魔王デルキラの息子   作:雨鬱

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忘れている人もいると思うんですがこれBLDなんですよ


第26話:師団活動休止と乙女心

 

 

 

「……はっ?活動休止?」

 

 

「そうだ、魔具研究師団は所定の規則を満たさない為、『活動休止』する」

 

 

ダキとアスモデウスは生徒会長アザゼル・アメリに突然呼び出された

何事かと思えば、言い渡されたのは師団活動休止の宣告だった

 

 

「なんだと、!何の理由があっー「アスモデウス」…っ、ダキ!」

 

激昂するアスモデウスにダキは片手で制止する

 

 

「団員に3年生がいないから、だろ?」

 

 

アメリはダキの言葉に片眉を動かし笑った

 

 

「ほぉ、師団条約を読み込んでいるとは、流石副師団長だな」

 

 

ダキはアメリの言葉に深くため息を吐いた

 

 

(やっぱり、有耶無耶にはできねぇか)

 

 

副師団長になるにあたって、

師団長に知識面を期待することができないのを分かっていたダキは全力でサポートする為に余念はなかった

各師団のパイプ作りだけでなく、揚げ足取りをされぬよう条約の読み込みをした

その時見つけた第1項、師団結成に関する条約で自分達の師団のある決定的な致命点に気づいて頭を抱えた

 

 

「アスモデウス、師団活動には

ーーー3年生1名以上か、

もしくは、位階4以上の団員が3名が必須なんだよ」

 

「そんな…!」

 

 

今の魔具研には

ランク5のダキとアスモデウス、

ランク3のウァラク、入間

で全員一年生で魔具研師団員として登録されている

 

一年生だけの師団にしては高ランク揃いであることを誇ってもいいぐらいなのだが、

規則は規則

4以上の位階が後1人でもいればよかったのだが…結局はないものねだりである

 

ーーその欠点にいち早く気づいたダキがとった行動は、バレるまで黙ってる、だ

 

ワンチャン、バレる前に入間かウァラクがランク4に上がることを願ってたのだったがダメだった…生徒会を欺けるわけがなかったのだ

 

 

「じゃあ、今から勧誘を…!」

 

「馬鹿野郎、師団勧誘期間はとっくに過ぎてる、せっかく入った新入生を奪う真似してみろ…目の敵にされる」

 

 

3年生以上は既に所属している人たちが大多数だ、そこから引き抜きとなるとかなり厳しい

しかも、他の3年生以下の4以上の部員を引き込もうとしたとしても、そもそも卒業資格が4なのに、3年生以下で4を取れる猛者はほとんどいない

ーーつまり詰んでいるのだ

 

 

「で、どうしたら活動を許してくれる?」

 

 

開き直ったダキにアメリは笑う

 

 

「話の早い奴は嫌いじゃない、生徒会の認可と、他師団の推薦文がいる、団長である入間は生徒会で研修を行い、その他は推薦のために他師団に一時入団してもらう…既にウァラクにはその発想力から遊戯師団へ送らせてもらった」

 

 

「へぇ遊戯師団、シャックスの所だな」

 

 

「ウァラクらしいな」

 

 

アスモデウス達はウァラクの進路にホッと安堵する

遊び大好きなあの師団ならウァラクのことを邪険にする奴らもいない

他師団との関わりは今後の活動にも良い繋がりを持てるだろう

良い采配だ、とダキが感心する中、アメリは強張った顔でダキを見た

 

 

 

「問題は貴様らだ」

 

 

「……もしかして、争奪戦か?」

 

 

「そうだ…、貴様達はどこの師団でもやっていけるだろう、むしろ貴様らのようなタイプなら今後のコネクションも兼ねて他師団と関わることを喜ぶと思って大手師団から探していたのだが…」

 

 

へにょり、とアメリの獣耳が垂れ下がる

ここ数日アメリは物凄く苦労した

 

一時期でも首席、ランク5の高クラス、将来が有望過ぎる悪魔が自分の師団に来てくれる

何がなんでもコネクションを作りたい師団達ばかりだろう

公募せず、秘密裡に進めていたのだが、どこで漏れたか、顧問達に「是非我が師団へ!」と詰め寄られて流石のアメリもヘトヘトだった

……特に魔術開発師団顧問のダリがダキを寄越せとしつこいのなんの

 

