魔王デルキラの息子   作:雨鬱

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第11話: 教科書配布日と面談

バビルス、本日は教科書配布日である

ダリは噂の不死鳥を使い魔にした新入生の顔を拝んでやろうと、教科書配布をしている教室へ来ていた

 

 

 

(似てる)

 

 

誰に言われずとも目の前にいる悪魔が自分の探していた首席の新入生だという事がわかった

他の悪魔とはオーラが違う

全てを飲み込み支配するような、産まれながらの覇王のオーラ

自分の青春を捧げた、あの魔性の悪魔

長い前髪で隠されてるせいで顔は全く分からないが、他人の空似と片付けるにはアイツに似過ぎていた

唯一似てないのは、ボサボサの髪と一本しかないツノだろう

アイツは3本ツノだし、髪は父親に憧れてストレートになるよう手入れしていた

 

 

「ねぇ、そこの君」

 

 

ただ、顔を見るだけにしようと思ったのに気がついたら声をかけていた。

 

 

「何です?先生」

 

 

呼ばれた事に気がついたダキが振り返る

 

 

「ダキ君、だっけ。この後時間作れるかい?ちょっとした面談をしたくてね」

 

 

 

緊張で喉が渇く

 

(生徒を面談に誘うだけの話なのに、どうしてこんなにも緊張するんだ)

 

 

そんな様子をおくびにも出さずいつも通りの、平静な姿でダリはダキの返事を待った

 

 

 

 

「必要不可欠じゃなければ行きたくないです。俺は坊ちゃんと一緒に教科書貰いに回らないといけないんで」

 

 

しかし返ってきた返事は「No」

SDならば基本的に物腰柔らかで目上のものには素直に従う傾向にあるからこの回答は予想だにしない回答だった。

 

 

「ダキ!すいません先生!!ダキ、拙者の事はいいから先生と面談してくるでござるよ!!」

 

 

慌ててダキの主人であるゴエモンが諌めるが当の本人はめんどくさそうな顔をしている

 

 

「でも、坊ちゃん教科書貰わないと新学期困るでしょうよ」

 

 

「新入生の教科書なら、僕が後で渡してあげるよ!」

 

 

「ほら!先生もこう言ってるでござるよ!」

 

 

「……」

 

 

教科書以外にも心配事があるのか、ダキは不服そうに黙り込む

 

 

「もう、拙者は入間殿達と一緒に回るから大丈夫でござるよ!せっかくだから学園の同志たちと仲良くなりたいでござるから、ダキは先生方とでも交流深めてくるでござるよ!!!」

 

 

そう言って「あ、入間殿〜!待つでござる!一緒に回ろう!!」と少し離れたところにいるアスモデウスと入間に声をかけて去るゴエモンの姿を見てダキは観念したのか「はぁー」と溜息を吐いてダリに向き合った

 

 

 

「坊ちゃんがそこまで言うなら行ってきますよ」

 

 

 

 

 

「じゃあ行こうか!」

 

 

 

 

そう言って、ダリはバビルスの教員棟の別館に自室へダキを連れ込んだ

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

本と書類に囲まれたダリの自室に管理人のおとんじゃが作ったお菓子と茶が用意されたテーブルの対面にダキはドカッと座る

目の前にあるカップを手に取り、透き通った青いお茶を一口飲む

 

 

「…、美味いな」

 

 

「でしょ?おとんじゃが淹れる茶は魔界一だよ」

 

 

「ああ、俺の好みだ」

 

 

「………っ!」

 

 

ダキのその答えにダリの心臓が跳ねる。

だがお茶に夢中なダキはそのことに気が付かず青く透き通るそのお茶を見ていた。

リラックスした様子で茶を飲むその姿がアイツの姿に重なる。

 

 

『ダ〜リィ、なんか茶ァ淹れてくれよ、オラ、客人だぞ』 

 

『太々しいなぁ〜、ほら有難く飲めよ』

 

 

『………美味いな、俺好みだ』

 

 

白昼夢のような過去の記憶に、無性にあの頃へ帰りたくなる。

 

 

「この茶葉どこで買えるんだ?坊ちゃんにも飲ませてやりたい」

 

 

