魔王デルキラの息子   作:雨鬱

33 / 48
第30話:ポロ襲来

 

 

 

 

 

 

ぐちゃぐちゃだった

何から逃げたいのか、何に怒っているのか、

この感情をなんて表せばいいか分からないぐらいにダキの感情は吹き荒んでいた

 

 

「……くそ、」

 

 

貰った許可証を握りしめて、ダキは入間の元へ行こうとした、

けれど

 

 

ーーーパンッ、パンッパララ…

 

 

「……チッ」

 

 

 

音をした方を見れば腕輪が二つ、壊れて粉々になっていた

止めようと意識を向けても止まらない

感情に引っ張られるように、濃密な魔力が体から溢れていく

 

 

 

(あー…ダメだ、今日)

 

 

 

ダキの感情の揺れ幅に合わせて生成される無尽蔵の魔力

新しいのを付け直したところで同じ様に壊れる未来が容易に想像できた

 

 

(今日、誰にも会わない方が逆にいいな)

 

 

ダキの魔力は体に毒だ

その重苦しいほどに圧縮された魔力は

近くに居た者に魔力酔いだけでなく、呼吸困難など、悪い影響を与えかねない

 

 

「ヴェアトリーチェ」

 

 

 

ダキのその声に黄金の炎が現れる

 

 

「入間に、頼む」

 

 

 

不死鳥はダキからその紙を嘴で加えると、

黄金の尾羽が、ひらり、と弧を描く

 

 

 

「はぁ、…」

 

 

 

 

その姿を見送り、今日は大人しく帰ろう、そう思っていた

ーーその時だった

 

 

 

 

ーーービュォォォォォオオ!!!!

 

 

「っ、」

 

 

 

 

暴力的な突風に身体が揺さぶられる

砂と若葉が巻き上げられ、

渦巻く風の中でぶつかり合い、まるで研磨される刃の様に鋭く、表皮を傷つける

 

 

 

「くッ、なんだ…?!」

 

 

 

荒れ狂う暴風に目を開ける余裕すらない

ダキは腕で顔を覆い、必死に踏ん張った

 

 

暴風の裂け目から

突如として、

ーー闇が、襲いかかってきた

 

 

大きく黒い翼の悪魔が、真上から一直線に

 

 

 

 

 

 

「なっ、ー、」

 

 

 

 

避ける暇などない

物凄い形相でこちらに手を伸ばしてくる

反射的に仰反る上半身、それを長い腕が絡めとる様に、巻きつく

腰をガシッと掴み、グッと体に寄せられて、

ダキの巨躯が宙に浮いた

 

 

 

 

 

「は、ーーーぁああああッ?!!!」

 

 

 

 

思わず叫ばずにいられなかった

ふわっと胃の腑が体内で浮く様な感覚

上へ上へと引っ張られていく感覚と共に全身にかかる過重圧

バンジージャンプやジェットコースターなんて生温い、安全バーなんてものは無く、ただ信頼性のない誘拐犯の鋼鉄のような腕だけが頼りだった

 

 

 

 

「はな、せ!!!」

 

 

 

 

空中にも関わらず、ジタバタと踠くが、そんな抵抗なんてどうって事ない

 

空気が耳を引き裂くように流れ、

バビルスが急速に遠ざかっていく

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

時は遡って、15分前のこと

 

 

 

 

 

 

「おっ、サリ〜ーー!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーバァン!!

 

 

学園長室のドアをかなりの勢いで開け放つ

ひとりの客人

 

 

 

 

 

 

 

「来たね、ポロくん」

 

 

 

 

 

そう、アムドゥスキアス・ポロ

元13冠で、現王伴であり、息子と夫が行方不明になってからは世界を旅する音楽家である

 

サリバンよりも大きな体がしなやかに歩く

黒のストライプのスーツとヒールが鍛えられた体を美しく見せ、

馬の立て髪のような黒と白の髪が鮮やかに揺れた

 

エジプトの女王の如くハッキリとした目元の

美しいかんばせは、焦りと苛立ちで歪み

その様子はいかに、ポロが急いで辺境から戻ってきたのかを物語っていた

 

 

 

 

「あんなふうに呼びつけておいて、しょうもない手掛かりだったら承知しないわよ!!!」

 

 

 

 

烈火の如く詰め寄るのも無理もない

なんせ、何十年も探し続けた"自分の息子"の手掛かりである

カケラさえ見つからなかったその手掛かり

それを掴んだとあっては、辺境で音楽活動に勤しんでいたとて、何もかも捨てて急いで戻ってくるには十分な理由だった

 

