魔王デルキラの息子   作:雨鬱

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第37話:ウォルターパーク 下

 

 

 

 

懐の内ポケットから振動がする

ーー誰かから電話が来たらしい

 

 

「カルエゴ卿、ちょっと失礼」

 

両腕で抱いていたカルエゴ卿を片手で持ち直し、自由になった左腕でスマホを取り出した

 

 

 

「ん?……アスモデウス?」

 

 

表示された名前にダキは眉を顰めた

何の用かと訝しみながらも緑の通信開始ボタンを押した

 

 

ーーピッ

 

「もしもし、どうしーー「ダキ!!そっちに入間様行ってないか?!!」ーーーは?入間ァ?」

 

 

 

ダキは、スマホ片手にキョロキョロと見渡す

しかし、それらしい影もない

 

 

「しらねぇな、なんだぁ、入間の奴迷子かよ?」

 

「そうだ、逸れてしまって…」

 

 

隣で話を盗み聞きしていたジャズに目線で聞いてみるが、ジャズも同様に首を振った

 

 

「まぁ、いい。見かけたら電話する」

 

「頼んだぞ」

 

 

ーーピッ

 

 

 

「つーわけで、入間が迷子らしい

見かけたらアスモデウスに報告してやれ」

 

 

ダキは電話を切ると、

振り返ってゴエモン達の方へ一声かけた

 

 

「りょーかい」「はーい」「了解であります!」

「わかったでござる!」「………ふん」

 

 

それぞれがしょうがないなと口々に呟きながらも「入間らしいや」と顔を見合わせて笑った

 

 

 

「先生!これ付けてよ!」

 

 

ずいっとカルエゴの目の前に差し出されたのは可愛らしい黒のウサ耳カチューシャ

 

 

「なっ……」

 

「勝負なんだから、楽しいとこ見せないと!」

 

 

そう言って、リードに無理やり被らせると、

その勢いのまま、ゴエモンがカルエゴの手を掴む

 

 

「ほら早く!こっちも持つでござるよ!」

 

「ちょっ」

 

 

ウォルターパークのマスコットキャラクターの風船を持たせる

勝負のためという免罪符に、強く拒否することもできずに口をへの字に曲げて受け取る

 

 

「ジュースとポップコーンも持たして、っと」

 

「なっ?!」

 

 

そこにさらに調子に乗ったカムイがポップなデザインのポップコーンを首に下げさせ、ドリンクボトルを空いていたもう片方だけの手に持たせる

これで、遊園地に浮かれ切った大人の完成である

 

 

「きっ、貴様らァ……覚えていろよ…ッ!」

 

 

「似合ってますよ!カルエゴ卿!!」

 

 

怒声と共に、ベコリッと思わずボトルを凹ませた

 

 

「ダキ!お前もつけろよ!」

 

 

ジャズが紫ウサ耳のカチューシャを掲げる

特に羞恥心もなく、ダキは付けやすいよう頭を下げる

 

 

「ん」

 

 

「ふはっ、似合うじゃないかダキ」

 

 

「いやはや!卿ほどではありませんよ」

 

 

皮肉混じりに褒めれば、カルエゴは面白くなさそうにダキの鳩尾を強く突いた

 

 

「ぐっ〜ーー!」

 

「ふん、」

 

「この、お転婆め…!」

 

 

バチバチと睨み合う中リードが「みんなもつけよーぜ!」との一声で、次々とみんなの分のカチューシャを袋から出して、つけ始めた

 

 

 

「これで写真とろーぜ!」

 

 

 

ジャズが近くにいたスタッフに写真を頼む

 

 

 

「はぁーーい、撮りますよぉ〜!」

 

「おい!!ダキ!!貴様おろせッ!!」

 

「この状態の方が楽しんでる感がでるだろ?」

 

 

 

 

パークの華やかな街並みをバックにそれぞれがポーズを取る

 

 

「ほら、顰めっ面すんなって」

 

「誰のせいだと!!!」

 

 

そう言って刻まれた眉間の皺に人差し指で突くと、その指に噛み付くようにカルエゴから怒声が上がる

まるで借りてきた猫のようなカルエゴにダキは仕方なさそうに肩をすくめた

 

 

 

「……しょうがねぇ、姫さんだな」

 

 

ダキはカルエゴの顎に手を差し伸べると、

チョキのように人差し指と中指を使い、無理矢理カルエゴの口端を上げた

 

 

 

 

「ほ、ら!わらえ!」

 

 

「ひゃめんか!きひゃま!!!」

 

 

「ーーーーはぁーい、みなさん!

