魔王デルキラの息子   作:雨鬱

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第2章:若王編〜力と影〜
第42話:波乱の幕開け


 

 

 

 

終末期が終わった

長期休みが明け、久々の登校となったバビルスは、朝から妙な熱気に包まれていた

浮き足立った生徒達の声が、あちこちで飛び交っている

 

 

「見た?!新聞!!」

 

「ウォルターパークの特集やばかったよな!」

 

「魔獣相手に一年が戦ったってマジかよ?!」

 

 

校門近くでは、登校する生徒達の視線が、自然とひとつの方向へ集まっていく

 

 

「なぁ、アレって…」

 

 

その先にいるのは、

アブノーマルクラスの面々だった

 

 

 

「すげぇ!ウォルターパークの英雄だ!」

 

 

 

終末期に起きた、

ウォルターパーク襲撃事件

暴走した巨大魔獣から遊園地を守り抜いた若き悪魔達は、新聞にも、テレビにも、大々的に取り上げられた

今や知らぬ者はいないほどの有名人である

 

 

登校してきたダキ達、アスモデウス、入間を見て校舎中の悪魔達が、まるで芸能悪魔でも見るように目を輝かせて群がってくる

 

ーーーワッ!!!!

 

 

 

「きゃーーー!入間くん!」

 

「アスモデウス様!!」

 

「うおおおお”!ダキ様ァ!!!!」

 

「わぁっ、本物だ……!」

 

 

 

一気に押し寄せた歓声に、校舎がびりびりと震えた

 

 

「ひぇっ?!!」

 

 

 

突然女子悪魔達に囲まれ、入間が肩を跳ねた

 

 

 

「貴様ら落ち着けェ!!

入間様が困っておられる!!」

 

 

「アスモデウス様〜!!」

 

「きゃー!!こっち向いてください!!」

 

 

 

アスモデウスが入間を庇うように前へ出る

だが本人も黄色い歓声を浴びまくっていた

 

 

 

 

「……チッ、朝からうるせぇな」

 

「まぁまぁ、ダキが人気な証拠でござるよ!」

 

 

一方その頃、

もうひとつの歓声の中心人物のひとりであるダキは、不機嫌そうに眉を顰めていた

ベタベタと触られるのも不快だが、ゴエモンに気安く触ろうとする不届ものもいるのがもっと不快だ

ひと混みに潰されないようゴエモンを抱き上げつつも歩いている

 

 

 

「ダキ様!ニュース見ました!!」

 

「不死鳥であの場にいる全員を治したって?!」

 

「こっち向いてぇぇえ!!」

 

「うるせぇ、押すな」

 

 

 

寄ってきた悪魔の額を片手でぐい、と押し返す

しかし押し返されてもなお、目を輝かせて騒ぐ者ばかりだった

 

 

 

(……めんどくせぇ)

 

 

 

終末期前までは、

問題児クラスは“奇人変人集団”扱いだった

だが今は違う

ウォルターパーク事件を経て、

彼らは一躍“時の有名人”になっていた

 

 

 

「ダキ様って恋人いるんですか?!」

 

「結婚してください!!」

 

「写真!!写真一枚だけ!!」

 

「あのな、てめぇら……」

 

 

ぶんぶんと、小蝿のようにダキに付き纏うミーハー達に青筋が浮かんだ

 

 

「俺よりもここに!ウォルターパークの魔獣を倒した功労者ガープ・ゴエモンがいるだろうが!!!」

 

 

「ダキ!!恥ずかしいから止めるでござる!!」

 

 

ダキに高く掲げられ、ゴエモンは顔を真っ赤にして隠した

 

 

 

「すげぇ!魔獣を倒したのかよ!」

 

「今年の1年やばくない?」

 

「かっけーじゃん!!」

 

 

サリバンが記者会見で流したあの映像のせいで、魔獣を倒した主人より、終わった後に皆んなの怪我を治しただけの自分が目立つのは不本意でしかなかった

 

 

(あの孫馬鹿…!どうせなら坊ちゃん達の勇姿を大々的に流せよ)

