「はぁ…」
ダキは、重い鉛色の空に
気乗りしない気持ちを
ため息とともに吐き出した
「めんどくせぇ…」
ダキは教員棟のへ向かっていた
入間に頼まれ、ダリの攻略に向かう途中である
確かに今のアブノーマルのクラス部屋は『ゴエモンに相応しくない』だから、ダキ自身ロイヤルワンを自分達が使うという入間の思い切った発言に手を叩いて笑う程歓迎していた
が、それとこれとは別である
『い、や、だっつーの!!!』
『頼む、ダキにしか頼めねぇんだ』
『お前が言って許可もらえなかったら誰にもださねぇーんじゃねぇの?!』
ダリは面白いことは何でもOKを出す悪魔だ
そんなダリが、このイベントに嬉々として許可を出さないのにはそれなりの理由があるはずだ
しかし、入間はダキなら行けるという揺るぎない確信を持ってダキを真っ直ぐ見つめる
『いや…ダキ、お前なら、ダリはきっと話を聞いてくれる』
その入間の一言に、ダキの眉がぴくりと動く
『入間ァ……てめぇ、何を知った?』
ダキの言葉に入間はそっと紫色の本を渡した
そう、卒業アルバムである
『……?』
無言で受け取ったダキはパラパラとページをめくり、そこで見る事になる
自身と瓜二つの男の顔と、若かりし頃のダリを見て固まる
(……やっぱり、そういうことかよ)
目の前に突きつけられた現実に、胸の奥に重石がのしかかるのを感じた
(アイツは、俺を通して、魔王子ダロキアの面影を追ってる)
分かっていた
けど、事実として目の前で見せられるのとではショックの度合いが違う
無意識に泣きそうになるのをグッと我慢して唇を噛んだ
『そっくりだろ?その悪魔…ダリの相棒だってモラクルが言ってた』
(相棒……ね)
ハッキリとしなかった、ダリとダロキアの関係性を反芻する
その言葉はピッタリとハマっている様に見えてどこか違和感があった
(そんな、言葉で片付くのか?あの感情が?)
笑い合う二人が映る写真を指でなぞる
ただ、相棒という関係性にしては、ダリがダキに向ける感情は複雑だ
すました態度の裏に隠された、執着や愛憎に似た重く深い、あの感情は、もっと、相棒というだけの言葉で到底納得できるものでは無かった
消せずにいた首筋の
咲いた蕾の跡がじくじくと疼く
『なぁ、ダキ、お前記憶がないって言ってたよな』
ニンゲン同盟を組んだ入間はダキの来歴をそれなりに教えてもらって知ってる
知らないことといえば、その夜以降に発覚した、ダキが魔王子と顔がそっくりだという事実ぐらいだった
入間は、見開きのページに映るダロキアを指差す
『もしかしたら、この男が、お前の記憶を取り戻す鍵になるんじゃねぇか?』
分かってるさ
こんなに、周りから似てると囃され、ヴェアトリーチェも俺に『思い出せ』と言った
魔王子の事を知ることが、俺自身を知ることに繋がるのだと、とっくに気がついていた
けれど、それは
(今の自分を、壊す事になりかねない)
夢で見た、悪魔の狂った笑い声が耳奥で響く
世界の均衡のために、
そんな耳障りの良い正義で、力を振るう
血と懺悔に、見向きもせず
命を命と思わず、ただ厳格に、天秤に計る
“人間味"のない心の悪魔
(もし、夢で見た、あの男が、本当に、過去の俺なら、)
それはもう、今の、命の恩人に尽くす事を喜び、他者を労る、そんな、自分らしさはきっと、無くなる
その心を失うことが、ダキは1番怖かった
忘れたくない、消したくない
ーー今の自分が、偽りの自分だったとしても
『いいぜ、どの道、向き合わなきゃいけなかったんだ』
でも、逃げる事は出来ない
俺は、ダキは、ゴエモンのSDとして胸を張れる悪魔でいたいから
鬱々した気持ちで、広い校内を探し、歩く
ーーーーーーー
「で、ダキ君が僕に用事だなんて、嬉しいな」
ニコニコといつも通り掴めない笑顔で出迎えるダリに、ダキは気に障ったのか、そっけない態度でこちらを見ようとしない
「……茶が飲みてぇ」
ぶっきらぼうに誤魔化す
まぁあちらから来てくれたのは僥倖だろう
「はいはい、まぁ、座ってよダキ君」
促されるままダキはソファーにどかっと腰を下ろした
その隣で手際よく茶を入れる
蒸されたティーポットから香り立つ清涼感のあるハーブの匂い
ダキと自分の前に蒼い紅茶がたっぷり入ったティーカップを置いた
湯気がゆらりと二人のあいだを隔てるように揺れていた
ダキが落ち着いた様子で一口飲むのを確認して、ダリは楽な姿勢をとった
「で、今日きたのはやっぱりここ、のこと?」
そう言ってダリは首筋をトントンと指で突いた
ダキの首につけられたキスマークを揶揄しているのだ
「ちげぇよ!!」
瞬間湯沸かし器の如く真っ赤になるダキ
揶揄い甲斐がある
突如差し込まれた本題に動揺して、カップを落としそうだったダキにクスクスと笑う
「違うの?それが気まずくて最近避けられてたと思うんだけど…?」
「ぐっ………」
その言葉にダキは唇を噛み締める
図星だろう
「逃げてたもんね、キミ」
「それは、て、テメェが…!」
さらに追い打ちをかけると
首を真っ赤にしてダキはわなわなと震えた
「でも、キミ、僕のことが好きでしょ?」
その一言に激昂したダキは手に持っていたカップをダリに向かって投げつけた
ーーパリンッ!!