 

「こちらで決めようと思ったが、もう、お前達で決めろ……貴様らの希望であれば、他師団の皆も溜飲が下がるだろうし、はぁ」

 

 

疲れた様子でアメリは師団一覧表をダキに渡した

その文字の羅列をザッと見たダキはそこであることを思いついて、アスモデウスを指でくいっと呼び寄せた

 

 

「アスモデウス…」

 

「なんだ…」

 

 

ダキは屈んでアスモデウスに耳打ちした

ダキのその言葉にアスモデウスは驚きながらも聞き返した

 

 

「……いいんだな、そこで」

 

「ああ、頼んだ」

 

「ふん、まぁいい、せいぜい私の有用性を売り込んでくるさ」

 

 

アスモデウスのその確認にダキは真剣な顔でうなづく

アスモデウスにとって、ダキが『そこ』に行かないことが不思議なのだろう

 

 

 

「…決まったか?」

 

 

「ああ、」「はい」

 

 

ダキとアスモデウスはうなづいた

 

 

 

「俺は『放送師団』」

 

 

「私は『魔術開発師団』を希望します」

 

 

「なら、今から1ヶ月、期間は長いが、有意義な時間を過ごせるよう各自研鑽するように!」

 

 

アメリはダキが魔術開発師団に行かなかったことにざまあみろと、その鉄仮面の裏で思いながらも判決を下した

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー各々が他師団に割り振られ早2週間

 

当のダキは放送師団にはすぐ馴染んだ

元々アクドルのライブのバイトの事や、団長バラキが彼の熱狂的な信者だったこともあって、人間関係は悪くない

 

ダキが放送師団を志願した理由は、二つあった

 

一つは、学園内の情報源の掌握

放送師団の他にも新聞師団があり、彼らは同じ情報関係らしくライバルでありながらも親密な仲だった

放送師団を通じ新聞師団とのコネも取り付け、ナニカあった時の情報の受け渡しと、情報操作が可能になるように、彼らと親密になる必要があった

 

掌握のためには、アスモデウスではなく、俺こそが最適だった

 

二つ目、映像記録

放送師団は、過去の試験や行事をすべて録画・保存している

つまり、この師団に入れば、一般では閲覧できない映像をこの目で確かめられるのだ

これこそ、放送師団の真骨頂

 

ーーもし、もっと古い映像が残っているのなら

『魔王子ダロキア』の試験記録を観られるかもしれない

ダキはその可能性に賭けていた

 

 

 

さてはて、その他師団員達はというと

たまに見かける入間は生徒会に揉まれているようで、顔つきが凛々しくなってる

さもありなん、生徒会の訓練の内容を知っているダキは入間がよくついていけていると感心する程に厳しい

 

 

アスモデウスは魔術開発師団のガルゥ団長に気に入られている

貴族のアスモデウスの使う魔術は洗練されていてる

魔術開発師団にとっても質の高い魔術を使うアスモデウスは憧れの存在であり、師団にいたらありがたい一員

魔具研とも研究分野も近く、何よりあの師団は大手だ

いざという時の伝手としても申し分ない

 

顧問のダリには「なんでダキ君来なかったの?!!」と詰め寄られたが、何とか宥めた

 

 

ウァラクは言わずもがな、放課後になるとシャックスと一緒に師団に向かうのを見ているから楽しくやっているのだろう

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

ゆるーく、密かに暗躍しながら師団生活を楽しんでいた時だった

 

 

 

 

 

 

 

ーーピンポンパンポーン

 

 

《放送師団です、生徒会長は至急第一準備室にお越しください》

 

 

「は?」

 

 

この日は、放送師団は筋肉師団のプロモーションビデオの撮影のために野外活動していた

つまりーー『放送師団は生徒会長を呼び出す用事なてある訳がない』のだ

 

 

「おい、バラキ団長!」

 

 

呼びかけると、バラキは真っ青な顔で固まっていた

放送は確かに、放送師団の設備を通して流れた

誰かが、師団の回線を乗っ取っている

 

