤を打ち、インタビューを終了させたみたいだ”

 

 イチカ「なんかイメージと違うっすね。正直、初めから狂っていると思ってたっす」

 

 後輩「それに何か意味深ですね。母親は何かに気づいている何かを見落としている気がします…」

 

 “そうだね。この違和感。研究者たちはその違和感を拭えず調べ続けたのです。そして真実に辿り着いた”

 

 イチカ「真実っすか?」

 

 “その日のインタビューでの会話は普段とは違っていた。

 

 研究者「はじめまして」

 

 少女「はじめまして。私を開放してくれる気にでもなったのでしょうか? ならば早く開放してください。 私は正義の味方として断罪の行使をしなければいけないので」

 

 研究者「はい。いくつかの制約はありますが、貴女は開放されます」

 

 少女「え?」

 

 研究者「どうしました? 貴女が望んだ事ですよ?」

 

 少女「…今まで私を監禁しておいて急にさようならなんて。どんな心境の変化なのでしょう」

 

 研究者「まるで外に出たくないような反応ですね」

 

 少女「何が言いたいのですか?」

 

 研究者「冴島 亮子さん。貴女はやりとげたのです」

 

 冴島少女「…やりとげた?」

 

 研究者「貴女が連続殺人犯と疑われた理由は犯行時刻に何度も夜間外出をしていたという当時入居していた施設の職員の証言だけです。

 それを裏付ける証拠として現場で採取された貴女の指紋と毛髪、緊急搬送後に行われた家宅捜索で押収された血液の付着した衣類、そして事件の詳細が書かれた貴女の日記があったからです」

 

 冴島少女「ええ、私が正義を行使したその証しですね」

 

 研究者「洗濯はしなかったんですか?」

 冴島少女「…洗濯?」

 

 研究者「押収した衣類からは全ての被害者の血液が検出されました。こんな決定的な証拠、さっさと処分するなり何度も洗濯するなりしてDNA採取を難しくすればよかったのに。

 そもそも、殺害時は毎回同じ服を着ていたのですか? 大量の血液が染み込んだ服を洗わずに着続けるのは心身ともに衛生上よろしくありません。貴女も年頃の女の子です。よく耐えられましたね」

 

 冴島少女「…ええ。正義を執行するに相応しき聖なる鎧です。闇夜に紛れて悪を斬り裂く。正義の味方には決まったコスチュームがあるものでしょう? それに洗濯しなかったのは勲章です。どれだけ断罪したのか証しとして刻んだまでのこと。正義の味方の証しを洗い流すなど言語道断でしょう」

 

 研究者「ならば、何故あの日は着ていなかったのですか?」

 

 研究者「…何を言っているのかわかりません」

 

 冴島少女「最後の事件の時、何故そのコスチュームを着ていなかったのですか?」

 

 冴島少女「それは…」

 

 研究者「報告書には衣類…正確には黒のジャージだそうですが、それは部屋から押収されたとあります。つまり、貴女は最後の事件の日、その聖なる鎧とやらを着ていなかったことになります。それは何故です?」

 

 冴島少女「…気分ではなかったので」

 

 研究者「…聖なる鎧。確かに貴女にとっては聖なる鎧でしょう。貴女が連続殺人犯であるためには最も重要な物的証拠です。洗濯して血液が採取できなくなれば証拠としての価値が下がるかもしれない。事件発覚後、確実に警察に調べてもらう必要がある。

 だからこそ、最後の事件の時には着て行けなかった。今まで付着させてきた被害者の血液よりも大量に出るであろう自身の血液で鑑定をやりづらくするわけにはいかなかったから」

 

 冴島少女「なぜ私が血を流す前提の話になっているんです? からかっているのなら今日はお引き取りください」

 

 研究者「我々が出した結論を言いましょう。貴女は連続殺人犯でもなければ刀を生み出せる超能力者でもない、ただの一般人なんです」

 

 冴島少女「…何を言うかと思えば、私の正義を否定するのですか? 確かに私は正義の刃を出現させることはできなくなりました。それでも、悪を憎むこの心の叫びは間違いなく私だけのものです」

 

 研究者「違います」

 

 冴島少女「違わない!」

 

 研究者「…貴女は最初から特異性を持っていなかった。刀を生み出し、それで連続殺人を行っていたのは…」

 

 冴島少女「やめなさい…やめて!」

 

 研究者「貴女が唯一殺害した杉村という青年だった。そうですね」”

 

 そう。犯人は冴島少女ではない。真犯人は杉村という彼女の幼馴染だ。

 

 イチカ「は?」

 