いい笑顔ですね!」

 

 

 

 

写真を撮ってくれた女性スタッフがにこにこの笑顔で、ジャズへスマホをかえす

 

 

 

 

「どれどれ」

 

「おーーー!いいね!!」

 

 

 

ダキはカルエゴを抱えたままその写真を見に行く

スマホの向こうに映るカルエゴは無理矢理笑わされてはいたが、楽しいと目が物語っていた

 

 

 

「良い写真じゃねぇか?」 

 

 

 

無理矢理笑わされて機嫌斜めなカルエゴだったが、

目の前で喉を鳴らしながら楽しそうに笑う教え子に毒気を抜かれた

 

 

 

 

「……おろせ、ダキ」

 

 

「はいはい」

 

 

 

ダキは大人しくカルエゴを下した

カルエゴは、ダキの腕の中から離れると、

よろよろと、ひとり、近くの外掛けのテーブルに突っ伏した

 

 

「ちょっと、疲れたみてぇだな」

 

「弄りすぎでござるよ」

 

「あんな憔悴しきってるカルエゴ卿、召喚試験以来だ」

 

「……少しは休ませてやるか」

 

「じゃあ、作戦会議でもーー、」

 

 

 

そう言ってジャズが取り出したマップを見ようとしたその時だった

 

 

「んお〜い、そこの兄ちゃんたちぃ」

 

 

そんな空気を壊すかのように、

ダキ達にふたり組が絡んできた

 

 

「金、持ってる?」

 

 

ひとりは頭をすっぽりと覆う帽子に首元にキスマークのタトゥーをした、ストリートスタイルのヤンキーのような悪魔で、

もうひとりは魔界では珍しいスケルトンの悪魔だった

 

 

((どえれぇのにカラまれた……ッ!))

 

 

 

ゴエモン達の心の声が一緒になる

明らかに自分達より年上で強そうな相手に、助けを求めるようにチラッとダキの方を見る

 

 

ダキが一歩、前に出ようとする前に、

その怯えた視線に気がついたヤンキーが「ちょいちょい」と制止の声を上げた

 

 

 

「んお〜い、別に俺たちカツアゲとかしねぇ〜よ」

 

 

そう言ってにやり、と笑うと後ろを指差した

 

 

 

「射的勝負の相手が欲しいんだわ〜

多くの景品をとった方が勝ちで相手の景品も総取り〜!」

 

「おおー!面白そう!」

 

「ダキーーー!!やったれ!!

バビルス首席の力を見せつけろ!!」

 

 

その提案にリードが興奮気味にダキに声をかけ、

ダキは目の前にあったコルクガンを手に取る

 

 

「ジャズ!」

 

「まかせろ……!」

 

ダキのその呼びかけの意味を、

正確に理解したジャズは目の前にある目玉商品に、家系能力を使う

 

「(盗視ーー)右斜め60°でストレートォ!!!」

 

 

 

ジャズが、最適解を導き出すと、

ダキは片手で銃を構えた

 

 

 

「了解」

 

 

ーースパァン

 

ダキの手元から放たれた弾はそのまま狙い通り大型ゲーム機に当たるーーーー筈だった

 

 

「セェィヤ!」

 

ーー!がしゃぁぁあん

 

 

 

「オイぃぃ!!!」

「うわぁぁぁあ?!!」

 

 

相手側のスケルトンが捨て身で軌道を塞ぐ

身体はバラバラに砕け、射的場に骨が散乱する

 

 

 

 

「ジャマしねぇとは言ってなぁ〜いぜ!」

 

「えーーー?!!汚ねぇ!!!」

 

 

まさかの妨害行為にぎゃあぎゃあとリードが喚く

 

 

「フッ、作戦名『戒めの鎮魂歌』…」

 

 