 

「しっかりしろ、団長!俺は第一準備室へ行く、団長は生徒会室を頼む!」

 

 

「あ、ああ!」

 

 

ダキはその場でバッと羽を広げ、地を蹴り、空へ飛び上がり、第一準備室に急いで向かった

 

 

「ああ、クソッ、間に合えよ!!!」

 

 

 

風と音を意識して、最短速度で校内を駆け走る

目当ての第一準備室に、今まさに入って行った生徒会長の赤い髪の毛が見えてダキは叫んだ

 

 

「生徒会長ォ!!!!」

 

 

ドアを突き破るように飛び込むと、

アメリが何者かに煙のようなものを吹きかけられていた。

 

「テメェッ!!!」

 

ダキはアメリの手を掴み、倒れかけた彼女を抱えたまま、加害者へと一歩踏み込む

 

 

ーーぶしゅわっ!!!

 

「うわっっ!!!!」

 

 

瞬間、視界が白く弾ける

肺に入り込んだ煙が焼けるように熱く、ねっとりと甘い香りに頭がふやけそうになる

嗅げば嗅ぐほどもっと、嗅ぎたくなるその香りに魅力されて、理性ではダメだとわかってはいても、気づけばかなりの量を吸ってしまっていた

 

 

「っ、…、くそ、」

 

 

意識を保っていられない

音が遠のき、世界が水底に沈んでいくように歪んでいく

目に映る景色が揺らぐ中、

目の前に立つ悪魔の存在を睨み上げる

 

 

「かなり強力な作ったであるが…ほー流石首席なりねぇ…まだ意識があるとは、」

 

 

逆光でハッキリと顔は見えないが、意地悪そうな笑みを浮かべ見下ろす姿はダキにとって屈辱でしかなかった

 

 

(このまま、黙って引き下がれるかよ…ッ、)

 

 

ダキは最後の意地で、加害者の髪を数本、力任せに引き抜いた

 

 

「っ、痛ァ!コイツ!!やったなりぃ?!!」

 

ーーぶしゅゅ!

 

 

「っ、あ」

 

 

追加で煙を浴びせられたダキは

指先に確かな感触を残したまま、ダキの意識は闇に沈んでいった

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「会長、遅いな」

 

「一度様子を…」

 

 

 

生徒会長が中々帰ってこないのを訝しんでいた所生徒会室のドアがけたたましく開け放たれる

 

 

「放送師団です!あの、会長は?!」

 

 

呼び出したはずの放送師団の団長が飛び込んできた

 

 

「会長は準備室に…」

 

「放送師団はさっきまで外で資料集めしてて、誰も会長を呼び出したりなんてしてません!!」

 

 

その言葉に生徒会全員が総立ちとなり、準備室へ急いだ

 

「しまった!もっと慎重になるべきだった、会長を1人にさせるなど!!」

 

 

 

バタバタと廊下を駆け抜ける生徒会にバラキも息絶え絶えになりながらも着いて行った

 

 

 

「っ、あの、うちの、仮団員のダキ様が会長を助けに準備室に!」

 

「なに、?」

 

「ダキ君も?!ってか、様って何?!!」

 

 

ーーバァン!

 

 

「会長!」「ダキ君!!」

 

 

そこには倒れるダキを泣きながらゆするアメリの姿があった

 

「会長!?大丈夫ですか!?」

 

「ダキ君!!?」

 

「すぐに医務室に…ッ!」

 

 

「わ、わたくしは大丈夫ですわ、でも、ダキ君が」

 

「「「わ、わたくし???!!」」」

 

 

 

驚いて二度見をしてしまった

耳をしゅんと垂れ下げて、うるうると涙で膜が張った瞳で上目遣いをしていた

 

 

「わたくし、とっても、こわくてぇ…」

 

 

そこにはいつもの威厳ある生徒会長アザゼル・アメリではなく、か弱く可憐で乙女なアメリがそこにいた

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

場所を医務室へ移し、先生方に囲まれたアメリはさまざまな問診を受け答えし、導かれたのは

アメリとダキが浴びたのは『性格改変の魔術』だろうということだった

 

