筆が、かの王に会いたくて、物語を、書き進めてくれる
パンッパンッ
外から祭りの開始の合図が聞こえると共に、生徒たちの「わあああ」と歓声の声が聞こえる
バビルス、師団披露の本祭が始まったのを、窓越しで見ていた
外の喧騒と違い、保健室には微かな時計の針の音しか響かない
「ったく、この阿呆が」
カルエゴは保健室で横たわる今回の功労者を見下ろす
青白い顔、死んだかのように身じろぎ一つもしない
倒れた当初、その重度の魔力欠乏症に、ブエルの『半永久(ヒール)』や、学園長の魔法薬で何とか危機は脱したものの、当の本人は一向に目を覚さない
ーーーコンコン、
静まり返った保健室にドアを叩く音がする
「だれだ」
カルエゴがドアに向かってそう問うと、
返事をする前にガラッ、と扉を開けられた
「やぁ、」
そこにいたのは緑色の髪に特徴的な複眼に、
黄色のサングラスをかけた派手な身なりの白衣の男だった
「アンタか」
カルエゴはフーッと息を吐く
目の前のその男は、魔界では数少ない『医者』で、カルエゴにとってオペラと同じく信頼のおける悪魔である
出会った経緯は割愛するが、他人の命を救うことを信条とする愚直なまでに天性の医者であるこの男を信じている
今日ここに呼ばれたのは他でもない、ダキの主治医がこの男だったからである
「早速で悪いが見てもらえるか?」
カルエゴは皺が固く刻まれた眉間を指で揉みほぐす
「『七つの大罪』を使用後、魔力渇望症を発症してな、ブエルのヒールや魔法薬を飲ませてみたが一向に目を覚さん」
回復はしているだろうに、意識が戻らないダキにカルエゴは頭が痛かった
無駄話もなく医者はスタスタと歩き、患者の側に寄る
「無茶するじゃないよ、君」
医者はため息を吐くと、近くにあった椅子に座り、ダキの診察を始めた
ダキの閉じている上瞼をこじ開け、ペンライトの電源を付けた
ーーカチッ
白色光に照らされたダキの瞳は
普段の澄んだ金色の瞳が緑色に変色していた
上下左右にライトを振ると、その光に反射してまるで炎が瞳の奥で燃えるように燦く
「……へぇ」
下瞼を引っ張ると真っ白だった
魔力が足りてないのだろう、触れる肌も先程から冷たい、今が夏かと疑いたくなるほどにダキからは温度を感じない
「ふむ」
ーーカチッ
ライトを消し、胸ポケットに入れると、首筋に指を当てて脈を測る
やや早めのリズムで流れる血脈音
魔力を作り出そうと心臓部が動いている証拠だった
ーー正常と言って良いだろう
「なら、」
聴診器を取り出す
耳に当てると暴風雨の中にいるような轟音が耳をつんざく
ダキの体内のどこかから魔力が外へ噴き出ている証拠だ
初めてダキを診た時と変わらない
むしろ、穴が大きくなっているような気がする
「ふーー…」
医者は鞄にあった白い箱を取り出す
箱から取り出したのは、ダキの逆の手につけてる金の腕輪と良く似た腕輪だった
「それは…」
「この子専用の魔具ですよ、カルエゴ卿」
医者がダキの腕を持ち上げ、腕輪をつける
手のヒラを表に向けさせ、その上に自身の手を重ねて魔力を流す
すると、ダキの顔がほんのりと明るくなる
「やっぱりな、」
ダキに魔力を流しながら片手で器用に手帳取り出し、症状を書き留めていく
「……ダキはどうなのだ」
カルエゴが少しそわそわしながら尋ねると、
淡々と作業をしながら答える
「魔力が足りてないだけだね、一応、応急処置で何とか危険な状態は脱したみたいだけど、…この子は特殊だからね」
そう言って鎮痛な面持ちでダキを見つめる
「魔力が勝手に流れ出すせいで、回復が追いつかなかっただけ…今魔具着けたからこのまま魔力を流すか、安静にしてればそのうち目が覚める」
その言葉にカルエゴはホッと安堵していると、
突如、保健室のドアが開いた
驚いて目を向けるとそこには学年主任のダリがいた
「よ!ダキ君の調子どう?」
手元に多仔焼き(たこ焼き)や夜鬼鼠破(焼きそば)を抱え、十分に本祭を楽しんでいる浮かれポンチの様子にカルエゴの眉間にまた皺がよる
「あまり良いとは言えませんな、」
深いため息を吐いたカルエゴにダリは多仔焼きを喰む
「ふーん、…カルエゴ卿、交代しよう」
「は、しかし…」
「いーから、ここは僕が見るからそろそろ外回頼めるかい?」