「………これは、僕のブレンドだからね。そんじょそこらでは売ってないよ」

 

 

「そうか、じゃあ飲みたくなったらアンタの所に遊びにいく」

 

 

『あーあ、疲れたダリの茶が飲みてぇ〜』

 

 

「……待ってるよ」

 

耳元で囁かれるようなアイツの幻影を無視してそう返すだけで精一杯だった

 

 

「で?俺を呼んだ訳でも聞こうか」

 

 

「簡単な面談だよ!」

 

 

「はぁ、…」

 

 

なんで今更、と顔に出ている

クラス決めには召喚術テストと入試テストで大体決められる。

首席のダキはそれこそ優秀者が揃うクラスか落伍者の集うアブノーマルクラスになるだろう

 

 

「ごほん、君は規格外だからね!クラス決めの為の特別面談だと思ってくれて良いよ」

 

「……わかった」

 

 

本当かよ、とでも言いたげにダキがジッと見てくる

うん、嘘だからごめんね

 

 

「じゃあまず一つ質問だけど、君、両親は?」

 

 

「…は?」

 

 

「いやね、君のことをもっと良く知りたいんだ。だから、君の過去について興味があるんだ。」

 

 

(君を通して、あの馬鹿の行方を掴む)

 

そんな思惑があるとは知らず、ダキは「面白くなんて無い話だぜ」と一拍置いて話す

 

 

「俺は、この間起きたクロケルの震災の被害者で、過去の記憶も何もかも失って、死にかけていた所を坊ちゃん……ゴエモンに拾われた。だから、自分の親は同じく被災で亡くなったのか、それともまだ生きて俺を探しているのかはわからねぇ」

 

 

「そうか…」

 

 

告げられたダキの重い話にダリは一拍置いて、茶を一口飲む

 

 

(…記憶はなく、両親も知らない、か)

 

 

カップの縁を親指で拭う

 

 

(確信が欲しい、記憶がなくても、アイツに繋がってると分かる、確かなものが)

 

そう考えたダリは『ある事』を思いついてにっこりと笑うとダキに質問を続けた

 

 

「確か、君はゴエモン君のSDだったね」

 

「ああ、」

 

 

ダキという悪魔は、恩人であるゴエモンを慕っている

忠誠心の厚さはかなりの物だ

なら、その忠誠心を利用させてもらおう

ダリは意地悪げに嗤う

 

 

 

 

 

「僕は主任だからね、新入生の成績には目を通したよ。正直言って、ゴエモン君は、首席にもなれるほどの優秀な君が仕えるに値しない、と思うんだけど」

 

 

 

 

ダリのその言葉に部屋内の空気がピリッと刺々しい雰囲気へと変わる

 

 

 

 

 

「あ"?」

 

 

 

 

ダキの雰囲気が怒気を孕んだものになり

体全体を押し潰しにくるような魔力の圧がドッと、ダリに重く振りかかる

 

 

 

「っ、」

 

 

並の悪魔ならここで床に平伏しているだろう過重圧

 

 

 

 

(これだ、これッ!この重み、!)

 

 

 

 

 

「……俺は彼の方に救われた、見ず知らずの死にかけの悪魔なぞ見捨てて当然の虫ケラを、命を賭けて救ってくださったのは彼の方にだけだ」

 

 

 

 

言葉を重ねる毎に空気が重くなる

ギシギシと骨が音を立てて軋むぐらいの魔力圧

良く似た潤沢な魔力量だからこそ成せる覇王の覇気

もはや懐かしく感じるその感覚に体が疼く

 

 

 

「故に、侮辱は死を望むものをみなすぞ」

 

 

 

重苦しい雰囲気とは裏腹に、ダリは目の前のダキが希望の光に見えてならなかった

 

 

 

(みつけた…!何年も探し続けた、アイツの手がかり)

 

 

ダキに会った時に感じた直感が確信に近づく気配に胸が高鳴る

ど、ど、ど、と馬の早掛けの様な心音がダリの期待値を表していた

苦しむ訳でもなくむしろニコニコと嬉々としたダリの姿にダキは眉を顰める

ダキは、ダリがわざと怒らせるような発言して様子を見たかった事にすぐに気がつき、威圧を収めた

聡明な子だ

 