射的場の床でバラバラの骨だけになった相手が遺言のように呟く

 

 

「えっ、あ、ダサイ!?、!」

 

「ぐぅっ?!ダサい……?!」

 

「それトドメだぜ、坊ちゃん」

 

 

ゴエモンの素直な一言にスケルトンは床に沈んだ

 

 

「いけぇーー!今のうちにだぁー!」

 

「鳥!お前が妨害してこい!!」

 

「なぜ私!!」

 

「景品ゲットぉ〜♪」

 

 

カムイを使い妨害を企もうとするが、その隙に賞品を一つ取られる

 

 

「ぐっ、負けてたまるかぁ!!」

 

「次、坊ちゃん」

 

「やってやるでござる!!!

……ぐぁぁあ、外れたッ!!!」

 

「どんまい」

 

「次!次俺ね!!

ーーいっよっしゃあ!!当たったぁ!!!」

 

「ナイス、リード」

 

わあわあと騒ぐ中、大盛り上がりで写真を一枚またスタッフに撮ってもらう

 

 

「お〜これは、遊んでる感あるな〜」

 

「アニキ達のおかげだよ!」

 

 

景品のゲーム機を嬉しそうに抱いてリードが絡んできたヤンキーにお礼を言う

 

 

 

「んふふふーそりゃそうさ

ーーーなんてったって、」

 

 

礼を言われたヤンキー達は満更でもなさそうに笑うと、二人は背中合わせに立ち、肩越しに振り返りながら軽くピースを作った

舞台役者みたいな、やけに決まったポーズだった

 

 

 

「俺たちはいつでも、どこでも

みぃ〜んなの遊び相手!ウォルタースタッフだからな!!」

 

 

 

 

思わぬ正体にリードとゴエモンから「えーー?!」と歓声があがる

 

 

「アニキ達スタッフなの〜!みえねぇ〜!!」

 

「ポーズ完璧!」

 

「面白ぇな、スタッフが私服で潜んで、遊び相手として盛り上げてくれるって寸法か」

 

「んっふっふー決まりだからなぁ

気づかなかっただろ〜う」

 

 

なかなかに面白いシステムだとダキは感心した

 

 

 

「じゃあなぁ〜坊主ども!!

また遊んで欲しかったらその時は現れるぜ〜」

 

 

ひらひらと手を振って去るふたり組の背中をダキはジッと見つめた

 

 

 

(あの目……)

 

 

ヤンキーみたいなスタッフの方

その瞳から透けて見える感情は見覚えがあった

 

 

 

(キリヲと、同じ)

 

 

数ヶ月前にテロ未遂でつかまった先輩と同じ、"元祖返り"の目だ

しかし、それを今この場で言う気にはならなかった

 

 

(……意外と元祖返りっているんだな

別に、元祖返りだからと言って、全員が犯罪者じゃねぇしな)

 

 

 

ダキは地面を静かに見た

 

 

 

(……そういや、

ここの地下は確か監獄だっけか?)

 

 

 

 

キリヲがどこへ収監されたのかは知らない

極秘事項だと言われ、面会も許されなかった

 

 

(なぁ、キリヲ

ーーあんな事しなくてもアンタの居場所は作れたんじゃねぇのか)

 

 

けれど、社会に紛れ、"普通"に生きている元祖返りを見てキリヲにもあんな未来があったんじゃないかと、思わずにはいられなかった

 

 

 

 

 

そう自分に言い聞かせるように、ダキは目を伏せた

 

 

 

 

ふたりの背中は雑踏の向こうへ消えていく

色とりどりの屋台の旗が風に揺れ、

甘いキャラメルポップコーンの匂いが漂う

無邪気な笑い声とアトラクションの悲鳴が周囲で飛び交っていた

 

 

ただのスタッフ

それでも、なぜか

その後ろ姿だけが妙に胸に引っかかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーブブブ

 

「んぁ?」

 

リードが写真を送ろうとスマホを開くと一件の通知が来た

 

 

「おーい、皆んなスマホ見ろよ」

 

 

ジャズに言われてスマホを取り出すとそこには《無事見つかりました》と言うメッセージと一緒に入間の写真が送られてきた

 

 

 

「無事合流出来たみたいだな」

 

「本当よかったでござる」

 

「俺らも次のエリアいこーぜ」

 

 

入間の件も片付き、

次はどこへ行くかと

休憩しているカルエゴの方へ振り返った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、それはやってきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

びり、と

足の裏を何かが走った

 

 

 

 

 

 

(………!)

