魔王デルキラの息子   作:雨鬱

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第28話:ロイヤルワン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、マジかよ」

 

 

 

朝、生徒たちが続々と登校しているその時間帯の事だった

やけに校門前が騒がしい

 

 

「なんだァ?」

 

「入間軍でござるよ!」

 

 

隣にいたゴエモンから声が上がる

全く朝から退屈しない

 

 

「また、アイツらですか…」

 

「見にいくでござるよ!ダキ!」

 

 

坊ちゃんに手を引かれ、

ざわめく群衆に釣られ見に行けば、

そこに居たのはいつもと雰囲気が違う入間だった

 

 

 

「は???」

 

「い、入間殿ぉ?!」

 

 

いつもはの入間は

『にこにこ笑顔の人畜無害のいるま君』って感じだが、

今の入間は、まるでオーラから違う

『クールでカッコいい、カリスマ入間サマ』って感じだ

 

 

「生徒会のしごきに可笑しくなったか…?」

 

 

つい最近まで魔具研再起のため、過酷な研修を受けていた入間のことを思い出す

研修が終わったときも、普段と変わらない様子だった

強いて言えば、少し頼もしくなっただけだ

 

 

しかし、この短時間で性格や雰囲気ががらりと変わるようなこと

ーーそんな事象は、一つしかない

 

 

 

「悪周期か?入間…」

 

 

いや、だとしても、だ

ニンゲンが、悪周期なんて起こすのか?

 

悪周期というのは"魔力"のある悪魔が

感情と共に溜まる"魔力"に誘発されて

暴力的加暴的な思想が高ぶり、

破壊衝動や犯罪行為など悪意への欲求が高まる発作の事だぞ

 

 

(入間には魔力が無い筈…何故だ?)

 

 

入間の魔力は指輪に込められたサリバンの魔力によるものだ

魔術を行使するにもその指輪から魔力を借りているというのに

 

 

目を再び入間へ向けると、

そこには静かに微笑み、手を挙げて集団に挨拶する入間の姿があった

まるでファンサを送るアイドルのように、堂々とアスモデウスとクララを引き連れて教室へ歩みを進める

 

 

当然の疑問をこんな衆目の前で聞く訳にも行かず、「コワ…」とあまりの変貌ぶりに引きながらも、遠巻きに見ていた

 

 

 

 

 

 

 

 

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「悪周期の入間、めっちゃ面白れぇ」

 

 

 

同じクラスなのだから、無視したくとも視界に当然入間の姿が映る

普段のお淑やかな感じとは真逆も真逆

アスモデウスに茶を淹れさせたり

ウァラクを自分の膝に乗せたり

 

 

「フフッ…!何様、俺様、入間サマってか、めちゃくちゃ面白ェよ」

 

「ダキって意外と笑い上戸でござるよな」

 

 

込み上げる笑いを抑えられず肩が震える

悪周期から正気に戻ったら存分にからかってやろうと思った

 

 

「……ん?」

 

 

そんな中、入間が教室の外から匂うゴミの腐敗臭に気づき、顔を顰めた

 

 

「なんだ、この臭い」

 

 

「アー、ここの教室、ゴミ捨て場に近いんだけど、そこまで行くのがめんどくさがった他のクラスの奴らが捨ててくんだよねぇ〜」

 

 

なんて事ないようにリードが笑う

そんなふたりのやり取りを見てダキがため息を吐いた

 

 

「ある程度締めておいたんだがな…」

 

「締め…?」

 

「恐れ多くも坊ちゃんのいる教室に悪戯しようとする不届者が多かったからな」

 

「私も手伝おう」

 

「いいね、そいつら縛り上げて、アスモデウスの炎でキャンプファイヤーでもするか」

 

「おっかね〜!」

 

 

首席2人の報復計画に隣で聞いていたジャズがケラケラと笑う

 

勿論、見つけ次第縛ってゴミ捨て場に捨ててやっていたから、それなりに懲りたと思っていたのだが……どうやら学習をしないらしい

 

 

(……クソッ、)

 

 

 