ね?と有無を言わさぬその圧に、カルエゴは深いため息を吐いた
「承知いたしました…」
こいつの他にも自分のクラスの問題児は沢山いるのだ、祭にはしゃぎすぎてないか見張る必要がある
カルエゴはドアを閉める前に部屋に残された医者とダリを一瞥してそのまま本祭会場へと向かった
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「さてと、久しぶりだね」
ダリはカルエゴの足音が遠かったのを確認して、ダキを治療する医者に話しかけた
話しかけられた医者は何も反応せず、ダキをずっと見つめている
「君が医者になってるなんて驚きだよ、」
「……どこかで、お会いしましたでしょうか」
「ダロキアが行方をくらませた後、旅に出るなんて言って消息不明だったもんね…」
「ははっ、やだなぁ、誰と間違えてるんです?」
その言葉に医者はダリの方へ振り返り、
慈悲深い聖母のような微笑みを返す
「惚けるなよ、何を企んでるのかな、ドゥルジ」
ダリの確信に満ちた言葉に、空気が変わる
魔力が澱む、重苦しい空気に、皮膚がひりつく
「あはっ、」
演じることに耐えきれなくなったのか、喉の奥から嘲笑が噴き出した
「ひっひ、ヒヒッ!」
医者の口角が裂けるほど上がった
貼り付けたような笑顔には醜悪な嘲りが滲んでいた
「ははははははははははっ!」
喉を潰したカラスの鳴き声のような哄笑が、保健室の白い壁を叩き割るように響く
「ふひっ、ひひ、ひーーひひひひッ!」
笑いすぎて腹を抱え、身を捩り、目尻から血混じりの涙が滲み、歯茎を剥き出しにして笑い狂う
ひとしきり笑うと、
ーーピタリ、と動きが止まる
「ばれた?」
ギロリ、と首だけをこちらに向ける
ダリに向けたその顔に躊躇なく爪を立て、ぐいっと引っ張った
幾重のシワがゴムのように歪み、
ぶち、ぶち、と肉の繊維が裂ける音が耳に残る
一拍の静寂が場に降りると
勢いよく顔の皮膚がずるり、と剥け落ちた
ーーべしゃり、
床に叩きつけられたそれを合図に、
プラチナの髪がばさりと肩へ垂れ落ちた
ハエのような複眼がこちらを真っ直ぐと見つめる
「やぁ、久しぶり我が同輩」
投げ捨てられたマスクの下から現れたのは、無機質な笑みを張り付けたかつての同級生、ベルゼビュート・ドゥルジ本人だった
「久しぶり、ドゥルジ」
まだ学生だった頃、ドゥルジはダリと同じクラスの仲間で、魔王を目指すダロキアを支える理解者の1人だった
かれこれ数十年ぶりの再会ではあったが、相変わらず、底が見えない
表情を張り付けた人形のように、不気味で、忌避感を煽る
(むごいことを…)
ダリは床をちらりと、一瞥した
ドゥルジの足元には無理やり剥いだ面の皮が落ちていた
ゴム革のようにくしゃくしゃで、血塗れな皮膚のマスク
まるで泣いてるように見えて、
胸の中に重苦しい何かが溜まるのを感じた
ドゥルジが『彼』になる為に、本物の『医者』がどうなったのか、想像に容易くない
「何でこんな真似を?」
ダリが尋ねると、なんてことなさそうな様子で答える
「この姿だと信頼を集めやすくてね、みんなこの人畜無害そうな医者という存在に騙されてくれるんだ」
その答えにグッと拳を握りしめる
皮を剥ぎ、姿を借り、人の懐に入り、情報を集める
ただその為に、本物の『医者』を殺したのだろう
「何故そんなことを聞く?私がこの能力を使うには死体の方が都合が良いのを知っているだろう?」
ドゥルジの家系能力の性質は、触れるものを腐敗し、支配する能力
大量に屍を量産し、まるで死体を人形のように操り軍隊として暴れていたのを覚えている
その手段の選ばなさはあの頃からちっとも変わっていない
(いや…変わったのは僕の方なのかもな)
ダリは目を閉じる
瞼の裏に映るのはかつての自分
ダロキアの側で血を浴び続け、力を溺れた幼いダリが嗤う姿が見えた
バビルスの教師になって色々と甘くなったのは否めない
魔界の宝(子供)と触れ合い、護るバビルスでの生活は、ダリに『奪う者』より『与える者』としての性質を芽生えさせた
「親父さんや妹さん、心配してんじゃないの」
バビルスで共に過ごしたから、ドゥルジの家庭環境はある程度知っている