 後輩「え…殺したのは一人だけ?それも幼馴染の?」

 

 イチカ「先生…どういうことっすか…?」

 

 “続いて研究者は語り出す。この事件の真実を。

 

 研究者「逆だったんです。杉村青年は地元の警察からも信頼されていて自主的な夜間パトロールをしていても疑われなかった。見付かったとしても軽い注意くらいだったのではないでしょうか。

 咎められても剣道部だから自衛できるとでも言って切り抜けたこともあったのかもしれません。

 でも、貴女だけは違った。貴女だけは杉村青年の行動の違和感にいち早く気付き、彼を尾行した」

 

 冴島少女「…違います。私が正義の味方です」

 

 研究者「そこで貴女は杉村青年の凶行を目撃し、彼が去った後に自分に警察の疑いの目が向くように自分が現場にいた証拠として指紋と毛髪を残し、自分が着ていた服に被害者の血を付着させ、殺害の様子を克明に日記に書き残した。彼を守るため、代わりに自分が警察に逮捕されるように」

 

 冴島少女「…違います」

 

 研究者「しかし、彼は犯行を重ねていった。貴女でもどこまで罪を被ることができるかわからない。

 そもそも、自分が逮捕された後に彼が犯行を続ければ計画は破綻してしまう。だからこそ、貴女は心中覚悟で彼を殺害した。自分が生き残れば自分の犯行だと供述し、例え相討ちでも彼を正義のために凶刃に散った英雄に見せるだけの準備を万全にした。

 貴女の捨て身の献身が彼を正義の味方として英雄視させているんです」

 

 冴島少女「 …彼は…いえ、私が正義の味方です。揺らぐことのない正義が私の中にある」

 

 研究者「裏付け調査を行いました。現場付近の監視カメラに彼と被害者が路地裏に入って行く場面と、その後ろをついて歩く貴女の姿が撮影されていることが確認されました」

 

 冴島少女「あ…あ、ああ! 違、違う! 私が殺しました! マサくんは関係ない! 私が殺したんです!」

 

 研究者「落ち着いてください。…冴島さん。私は最初にやりとげたと言いました。貴女がこの施設に来てから3ヶ月が経とうとしています。

 警察とは違う組織、それも想像の範疇を越えた我々という存在に貴女も慌てたことでしょう。ですが、貴女はそれすらも利用した。我々は貴女を一刻も早く安全に収容するために死亡したと報道するように各所に通達した。通達してしまった。貴女の死亡届は受理されてしまった。死んだはずの貴女をそのまま解放すれば我々の存在が公になるリスクがある。

 少なくとも警察やマスコミ、戸籍を改竄できるだけの権力を持つ存在がいると一般人に感付かれてしまうかもしれない。だから、我々は全力で貴女を連続殺人犯として死なせておかなければいけないんです」

 

 研究者はそう断言した。一般人が真実を知ることはない。とも”

 

 イチカ「つまり犯人は彼女の幼馴染の男の子だったってことっすよね。誰も、一人の男の名誉を守るために自分の命まで含めた全てを擲って世間にケンカを売るなんて予想つかないっすよ?」

 

 後輩「これが彼女の献身なんでしょうか…」

 

 “いや、彼女はそれを否定してる。私は独善的な人間だと。いくら仲がいいからと人殺しそうだからといって尾行などしない。と”

 

 後輩「では一体何故?」

 

 “彼女が語ったことだ。

 

『最初は偶然でした。偶然、両親を殺した強盗の犯人を見つけて、マサくんが尾行しようって言って、人気の無いところでマサくんが刀を出して犯人の脚を斬りつけて動けなくしたんです。マサくんの超能力は昔から知っていましたし、そこは驚かなかったんですがあまりの速さに状況を理解する前にマサくんが聞いてきたんです。…どうする? って』

 

『それで私、言っちゃったんです。…殺してほしいって』

 

『マサくんはそれはもう惨たらしく殺してくれました。本当は止めるべきだったんです。止めて警察に付き出して、脚の傷は適当な嘘をついて、犯人には刑務所で罪を償ってもらって…無理でした。私の気持ちに嘘はつけませんでした。両親の仇が形を失って血と肉の塊になっていくのを見て、ありがとうと言いました。マサくんに殺してくれてありがとう。悪い人を倒したマサくんは正義の味方だねと言いました』

 

 『それからマサくんは私に人を殺す様を見せるために夜のデートに誘ってきました。自分がどれだけ強くなったかを見てほしい。子供の時の約束を守るために、正義の味方になった自分を見てほしいと』

 