積み上がった他クラスのゴミ

袋から漏れ出た、すえた匂いに、胸内がムカムカする

 

 

「……………」

 

 

そんな苛立つダキを入間はジッと見ていた

ーーーその入間の姿をダキは気づいていなかった

少しだけ気分が良くないダキを見て入間は思い出す

追憶の水鏡で見た"ニンゲンだった頃のダキ"の

ゴミに囲まれた寂しい少年を

 

 

 

「ーーラファイア」

 

 

入間のその一言で積み上がったゴミが炎に包まれる

囂々と燃え上がる火柱を背に、入間は高らかに宣言した

 

 

 

 

 

 

「ーーよしっ!

お前ら、この納屋から“城”へ移るぞ!」

 

 

 

 

踵を返して、入間は階段を上がる、

向かうは本校舎、大職員室

 

理不尽に立ち向かい、反撃の錦を上げる

逆光を背に歩む、その姿

理由は分からない

ーーただ、目が離せなかった

 

隠しきれない笑みを浮かべ、

ダキは入間の隣へ自然と駆け寄っていた

 

 

「はっははは!いいぜ!!!

ーーその胆力!嫌いじゃねぇぜ!!」

 

 

ダキは入間の肩をガッと掴む

 

 

「行くぞ、入間ァ!」

 

 

ーーまるで、戦場に立つ盟主のような存在感を背に纏って、ふたりは、一緒に歩き出した

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なんだか、面白くなってきた

唐突に教室の移転宣言をした入間の後ろについて行きながらもダキは言い知れない高揚感で本校舎を歩いていた

 

 

「ーーおい、アブノーマルクラスだ!!」

 

 

「どうして、こっちの塔に…?」

 

 

入間を先頭にアブノーマルのハイランク達が軒を連ねる

 

 

 

「金獅子サブノックだ!でけーー!」

 

「うぉおおおおーー!ダキ様!!!」

 

「きゃあ!アスモデウス様ぁ〜ー!」

 

「お、3のジャズにゴエモンもいるぞ!」

 

 

本校舎から隔離された問題児クラスが、

まるで行軍のように職員室へ向かって進む

 

滅多に見られない光景に、

周囲の悪魔たちは黄色い声を上げ、彼らを歓声で出迎えた

 

 

 

 

 

 

ーー職員室

 

 

 

乗り込んできた入間を見て、

カルエゴは疲れたように眉間を揉む

 

「今度はなんだ……、突然行軍してきたと思ったら、キサマ…」

 

「いやはや、カルエゴ先生もご存知でしょ?

我ら問題児クラスの教室は実に酷い!」

 

 

「生徒の学習環境を整えるのは学園側の義務では?」

 

「はぁ?学習ぅ、?」

 

呆れたようにカルエゴは入間を見る

学生の本文らしく勉学に励みたいなどそんな殊勝な態度を取るタマとは思えない

 

 

「そもそも!何故隔離する必要があるのか?!

ーー我々のどこが問題児なんだ?」

 

その言葉にカルエゴは頭を抱えた

 

(……アレだけのことをやらかしておいてまだ自覚がないのか)

 

カルエゴは自身の机から分厚いバインダーを持ち出した

ーードカドカッ、

荒々しく資料を机の上に積み立てると、その一つを取った

 

「鈴木入間

ーー入学式における暴行行為と校舎破壊ほか」

 

「共犯、アスモデウス・アリス」

 

ギロ、と入間の後ろのアスモデウスを指差す。

当の本人は、責められながらも胸を張った。

 

「まさしく入間様との運命的邂逅!」

 

カルエゴは聞こえないふりで次をめくる

 

「サブノック・サブロ

ーー教師への暴力行為、および校舎破壊」

 

「教師を倒せば位階が上がると思ったのだが、

とんだ拍子抜けよ」

 

ランクの仕組みをわかっていない馬鹿である

カルエゴの眉間の皺が深くなる

 

「アンドロ・M・ジャズ

ーー生徒および教師の金品盗難」

 

カルエゴのその指摘にジャズはポケットに持っていた可愛らしい財布を懐にしまった

 