勢い良く投げつけられたそれを既で避けると
後ろで粉々になって落ちていく
「っ……、うるっせぇ、!!」
ずるい男だろう
自分でもそう思う、けど、そんな大人を本気にさせたお前が悪いんだ
意地悪く熱のこもった瞳で見ると、
ダキは耐えきれなくなってグッと視線を下に下げた
「ごめん、ごめん、虐めすぎた」
反応があまりにも良くていじめすぎてしまったカラカラとなんて事ないように笑うと一層傷ついた顔でダキは顔を上げた
「っ………俺が、お前を好きだとしても、お前は、俺を見てないだろ…?」
髪の隙間から睨む斜陽の瞳が、
涙に濡れて揺れる
「ダキ…?」
やばい、そう思ってダキを宥めようと立ち上がった
「……苦しいんだよ!お前が!俺を、見るたびに、俺とは違う誰かを、見てるのが…ッ!」
そう言ってダキは背中から紫色の何かを掴んで投げた
咄嗟に腕で庇って落ちたそれは、見覚えのある光景がいくつも写真という形で目の前に色鮮やかに現れた
自信に満ち溢れた、憎い男の顔
その男に肩を組む、若い頃の自分
「相棒なんだろ?あぁ、ほんとそっくりだよな、あ"ァ?」
「どうしてそれを…」
「モラクルのジジイが教えてくれたんだよ!」
ダリは額を手で抑えた
「はぁーーわ……あのジジイめ、余計な事をぺらぺらと喋りやがって」
煩わしげに深い溜息を吐く
そんなダリに、ダキはグッと泣きそうになるのを堪えた
「俺は、ダロキアじゃない」
「声で悪魔を魅了することも、魔力だけで地震を起こすことも出来ない、普通の悪魔なんだよ…ッ、」
ダキも『普通』というには優秀すぎる部類の悪魔ではあるがそれでも『規格外』だったダロキアには遠く及ばない
どこへ行ってもバケモノのような悪魔と比較される、そのことが苦しくて仕方がなかった
ぽつり、ぽつりと、喉を震わせながら吐くダキの本音
その声には、苦しさと諦めと、どうしようもない虚しさが滲んでいた
届かないと知りながらも、それでも告げずにはいられなかった本心
ーーダキが向けるダロキアへの嫉妬だった
それはかつてダリも味わったことがある
どうしようもなく苦しくて、届かない、狂想
過去、ダリが苦渋を舐めたその想いと同じだった
だからこそ、ダキのその言葉は静かな雨のように、胸の奥深くに沁みていった
思いがけず、ずっと隠していた孤独が少しだけ慰められた気がした
「うん、そうだね」
静かに、ダリは微笑む
ギュッと軋む音
握りしめるダキの指が白くなるのを見て胸の奥で、仄暗い歓喜がじくじくと疼いた
「……っ、」
(傷つけてると分かっているのに、止められない、酷い大人でごめん)
最高学年の頃のあいつを思い出す
あいつの躍進劇は誰にも止められなかった
魔界を揺るがす魔力も、
支配する声も、
その手で振るう大罪も、
この世界をひっくり返すその思想も、
どれもが手をつけられない
皆、彼の存在に夢を見た
いつの間にか神のように絶対的な存在になった
けど、それと同時にあいつはどんどん心を失っていった
他者に向ける感情さえ、どこか遠くなっていく
皆、凍っていくあいつの心の中に残ったわずかな熱を、
少しでも向けてもらいたくて
傷でもいいから、覚えていてほしくて
焦りのまま奪い合った
それがより、アイツを、失う行為だって気づかないぐらいに
「でもね、僕は、今度こそ、間違えないつもりだよ」
でも、目の前のこの子供は、
心を失う前のアイツに良く似ている
ダリは震えるダキの手の上からさらに自分の手を重ねる
その手から逃れようとダキはグッと手を引くけれども、
ダリはその手を取って、
指で絡めて取り、
逃がさないようにギュと握り締めた
手と手を通じて、感情がダイレクトに伝わる
汗がじわり、と滲む
少しでも、キミに向ける心が本物だと伝われば
「僕は、キミが好きだよ」
かつて、相棒という立場に甘えて言えなかったその言葉を、今、ようやく伝えた