当時魔王不在の動乱の時期、13冠という忙しい立場にいながらも、バビルスの師団披露にもちゃんと来る良い父親だった
その父親の背に隠れながら、妹が小さな手で恥ずかしそうに手を振っていた姿を思い出す
どちらもドゥルジのことが大好きで、きっとずっと行方不明なら探しているだろうぐらいには深い家族愛のある家庭だったはずだ
「…?興味がないね」
ドゥルジはその大きな眼を瞬きもせずジッとダリを見る
ダリは髪を乱雑に掻くと、ため息を吐いた
「で、お前が別人になりすましてまで得た何かはあったのかよ」
家族という存在にまるで関心がない様子に、ここで倫理がどうとか押し問答するのは時間の無駄だと思ったからだ
「ああ、」
ダリの問いにドゥルジの目が閃く
まるで、その問いを待ってましたと言わんばかりに生き生きとし始めたドゥルジは懐から黒い布切れを取り出した
「見ろ、見覚えがあるだろう?」
ダリは目の前に突き出された黒布を凝視した
何の変哲もない布切れに見える
「…?ただ布切れにしか見え…」
が、ドゥルジが陽に翳すと、銀糸が淡く煌き、そこに咲いた花の意匠が浮かび上がった
「……っ、!」
ダリの呼吸が止まる
肩にかけていた黒い羽織が、紫の髪と一緒に風に靡く、懐かしい、あの後ろ姿が脳裏をよぎる
「あいつの、羽織」
いつも肩にかけていた
「父さんからもらったんだ」と、誇らしげに笑った顔まで鮮やかに甦る
「だって、それは、」
卒業式前夜、
最後に会ったあの夜も肩にかけていた
彼がいなくなって以来、
その羽織の行方も分からなかった、筈なのに
「ダロキア」
ドゥルジからその黒い布切れを差し出され、
恐る恐るその布に触れる
元は上質な織物だった布は、
劣化で酷く表面が荒み、
ざらり、と指先の皮膚を逆撫でる
「っ、あ、あ、あ」
顔を寄せると、
桜の花を模した銀糸にベッタリと残る血痕から、
ふわり、とかすかに甘く香るアイツの血の匂いを感じた
「あ、あああああ、」
ぼろり、と目から涙が溢れ、
胸の奥が焼けるように熱くなる
迫り上がる熱い感情を処理できなくて、
嗚咽となって吐き出した
「それを見つけたのは偶然」
泣き崩れたダリの周りを回りながら、
ドゥルジは淡々と語り始める
「人間界も、裏社会も、お前達が探してくれたけど、ダロキアはいなかった」
ドゥルジはまるで演説のように手を広げて歪に笑う
「でも、諦めきれなかった、お前もだろ?」
その問いにダリは否定はできなかった
突如デルキラを失い、生死も分からないサリバン達と違い、ダリ達には、『ダロキアが生きている』と言うことだけは分かっているから
その事実のせいで、尚更、この胸の中に燻る想いを消すことはできない
「この体に流れる、血の盟約が、ダロキアの生存を教えてくれた、なぁ、君もだろ?」
そう言ってドゥルジは徐に胸元を曝け出す
そこには、ダロキアに付けられた所有印が赤黒く色鮮やかに刻まれていた
学生時代に預言準えて、戯れに、付けられた、一生消えないダロキアとの絆の証
「だから、俺は魔界にまだダロキアが居ると確信した、アイツは、何処かで身動きが取れないだけ、そう思った」
だから、旅を始めた、そうポツリとドゥルジは呟いた
自分の思いのまま愚直に行動できるドゥルジが羨ましくてダリは眼を細めた
胸の奥を爪でひっかかれたように苦しかった
ダリは、ダロキアを探しに行きたくても『ある契約』によってこのバビルスから離れられない
自分が、ダロキアの1番側にいた筈なのに
「医者なら、社会的信用の立場が高いから色んなところに行けた、この男の顔と知識を利用して、魔界を旅した、けど、アイツはいなかった」
ドゥルジははだけた胸元を治しながら問う
「プルケルの、あの大災害を覚えてるか?」
「…もちろん、かなり被害が大きかったね」
魔界全体でも比較的大きい災害で
被災した生徒達の対応で当時はかなり大変だった
「この顔の男の仕事で、ある被災者の、治療を行なった」
ドゥルジの指先が、ベッドに横たわるダキを指した
「それが、あの餓鬼だ」
ダキは目の前で起こっていることなんて気が付かずに、静かに寝息を立てている
「記憶喪失のコイツが唯一持っていた持ち物がそいつだ」
その一言にダリの心臓が跳ねる
ダキと会ったその日から思い抱いていた、
ダロキアとの繋がり、