 

「まぁまぁ、座りなよ」

 

 

ポロをソファーへ座らせるとサリバンはお茶を入れた

淹れたての茶の湯気がゆらり、と茶の芳香と共に立ち昇る

 

 

「ふん、」

 

 

その香りに満足して、ポロは口をつける

 

 

「どう?久しぶりのバビルスは?」

 

 

一息ついたのを確認したサリバンは、本題に入る前に世間話を始めた

なんせ、サリバン自体もポロと会うのは何年も前の話だ

旧知の仲間との再会に微笑む

 

 

 

「……悪くはないわね、あの子が居た時は治安が最悪だったもの、アンタと教師たちの努力の賜物ね」

 

 

ポロは何処か遠い目で、過去を思い馳せる

バビルスには思い入れがある

夫であり、生涯の王、デルキラとの出会いだけで無く、息子ダロキアが通い、そして、その姿を消した、場所だから

 

 

 

 

 

 

 

「ーー、そうそう、ここに来る前、ロイヤルワンに寄ったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーかちゃり、

ポロはティーカップを机に静かに置いた

久しぶりに見たロイヤルワンは、

鎖と錠前、さらには結界で固く閉ざされ、

まるでそこであった思い出そのものを封じているかのようだった

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこで、聞き捨てならないこと聞いたわよ」

 

 

 

 

 

 

 

薄く細めた黄金の瞳が、

まるで獲物の喉笛をなぞる指のように光る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタ、ロイヤルワンを、開けるですって?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶわり、と重苦しい圧迫感が部屋を満たす

逃走も抵抗も赦さぬ圧

ビリビリと表皮を刺激するようなその魔力

それは、押し寄せる弦とクラリネットが、

同じ旋律で抗う間もなく迫り来る、名もない追手そのもののようで

サリバンの耳の奥で鳴り響き止まらない

 

 

 

「ーーもしかして、

アンタが私を呼び出したことと関係するのかしら…」

 

 

囁きにも似たその問いは虚言など許さない雰囲気を滲ませていた

威圧するポロを前に、

サリバンの表情がふっと陰る

 

 

 

「……まずね、君に真っ先に伝えたいことがあって」

 

 

「なによ」

 

 

ポロは足を組み直し、サリバンを見た

その真剣な表情にポロは少し体を強張らせた

 

 

 

(本当にあの子の消息に繋がる証拠見つけたとでも言うの?)

 

 

腕を掴んでいた拳に力が籠る

しかし、

ポロのシリアスな感情など吹っ飛ばすかの様にサリバンはニコーっと花が飛ぶ勢いで笑う

 

 

 

「僕、孫ができたんだよね〜!!!」

 

 

 

ドンッと机に入間の写真を拡大したボードを置き、誇らしげにポロに見せる

 

 

「……は?」

 

 

サリバンの言ったことが全て脳から滑り落ちる様だった

 

 

(なんて言った…?マゴ…マゴって孫よね、え、孫?!!)

 

 

「ーーーはぁぁぁあ????!孫ォ?!」

 

 

二度見、三度見するが、写真に映る孫らしい子供はどう見てもサリバンと似ていない

 

 

「あ、アンタ、まず子供がいないでしょ??間はどうしたの、間は!!!」

 

 

ポロの知る限りではサリバンは独身である

子供がいたと言う話も聞かない

 

 

「まさか…隠し子?」

 

 

「違う違う!僕に子供はいないもん」

 

 

「じゃあ、尚更おかしいでしょうがぁぁあ!!」

 

 

「まぁまぁ、良いじゃない、孫は孫なんだもん」

 

 

「私か?私がおかしいのかしら??」

 

 

額に手を当て天井を仰ぎ見るポロに構わず、サリバンはでれでれと嬉しそうな顔で惚気る

 

 

「でね、僕のこの目に入れても痛くない可愛い孫『入間』くんって言うんだ〜」

 

 

「そうなの…」

 

 

「今ランク3に上がってね〜、この間の師団披露で花火っていうスッゴイの作ったんだよ〜」

 

 

「あら、一年で3?中々じゃない、うちの子には劣るけど」

 

 

「でね、その入間くんの

ーー同学年に気になる子がいるんだ」

 

 

「へぇ?」

 

 

(いよいよ本題ってワケね)

 

 

サリバンは紙束をポロへ差し出す

 

その表紙には[極秘]と赤く捺印されていた

ーーぺらり、と表紙を捲ると

大きく顔写真が張り出させていた

 

 