 

 

 

ダキは押し寄せる群衆を苛々しながら掻き分け、ロイヤルワンへと足早に進んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本日より、新学期である

……休みボケも大概にして、授業に備えるように」

 

 

ホームルーム

カルエゴ卿の厳格な声が、終末期明けの浮かれまくった学生達の気持ちを引き締める

 

 

「新学期は、収穫祭や音楽祭と…とにかく行事が多く、その都度、位階昇級試験がある

ーーが、それは通常の一年生の話だ」

 

 

カルエゴはそう言い、手元から何か小さく丸く巻かれた紙束を取り出した

 

 

(……あれは、拡声器と録音機能の魔具)

 

 

ーーーボフン!

カルエゴの手元から離れた魔具は大きく変化し、壇上の上にその姿を表した

 

 

 

「いいか、問題児クラス。貴様らは特例だ」

 

 

そう言いながらカルエゴはヘッドホンをつけた

 

 

 

 

(……やばいな)

 

 

 

ダキは自分の巾着袋から耳栓を取り出すと、

隣にいたゴエモンに耳栓を渡す

 

 

「えっ、ダキ、これ」

 

「いいから、付けとけよ」

 

 

「ーー…"王の教室"を使用するという事は…それにふさわしき授業を受けるという事だ」

 

 

 

周りがぼーっと目の前を見ているのを裏腹に、

ダキは急いで耳栓を奥に詰め、更には指を差し込み、ギュッと自分の耳を守った

その様子をみてゴエモンも慌てて続いた

 

 

 

 

《悪魔学校特別授業司令部ーー!!!!》

 

 

 

「うるっさ!!!!」

 

「ぐあああ!!!!」

 

 

間一髪、と言ったところで爆音が響く

皮膚からびりびりと感じる音圧

咄嗟なことで対策などしてない周りのクラスメイトは耳を抑え、苦渋に顔を歪めて地面にのたうち回る

 

 

 

(あっぶね………)

 

 

「せっ、せーふでござる…!」

 

 

もし、耳栓を取り出していなかったら…音魔であるダキの耳はしばらくイカれていただろう

 

 

 

《問題児クラスは全員ー!!!

2年生になるまでに全員"4"に昇級すること!!

 

 

 

ーーもし、失敗した場合!

即刻!"王の教室からの退去"を命ず!!》

 

 

 

「「「はぁぁああーー?!!!!!!!」」」

 

 

 

位階"4"

それは、悪魔学校の卒業ボーダーライン

本来なら6年間で取るべき"4"を一年生で取れ、というこの指令は規格外という他ない

 

 

 

「遊園地の騒動を見て、教師陣が決めたのだ

貴様らは期待されている」

 

 

メガホンの魔具はそのまま元のサイズに戻り、カルエゴはヘッドホンを外したのを見て、ダキも自身の耳栓を外した

 

 

それはあまりにも衝撃的な通告だった

 

 

 

「一年生で、クラス全員"4"

これを達成すれば正しく、貴様らは偉業をなしたと言えるだろう」

 

 

今位階が4以上はアスモデウスとダキのみ

つまり、あと12にん全員が、あと半年で4以上に昇格しないといけないのだ

 

 

 

(大丈夫か……?それ。

坊ちゃんはランク3、焦るほどでもねぇが、そのクラスは1が何にんもいる…)

 

 

「……って聞いてるのか貴様ら」

 

 

 

アスモデウスとダキ以外のクラスメイトが突然の無理難題に頭を抱え嘆き始める

今、王の教室を使用し、先のウォルターパーク事件を解決した英雄として、周りからちやほやされている彼らにとって、王の教室から退去させられると言うことは、天国から地獄へと突き落とされることに他ならなかった

 

 

 

「はぁ……安心しろ貴様ら

これも授業の一環…不可能な課題は出さん」

 

 

 

カルエゴは狼狽する生徒達を見てため息を吐く

 

 

 

 

「こちらでも支援を出す」

 

 

 

 

そう言ってカルエゴは手を上に掲げ、

ーーパチンッと指を鳴らした

 