 

「シャックス・リード

ギャンブルした仲間6名を病院送り」

 

「いやぁ〜!熱が入りすぎたよね!!」

 

 

悪げなく笑うが病院は病院でも

普通の病院ではなく"精神病院"である

どんなギャンブルをしたらあそこまで壊れるのか、理解に苦しむ、カルエゴは「はぁ」と深いため息を吐いた

入間に付き添ったクラスメイト達をそれぞれ指さしながら罪状を淡々と読み上げる

 

 

 

 

「そして、ダキ、貴様はーーー、」

 

 

 

カルエゴが俺の名を呼ぶ

ずっと気になっていた、俺はどんな理由でアブノーマルクラスに入れられたのか

 

 

(俺は入間達と違ってアブノーマルクラスに入れられるほど、悪い子じゃねぇぞ)

 

 

SDとしてそれなりに模範になるよう行動してきた

素行に関して全くに心当たりがないダキは腕を組んでカルエゴの言葉を待った

 

 

「ーー魔神クラスの使い魔の所有、

その使い魔が、いつ暴れて、甚大な被害をもたらすか…貴様の隔離は妥当と言える」

 

 

その言葉に思わず笑ってしまった

 

 

「ハッ……笑わせるぜ、魔神クラス?

いかにこの使い魔が強大であっても、

ーー"殺傷能力がない"って事を知っててそれを言うのかよ」

 

 

その言葉にカルエゴは苦々しげに言葉をこぼした

 

 

「……賢い貴様なら分かるだろう、

貴様の使い魔が一体、何を指すのか」

 

 

ピシリ、と

誰も触れていないのに、ダキの背後の空気だけが微かに割れたようだった

 

 

(まただ、また、俺を通して、誰かを見ている)

 

 

カルエゴの吐いたその言葉にグッと黙る

 

 

(俺を、見ろよ)

 

 

行き場のない強い怒りが腹の中でぐらぐら、と煮え立つ

ぶつけたくなる感情を抑えて、「チッ」舌打ちだけに済ませた

 

 

「ーーその他にも、

貴様らが入学式からクラス決めまでの短期間で起こした事件は数知れず…と、言う報告を受けている

ーー何か弁明はあるかね?」

 

 

 

「我々のどこが問題児なんだ!!!」

 

「どう見ても問題児だろうが!馬鹿者!!!

 

 

怒鳴り返したカルエゴの声に職員室がビリ、と震えた

 

 

「マ、……まあ、冗談はここまでとしてだ」

 

 

入間は一転して落ち着いた声に戻す

 

 

 

 

「隔離の理由には納得しましょう

ーーだが、あまりにも待遇が悪すぎる」

 

 

 

「はぁ……他に隔離できる場所がないのだから、仕方あるまい」

 

 

「オイオイ、嘘をつくなよ」

 

 

 

にやり、と入間は笑う

 

 

 

「あるだろ?もう一つ、隔離できる場所」

 

 

 

その言葉にカルエゴの眉がぴくりと動いた

入間はまっすぐに言い放つ

 

 

 

 

 

 

 

「王の教室(ロイヤルワン)を開けろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間ーー

職員室の空気が、わずかに張りつめた

誰もが理由を知らない沈黙だけが、曖昧に重く垂れ込める

 

 

 

ーー王の教室(ロイヤルワン)

それはかつてバビルスに通っていた魔王が使用されていたとされる禁足の教室

敬意と畏れゆえ、誰も踏み込まないはずの場所

 

 

 

「過去にも開けた事があるのは知っていますよ、ねぇ、カルエゴ卿?」

 

 

その言葉にカルエゴの眉がぴくりと反応する

 

 

(たしかに、皆の総意でかのロイヤルワンは開かれた、ほんの、数十年前の事だ)

 

 

カルエゴの兄の時代に開かれたその教室

だが、その“先人”は失踪し、

ロイヤルワンは再び永遠に封じられた

 

今はただ、固く、固く保全された名誉教室

 

 

「……ロイヤルワンが開かれたのは、一度だけだ」

 

カルエゴの視線が、ほんの一瞬だけ遠くを見た

誰にも分からない、昔の何かを思い出すような目

 

 

「あれは……特別な例だ」

 

「へぇ、特別?