 

 

 

 

 

 

ぞわっと、脚の神経から脳に至るまで

駆け上がる本能的な警鐘

 

 

 

「ヤバい」

 

 

「へ?なにがーー、」

 

 

 

思考より先に体が動いた

ダキは咄嗟に

ゴエモンと三人を引き寄せる

 

 

 

「うわっ、」

「ちょ、」

「へっ?!」

「ーーダキ、何を」

 

 

 

足元の地面の下にある魔力が膨れ上がった

 

 

 

 

 

 

「保護繭!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ダキの声と同時に高位魔術が展開された

ーーーその瞬間だった

 

 

 

 

ーードッ!!!!!!!

 

 

 

「キャァァァァァァァアァーーー!」

 

 

地面がグッと盛り上がり、ばつんっと弾けた

 

 

まるで地の底から巨大な拳で殴り上げられたかのように、

石畳がぐしゃりと盛り上がり、

風がバンッと吹き荒れた

 

 

「いやぁ!!」

 

「うあ"ああああ!!!」

 

 

咄嗟に身を守れなかった悪魔達が、

風に飛ばされ、床に叩きつけられた

 

 

「いたい"、いたい!!」

 

「うわぁーん、」

 

 

あらぬ方向にひしゃげた腕

殴打した後頭部から止まらない血

痛みに喘ぐ声、

 

爆風で飛んできた石片と土煙で、

遊園地の華やかな街並みは一瞬にしてただの瓦礫へ

 

先程まで楽園のようだった遊園地は

一瞬の出来事にして地獄のような有様へと変わった

 

 

 

運良くダキに助けられたジャズ達は、

顔を真っ青にしながら目の前の阿鼻叫喚を見ていた

 

 

 

「なん、だよ…これ」

 

「ウッ」

 

「ひ、ひぃぃぃ!!」

 

「アトラクションとかじゃないよね、これ、事故だよね?!!」

 

「落ち着け、お前らッ!」

 

 

 

さっきまで響いていた笑い声が消え、

代わりに聞こえるのは、土煙の向こうで誰かが泣き叫ぶ声だけ

転がった風船が、瓦礫の間で頼りなく揺れていた

 

 

 

しかし、絶望はそこでは終わらない

 

 

 

 

地面の裂け目の奥で、何かが蠢いた

誰もが息を呑む

次に何が出てくるのか、想像したくもないのに目が逸らせなかった

 

 

 

 

 

 

 

「グ"ォォォォォオオーーー!!!!」

 

 

 

 

 

雄叫びが、ビリビリと空気に震え

穴の奥から、おおきな、青い手が、ぬっと出てきた

 

ダキ達の目の前の穴から這い出たのは、

ミノタウルスのような巨大な魔獣だった

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

突如として現れた魔獣に、

遊園地はパニックだった

 

 

「やっべぇ……」

 

「なんなんだよ、ありゃあ…!」

 

「退くでござる!ここは危険でござる…ッ!」

 

 

 

ダキは慌てふためくゴエモンの肩に手を置く

 

 

 

「落ち着け、坊ちゃん」

 

 

「……ダキっ、!」

 

 

 

保護繭を解き、ダキは静かに周りを見渡した

 

 

 

 

(……ひとが多すぎる)

 

 

 

 

うざったいほどに集まった悪魔の群れ

ところどころ壊れた遊園地の残骸と、立ち込める土埃のせいでうまく状況が把握できない

 

 

 

「ーーカイム!女どもの連絡先知ってるだろ、片っ端からかけろ!」

 

 

「りょ、了解であります!」

 

 

「リード!お前は入間達の方へ電話かけろ」

 

 

「はい!」

 

 

「ジャズ、坊ちゃんはカルエゴ卿の側にいろ!」

 

 

「おう」「わ、わかったでござる」

 

 

 

 

各々に指示を出すと、

ーーダキは翼をバッと出して上昇した

 