効能は対象者を『乙女』にする、

という前代未聞の魔具

アメリ自身の証言を合わせると煙状の精神干渉魔具という形になるが、煙状であれば大抵は即効性の代わりに有効時間が短い

魔具研にはお飾りの顧問が1人、師団員の中で詳しいキリヲは休学、ダキは見ての通り昏睡状態

専門家もいない以上すぐに解くことは難しいから時間経過で様子を見ようという話になった

 

ただし、問題はひとつ

 

おそらく“吸いすぎた”であろう、ダキの存在だ

 

 

「ダキ君も……乙女モードになるのかな」

 

 

「「「…………………、」」」

 

 

未だ意識不明の彼を見下ろしながら、全員が無言になる

目が覚めた時の彼の性格がどうなってしまうか恐ろしくてならなかった

ダキもアメリも普段の様子からいって周囲の尊敬を集めるカッコいい悪魔だ

そんな悪魔のダキがしおらしく、女々しい感じがなんというか、こう、想像ができなかった

まだ女子であるアメリは良い

けれども3m級の筋骨隆々の男であるダキの乙女姿など絵面がやばい

 

 

「……流石にそれは嫌ですね」

 

 

事態を聞きつけやってきたアスモデウスが苦虫を噛み潰したような顔で呟いた

想像してしまったのか、肌にぶわっと鳥肌が立つのを押さえながら摩る

 

もし、仮に乙女な性格になったとして、ダキが正気に戻った時、恥ずかしさのあまり憤死しないか不安であった

 

 

「っ……、」

 

 

わずかに指が動いた

その小さな仕草に、誰もが息を呑む

 

 

「!今」

 

 

震える睫毛の隙間から、光が零れる

ゆっくりと、まるで夢の底から浮かび上がるように、ダキの瞼が開いた

 

 

「……っ、」

 

 

焦点の合わないまま、瞳だけが周囲を探る

その怯えを孕んだ目に、言いようのない加虐衝動が胸の奥を掠めた

 

 

 

「ダキ君!怪我ない?大丈夫?もうすぐゴエモン君も来ると思うから!」

 

 

駆け寄った入間に支えなられながら

頭を抑えたダキは身を起こした

 

 

 

「ありがとう、ございます」

 

 

「え、」「あっ、……」

 

 

ダキは基本敬語を使う対象はただ1人だ

入間はダキが自分に対して丁寧な態度を取るのが予想外すぎて固まった

対象にアスモデウスは察して頭を抱えた

 

 

 

オネエ全開であれば、まだ良かった

けれど乙女化したダキはまるで別人のようだった

しとやかに、静かに、

息をするたび匂い立つような

夜に咲く月下美人の如き色香を纏う

誰もが思わず喉を鳴らす

 

 

 

「そんなに……見ないでくれますか? 

は、恥ずかしいから……」

 

 

当の本人は長い髪をギュッと握りしめ、伏せた瞳で小さく震える

頬には淡い紅が差し、言葉を選ぶように薄桃の唇を噛んで、こちらを見つめる

 

 

 

(((うわーーーーー!!!!

やっぱり乙女化しとるぅーー!!!)))

 

 

嫌な事ほど現実になるものである

目の前でしずしずと気弱な姿を見せるダキにここにいた全員が心の中で絶叫した

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、入間はダメージを二つ受けることになる

一つは、乙女化したアメリのせいで進まない業務、締まらない雰囲気の生徒会

 

二つ目は、ダキの存在だった

 

 

 

 

「ダキ君…!髪の毛」

 

 

 

登校時間に現れたダキは

いつも顔を覆っていたカリーヘアーが、肩からストンと流れるようなストレートに変わり、まるで別人のようだ

光を受けるたびに艶めいて、蓮の花のような美しさを誇っていた

 

 

 

「イメチェン、してみた……どう、かな?」

 

 

 

その瞬間、校門前の空気がふっと止まった

 

 

 

「す、すっごい美人!!!」

 

 

 