 

 

 

「貴様らを"4"に叩き上げるために、本校が貴様らそれぞれに特別講師を用意した」

 

 

 

そう言って現れたのは6名の悪魔

その中には、新聞とかで見覚えのある有名どころまでいた

 

 

 

 

 

 

(めんどくせぇな"ァ……)

 

 

 

 

ぼーっと空を見ていた

そこに誰かの視線が、刺さる

 

 

(……、?なんだ)

 

 

チラッと目だけを視線の方へ向ける

視線の先にいたのは、赤い肌の特別講師だった

 

 

 

 

(ああ"……ダロキアの交渉人、フルフル軍曹か)

 

 

 

 

何も言わない

ただ、じっとこちらを見ている

そのままダキは気づかないふりをした

 

 

 

 

「フルフル軍曹は、ジャズとアロケル」

 

 

 

その名前を呼ばれ、フルフルはこちらを未練がましく見ながらも、パッと笑顔に戻り自分の弟子となる生徒達を迎えた

 

 

 

 

 

「ウェパル嬢は、ゴエモンとアガレス」

 

 

 

坊ちゃんの名前が呼ばれたことでハッとそちらの方を見た

緊張しながらも、アガレスと一緒にウェパルと呼ばれた若い女の師匠の元へと小走りで走る姿が見えた

 

 

(……なるほど、家系魔術がある程度仕上がってるアガレスと組まされた、と言う事は家系魔術特化を目指す形だな)

 

 

ダキは目を細めて、ゴエモンを見つめた

初々しく挨拶する姿が、とても眩しい

 

 

 

(やったな、頑張れよ…坊ちゃん)

 

 

 

 

アガレスと一緒になって話すゴエモンの姿を目に焼き付けて、視線を逸らした

 

 

 

 

「ミスターハットは、クロケルとカムイ」

 

「ライム先生は、イクス、ウァラク」

 

「サブノック、アスモデウスは、シチロ…バラム教諭で見ることになる」

 

 

 

それぞれ呼ばれたメンバーが師匠の元へと走り出す

 

 

「すげぇ、豪華メンバー…!

特にフルフルって言えば魔谷大戦の三大英雄の家系じゃん…ッ!」

 

 

 

あまりにも豪華な教師陣に情報通のリードからミーハーな叫び声が聞こえた

 

 

 

 

「おい、俺らはどうなる」

 

 

 

残っているのはカルエゴ卿と、新任教師ロビンしかいない

まさか、この新任が自分の師匠なわけがない

分かってはいるが、そのまさかなんてないよな?と疑ってしまう

 

 

 

 

「リード、入間、貴様らはロビンがつく」

 

 

「ええっ?!」「はぁっ?!!」

 

 

「よろしく!!!」

 

 

 

その一言に入間たちの顔は、いかにも不安ですと言った顔でカルエゴを見る

バビルスの教師とはいえ今年教員になったばかり

ランク4なんて可能なのかと思う気持ちは分からなくもない

 

 

 

「貴様らの特別教師はもうすぐ来る筈だが…」

 

 

「へぇ、アンタじゃないんだな」

 

 

「私は統括だからな」

 

 

 

 

そう言いながらカルエゴはため息を吐く

まるでその話をするのが嫌とで言うかのように

 

 

 

(……まさかな)

 

 

 

カルエゴの苦手な悪魔の顔が過ったが

冗談半分で、胸に留めていた

 

 

「各自、打ち合わせをしたら次の授業へ向かうように…補習は本日放課後より始まる」

 

 

それぞれが自分たちの師匠へと着いて行き、打ち合わせのために教室を離れる

カルエゴも教室からいなくなり、

ダキはぽつん、と教室へ取り残された

 

 

 

(さてと、俺の師匠は一体どこのどいつかね)

 

 

ーーーバンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オーホッホッホ!ガンキンチョ共このポロ様が貴方達の師匠よ」

 

 

 

けたたましい音と共に現れたのはポロだった

 

 

 

「!アンタが俺の師匠か」

 

 

「あら、意外かしら?」

 