『私にはこうするしかなかった。私がマサくんを壊してしまったから、その責任をとらなければいけない。道を外れた彼を止めるには…マサくんを守るために…』

 

『あの日、ジャージを着ていかなかったのは別に証拠がどうとか考えていませんでした。

 ただ、血に塗れた服を着たくなかったんです。マサくんに最期に見せる私は綺麗なものにしたかった。私はただの自分勝手な女です。だからマサくんも私を殺してくれなかったんです。

 私がお守りでマサくんに斬りかかった時も、マサくんは反射的に斬り返してきて、私の左腕に刺さった瞬間にマサくんは私だって気付いて、手を止めて…私に…ごめんって…。私はマサくんに守られ続けた…最低の女です。私がマサくんみたいな正義の味方になれるはずが…マサくんと一緒にいられる、こと、なんてあるわけ…』”

 

 “彼女も含め、杉村青年も正義の味方なんかじゃなかった。彼は最初から最後まで冴島 亮子の味方で、彼女は杉村青年の味方だったんだ”

 

 後輩「ありがとうございました。勉強になりました」

 

 “待ってくれ。まだ続きがある”

 

 帰ろうとした二人を慌てて引き止める。

 イチカ「もう終わりじゃないんすか?」

 

 “もう少し付き合ってくれ。まだ私の話をしていないよ?”

 

 イチカ「そういえばそうっすね」

 

 “私も…同じように正しさが分からなくなってしまったことがある”

 

 新人の頃の忘れられない記憶。破裂音、硝煙の匂い、鮮やかな赤…手に残る引金の感覚。

 

 “仕方がなかった。しょうがなかった。やらなきゃいけなかった…”

 

 そうしなければ多くの無辜の人が犠牲になる。

 

 “そして分からなくなったんだ…そんな時、先輩が話しかけてくれたんだ”

 

 思い出す。あの日のことを。

 

 ・・・

 杉村先輩「悩んでいるね」

 

 “先輩ですか”

 

 あの日以降、私は悩み続けていた。どうすれば良かったのか分からなかった。

 

 杉村先輩「私は…人を殺したことがある」

 

 “エージェントなら当然では?”

 

 杉村先輩「いや、エージェントになる前だ」

 

 “えっ?”

 

 杉村先輩「好きな人を殺した。必要だと思ったから。正しいと思ったから。その結果、あの私は死んでエージェント杉村という残骸が残った」

 

 杉村先輩「人を殺すことは間違っているのか、正しいのか。そう聞いたらほとんどの人は確かに、間違っていると答える。けれど、この組織では──人を、殺すこともある。そして、私たちはそれを容認している。それはきっと、間違っていると考える人も、沢山いるだろう。けれどそれでも、私たちは、これからも活動しなければならない」

 

「私もね、同じように悩んでいた時、言われた言葉がある。それはーーー」”

 ・・・

 

 “大事なのは、その行為について考えて、話して、未来に繋げること。自分は間違っていたのか、もっと他に方法があったんじゃないか。自分だけじゃなくていろんな人と悩んで、次は、より良いと思えるようにする。出来ることは、それだけだ”

 

 “杉村先輩…いや、冴島 亮子先輩が私に教えてくれたことだ。私は一人で抱え込むのではなく、共に考えること。共に歩むこと。それを教えてくれた。そしてそれこそが、私にとっての正義になったんだ”

 

 イチカ「…先生がいろんな生徒たちと協力し合っている理由が分かった気がするっす」

 

 後輩「…先生。私、まだ正義ってものがわかりません」

 

 “そうか。それは残念だな”

 

 後輩「だから自分で見つけていきたいと思います。色んな人と関わって、協力して、自分なりの正義を持ちたいと思います」

 

 “そう言ってくれるだけでも話した甲斐があったね”

 

【後日談】

 イチカ「最近あの子噂になってるっすよ」

 

 “噂?”

 

 イチカ「そうっす。ゲヘナに行って空崎ヒナに会いに行ったり、その足でミカ様に会いに行った他、アリウス生にも会いに行ったみたいっす」

 

 “行動力!!”

 

 イチカ「その代わり、みんな悪くないのにどうしてエデン条約であんなことになったの〜って悩んでたっす」

 

 “……難しい問題だけど頑張って解こうとしてるんだ…。今度こそは『正義』の心を持つキャラクターを紹介しようかな”




SCP-1160-JP-EX『正義の味方』
by: mojamoja
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1160-jp-ex


SCP-1160-JP-EXのtale『正しさのない』
by machikawa
http://scp-jp.wikidot.com/uncorrect
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