沈黙の中、無機質に時計の針が鳴り響いた
ーーーーーーー
ダリの告白は残酷だ
俺みたいな悪魔を捕まえておいて、俺以外の男を見ている
潔く振ってもくれず、むしろ好きだとのたまう
……まるで、生き地獄のようだ
何も返せず、ただ喉から迫り上がる熱い感情で、言葉が出せない
「君を見れば見るほど、アイツが幻影が蘇る」
そう言って、ダキのぽろぽろと頬を伝う涙を、優しく、指で拭う
「それは、君の中に確かに息づくアイツの血があるからだ」
その一言にカッと血が昇ったダキは荒々しく言葉を吐き捨てる
「ハッ……!血がなんだ?生き別れの親子とでも言うのか?この俺が?
ーーまだ生まれ変わりとでも言われた方が、まだマシだ」
警戒している獣の如き形相で、ダリを睨む
「ううん、それよりもっと、近しいものだと、僕は感じてるよ」
そんなダキと対象的にダリの声は静かだった
けれど、その静けさが、何よりも確信に満ちていた
「キミは、ダロキア本人だよ」
「…………は?」
その瞬間、空気がひび割れるように感じた
理解したくない真実が、視界の端で蠢く影のように形を取りはじめる
それは記憶の欠片でも、単なる過去の残滓でもない
もっと深い場所、名も知らぬ何かが胎動する
自分でも制御できない“存在の影”
血の奥底に眠る、異質な声が、かすかに笑った気がした
「ずっと、確信を持てなかった、けどね、この間キミが薬を盛られてやっと、確信したよ」
スッと、ダキの頬を撫でる
こちらを見る目が、狂気の沙汰にしか思えなくて、ダキは怯えた
「何、言ってんだよ……」
ダキの声は掠れ、喉の奥がひりつく
言葉だけが脳を滑り、脳が理解を拒む
世界の輪郭がじわりと滲み、目の前の“現実”が形を変えていく
理性が追いつけないほどに、
"真実”の姿は、魔界の言葉でも形容できない異形をしていた
「あれは、君が僕を抱きしめた時だった」
ダリはゆっくりと目を伏せた
乙女化したあの事件、密室でダリと二人っきりになった時に、ダキの中から零れ出たものを、思い出していた
「あの時、君の中に眠っていた“ダロキア”が、顔を覗かせたんだ」
ダリはあの時、ダキの首筋から香るあの芳香をよく知っていた
それは、ダロキアが感情が昂った時に発する"同性交配魔術"の名残りだったからだ
「ダロキアは、普通じゃない」
ダリは静かに言った
驚きに目を見開くと、何かを勘違いしたと察したダリから「ああ、違う違う」と訂正が入る
「勘違いするなよ、魔王の子、だから特別って言うワケじゃなくて、同性同士の親から『魔術』によって人為的に産み出された存在なんだよ、アイツは」
「は…?魔術で、悪魔が悪魔を生み出すことができるのか??」
ダロキアは、両親が同性同士だ
普通なら、その2人の間に子供など生まれるはずがない
「そ、だからダロキアは普通の悪魔とは違う」
ダリの言葉に、ダキは無意識に両腕で自分の体を抱きしめた
肩がわずかに震える
『普通じゃない』という言葉が、胸の奥でざらつく
ダキには、自分が“普通”ではないことを、とうに分かっていたのだ
「君が、乙女化した時、瑞々しくて、甘ったるくてーー美味しそうな、香りをしたのを知ってる?ねぇ、ダキ君は香水を付けてる?」
「いや…俺は、香水なんてつけない…」
ポロがデルキラとの間の子を産む為に使った古代魔術
別名『繁栄の術』とも言う
それは、元を辿れば『少子化の救世主』となる為に作られた術だった
「じゃあ、やっぱり……あの時の君は、あれはダロキアが感情が昂る時によく見せた体臭と一緒だった」
その術の名の下に生まれた子は
他者を惹きつけ、誘惑し、命を次代へ繋ぐための美と魅力を備える
だがその代償として、肉体からは理性を溶かすような甘い香りが滲み出る
それは、発情を誘う“繁栄の残香”
本来なら血を流した時に香るソレは
感情が昂るとその牙を剥いた
