魔王デルキラの息子   作:雨鬱

38 / 48
幕間:策謀

 

 

ーー時は遡って、ダキたちが訪問する前の日

 

 

本来の主人のいない魔王邸にひとり、

ポロは紅茶を淹れていた

ティーコジーで充分に蒸されたポットの蓋を押さえ、ボーン素材のカップに打点高く注ぐ

ポットの口から落ちる水色は深く、陽の加減で、黒にも赤にも、見える

 

 

(うん、完璧だわ)

 

 

カップを持ち上げるだけで部屋中に広がるダマスクローズの華やかな香り

重い味付けと裏腹に軽やかな喉通りは、

飲むひとの心を、その"王の紅茶"と呼ぶに相応しいものにさせた

 

 

 

(おいしいわ、ダロちゃん…)

 

 

ダロキアが幼い時に、「母の日だろ」とぶっきらぼうに渡してくれたプレゼントだ

ダキ自ら花を手摘み、ブレンドをした、心のこもった贈り物だ

ダロキアが居なくなってから、あと一箱しかないその紅茶を、ポロは大事な時に飲むように、少しずつ、惜しむように飲んでいた

 

 

 

(……これを飲めば、ダロちゃんが応援してくれている気がするの)

 

 

 

一口飲んで、やっと一息が付けた気がした

久しぶりに帰ってきた我が家を見渡して、目を細めた

 

 

 

一番日当たりのいい窓際には

なんにんも座れそうな大きめの魔獣を使った黒皮のソファー

(デルちゃんが、まだ幼かったダロちゃんを抱いて絵本を読んでいたっけ…それで、よく、お昼寝なんかもして…)

 

 

部屋の中央には

3人で囲んだマボガニーの円卓

年季が入って飴色に美しく輝いている

(離乳食に嫌いな野菜を入れられたまだ赤ん坊だったダロちゃんが泣いて割ってしまって…

確かあれは3代目の机だったはず)

 

 

ひとつ、ひとつ、視線が部屋を巡る

そのどれもに宿る温かな思い出に微睡む

いつだって、この家で起こったことはポロの大切な宝物だった

 

 

 

(ああ、デルちゃん、ダロちゃん…)

 

 

 

夫が行方不明になり、

息子も立て続けにいなくなってしまった

最後に残ったのは、ポロひとり

 

 

ティーカップを持つ指に力が籠る

ダロキアがその昔、作ってくれた魔具のお陰で、部屋はいつも心地よい温度を保たれている

 

 

だと言うのにひどく寒々しい

 

 

 

 

「……この家にひとり住むには、思い出が多過ぎたわね」

 

 

 

暖を求めるようにその縁に触れる

呆然と、眺めながら、ぽつり、ポロは本音を溢した

何年もこの家でふたりの帰りを待っていた

けど、彼らは帰ってくることはなかった

やがて、ポロはふたりのいない世界の辛さに逃れるように、魔界を放浪するようになってしまった

 

 

「デルちゃん……

もうすぐダロちゃん帰ってくるの」

 

 

ようやく、ようやく帰ってくるのだ

何年、何十年、待っただろうか

 

 

その為に、種は蒔いてきた

ポロは、今頃水面化で慌てふためく彼らを想像して笑った

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

バビルスに潜む一部の信者たちの間では、

元々、その"既視感"は囁かれていた

 

 

 

「なぁ、見たか?!あのヴェアトリーチェ様が降臨なさったのを!!」

 

 

黄金の炎が部屋いっぱいに吹き荒れた

その黄金の炎翼が瞬く度に、羽火が金粉のようにキラキラと舞い落ちていく

ーー信者たちが、二度と見られぬと諦めていた光景だった

思い出すだけで、心音が激しく昂る

 

 

 

「ああ、見たさ!

でも、何故、あんな新入生に…、」

 

 

 

魔神、不死鳥

ダロキア様に『ヴェアトリーチェ』と名づけられた彼女は常にダロキアのそばに居続けた

ダロキア伝説の象徴の一つ

 

 

(でも、あの方が召喚された、と言うことは、ダロキア様は……?)