 

 

「……なぁ、俺を怒らせて何を見たかった?ハッキリ言えよ、アンタ、何が知りてぇんだ?」

 

 

その態度、言葉の選び方、威圧の掛け方、何から何までダキの全てがかつてのダロキアの姿を彷彿とさせる

 

 

「…………その前に、君のその髪の毛で隠れている顔を見せてもらっても良いかい?」

 

 

 

「ああ"?」

 

 

突然のダリの申し出に困惑するダキだったが、

ダリが自身の細い目をかっぴろげ、真剣に見つめる姿に気押される

 

 

 

「……確信が欲しい」

 

 

じっと見つめ続けるダリに、ダキはついに白旗を上げた

 

 

 

「……チッ、これでいいかよ」

 

 

 

ダキは鼻から上を覆っていた前髪に手をかける

 

 

 

「……っ、」

 

 

 

緊張した面持ちでダリはダキを見つめる

無意識に握っていた拳に力が入る

 

そんなダリとは裏腹に

何の迷いもなくダキは荒々しく前髪をバッ、と掻き上げる。

 

 

(ああ、…)

 

 

ダリはその光景に息を呑んだ

ダリの脳裏に、かつての親友の姿がフラッシュバックする

 

 

(ありえない、こんな事が、あり得るはずがない…!)

 

 

顕になったその顔を見てダリの瞳が揺れる

唇をかみしめてダキの顔をじっくりと見つめる

 

 

 

嫌味なほどに通った鼻梁に、雄々しい眉、そして、切れ長の目元に見覚えのある長く特徴的な下まつ毛___

 

 

(そんな特徴的な奴はこの世に2人しか知らないんだよ…ッ、)

 

 

ギリッ、と拳に力が籠る

否定したかった

けど、できなかった

 

 

『母さん似だ、長いすぎるせいで寝癖で下まつ毛がくるってなっちまう』と馬鹿みたいに笑っていたアイツの声が耳奥で響く

 

 

ダリは唇から血が流れるのも厭わず強く噛み締める

その痛みが現実を突きつけてくる

 

 

(そっくりだよ、チクショウ…)

 

 

ダキの隠された素顔は

かつて次期魔王として嘱望された

魔界の王子ダロキアにそっくりだった

 

 

「満足かよ」

 

 

「ああ、おかげさまでね」

 

 

その返答に満足したダキは「ふん、」と鼻で笑いながら髪を押さえていた手を離した。

 

 

 

(これで分かったよ、ダキ、君は___、あの馬鹿の息子だって事がね)

 

 

一瞬本人かと見間違えてしまう程に似ている

が、本人にしては若すぎる

魔力も、顔も、身長もだ

最後に会ったあの頃よりも大分弱い

 

 

(そうか、アイツの子供か…)

 

 

ダリは「はぁーーー」と深いため息を吐きながらソファーに沈む

最初は不死鳥を使い魔にしたあの馬鹿の再来なんて持て囃されてる新入生を見るだけのつもりだったのに、まさか久しぶりにあの顔を間近で見られるとは思わなかった。

不死鳥を手懐けた手腕はアイツ譲りか

恐ろしいな覇王の血脈は

 

 

「……大丈夫か?」

 

「無理、ちょっと考えさせて」

 

 

何年も見つけられなかった手がかりがポンポンと舞い込んできてダリの頭はパンクしそうだった

だらし無くソファーに寄りかかるダリを見て、ダキは興味なさげに茶請けの菓子を口に運ぶ

 

 

「アンタが、俺に誰を重ねてるかなんて…正直どうでもいい」

 

 

そう言って、ダキはカップを持ち上げると一気に飲み干した。

 

 

「が、茶は気に入った」

 

 

手に持っていたカップをソーサーに置いた。

 

 

「おかわりもらうぞ」

 

 

「……勝手にしなよ」

 

 

ソファーに寝そべって頭を抱えるダリをよそにダキは2杯目を注ぎ始めた。

そんな自由気ままな所も、自分を半身だと、例えてくれたあの馬鹿にそっくりだった。

 

 