 

魔獣達より少し低めの位置で止まる

 

 

周りを見下ろすと、

逃げ惑う悪魔達が集まって、出口の方はパニックになっていた

 

 

 

(いま無理に出口へ行こうとしない方が良いな)

 

 

 

魔獣は全部で三体だった

 

真っ赤な龍の魔獣がズズズと地を這い、逃げ遅れた悪魔達を踏み潰しその体をさらに赤く染めている

黄色いネズミの魔獣が、その長い尾で建物を壊して回る

今1番近くにいる青いミノタウロスのような魔獣は咆哮を上げながら、ジェットコースターを掴みひしゃげ上げていた

 

 

(……かなり、魔力がでかい)

 

 

ジッと目を細めてダキは口を引き結んだ

それは、人為的ななにかを感じさせる異質なものだった

 

 

(テロ……か)

 

 

おそらく、複数の魔獣を掛け合わせて作られたキメラだ

アレを倒すのは一筋縄では行かないかもしれない

 

 

 

 

 

 

 

普通の悪魔ならば、だが

 

 

 

 

 

 

 

 

沸沸と込み上がる衝動が

ダキの口角をゆるゆると吊り上げていく

 

 

 

 

 

 

「クックックッ…!」

 

 

 

 

 

 

笑ったら可哀想だと思いながらも

口の端から笑みが泡のようにこぼれ落ちた

 

 

 

「あっはっは!犯人も可哀想になァ!!」

 

 

途端に、堰を切ったようにダキは笑った

 

運の悪い犯人達に心底同情する

あくせく今日のために頑張って計画を立てたのだろうに、今日に限って高ランクが6名がパーク内にいるのだ

どう足掻いても、犯人の計画はうまく行かないだろう

 

 

 

 

「はーー、わらったぜ」

 

 

 

ひとしきり笑うと、ダキは髪をかき上げた

 

 

 

(こんな茶番

さっさと、終わらせるに限る)

 

 

 

 

ダキは手元の七つの大罪を使おうと、魔力を高めたーー、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダキ、貴様は手を出すな」

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった、

下からカルエゴの静止する声が聞こえて、

ダキの肩がぴくり、と揺れた

 

 

 

「どういうつもりだ?」

 

 

 

ダキは振り返り、カルエゴの方を見下ろす

こちらを見上げるカルエゴのその顔が、余裕たっぷりの表情をたたえていた

その笑みに、何かあると思いダキは素直に立ち止まった

 

 

 

 

 

「……何か作戦が?」

 

 

「あの4人に、魔獣を倒させる」

 

 

 

 

 

カルエゴの落とした爆弾発言にダキは一瞬固まった

明らかに戦力である自分とカルエゴを除外する意味が理解できなかった

 

 

 

「……理由を聞いても良いか?」

 

 

「貴様が参加したらすぐに終わって面白くない」

 

 

「馬鹿じゃねぇの」

 

 

思わず本心が、まろびでた

こうしている間にも逃げ遅れた悪魔もいるかもしれない

しかもここは地下に重要な収容施設がある

誤って、その場所が破壊されようものなら中にいた凶悪な囚魔が出てきてしまう

早急に対処しなければ甚大な被害に繋がりかねない

 

 

「手を出したら、ゴエモンの宿題を倍にする」

 

「っ、卑怯だぞ!てめぇ」

 

 

自分なら兎も角、ゴエモンを人質に取られてはダキもどうしようもできない

カルエゴはダキの従え方を良く知っている

歯噛みするダキにカルエゴは嬉しそうに腕を組む

 

 

「貴様が手を出せばすぐ終わってしまう

ーーそれではこいつらの成長に繋がらん」

 

 

目の前には暴れる魔獣

倒す為なら多少派手な術をぶっ放しても問題ないだろう

カルエゴの言い分も理解できたが、学園で授業の際にやれば良いことをわざわざこんな所でやる愉快犯な所が、教師としてどうなのか、とダキは内心溜息を吐いた

 

 

「緊急事態を授業の一環にするのはアンタぐらいだろ……ハァ……」

 

 