 

 

 

その指摘に、言いづらそうに目を逸らすと、首を摩った

ダキの予想では、自分の師匠はポロでは無い別の悪魔だと思っていたからだ

 

 

 

「……サリバン様じゃねぇんだな」

 

 

 

その言葉に少しだけ目を見開くと「あら、知ってたのね」と呟いた

 

 

 

「有名な話だろうが」

 

 

 

ダロキアの師匠は三傑だった

しかし、レディレヴィ、ベリアルはバビルスより遠方の地の学園の長だ

それなら、1番近しいサリバンが再びダキの師匠につくと、そう思っていた

 

 

 

「ふ、ふふふ!」

 

 

 

しかし、その言葉の後に返ってきたのは、

ポロのあどけない爆笑だった

 

 

 

 

 

「あっ、は、ははははは!!!!!」

 

 

 

 

目には涙を滲ませ、

まるで「何を馬鹿なことを」とでも言いたげに嗤う

 

 

 

「あはは!本当、ふふ、かわいいわ、アナタ」

 

 

 

 

"世間知らず"な子供の発した迷言が、ただただおかしくて、ポロは腹を抱え、身体を捩らせた

 

 

 

 

「っ………!」

 

 

 

 

その反応に反射的に耳裏がカッと熱くなった

"笑われた"

ただそれだけの事に、幼稚じみた暴力を振るってまわりたくなるほどに、羞恥と憤怒で口が震えた

 

 

 

 

「はー、ごめんなさい、つい笑っちゃったわ

確かに今のアナタはねーー、」

 

 

 

 

 

ポロはダキの心臓にひと差し指を、トンっと軽く突いた

 

 

「魔力の使い方も、」

 

 

指がまるで歩いているかのように迫り上がり、

 

 

「魔術も、」

 

 

喉仏を指が通り過ぎ、

 

 

「体術も、」

 

 

唇を優しく押される

冷たい指の体温がじくり、と唇越しに伝わる

 

 

 

「どれも、申し分ないわ

……でもね、」

 

 

 

ポロはダキの頬を撫で、

顔を近づける

 

 

 

 

 

 

 

「肝心なものが足りてない」

 

 

 

 

 

ダキの耳元へそっと囁いた

ふたりしか、いないはずの室内でふたりにしか聞こえないぐらいの小ささで

 

 

 

 

「へぇ、言ってみろよ」

 

 

 

威嚇するかのように唸りながらダキはギロリ、と見下ろすポロを睨んだ

その強気な返しにポロはほほえんだ

 

 

 

 

 

「家系魔術よ」

 

 

 

 

 

ぐしゃり、とダキの顔が歪んだ

 

 

 

(………そうかよ)

 

 

 

心当たりはあった

むしろ、今まで見ないフリをしてきたものを目の前に叩きつけられたような気分だった

 

 

 

 

 

 

「あの子はワタシの家系魔術から変質した力を得て、その力で、最強を誇ったわ」

 

 

 

 

 

そもそも、ダキは自身のことを"音魔"だと知ったのもつい最近だ

自分の記憶もない

身体的にも水魔や、多耳族のような外見的な特徴もなく、元々何でもできるから、特出した才能というのも分からなかった

 

 

 

 

「でも、今のあなたはそれを、発動させることさえできていない」

 

 

 

図星なだけに何も言い返せない

音魔としての力で似たようなものは、飛行試験の時に出したことがある

けれども、それはただの"音"のみで、飛行の推進力を上げただけの代物

ポロのように音一つで大河を作ったり、世間で語り継がれる悪魔を従えるのという"ダロキア最凶の能力"とは言えないほど粗末なものだった

 

 

 

「あなたは、まず音魔とは何かを知るべきよ」

 

 

 

そっと、ポロはダキの耳元から離れた

 

 

 

 

 

 

「わかってる…、そんなこと」

 

 

「分かってないからできてないのよ」

 

 

「っ、へぇ?俺の何を見て、分かっていないか教えてもらおうか」

 

 