ーー産めよ、増やせよ、地に満ちよ
生まれながらにして、性愛の象徴を持つ罪深い存在なのだ
「ちがう!……おれは」
その事実はダキにとって強い衝撃だった
立っていられないほどの眩暈に目を覆い、力なくソファーへ腰を下ろす
もっと、ダロキアに成り代わっていく呪いだとか、クローンだとか、隠し子とかそう言ったものであれば納得できた
けど、その証拠を否定もできない
(だって、俺の血は…)
悪周期を、誘発する危険なものだから
「……親子なら、体質は受け継がれるだろ?」
ダキは縋るような気持ちで、ダリに問いかける
しかし、ダリは頭を横に振り、
「いいや、一代のみだ、
ーーアイツが実装した時、散々文献を調べて回ったから、それは揺るがない事実だ」
ダリはダキの肩に手を置き、真剣な眼差しで告げた
「君は、何らかの原因で記憶を失い、力を失い、体まで若返った…ダロキア本人だよ」
ダリの言葉は静かに、しかし胸を突き刺す刃のように、確実に心を貫いた
唐突に告げられた真実に、何をどう反応しても良いかも分からず、その場でダキは固まる
「ロイヤルワンを開けたら、君は注目される」
ダリのその一言に、幾億の好奇の目玉が、ぎょろり、とこちらを一斉に見る幻覚がよぎる
ーー自分が本当は『ダロキア』とバレたら?
ダキは無意識に頸に爪を立てる
「そしたら、キミは『ダロキア』にならざるをない」
例え、力がない抜け殻のような存在であろうと、あのダロキアの信者達が、放っては置かないだろう
そうなってしまったら、今ダリが愛した『ダキ』という存在も消えてなくなる
目の前で消えていなくなるのは、一度で十分だ
「なぁ、分かるだろ?僕の気持ち」
ダリは立ち上がると、ギュッとソファーに力無くしなだれるダキを抱きしめた
ダリの体温が毒のようにダキの心に染み込んでいく
「僕は、キミを失いたくない」
その真剣なダリの思いに、ロイヤルワンを開けて欲しい、なんて、ダキは言えなかった
けど、それを素直に受け入れるには、色々とあり過ぎた
ダリの胸元をそっと、手で押し除けた
「……わりぃ、ひとりにしてくれ」
その拒絶に、ダリはぐっと、何かを耐えるような顔をして「…‥いいよ、」とダキから離れた
ーーーーーーー
ちく、たく、ちく、たく
時計の針が、神経質に鳴り響く
ぐるぐると、纏まらない思考ばかりが右往左往する
頭皮がひりつくようなストレスに、思わず髪を引っ張った
なんて事ない小さな痛みだけが、今の自分を、この世界に繋ぎ止めている
「………くそ、」
気が遠くなるほど長い時間が経ったような気がした
――ぺるるるる
思考を断ち切るような、けたたましい着信音に
無視しよう、そう思っても意識が向く
鳴り止まないコール音が余計に気を荒立つ
今は、誰かと話す余裕なんてない
さっさと、切ってしまおうとポケットからスマホを取り出した
だが、液晶に映る名前に指が止まる
「……坊ちゃん」
ーーーーピッ、
「もしもし?ダキ?調子どうでござる?」
呼吸が、ほんの一瞬止まる
その声――生き生きと弾む、心底楽しそうな声に、思わず胸の奥が温かくなる
「まぁ……ぼちぼちですよ」
「こっちは順調でござるよ!」
その朗らかな声に、硬く閉ざしていた心の隙間が、ほんの少しだけ緩む
「ロイヤルワン、楽しみにしてるから、みんなも力の入りようが違うでござる!」
ダキの他にも、ロイヤルワンを開ける為にクラスメイトは頑張ってる
ジャズはあのカルエゴ卿から私物を盗んだし、アスモデウスは魔開の大手師団のツテを使ってバビルス内の教師達から許可をもらおうと頑張っている
ーー頑張ってるのは、俺だけじゃない
「ダキは、ダリ先生?ってひとの許可貰いに行ったんでござるよね?入間殿が、ダキにしか出来ないからって」
嬉々として語るその声音、重要な任務を自慢のSDに託されたことがよほど嬉しいのだろう