痛くなる頭を抑えながらダキは魔獣に立ち向かうゴエモン達をみた

大きな魔獣を目の前に瓦礫で姿を隠し、ビビり散らかしている

あんな様子で、どうやって戦うのか

 

 

 

「チッ………」

 

 

 

バビルスの一年生の魔術授業では主に基礎を学ぶ

変化や感知といった簡単な口頭魔術で、次年度から応用・実践に入る

 

 

(あの中で攻撃魔術を使えるのは坊ちゃんしかいねぇ)

 

 

ゴエモンの家系能力『風太刀』

風を収束して刃とし、変幻自在に操る能力

 

 

(……とは言え、あのレベルの魔獣に通用する程のレベルにはまだ達してない)

 

 

ダキは顔を顰めた

今すぐ終わらせられるのに、手を出せない

その歯痒さだけが、胸の内でじりじりと燻った

けれど、カルエゴに止められている以上、

今ダキが何かできることはない

ただ黙ってここでゴエモン達が戦うのを見るしかない

 

 

(……ん?)

 

 

その時だった

上空にいたダキには見えた

みんなが逃げ惑う中、まるで人目を避けるように奥へ奥へと逃げる怪しいフードの悪魔を

 

 

(ーーなら、俺がやれることをやるか)

 

 

ダキはカルエゴの隣に降り立つ

カルエゴは目の前で必死に戦うゴエモン達をよそに椅子に腰掛け優雅にもお茶を飲んでいる

 

 

 

「カルエゴ卿、信用していいんだな」

 

 

仮にも教師だ、本当に危なくなったら止めに入ってくれる筈だ

そのダキの真剣な眼差しにカルエゴは「ハッ」と笑った

 

 

「当たり前だろう」

 

 

ダキはその言葉に満足して、

カルエゴのいた瓦礫の上から飛び降り、

暴れ回る魔獣がいる方向とは別方向へ歩き出す

 

 

 

「どこへ行く」

 

 

 

その一言に、ダキは振り返り、

ニッと牙を見せて笑った

 

 

 

「不審者狩り」

 

 

 

そう言うなりダキはカルエゴの元から離れ、

さっき見た不審な影を追って、

遊園地の奥の奥へとその足を進めた

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

(どこに行きやがった…?)

 

 

 

まるで迷路のような細い裏路地を伝って歩く

 

奥へ奥へと行けば行くほど、不快な空気が立ち込める

じっとりと重い空気

吸い込んだだけで、肺がカビそうなほどに、

淀み、腐った臭いが漂っている

 

 

 

(……ちょこまかと、)

 

 

不審者の足取り追って辿り着いた先は、

遊園地とは思えない程荒れ果てた通りだった

 

増築を繰り返し、青い空が見えなくなるほどに建てられた歪な建物たち

無理に通したぐちゃぐちゃな配管、

道沿い染み込んだ吐いた跡と、

割れたガラス片がこの道の治安の悪さを物語っていた

 

 

(カララギ通……か)

 

 

ひしゃげたパイプの先にとってつけたような木片に荒々しい字体でそう書いてあった

 

その通りの奥を、

フードを目深に被った悪魔が、

人目を避けるように歩いていた

 

 

 

(……ビンゴ)

 

 

 

その影を見つけた瞬間、

ダキはまるで世界の一部になったかのように自己を消して、その背後を追う

 

 

ぬるく揺蕩う風のように世界に溶け込めば、

足音はなく

気配もない

 

空気の流れさえ、

ダキの存在に気づかぬまま

静かに通り過ぎていく

 

 

 

 

 

 

ズガァァンー

 

遠くで大きな音が鳴り響く

その振動で、元よりヒビの入った建物が崩れ、大きな岩石のように、上からごろごろ、落ちてきた

 

避けるのは簡単だった

 

 

「……ぁ、!」

 

 

 

でも、目の前の獲物は転んだ

 

 

 

「……っ、!」

 

 

フードからはらり、と見えた亜麻色の髪

見覚えのあるその色に気を取られた

 

一拍、遅れた行動が致命的だった

 

その不審者の頭上の落ちてきたのは、

か弱い悪魔なら簡単に死ぬぐらいの大きな岩石

 

 

 

「………っ、くそが!」

 

 