我々とその先人と、一体何が違うのかーー、」

 

 

いやらしく笑う入間を睨む

入間は誰が開けたのかなんてさらさら知らないが、大層な悪魔だったのだろう

ーーカルエゴに『特別』と言わしめる程に

 

 

 

「ッ、アレは我が校が誇る、名誉教室だ!!!

貴様ら如きが使うなど…身の程を知れ」

 

 

怒号とともにカルエゴの背後から、

彼の家系魔術ケルベロスが現れる

バチバチと紫紺の稲妻がカルエゴの周りで光り、魔力の圧で息が苦しくなる

 

 

「如き、ねぇ…ならば証明しよう」

 

 

入間もカルエゴに対抗するかのように、決意を纏った魔力が迸る

カルエゴの魔力とぶつかり合い、

空間に目に見えぬ衝撃波を生む

 

 

「俺たちが、『王の教室』を使用するに値する生徒だとーー、」

 

 

ーーダンッ!

 

入間は机に足をのせ、立ってカルエゴを見下ろす

 

 

 

 

 

 

「バビルス教員、過半数の移動許可証を2週間以内に集めるーーー、いかがです?」

 

 

 

 

 

 

 

 

入間のその言葉に

カルエゴはフッ、と背中に出していたケルベロスを消した

 

 

 

 

 

「教職員全員の許可証、

ーー加えて、3日以内に、だ」

 

 

 

 

 

 

 

ーーパァン、!

 

その言葉を言い終わるや否、入間はカルエゴの手を取り、その掌に自分の手を打ちつけた

乾いた音が部屋に響く

 

契約は成った

 

 

 

「約束は、守れよ?粛に」

 

 

 

ーーあとは実行するのみである

 

 

 

 

 

 

 

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ロイヤルワンの解放許可をもらうため、教師陣を順に回っていた

意外にも手続きは順調で、このまま行けば期限の3日には間に合いそうだ

ーーそう思っていた

 

 

「…やだね、」

 

「、!」

 

 

バビルス主任、ダンタリオン・ダリ

面白いことが大好きでノリがいい、生徒達からも慕われる悪魔

簡単に許可を貰えるだろうと意気揚々と踏んでいたからこそ、この返しは予想外だった

 

 

「入間君のしていることはとっても面白そうだよね!教師としては君のその行動を応援したいと思っている」

 

 

ダリは微笑みながら、

困惑する入間に対し、けどね、と言葉を続けた

 

 

 

「ダンタリオン・ダリにとしては、それだけじゃあのロイヤルワンを開け渡してやるつもりはないね」

 

 

 

その一言に、入間は驚く

面白いことなら何でも歓迎する男、それが入間からみたダリという悪魔の印象だった

だから、この提案を拒まれるとは夢にも思わなかった

 

 

「じゃ、がんばって!」

 

 

ヒラヒラと手を振り飄々と去っていくダリ

その後ろ姿を入間はただ茫然と見送ることしか出来なかった

 

 

 

 

 

入間は近くにあったベンチにドカッと座り込む

何だかドッと疲れたような気がして重くなった肺の空気をため息と共に外へ吐き出した

 

 

 

 

 

(なにかを、見落としてる?)

 

 

 

 

 

空を見上げると、入間の今の心境とは裏腹に、気持ちがいいくらい真っ青な空が広がっていた

 

 

 

「ふぉっふぉっ、悩んでおるな特待生」

 

 

その声に振り向くとそこにはモラクルがいた

 

 

「隣、いいかね、そこは儂のお気に入りでね」

 

「いいぜ、勿論」

 

 

その言葉にうなづいたモラクルはそのまま隣に入間の隣に座った

あまり交流がない2人ではあったが、特に気まずい雰囲気と言うわけでもなく、むしろ、初夏ようなの程よい風が2人の間を流れる

 

 

 