「……っ、」

 

 

 

息が、一瞬止まった

 

 

眼前に映る子供の容姿があまりにも既視感のあるものだった

 

 

紫の髪が無造作に伸び、

内側からざっくばらんに跳ねる蛍光色

野暮ったく、鼻下まで覆う前髪が

陰気臭い影を落としていた

 

口元に讃えた余裕のある微笑み

顔を隠していてもわかる、強者の風格

 

 

 

「(この髪の毛は…)ーーダロ、ちゃん?」

 

 

ダロキアは元々髪質はポロ似だ

 

"とある意図"があって、ダロキアはバビルスの入学する年頃になると魔法薬で髪をストレートに整えていた

 

この写真の向こうにいる子供はまさにバビルス入学前のダロキアそのものだった

 

 

ーーしかし、

 

 

(ツノが…ない、)

 

 

ダロキアの象徴とも言える3本のツノはない

片ツノは欠け落ち、一本と半分しか残っていない

 

 

(……いいえ、この子がまだダロちゃんと決まったわけではないわ)

 

 

ポロは自分を叱咤するように首を振ると

食い入る様に書類を読み込む

それは

ダキの入試試験の結果から始まる調査記録

 

 

[バビルスには首席で入学、実技では名門アスモデウスを抑えトップ、座学は3位という好成績を残し、総合結果首席、

異例のバビルス首席がふたりという結果…]

 

 

名門バビルスを首席入学という華々しい経歴

ポロも「凄いじゃない」なんて言葉を溢しつつ、次の文字列を目で追っていた

 

 

[入試面接の内容曰く、本人は、あのクロケル大災害の、被災者……?死にかけていたところを助けてもらった悪魔の下で居候中、将来は恩人を支えるSDとして活躍したいとの言]

 

 

「えっ、SDに?!!」

 

 

バビルスを首席で入学できるような有望な悪魔が抱くような野望ではない

しかし、他ならぬ"命の恩人に仕えたい"という気持ちはかつてデルキラに仕えていたポロにとって痛いほどに分かる感情だった

 

 

[入学後、使い魔試験では、あの不死鳥を召喚し、『ヴェアトリーチェ』と名づけ使役]

 

 

その文字にぴくり、と肩が震えた

 

 

(なんで……その名前を)

 

 

不死鳥そのものの名は別にある

けれどダロキアは“使役すると決めた瞬間”、

迷いなくその名を与えたのだ

──ヴェアトリーチェと

 

 

(……偶然にしては出来過ぎているわ)

 

 

閉ざされていた感情の炉に、

ひとつ、火種が落ちた

 

 

(期待しても、いいの?

この子がダロちゃんだって…)

 

 

生死すら掴めなかった息子

その生存の可能性を知っただけで

押し殺していた心の蓋が、炎熱で歪む

 

 

 

(落ち着いて、落ち着くのよ…)

 

 

ーー吸って、吐く

短い呼吸の音が自分でうるさい

鼓動が速度を上げ、血が全身へ焦燥と希望を運び出す

ポロは目にいっぱい涙を溜めながら

震える指で資料につまむ

 

 

「ポロくん、無茶しなくていいんだよ」

 

「いいえ、これは、私が求めた真実よ」

 

 

そう言ってポロはページをめくった

その薄い紙一枚が、何故かとても重く感じた

そこには、[参照]という但し書きと共に載ったダキの入学試験での写真があった

 

 

ーーが、

そのページに貼られた顔を、ポロは一瞬“認識”できなかった

 

 

瞳が拒むように、脳がその姿を解析するのを拒絶したからだ

 

髪で覆ってなどいない、その時の素顔

ダロキアの面影のある自分によく似た目元

元の美しさを損なう程に顔全身には、

赤黒い凍傷と白いヒビが無数に刻まれていた

 

その額には角はない

けど、ポッカリと何かある窪みが、かつてそこに“在ったはずの3本目”の影を匂わせていた

 

 

(ダロちゃん……アナタ、一体何があったの?)