震える唇で噛み付く

ダキは腕を組みながら目の前のポロを見上げる

ぐらぐらと、自分の中にある何かが簡単にこの言葉に折れるのを嫌がった

 

 

 

「ええ、アナタはそれが分かっていたら、終末期の間にワタシに師事を受けに来るはずよ

身近な音魔として、その力の使い方を教えてもらいに…」

 

 

「………、」

 

 

 

ポロの一つ一つの言葉がダキに刺さった

どれもが正しく、ダキに足りないものを指し示していた

しかし、感情は何時も理性とは別である

 

 

 

 

 

「……チッ」

 

 

 

 

 

 

未熟さを指摘される屈辱

素直に折れたくないと思うプライド

でもそれと同時に、自分の傲慢さに、怒りが湧き上がりそうになる

 

 

 

 

 

(……この、オレが?)

 

 

 

 

何でもできる気でいた

世間は自分という価値を"ランク5"という形で示してくれた

 

だが、実際はどうだ?

他の悪魔達が、物心ついた時から使える"家系魔術"さえも満足に使えない

 

 

 

(ーーつまり、今のオレは基礎もできねぇ赤ん坊だってことか?)

 

 

 

 

気を鎮めたくて、「ふーー、」と長めの息を吐いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいぜ…やってやるよ、」

 

 

 

 

ダキは目を開けると、一転、

覚悟の決まった顔でポロに向き合った

瞳に宿った黄金の炎がダキの覚悟と共に燃え揺れる

 

 

 

「……いい顔するじゃない」

 

 

 

くすり、と笑った

次の瞬間、ぐい、と強く抱き寄せられた

 

 

 

 

「よろしく、我が弟子」

 

 

 

耳元で囁かれる声は、

先程までとは違う、どこか愉しげで残酷だった

 

 

 

 

 

(……チッ、)

 

 

 

 

胸の奥で、まだ燻るものがある

納得なんてしていない

だが、それでも

 

 

 

 

(…ここで止まる気はねぇ、坊ちゃんの為にも)

 

 

 

ゆっくりとポロの腕を外しながら、

ダキは息を吐いた

 

 

 

「ところで……」

 

 

 

 

わざとらしく肩を竦める

 

 

 

「見た感じ、2対1で組んでるみたいだがーー、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダキは、“誰もいない空間”へ指を指した

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー俺はプルソンとペアか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一言に、

突如誰もいなかった筈の場所から「えっ、」と声が漏れでた

 

 

 

 

 

「へぇ、」

 

 

 

 

その指摘に、ポロの口角がゆっくりと上がる

ダキはそんなポロの反応など眼中には無い

ただ、一点

そこにいるはずのクラスメイトの姿を睨んだ

 

 

 

 

 

「逃げんじゃねぇーよ、プルソン」

 

 

 

 

 

すると、しばらく経って指を刺した場所がぐらり、とまるで陽炎が空気へ溶けて消えるみたいにと景色が歪む

 

 

 

 

 

そこからひとりの悪魔が出てきた

 

 

 

 

ダキの腰ぐらい小柄で、

茶髪の、驚くほどに無表情な悪魔

それなのに、その瞳だけが

恐ろしいほどに雄弁だった

 

 

 

 

「いつまでも隠れてんじゃねぇーよ」

 

 

 

 

その問いかけにグッと睨まれる

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、分かったの」

 

 

 

 

 

 

 

プルソンの声は、かすかに震えていた

 

今まで誰にも見つかることなどなかった

教師でさえ見つけることは難しい

 

なのにダキは、プルソンをまるで元から知っていたように話す

それがプルソンのプライドをいたく傷つけた

 

 

 

 

 

「あ"?そうだなー………、」

 

 

 

 

ダキはなんてことなさそうに

プルソンを見下ろした

 

そして

ピンっと、指先を立てる

 

 

 

 

「ーー"音"だな」

 

 

 

「……おと?」

 

 

 

その言葉にぽかん、と口を開けた

プルソンは生活するのに音を立てたことはない

精々、放課後に憂さ晴らしでトランペットを吹き鳴らすぐらいだった

 