「なぁ、モラクルせんせー、なんでダリ先生はロイヤルワンの許可出してくれねぇんだと思う?」

 

 

入間はお手上げだった

普段の彼の様子を見ていれば簡単に許可を出してくれそうなのに、1番簡単だと思っていた相手から拒否されるとは思っても見なかったのだ

 

 

「あぁ…、そうだな、ロイヤルワンについては、おそらくカルエゴ卿より頑なだと思うぞ」

 

 

 

「アンタは、知ってるんだな」

 

 

 

モラクルの含みのある言葉に入間が前のめりになる

ようやく見つけたダリの『欲』に入間の目がギラギラと光るのを面白そうにモラクルは笑った

 

 

 

「ほほ、年寄りの昔話じゃが、聞いてくれるかの」

 

 

入間は黙ってうなづいた

その入間の様子に満足げに笑い髭を撫でる

 

 

「あれは、何十年も前、魔王デルキラ様が消息をたったばかりの頃じゃ…

あのロイヤルワンを開けた悪魔がいた」

 

 

自分達以外にもあのロイヤルワンを開けた先達がいるのはカルエゴの話から知っていた

けれど、"誰が"開けたのかは知る由もなかった

 

 

 

「へぇ、その無謀な悪魔の名は?」

 

 

何気なく放った問いのはずだった

だが、返ってきた反応が、空気を一変させる

 

ーーまるで抜き身の刃のような鋭さだった

 

いつもは細目で見えぬ瞳が、普段の耄碌した老人に思えぬ強者の光を灯している

 

 

「そうか、知りたいか」

 

 

モラクルは少しの沈黙を置き、遠くを見るように目を細めた

その瞳の奥に、まるで過去の亡霊でも映っているかのようだった

 

 

「ーーー魔王子ダロキア」

 

 

 

その名が落ちた瞬間、

入間の背を冷たいものが伝い落ちる。

 

初めて聞く名のはずなのに、

心の奥で何かがざわめいた

この名は、これから先、自分の運命を切り裂くように現れる

そんな確信めいた予感が、胸の奥で蠢いた

 

笑っていたはずの頬が、知らぬ間にこわばっていた

 

 

「かの魔王デルキラ様の実子であり、次の魔王にと、多くの悪魔が望まれたーー、」

 

 

モラクルは深く目を伏せ、

祈るように拳を握りしめた

 

 

 

 

「ーーワシの教え子だった」

 

 

 

 

その言葉が、重く響いた

二人の間を、一陣の風が静かに通り抜ける

時間が止まったような静寂の中、

モラクルは再び唇を動かした

 

 

「そのダロキアの、相棒とまで言われた悪魔が『ダリ』じゃよ」

 

 

入間は驚きで目を見開く

ダリの普段の飄々とした態度からは想像もできない過去だ

 

バビルスの主任であるダリはそれなりの実力者だろうとは思いながらも、その実力を見た事がない入間にとって気安い先生としか思えなかったのだ

 

 

 

「ふぉ、ふぉ、ふぉ、あやつらはとんだ悪童でな!この拳でアイツらの頭に作ったたんこぶは数え切れん」

 

 

ダロキアの担任になれたのは

まだモラクルが杖もつかない老人などでなかった若かりし頃の話だ

 

 

 

「ほんとう、手を焼かされた」

 

 

 

しみじみと噛み締めるように呟かれるその言葉は彼らとの思い出がいかに楽しかったかが滲み出ていた

 

 

「ダリも、卒業後は魔王ダロキアの側近として活躍するつもりじゃった、しかしな、」

 

 

目に焼きついた、あの時の動乱を思い返して、モラクルは目を伏せた

やっと、王が立ち、一つに魔界が纏まるかと思いきや、すんでのところで、王たる男はいなくなった

その混乱はデルキラの時より深く、また世は大きく乱れ始めたのだ

 

 

 

「ーーダロキアは、卒業式にその姿を消した

父王同様に、跡形もなく、さっぱりと」

 

 

あの時のダリ達の荒れようは見ていられなかった

廊下には怒号と嗚咽が渦巻き、学生館の窓ガラスが震えた

 