 

 

薄々分かってはいても言葉にしたくはなかった

契約しているはずの召喚獣が、契約者とは別の悪魔に召喚される

ーーそれは、契約者の『死』を無慈悲に知らしめるものだった

 

 

(いや、まだ、……

契約の期限が切れただけなのかもしれない。

だって、ダロキア様は…)

 

 

 

あんなにも、強い方が死ぬなんて未来を想像なんてできなかった

我々にとって、ダロキア様は

遥か遠望より、こちらを見下ろし、我々を導き、魔界を、再建する方

 

 

ーーまさしく"魔神"ような存在なのだから

 

 

 

 

 

「ダキ……とか言ったか、例の首席は」

 

 

 

 

不敬にも、あの不死鳥を召喚した首席『ダキ』

あの人と同じ紫と金色の髪

ーーけれど、ツノは三つもないし、むしろ欠けてるし、顔全体を覆う髪はモサモサと、野暮ったい

主席のくせに垢抜けない田舎者

 

 

 

ダロキア様とは、似ても似つかないニセモノ

あの方を騙る不届モノ

ーーその考えを裏切るかのように、ダキの快進撃は続いた

 

 

召喚試験から数日が経ち、首席は、よりにもよってあのカルエゴ卿が担任のアブノーマルクラスに振り分けられた

 

 

バビルスの番犬、ナベリウス・カルエゴ

あの悪魔の元では、首席も形無しに違いない

 

 

 

「ランク結果でたぞ!飛行試験で首席達ランク5になったって!」

 

 

アブノーマルクラスの試験の記録を見た同僚が震えながら、その映像を見せてきた

そのあまりにも衝撃的な映像にぞわり、と毛が逆立つ

 

 

ーー片鱗

 

 

その言葉がいちばんよく似合う

黒く、大きな飛膜が上下するだけで、嵐を巻き起こし、遥か上空へ飛び立った

すると、音速に迫る高速飛行で流星群の如く降下、華々しくトップに躍り出た

 

 

 

「……すごい」

 

 

まるで、昼空に瞬く黒い流れ星のようだった

圧倒的なその力を見せつけると、首席、いや、ダキは異例とも言えるランク5への到達を打ち立てた

 

 

ーーそれからだ、

我々は更に、否応なく、彼の方から目を離せなくなっていた

 

 

 

師団では、ダロキア様と同じ"魔具研究"

それだけでなく、ずっと、その姿を消していた伝説の魔具"七つの大罪"を発現させ、師団披露を狙ったテロを鎮圧した

ーーでも、その後力尽きて眠ってしまった

 

 

(ダロキア様は無尽蔵の魔力の持ち主…

大罪を使った所でいつも、ケロッと、してらっしゃった)

 

 

ダロキア様じゃない、そう思う筈なのに

でも、その武器を振るう、あの姿が熾烈に脳裏によぎる

 

 

(いや、まさか、……でも、あの御姿は)

 

 

表彰式で見た姿など、過去のダロキアを見ているようだった

一切の逡巡なく言葉を紡ぐ胆力

視線を集めることを恐れない態度

そして、周囲を自然と従わせてしまう空気

 

 

 

(……あまりにも、似すぎている)

 

 

かつて、魔界を揺るがした

あの“魔王子”の面影をあの場にいた者たちに思い起こさせた

脊髄から脳天へと、震えるような歓喜にぞくぞくと皮膚がざわめく

 

胸いっぱいに広がる、じわりとした熱が、

理性を溶かし、狂気的な執着へと変質していくのが分かった

 

気づけば、その熱に当てられて、

口角が引き攣りそうなほど、勝手に上がってしまっていた

 

 

 

(ダキ様は、ダロキア様の縁者ではないのか)

 

 

アムドゥスキアス家なら幾つか分家もあるが、あれは、アムドゥスキアスの一族というより、魔王デルキラの血脈に違いなかった

でも、踏み込めなかった

疑念は、あくまで疑念

確信を口にするには、その名は重過ぎた

 

 

 

 

(証拠がなければ、動けないな……)

 

 

 

 

確信を持てぬまま燻るだけの信者たちに

燦然と現れたのは"魔王子の生みの親"

 

 

(……あっ、)

 

 

そのポロが隣に立ち、親しげにダキの肩を抱いている

ダロキアの相棒を説き伏せ、ロイヤルワンの解放許可証を持って現れた

 

 

(ダリが、首席……ダキを認めた…?)