ダキはそのままその不審者の頭を抱き抱え、その岩石を避けようとした

 

 

 

ーーーゴッ

 

 

「ガッ、!」

 

 

 

 

後頭部に鈍い衝撃が走り、

眼前が真っ白に弾けた

膝の力が抜け、視界がぐらりと傾く

 

 

「………っ、う"ラァ!!!」

 

 

それでも、最後の力を振り絞って腕の中の悪魔を手前へ放り投げた

 

 

意識が暗闇へと沈む最中、

最後に見えたのは

こちらへ手を伸ばす、驚いた表情の誰かだった

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、ダキ君。久しゅう」

 

 

次に目覚めた時、眼前に飛び込んだのは居ないはずのキリヲの顔だった

 

 

 

 

「くっ……、」

 

 

 

驚きで、反射的に起き上がるが、がつん、と痛む頭に顔を顰めた

揺れる視界がついていけずそのままキリヲの膝に逆戻りした

 

 

 

(……かてぇ)

 

 

 

見上げた先にいるキリヲ、

囚魔特有の縞模様の服を着ている

痛む頭を押さえながら、首だけで周りをみる

どうやら、さきほどの裏路地らしい

 

 

「……脱獄か?」

 

 

「ぴんぽーん!流石やね、ダキ君」

 

 

ここウォルターパークには、遊園地のアトラクションを動かす為に地下に囚魔が収容されている

キリヲは、あのテロの後、学園側に秘密裏に処理され刑務所に入れられたと聞いたが、ここだったのか

 

 

 

考え込むダキの髪をキリヲが撫でる

その指先は、優しくて、うっかり眠ってしまいそうな心地よさを感じる

 

 

「びっくりしたよ、君とこんな所で会えるなんて思っても見なかったから…ふふ、これは運命やね」

 

 

相変わらず絡みつくような欲に濡れた瞳だった

けれど、その瞳にダキは嫌悪感など抱かなかった

 

 

名残惜しそうにその指先がダキの髪から離れる

 

 

 

 

「ほな、僕いくわ」

 

 

 

その声に、ダキは起き上がった

まだふらつくが、さっきよりかはマシだった

 

 

 

「おう……またな」

 

 

 

そっけなく返すと、キリヲは目を細めた

 

 

 

「……なぁ、ダキ君、

きみ僕を捕まえへんの?」

 

 

 

「ハッ!」

 

 

その言葉にダキは思わず笑った

キリヲの言葉最もだった

本当なら今ここで捕まえるべきなのだろう

 

 

(本格的な悪事に手を染める前に止めてやるのが、優しさ、ってやつかもな。

ーーでもな、)

 

 

捕まえるのは簡単だ

その細い足首をへし折り、

歩けないようにして、

看守に渡してしまえばいい

 

 

 

「置いていけばいい癖に、わざわざ介抱してくれたテメェを捕まえるほど恩知らずじゃねぇよ」

 

 

それに、そんな事をしても意味がない

元祖返りは、言って止まるような奴じゃないのだ

快楽を追い求め、自己勝手極まる彼らは、

骨身の奥まで染みて、ようやく考えを改めるような頑固者ばっかなのだ

 

 

ダキは深く鼻でため息を吐いた

 

 

 

「自由に生きろよ、キリヲ

俺と敵対するなら容赦なくボコすがな」

 

 

 

 

(精々、痛い目を見やがれ)

 

 

 

ダキは笑いながらキリヲに向き合った

 

 

 

 

 

「……ほんま、いけずやわ」

 

 

 

キリヲはそう拗ねたように呟いてその場から離れる

その姿をダキはただ見送った

 

 

 

「……、戻るか、坊ちゃんのところに」

 

 

 

踵を返して元の道へと足を進める

ダキは気づかなかった、

左手の指にはまっていた『七つの大罪』が無くなっていることに

 

好きなCPは?(市場調査)

  • ダキ×ゴエモン
  • ゴエモン×ダキ
  • ダリ×ダキ
  • ダキ×ダリ
  • ダロキア×ダリ
  • ダリ×ダロキア
  • ダロキア×バール
  • バール×ダロキア
  • ダキ×アスモデウス
  • ダキ×キリヲ
  • その他(自由回答)
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