 

『ダロキアの、アイツに関わりそうなモン全部調べろ!!!人間の魂を使ってでもアイツを見つけだせ!!』

 

『うっうっうっ、どこ行ったの、ダロちゃん、いかないで、いかないでぇ…』

 

『クソがッ!!アイツは俺のモンだ…無くさせねぇ…デルキラの二の舞になってたまるか!!』

 

 

一人が叫べば、周囲の声が重なり、怒りは雪崩のように膨れ上がる

嗚咽が重なり、言葉はただ切羽詰まった祈りに変わり

衝動のまま叩きつけられた拳で壁石の床に亀裂が走る

 

 

まるで、魔王デルキラをなくしたかつての13冠を見ているようだった

そんな彼らのよすがはあのロイヤルワンだ

 

 

「あやつらの思い出が詰まった場所、それが、ロイヤルワンだ」

 

 

モラクルは入間の瞳をまっすぐと見据えた

 

 

「特待生、お前がしようとしている事は、

ダロキアの思い出を塗り潰し、新たに魔界の王になると言う大それた行為に等しい」

 

 

 

低く、重い声だった

 

それは昔、モラクルがダロキアに向けて放った言葉と同じだった

 

 

 

「ーーそれは、ダロキアの側近達も敵に回す事じゃ」

 

 

目の前の入間がダロキアと同じく王の器なら、どう返すのだろうかと、モラクルは気になって問うた

 

 

 

 

 

ひとつひとつの現実が、まるで毒のように入間の胸にじわじわと響く

しかし、

 

 

「……ハッ!それでも俺はやるぜ、ロイヤルワンは俺のものだ」

 

 

そのモラクルの言葉に入間は不遜に笑って返した

入間のその姿にかつてのダロキアの面影を重ねて、そうか、とモラクルは独り言のように呟く

 

 

モラクルは後悔と懺悔の籠ったその瞳を硬く閉じた

 

 

(ダロキア、お前の目指したその道を目指す若人が出てきたぞ)

 

 

あの時、担任だったモラクルがデルキラのロイヤルワンを開けると聞いたあの頃の記憶が呼び起こされる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ、モラクルが杖も持たず

教師として第一線を走る、若き悪魔だった頃

ーー現魔王、デルキラの息子がバビルスに入学してきた

 

入試のテストで叩き出した歴代最高得点

魔力に、知識に、魔術に、

そして変質した家系魔術を使う、未知数の存在

 

誰もが担任になるのを避ける中、

白羽の矢が立ったのはモラクルだった

 

 

 

『おい!ダロキア!テメェ何しようとしてるか分かってんのか?!』

 

 

廊下中に怒号

モラクルから発する魔力が空気を震わせ、壁にヒビが入る

そんな怒髪天のモラクルに、ダロキアはなんて事がないように向かい合う

 

『ーーああ"?何をそんなに怒る?

親父殿のロイヤルワンを俺が使う、ただそれだけだ』

 

 

飄々と振る舞うダロキアの胸ぐらを掴み上げる

 

 

『いくら魔王子だからって、父親の遺産を好き勝手に使えると思うな! 十三冠が黙ってねぇぞ!』

 

 

息子とはいえ超えてはいけない一線がある

今のダロキアは、目の前に広がる地雷原に知らずに足を踏み入れようとする、死に急ぎ野郎でしかなかった

 

 

『だからだろうが』

 

 

しかし、モラクルが心配するだけ無駄だった

 

 

『…なに?』

 

『俺はアイツらを怒らせてぇんだよ』

 

だって、ダロキアはワザと父親達の側近達を怒らせたかったのだから

その言葉が落ちた瞬間、

廊下の空気が張り詰めた

理解が追いつかず、

モラクルは無意識に息を呑む

 

 

『は、おま、正気か…?!』

 

 

モラクルは目の前の生徒がわざわざ魔界の権力者を怒らせたいワケがてんで理解できなかった

混乱するモラクルにダロキアは静かに言葉を紡ぐ

 

 

『親父殿が居なくなって何年が経った?』

 

 