思わず漏れた入間の本音に、誰もが頷く

黄金の瞳を縁取る紫のまつ毛

目尻でくるんと跳ねる睫毛の影が頬をかすめる

整った鼻梁、意志の強い眉

そして、頬に薄桃色の熱を宿しながら流し目をするその姿は、

まるで異国の姫が照れて笑うように、静かで、綺麗で、少し哀愁を感じた

 

 

「やっぱりうちのSDは美人さんでござる〜!」

 

 

ダキが優秀で美人なことを周りに自慢したいゴエモンはご満悦だった

いつもなら、ダキは、ゴエモンとお揃いがいいと言って頑なにその顔を周りに見せようとしないのだ

 

 

「ありがとう、ございます、坊ちゃん」

 

 

ゴエモンからも入間からも褒められて嬉しいのか、ダキは花が綻ぶ様な笑みを浮かべた

 

 

 

「ちょっと、いいかい…?!」

 

 

 

その空気を断ち切るように、ダリが割り込んできた

その瞳は真剣で、どこか焦っていた

教室へ向かおうとするダキの腕を掴み、低い声で言う

 

 

「どうしたんでござるか?」

 

「ダキ君、借りるけどいいかい?」

 

 

そう言いながら有無を言わせないような圧に戸惑うダキ

 

「えっ、と」

 

 

どうしていいか分からず困った様に主人を見るダキに、ゴエモンの主人としてのプライドが沸き立つ

ゴエモンはダリの前へ出て、ダキを庇う様に背に隠す

 

 

「いくらダキが可愛いからって不埒な真似は許さないでござるよ」

 

「ふ、不埒…、し、しない様に頑張るから!」

 

 

どこかに切迫した色が滲むダリの言葉に不信感を持ちながらも、強引に引っ張るダリをゴエモンは阻むことはできなかった

 

 

「行くよ、ダキ君」

 

「あ、……はい」

 

 

その瞬間、ダキの目がわずかに揺れた

嬉しそうな、でもどこか不安を含むような光

ダリはその手を強く引き、二人の姿は朝の校庭の角へと消えていった

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「ダリ……先生、どうしたの?」

 

 

 

ダリに腕を引かれ、

辿り着いたのは教員棟の別棟、ダリの私室だった

静かな空気

窓から射す淡い光が、薄紫のカーテン越しに滲んでいる

 

風に揺れる紫の髪

糖蜜のようにとろける瞳が、真っ直ぐにこちらを見つめていた

 

 

「ダリ……?」

 

 

まるで歌うような心地よいテノールが自分の名を呼ぶ

その響きが、胸の奥を甘く痺れさせる

 

 

 

「どう?似合う、かな?」

 

 

肩からするりと、流れる髪を指でなぞりながら、ダキは微笑む

その仕草ひとつで、時が止まる

髪型を変え、顔を露わにしたダキのその姿は、まるでアイツの、生き写しだった

ガラス細工のように繊細で、触れれば砕けてしまいそうな幻がそこにいた

 

 

「俺ね、ダリがストレートの髪の毛が好きなの知ってるんだぜ」

 

 

その姿で、声で、自分以外を見ているだけで、胸の奥を灼くような痛みが広がる

 

 

(……なんでだろうな、姿をアイツに寄せただけで、こんなにも苦しい)

 

 

今のダキは、いつもの彼とはまるで違う

気弱で、大人しくて、誰にでも優しい

まるで慈母のように微笑むその顔は、触れたら壊れてしまいそうな、薄紫色のプリムラの花

 

 

(ああ……クソッ、)

 

 

だが、それがどうしようもなく腹立たしい

そんな姿を、誰かに見せるな

胸の奥で、何か黒いタールのようなものがどろり、とゆっくりと滲み出す

 

 

(……いっそ、この花を俺の手で汚してしまいたい、壊して、俺しか見られないようにしてしまいたい)

 

 

思考の底で、教師としての理性が警鐘を鳴らす

だが、頭の奥で響くその声を振り払うように、ダリは痛むこめかみを押さえた

 

 

 

「ねぇ、せんせ」

 

 

だけど、そんなダリをお構いなしに、

ダキはダリを抱きしめる

 

 

 

「、ちょ、ダキ」

 

 

 