 

 

震える手で受け取る

許可証のサイン欄に記名された流麗な筆跡はまさにダンタリオン・ダリの筆跡だった

 

 

(アイツは、もう、ダロキア様の事を…)

 

 

腹から湧き上がったのは失望と怒りだった

 

 

 

「ーーポロ様も、ロイヤルワン解放を、許すんですかッ?あの部屋はポロ様にとっても、デルキラ様の思い出が詰まった大切な部屋ではないですか!」

 

 

目に涙を溜めて、くってかかった

自分よりもハイランクの悪魔に

怖い、なんて思っていられない

それを超える、強い怒りが、失望が、彼らに相対する勇気を与えた

 

 

(あんなッ、学園長の七光に、我々の魔王の栄光を穢されてたまるかッ!!!)

 

 

ダロキア様を思う気持ちは慕う彼らの中でも強いと思っている

想って、いるからこそ、裏切りのような彼らの動きに信者は許せなかった

 

そんな自分を、宥めるようにポロは抱きしめた

含みを持って首席を見つめる

その視線が、昔、ダロキア様に向けていたあの熱と、同じ、優しいもので

 

 

 

 

 

 

ーーその視線を辿ってみたのは、懐かしい黄金だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ああ、"そういう"事なのですね、ポロ様)

 

 

 

 

 

 

 

やっと、納得が行った

 

 

 

 

 

 

 

(その尊き血は絶えず、次代へ引き継がれたのですね)

 

 

 

 

 

 

 

 

その目が燻っていた信仰に火を熾した

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

バビルスの潜む信者たちの間でも、元々疑惑の念はあった

しかし、それは確信に至るまでにはいかなかった

 

 

(ワタシはそこに、種は蒔いたに過ぎないわ)

 

 

ポロがダキの側に立ち、

その身元を保証するような行動を取れば、

彼らは勝手にダキについて囁くだろう

 

 

 

「魔王の血脈が、再びバビルスに降臨した」と

 

 

 

ポロは笑みを浮かべながら手元の紅茶を一口、含んだ

 

信者達が『ダキこそがダロキア本人だった』なんて言う荒唐無稽な真実まで辿り付かずとも、きっと彼らは、ダキの容姿を、力を、オーラを見てダロキアの落胤と思うだろう

それにーー、

 

 

 

(ダキを、ダロキアと公表するには、

ーーまだ足りない)

 

 

ポロはティーカップで揺れる赤い水面に映る自分の顔を見て顔を顰める

 

 

ダキはダロキア本人だ

サリバンから貰った資料、

ダキ本人の魔力、

そしてーー、"ニンゲンだった記憶"

全て、証拠が出揃っている

 

しかし、肝心の本人は、

ダロキア本人と思えないほど弱い

 

 

(……おそらくツノを失った事が原因かもしれないわね)

 

 

前のように感情一つ、揺れるだけで、世界が震える、なんて規格外の魔力量がない

 

 

(今のダキでは、“魔王子ダロキア”という名前に耐えきれないわ)

 

 

だから、ポロは、ダキを守る為にも、

ダキをダロキアの婚外子としてポロの養子にしてしまうつもりだった

 

 

 

 

ポロは一気に紅茶を飲み干した

 

 

 

 

「さて、あの子達を迎える準備をしましょうか」

 




ダキの香水を推し香水で作ってみました
次回は悪周期とかダキの血のイメージで作ってみたい

好きなCPは?(市場調査)

  • ダキ×ゴエモン
  • ゴエモン×ダキ
  • ダリ×ダキ
  • ダキ×ダリ
  • ダロキア×ダリ
  • ダリ×ダロキア
  • ダロキア×バール
  • バール×ダロキア
  • ダキ×アスモデウス
  • ダキ×キリヲ
  • その他(自由回答)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。