ダロキアの声は静かだった

しかし、その静かの声音の奥に炎のように熱い決意が滲んでいた

 

 

『このまま王不在でいるのは、魔界のためにも良くない』

 

 

『それなのに、だ

王座を守ると称してのさばる今の十三冠は腐ってる

俺が魔王になる為に、あいつらを排除する』

 

 

その言葉に宿るのは、

若さゆえの無謀ではなく、見据えた広い視野

まだ少年と呼べる年で、すでに魔界全体を見ていた

その聡明さにモラクルの背中に冷や汗が流れ落ちた

 

 

 

『はは、大きく出たな、魔王とは……

バビルスを入学したての若造が、超えられると思うのか?お前の父親達に』

 

 

デルキラは魔界の中でも抜きん出た魔王だった

その魔王を越えるなど天がひっくり返っても難しい

 

その魔王デルキラに従う、

ダロキアの母親や師匠達13冠は

軽々しく超えられるような者ではない

 

皮肉を込めて言い放つと、ダロキアは不敵に笑った

その笑いには恐れも迷いもなかった

 

 

 

 

『子は親を越える為にいるもんだろう?』

 

 

 

燦々と輝く太陽の日が差しこみ

指に嵌められた金の指輪がキラリと光る

 

 

 

『俺は13冠を超え、さらに親父殿を超え、

ーー新たに、俺が、この魔界の秩序となる』

 

 

 

ーー預言の書に記されたソロモンの指輪

次期魔王の証を生まれながらに持った悪魔

 

 

 

 

『モラクル、お前も最前線で俺の軌跡を見届けろ』

 

 

 

 

次期魔王として期待される男の、強い覚悟

その熱い感情が、この心を揺り動かす

 

 

 

 

 

(…ワシも、もう少し若かったらな)

 

 

 

 

今もなお、あの頃の記憶を思い出す度に

枯れ木のような体の中に

燻る心の火種を感じて、

モラクルは目を閉じ、沈黙を噛んだ

 

 

(ダロキア、お前の治世に、ワシは力になってやりたかった)

 

 

モラクルは目を開けると

何か思いを馳せるかのように、

ベンチから葉桜になった木を見ていた

 

 

「……そうじゃな、

もし、ダリを攻略したいのであれば、

首席の……ダキとか言ったかな、あやつを向かわせれば良い」

 

 

「へぇ、ダキとダリ先生、仲がいいのか?」

 

 

そういえば乙女化した時のダキをいきなり連れ去って行ったのはダリだった事を思い出した

意外な繋がりに、腕を組む

 

 

「さてな、だが、ダキから言われればダリも従わざる負えんよ」

 

 

「…どうしてなんだ?」

 

 

その入間の疑問にモラクルは自身の髭を触って笑った

 

 

「ふおっふおっ、たまには自分で調べてみるがいいよ」

 

「……ちぇ、なんだよ、それ」

 

 

簡単には攻略させてくれそうにない

入間はこれ以上の情報をもらえないとわかると口を尖らせてつぶやいた

 

 

(しかし、まぁ、これ以上にないヒントだ)

 

 

肩を落としながらも、入間の瞳はすでに次の一手を見据えていた

入間は立ち上がってモラクルを見下ろす

 

 

「ありがとよ、モラクルの爺さん」

 

「あとは、頑張れよ、若人」

 

 

入間は振り返ることなく目当ての場所まで走った

残された時間を、一分一秒でも無駄にしたくなくて

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

入間は図書館に赴いた

バビルス所有の蔵書量は凄まじく、一生をかけても読み切れるかわからない量の本が目の前に広がっていた

 

 

 

「すげぇ…」

 

 

 

大理石で作られた荘厳な造り

陽の光は差し込むことなく、寂しさを感じるが、その冷たさが本を愛する者にとって心地よい静寂を生み出していた

 

入間がここに来たのにもワケがあった

今のモラクルの話によれば、ダリも、魔王子もここの卒業生だということ

ならば、図書館には彼らの卒業アルバムが寄贈されているはずだ

ロイヤルワンの許可を貰う為にも、モラクルが言った、ダキとダロキアの繋がりを、入間は調べる必要があった

 