気付けば、ダキの腕がダリの背に回っていた

ぎゅっと、縋るように抱きしめられる

 

 

 

「俺じゃ、だめ、なの?」

 

 

 

ダリの首筋にダキが甘える様に顔を埋める

ふわり、とダキの髪から香る、清涼感のあるリンスの香りの奥に、懐かしい“あの香り”が微かに混ざっていた

 

 

 

「おれを、みて、だり」

 

 

 

熱のこもった黄金に揺れる双眸がこちらをじっと見る

とろけるそうなほどに震える瞳がまるで泣いているようで、理性が剥がれ落ちていくのを感じる

 

その弱々しい似ても似つかないその行動が、陽炎のようにダキとダロキアが姿が重なって見える

 

 

『私は、コイツが、ダロキアの血縁者、もしくは、ーーーダロキア本人だと、考えた』

 

 

こんな時に限ってドゥルジの言葉がリフレインする

毒の様にその言葉がじわじわと染み込んで、目の前の生徒と、かつての相棒の輪郭が滲んで、揺らいで、見分けがつかなくなる

 

 

「っ、」

 

 

 

 

向けられる熱が、

喉の奥が、

呼吸が、

焼けるようにひどく熱い

 

 

捕食してくれと言わんばかりに無防備なその首筋が白磁のように光を受けていた

 

 

抑えていたものが、音を立てて崩れた

 

 

湧き上がる衝動のまま

ダリはダキの首筋に、唇を落とした

 

 

「っ、ひぁ」

 

 

首筋に触れた柔らかな唇の感触にダキが甘く身じろぎする

べろり、と生温い舌がダキの首筋を這い、狙いを定めて、冷たい牙を動脈に突き立てる

 

 

 

「まっ、て、だりぃっ」

 

 

急所を狙われる恐怖に、ダキの腰が跳ねる

生物としての本能が暴れ、ダリの拘束を抜けようと腕の中でもがく

しかし、そんな抵抗も赤ん坊の駄々でしかない

ダリはダキの首筋に容赦なく噛みついた

 

ーーぶちっ

 

 

「ーー〜ッ痛てぇ、な、おいッ!!」

 

 

 

表皮を噛みちぎられる鋭い痛みに、瞬時に我に帰ったダキは荒々しくダリを突き飛ばした

 

 

「っ、うおっ?!!」

 

 

ーーードンッ、ドサ、ドサドサ

 

ろくに受け身も取れず、吹き飛ばされたダリは本棚にぶつかり、落ちてきた本に埋もれて撃沈した

 

 

 

「信じられねぇ!首に噛み付くかよ!!!」

 

 

 

そんなダリに目もくれず、ダキは噛まれた自分の首を手で抑え、血が出ていないか手のひらを二度見、三度見した

しかし、掌にはなにも血の跡は付かなかった

血が出ていないことに心底ホッとしたダキは、余程焦ったのか、可哀想なくらい涙を目に浮かべ、ダリをキッと睨む

 

 

 

「ダキ君、正気に戻ったみたいだね!」

 

 

「お陰様でな!!!!」

 

 

 

ダキの怒鳴るような声が部屋を震わせた

そこにはもう“乙女”の影はなく、彼が完全に“いつものダキ”に戻ったのを物語っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1限が終わった頃

ダキはようやく帰ってきた

教室に戻ってきたダキを見てゴエモンは驚いたストレートだったサラサラの美しい髪は無く、元通りの跳ねっ返りの髪型に戻っていた

 

 

 

「なんで戻したんでござるか?!」

 

 

「俺は、坊ちゃんと一緒の髪型にしたいんだよ」

 

 

「え、ダキ?もしかして、戻った?」

 

 

「……ダリのおかげでな」

 

 

 

ダキは忌々しげに吐き捨てるが、その仕草はどこか落ち着かない

首筋を押さえ、視線を逸らす

まるで、何かを思い出したくないかのように

 

 

「ねぇ、どうやって戻ったの?ダキ君」

 

 

ダキが元に戻ったのであればアメリ会長にも同じ様な方法を試したくて入間はその方法を聞き出そうとした

しかし、その問いにダキは目線をうろうろさせながら小声で返した

 