(なぁ、ダロキア___、なんで…なんで、僕に何も言わずに消えたんだよ)

 

 

目の前で優雅に茶を飲むダキを睨む

誰にも、何も言わず、いなくなったダロキアを探す手がかりを見つけに訪れたダロキアの部屋を思い出す

アイツほどの実力者なら黙って連れてかれることなんてない

戦闘があったなら部屋は荒れる

けど、アイツの部屋は綺麗なままで、ただ窓だけが開けっ放しになっていただけだった

という事は、

 

 

「はぁーーーーーー」

 

 

アイツは気心の知れた相手に呼ばれて窓から出て行った所を連れ去られたか

自ら行方不明なったとしか考えられ無かった

 

 

(こんなにでっかい子供がいるってことは、オマエ、惚れた女でも居たのかよ)

 

 

そんなに僕達には言えないような相手だったか?

…いいや、オマエはそんな愁傷な奴じゃない

魔王になれば、そんなの、どうにでもできた

 

(じゃあ、なんで?)

 

暴れる感情がダリの冷静な分析をどんどん押し流していく。

 

 

「何だか腹立ってきた」

 

「そうか、菓子食べるか」

 

「食べる」

 

 

受け取った菓子を皿ごと抱えながらヤケクソになってバリボリと頬張る

バターがたっぷりと使われた甘いクッキーが口いっぱいに広がる

口中の水分がどんどん無くなっていく気がしたがお構いなしに口に詰めていく

そんなダリをよそに、ダキはそこら辺にあった本を拝借して読書をし始めていた

 

 

(はぁーそう考えると腹立つ)

 

どれだけ探したと思う???

どれだけオマエの帰りを待ってたと思う?

僕は勿論、ナルニアなんかはあの人間界まで行ったし、オマエのことが大好きな後輩のバール君なんかは裏社会にまで飛び込んだし、他の13冠メンバーの皆で金を出し合って懸賞金をかけて魔界中を探し回ったんだぞ

 

 

(僕らは!オマエのせいで!独身なのに!)

 

 

頭がぐらぐらと煮え立つ

全部はあの魔性が悪いんだ

 

 

『ダァリィ、俺様には慕う悪魔は掃いて捨てるほどいるが___俺の、願いを叶えてくれるのはオマエしかいない』

 

 

そう言って、肩を組まれた

フハッ、と馬鹿みたいに嗤うアイツを見上げていた。

 

 

『なぁ、俺の半身。世界を壊そう、俺達で』

 

 

そう語る、オマエに惚れ込んで、全てを捧げたかった、なのにオマエは僕たちの前からいなくなった

ギリっと軋む程に牙を噛み締める

 

 

(僕の事はどうでも良かったのかよ、相棒)

 

 

ずっしりと鉛を心臓に入れられたような気分に悪周期が来そうだった

 

 

「黄昏れる所悪いがまだかかるか?」

 

 

「読むスピード早えなー!二冊目に行くなよ!!」

 

 

「俺はそろそろ帰りたい、坊ちゃんの夕飯作らないと」

 

 

「所帯染みるな!魔界の王族がよぉ!」

 

 

「悪魔違いだ」

 

 

そう言いながらダキは、ぱらり、とページをめくる

バッサリと切り捨てる潔い姿はマジでアイツそっくりなのに、SDなんて似合わない役目を果たそうと頑張る姿に脳がバグりそうになる

 

 

(アイツの過去の幻影に縋って、何も知らない新入生に八つ当たりするのはお門違いだろ)

 

 

深いため息を吐いてダリは立ち上がる

 

 

「……悪かったよ、引き止めて」

 

 

新入生用の教科書の入った袋を渡すと、ダキは魔法で何処かへ仕舞い込んだ

 

 

「無駄に時間を喰った、バイト代貰うぞ」

 

 

ダキはそう言って勝手に本棚から2、3冊抜く

引き抜かれた本は、アイツが好きそうだと思って集めてた魔具工学の本だった

 

 

 

「いいよ、好きに持っていけば良い」

 

 

 

(オマエの息子、ほんとオマエにそっくりで、ほんと太々しいわ)

 

 

 

ダキを見つめるダリの顔はどこか晴々としていた




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