それが今証拠として突き出されて、
身が震えるほど嬉しい筈なのに、何故か、苦しい
「私は、コイツがダロキアの血縁者、もしくは、
ーーーダロキア本人だと、考えた」
その言葉にダリの世界が止まる
「………はっ、?」
ダキとダロキアが同一人物
正直、裏付ける証拠はいくつもある
顔にしかり、仕草や、思想、使い魔のこと、
ーーそして七つの大罪
(ダキが…ダロキア本人だって言うのか?)
どう見ても、同じ人物でしかありえない
それでもどうしても認めたくない自分がいる
「い、いやいやいや、コイツが、?ダロキア?馬鹿言えダロキアは、もっと暴虐無人だろ」
アイツは悪魔使いの荒い男だった
魔王不在を埋める為に多忙だったアイツは、特に3年生に上がった頃に何か吹っ切れたのか、
悪魔使いが急に荒くなった
テスト前に自分を攫い、戦場に放り出して「砦ひとつ潰して来い」なんて笑って言った
文句を言えば「お前ならできるだろ?」と、悪びれもせず返す
(学生時代どれだけ振り回されたか…)
あの滅茶苦茶な日々が、今も脳裏に焼きついている
「……そうだな、記憶を失ったにしても、性格がこんなに変わるとは思えないんだがな」
そう言って、ドゥルジはダキの髪に触れる
「…そうだな」
ダリはダロキアを、相棒だと思ってる
ダロキアも同じくダリのことをそう呼んでいた
世界の何もかもを敵に回しても、背中合わせで立てるのはあの男だけだった
互いに世界を滅ぼせるほどの力を持つ者同士、唯一無二の対等な存在だと認め合っていた
ダリはダロキアをある意味崇拝に近い感情を抱いているからこそ、目の前の、か細い寝息を立てる子供と同一人物とは思いたく無かった
ふと、手の甲にキスを落とした時のダキの間抜け顔が思い浮かんで、微笑んだ
(いやだね…こんな大人にはなりたく無かったんだけど)
ダキをアイツだと認めた瞬間、自分の胸に渦巻く醜い感情で、この無垢な子供を汚してしまう気がした
「どちらにせよ、コイツに記憶はない、アイツのような魔力もない、言霊の力もない」
自分達の知るダロキアとは違いすぎる
もし、もし、ダキがアイツの息子ではなく、本人だとしても、自分達の期待を背負って魔界に立つには心許ない
「表に出すにはまだ弱すぎる」
ドゥルジのその言葉に、ダリも首を縦に振る
あの夢の続きを見るには目の前のこの子供ではまだ役不足だ
「私は、全てを思い出すその時まで、医者としてコイツの側にいるつもりだ」
「僕も…そのつもりだよ」
目の前で静かに眠るダキを前に2人はうなづく
窓の外から、遠くで五月蝿い子供の笑い声が聞こえてくる
本祭が終われば、もう直ぐ終末日だ
アイツのいない世界はまた夏を迎えようとしている、その事実が今のダリ達には煩わしかった
好きなCPは?(市場調査)
-
ダキ×ゴエモン
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ゴエモン×ダキ
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ダリ×ダキ
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ダキ×ダリ
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ダロキア×ダリ
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ダリ×ダロキア
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ダロキア×バール
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バール×ダロキア
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ダキ×アスモデウス
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ダキ×キリヲ
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その他(自由回答)