 

「………、殴れば元に戻るんじゃねぇか?」

 

 

「え、ダキ君殴られたの???」

 

 

「やっぱり、あの教師殴ってくるでござる」

 

 

「いや、その、言葉の綾ってやつだ!実際に殴られた訳じゃねぇからな!坊ちゃん!!」

 

 

ダリを殺そうと真剣を持ち出して向かおうとするゴエモンを慌てて止めるダキ

 

 

「ねぇ、ダキ君、やっぱり何かあったでしょ」

 

 

「べっ、別になにも、……なかったって」

 

 

「……本当でござるよね?」

 

 

「あ、いや、その、まぁ、…」

 

 

耳まで赤くしてしどろもどろに言葉を探す

その仕草が、まだどこか“乙女”の名残を残していて、初々しい

 

 

「……まぁ、元の人格が蘇るぐらいの衝撃を与えればびっくりして元に戻るんじゃねぇかな」

 

 

「ぐ、具体的は?」

 

 

「何をされたんでござるか、吐くんでござる!!」

 

 

「うっ、うるっせぇーー!!自分達で色々試せよ!!」

 

 

顔を真っ赤にして逆ギレしたダキは、ゴエモンを置いてそのまま何処かへ走り去って行った

折角戻ってきたのにまたサボりである

 

 

「あ!ちょっと、ダキ君ー!!!」

 

 

入間は追いかけるが、ダキは既に廊下の奥へと走っていてしまっていた

ダキは廊下を走る、走る、ただ走る

 

 

(クソッ、クソッ、クソッ!!!)

 

 

唇を噛み締め、一心不乱に走る

髪に隠れた首筋の赤い蕾、口付けられた唇の感触を思い出して赤く火照る頬、落ち着かない鼓動

ヒールや、ベアトリーチェの炎で簡単に消せるその証をダキは消さずにいた

芽生えた意識に気付かぬふりをして、ダキはただ走るしかなかった

 

 

いのち短し、恋せよ乙女

その恋に気づくのは、

始まりか、それとも終わりか

 

いずれにせよ、

その恋の結末を知るのは、当人のみぞ知る

 




【小話 乙女の心】
ダキとアメリにかけられた性格改変の魔術
正確に言うなら、それは“性格改変”ではなく、
心の奥底に沈んだ『恋慕』を掘り起こし、
その代わりに『自信』を極端に削ぐ
そんな残酷な術だった


術にかけられたダキは目覚めてから
ずっと、ふわふわしていた

世界がやけにキラキラして見えるのだ

何もかもが美しくて、自分に無相応に思えた

よく、術にかけられる前の自分はあんなにも自信満々に振る舞えたものだと、一人でに感心するほどに以前の自分は傲慢だった

命の恩人の傍に仕えることを誇りにしながらも、更に高みを望み、強さを求めた
まるで、その身の程を知らぬ子供のように



「あなたを、知らなければ、俺は忠義だけで生きていけたのに」



あの人の笑い方、指先の動き、声の抑揚――
ひとつひとつを思い出すだけで、胸がざわめく

恋に恋する、乙女の心
忠誠も誇りもどうでもよくなって、
ただ、あの人に見てほしくてたまらない
その考えを持ってしまう浅ましい自分が嫌で仕方がなかった
でも、その想いは歯止めが効かない



(どうしたら、見てくれる…?)




ふと脳裏に浮かんだのは、
自分によく似た、もうひとりの男の顔

初めてダリに会ったとき、あの人は俺を“誰か”に重ねていた


そう思うと、胸の奥がギュッと縮んで、
喉の奥が焼けるように痛んだ


戯れに、髪をまっすぐに整え
ずっと、主人の為に隠していた顔を露わにした

ずっと確信が持てなかった
けど、不死鳥を使い魔にしてから、
よく噂で耳にしてきたあの魔王子

鏡の中の自分は、その“ダロキア”に驚くほどよく似ていた


「嫌になる」


自分している行為が如何に虚しいものだと分かっていても、やめることなんて出来なかった


ぽつり、と涙が床に滲んだ

好きなCPは?(市場調査)

  • ダキ×ゴエモン
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