声に込められた信頼が、胸の奥でじりじりと熱を帯びる
「ダキなら出来るって信じているでござる!」
ダキは深く目を閉じ、拳を握り直す
胸の奥の熱さを、少しだけ静めるように息を止める
ーー主人が、自分なら出来ると信じてる
ならば、それに応えないのはSDじゃ無ぇ
溢れそうになる感情を抑え、普段と変わらぬ低い声で、しかし確かな決意を込めて口を開く
「……ああ、頑張るよ、坊ちゃん」
ーーーピッ、
再び静寂が落ちる室内
じわり、と胸に広がる充足感にダキは微笑んだ
(いつだって、どうしようも無い俺を目覚めさせてくれたのは坊ちゃんだよな…)
「….俺らしくもない」
ダキは肺の中の空気を全て吐き出す勢いで天を仰ぎ見る
ーー再び見開いたその瞳はもう、揺らがない
ドアの外ではダリの気配がする、きっと、今の会話も聞こえていたのだろう
ダキはドアを開けた
「答えは、決まった?」
ドアのすぐそばにいたダリがダキを見上げる
こちらを見る瞳は、凪いで、水面のように静かだった
けれど、その奥に、ほんのわずかな期待の光がちらつく
グッと拳に力を込め、その光に気づかないふりをする
(腹の中は決まった)
この決意がいつか自分の首を絞める
けれど、今、自分が大事にしたいと思った人たちの笑顔を守りたい
その為に、ダリの想いを、自分の心ごと、否定する
「ダリ……俺は、ロイヤルワンを開ける」
言葉の先に、迷いも躊躇も残さなかった
真っ直ぐに放たれたその一言が、空気を裂く
ダキは手元からロイヤルワン解放許可書を差し出した
「そう……」
差し出された書類を受け取ると、
ダリはしばらく視線を落としたまま、何も言わなかった
静寂だけが、二人を包み込む
「それが、君の選択なんだね」
「ああ、」
「後悔、しない?」
「しねぇよ」
ダキのその言葉を聞くと、
ダリは懐から万年筆を取り出した
先程までの葛藤は他所に、さらさらと『ダンタリオン・ダリ』と美しい筆跡で署名した
「はい、」
ダキはその紙を受け取って部屋を出た
ダリのそばを通り過ぎ、そのまま外へと向かう
「行くのかい」
「もう、用はねぇ」
「そうかい…またね、ダキ」
ーーパタン
ダキはその言葉に振り向きもせず歩き出す
ダリは、その姿が見えなくなるまで廊下で立ち尽くしていた
ーーーーーーー
「…………」
ダキの気配が完全に消えると、何気なしに、誰もいなくなった自室に戻る
白磁の破片が散らばる光景に、ダリは一瞬息をのむ
それは、さっき、ダキが壁に投げつけた、二対のティーカップの片割れだった
バラバラになった破片を、素手で掴み拾い上げる
「……っ、」
鋭い痛みに顔を顰める
掌を広げるとそこには一線、赤が滲んでいた
破片でざっくりと指を切ってしまった
なんて事ない痛み、なのに
「あれ、?、」
ぽろり、と涙が溢れる
全然痛くなんてないのに涙がポロポロと落ちていく
「……あーあ、」
ダリはダキに逃げて欲しかった
ダロキアも同じように立ち向かって、自分たちの前から消えたから
けど、それをしたら、ダロキアらしくない
アイツは真面目に、何でもかんでも向き合って、立ち向かっていくからかっこいい
その矛盾めいた心情に「天邪鬼だなぁ」と笑って溢す
「……僕が守る、キミの笑顔も、選んだ未来も」
ダリの声は低く、けれど震えない
痛みも、苦しみも、怒りも、全部を飲み込み、破片を強く握る
その視線は、誰にも侵されない強さと、壊れやすい繊細さを同時に秘めていた
「……相棒、だからね」
白磁の破片に
ダキの赤い血がべったりとつく
ーーまるでそれがその決意の血判かのように
好きなCPは?(市場調査)
-
ダキ×ゴエモン
-
ゴエモン×ダキ
-
ダリ×ダキ
-
ダキ×ダリ
-
ダロキア×ダリ
-
ダリ×ダロキア
-
ダロキア×バール
-
バール×ダロキア
-
ダキ×アスモデウス
-
ダキ×キリヲ
-
その他(自由回答)