 

 

震える指で、説明文をなぞる

 

 

[ーーその際、顔全体の傷が完治…元は凍傷、裂傷の傷跡がひどく、長年付けられた痕のようでヒールも不可…この写真は、入試時に本人性確認のために撮られた素顔である]

 

 

あまりにも痛々しい姿に、体が引き裂かれるように痛い

魔力が不安定に揺らぎ、

込み上がる熱い感情が抑えられなかった

 

 

「っ、う、……ッ、」

 

 

喉が、焼けるように熱くて、堪らない

言葉にならない嗚咽が喉奥から引き絞られるようだった

 

 

 

 

 

 

 

「その資料にあると思うんだけど、ダキくんは魔具研に隠されてた『七つの大罪』を見つけてね」

 

 

「…まって、見つかったの?」

 

 

ポロは逸る手でページを数枚飛ばす

文字を目で追い、そこに貼られた写真に唖然とする

そこに映る雷を纏う緑色の騎槍は、今までどこを探してもいなかった"ダロキアの遺作"

 

 

(ダロちゃんが失踪してから

あの魔具も、あの子も、同じ日に消えた)

 

 

ーーまるで、ダロキア以外は主だと認めないかのように

 

 

 

(忘れ形見みたいなものだと、誰も口にはしなかったけれど……そう、思っていたのに)

 

 

こうもあっさりと、見つかるなんて

 

 

 

 

 

 

「で、使ったはいいけど、ダキくん魔力不足で昏倒しちゃったんだよね」

 

 

「…………は?魔力、不足?」

 

 

「体質らしくてね、意図せず"体から勝手に魔力が抜ける"だって…だからダロくんだった頃のように、規格外な魔術は使えない」

 

 

それは、魔力が桁違いにあったダロキアらしくない症状だった

 

 

(やっぱり、ダロキアによく似ているだけの、別人?もしくはあの子の子供……とか?)

 

 

「僕は、ダキくんが、ダロくんと同一人物だと確信してる

偶然で片付けるには、あまりにも類似点が多すぎる"からね」

 

 

「だからこそ、とても、伝えにくいんだけどね」

 

 

「なによ…」

 

 

困惑するポロに、サリバンは言いづらそうに真実を伝える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……記憶がないんだってダキくん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………え、」

 

 

 

 

 

「その恩人くんに拾われる前の記憶が何もないんだって、

だから君が母親だということも、

過去の自分がどんな悪魔だったのかも、今はもうわからない、

ーー本当に別人となって生活している」

 

 

 

 

 

「っ……、うそ、でしょ」

 

 

 

愕然とした

自分のことが忘れられたショックも大きいが、

それよりも、記憶が無くなる程の苦痛を与えられ続けたダロキアを、助けることもできず、のうのうと過ごしていた自分が何よりも恨めしかった

そこに追い打ちをかけるようにサリバンの言葉が落とされる

 

 

「僕はね、今のダロくんも気に入ってる

叶うことなら今の生活を守ってあげたいとも思ってる…どうする?ポロくん

ーそれでも、ポロくんはダキ君に会いたい?」

 

 

 

 

 

 

 

ずっと、会いたくてたまらなかった

例え虚像だとしても、あって無事を確認したかった

 

 

(でも、……)

 

 

ぽたり

乾いた紙の上で、雫がはじけた

 

本当に息子さんの幸せを願うなら、

今はもう何もかも知らないダキを遠くで見守るのが1番なのだろう

 

滲んだ文字列は、徐々に輪郭を失っていく

 

母として息子の幸せを願う気持ちと、

この目で無事を確かめたい

その矛盾するふたつの気持ちが足を動けなくさせた

 

 

 

 

 

そんな時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー世界が揺れる"あの魔力"を感じた

 

 

「、!」

 

 

かつてその身で浴びた、

あの濃く甘い、ダロキアの懐かしい魔力と同じ

 

 

 

ソファーから飛び上がると、

ポロは学園長室の窓を力強く押し開け、

バッと黒い羽を広げた

その瞬間、室内の空気が渦を巻き、

積み上げれていた紙片が舞い上がる

 

 

「ーーFreude, schöner Götterfunken,

Tochter aus Elysium,

Wir betreten feuertrunken,

Himmlische, dein Heiligtum!」

 

 

耳奥で、鼓動のように響く歌が聴こえた

口ずさむ声が魔力と共鳴し、

部屋の壁を振るわせる

血が沸き立つような活力が全身を駆け巡る

ーー今なら最高速度を出せる気がした

 

 

 

「いくのかい?」

 

「ええ、私、目で確かめたものしか信じないの」

 

 

窓枠に足をかけ、ポロは飛び立った

真実を確かめる為に

好きなCPは?(市場調査)

  • ダキ×ゴエモン
  • ゴエモン×ダキ
  • ダリ×ダキ
  • ダキ×ダリ
  • ダロキア×ダリ
  • ダリ×ダロキア
  • ダロキア×バール
  • バール×ダロキア
  • ダキ×アスモデウス
  • ダキ×キリヲ
  • その他(自由回答)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。