 

「なぁ、お姉さん、魔王子の卒業アルバムが見たいんだけど…」

 

 

「卒業アルバムですね」

 

 

カウンターにいたお姉さんに声をかけると

読んでいた本を閉じ、立ち上がって後ろの書庫から紫色の本を持ってきた

 

 

「ありますよ、こちらです」

 

「さんきゅ、」

 

 

受け取ったアルバムをチラリとみる

紫色の少し古いが重厚な造りの表紙に、金でバビルス卒業アルバムと魔界語で書かれている

 

適当に近くの椅子に座り、

そのアルバムのページをめくる

Aから始まるクラス紹介、顔写真が載ったそのページをペラペラとめくり、アブノーマルクラスにまで行き着いたところで、目当ての悪魔はいた

 

 

 

「……ダキ?」

 

 

 

艶やかに肩を流れる紫色の髪

こちらをまっすぐと見つめる黄金の瞳

 

その美貌は、まるで未来のダキがそこに迷い込んだかのようだった

 

 

「……おいおい、似すぎだろ」

 

 

髪型も、ツノの数も違う

けれど、その面影はあまりにも生々しい

あの時乙女化で見たダキの姿と瓜二つの写真の向こうの彼は、彼とダキが血を分けた兄弟と言われても信じるほどだった

 

 

(……、モラクルが言っていたのはこれか)

 

 

そして、その近くに若かりし頃のダリがいた

けど、今とそんなに姿が変わらない

 

 

「マジで童顔だな、あの人」

 

 

卒業アルバムの表紙に刻まれた年数を見れば、

本来ならもうかなりの年齢のはずだ

それでも、写真の彼は大学生のように若々しい

 

 

入間は何となくページをめくる

 

 

最初に会ったのは入学式の写真

その中で登壇するダロキアの姿があった

明るく笑うその顔

瞳には、若葉のような青さとまっすぐな希望が宿っていた

 

 

ぺらり、またページをめくる

 

 

収穫祭、と書かれたページ

桜を背に、片手に王冠を、もう片手でダリを羽交い締めにして、無邪気に笑うダロキアがいた

その勇姿は、見ているだけで胸が熱くなるほどまぶしかった

 

 

その後もページを巡る

 

 

ダロキアが映った写真には多くの悪魔が彼を囲んでいた

そこにずっと隣にいたのは栗色の髪の悪魔

 

 

 

「ダリ先生…」

 

 

入間の声が小さく漏れた

ふたりの距離が、どの写真でも変わらない

きっと本当に、“相棒”だったのだろう

 

彼らの笑顔を見ていると、

入間の胸にも自然と憧れが湧いた

自分たちも、アスモデウスやウァラクと、こんなふうに、どんな未来でも肩を並べて笑っていたい、と、そう意志新たに、入間はそっと、アルバムを閉じた

 

 

その瞬間、埃がわずかに舞い上がり、

古い紙の香りが空気に滲んだ

 

 

 

――もし、ここで入間が最後までページをめくっていたなら

後に訪れる“悲劇”の欠片に、気づけたのかもしれない

 

 

けれど入間は、そのまま立ち上がり、

何も知らぬまま、未来へ歩き出した

 

 

 

ーー入間は気づかない

 

 

 

ロイヤルワンを巡る騒動が、

後に、もう“後戻りのできない領域”へ踏み込んだということにも




pixivとハーメルンでそれぞれ投稿してるんですけど、
最終的なエンドルートを変えて投稿しようと思ってます
次回はサイトの雰囲気を考えて
ハーメルン版で全年齢版
pixivにR-18版でそれぞれ投稿します

好きなCPは?(市場調査)

  • ダキ×ゴエモン
  • ゴエモン×ダキ
  • ダリ×ダキ
  • ダキ×ダリ
  • ダロキア×ダリ
  • ダリ×ダロキア
  • ダロキア×バール
  • バール×ダロキア
  • ダキ×アスモデウス
  • ダキ×キリヲ
  • その他(自由回答)
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