 

 

「俺はSDとして、坊ちゃんに危険がないか、常日頃から周りを意識してる」

 

 

 

お手本とでもいうように

ダキは自身の魔力を遠く広く広げ、そこに音を乗せた

耳奥でぴぴぴ、と小鳥が囀るような魔力がぶつかる音がした

ポロはダキがした事を察して笑みを深くした

 

 

 

「この"音"でな」

 

 

 

 

ダキは自身の欠点である体質

自分の体から漏れる魔力を逆手にとった

漏れ出る魔力を薄く広げ、そこに微かな高音を乗せる

その跳ね返ってくる“音”で、

周囲に何があるのかを把握していた

そう、まるでソナーのように

 

 

 

(普段はもうちっと高音で、他の悪魔には聞けねぇだろうがな)

 

 

 

 

だが、悪いことじゃない

おかげで前髪で目元を隠しても、

死角からの攻撃でも、

まるで見えているように反応することができる

 

 

 

 

 

「何もねぇ筈の場所に、明らかにひと型の魔力反応……そんなの嫌でも意識しちまうだろうが」

 

 

 

 

ダキは腕を組みながら、プルソンの存在に気づいた当時を思い出す

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

気がついたのは処刑玉砲があった頃だった

 

 

 

 

(なんだ……あれは)

 

 

 

 

敵意はない

だが、いつも自分たちを追うように小さな陽炎が付いてくる

 

 

(ストーカーか…?)

 

 

最初は警戒していた

けれど、その陽炎は気まぐれで、

授業にはついてくる癖に、

休み時間になると消えた

まいにち、まいにち、

まるで"このクラスの一員"だとでもいうかのようにその影は自分達の後ろをついて回った

 

 

 

(視認できない14にん目……)

 

 

 

気のせい、だけで見過ごすことはできなかった

 

 

 

 

「気になった俺は、アブノーマルクラスの名簿を見て気づいた」

 

 

 

クラス分けの際に配られた紙を引っ張りだしたそこにはここ数ヶ月共に過ごしたクラスメイトの中には見覚えのない、ひとりの名前がそこにあった

ダキはニヤリと牙を見せた

 

 

 

 

「ーーーひとり、足りないってな」

 

 

 

 

その指摘にプルソンは小さく唇を噛んだ

 

 

 

 

「さすが、首席

ーー僕の稚拙な隠れ方なんて、バレバレなわけだ」

 

 

 

バレたことが、そんなに悔しいのか、こちらを見る瞳は怒りに満ちている

 

 

 

 

 

「おっと、勘違いすんなよ」

 

 

 

 

ダキは睨むプルソンの前に制止の手を上げた

 

 

 

 

 

「テメェは完璧だった」

 

「……は?」

 

 

 

予想外の言葉に、プルソンの眉が少しだけ動く

その僅かな揺れに、ダキは目を細めた

 

 

 

 

「実際、オレはお前を知覚することができたのはロイヤルワンが開かれた後だ」

 

 

 

"存在"を知り得ても、"視認"することができるようになったのはつい最近だ

そんなに長い間、認識されないでいる

それは、かなりの腕前でないと成し得ないことだ

 

 

(実際、プルソンのことがわかるのは、カルエゴ卿と、ポロ、サリバン様…あとは俺ぐらいなモンだろう)

 

 

 

実際、クラスメイトは勿論、魔界のあらゆる優秀者を揃えたバビルスの教師陣であっても、プルソンに気づいていそうな悪魔は極少数ぽかった

 

 

 

 

「ーー誇れ、お前は凄い」

 

 

「…………!」

 

 

 

 

その褒め言葉にプルソンはジッと、ダキを見つめる

その顔からどことなく滲む感情が、悪くないものだと感じて、ダキは「フッ」と、笑った

 

 

 

「あら、やだ

アナタ無意識に音魔の力を使ってるじゃないの」

 

 

 

嬉しそうにポロはダキに向かって微笑む

音魔を何も知らない、とは言ったものの無意識に使っていた能力に、やはりダキは音魔なのだと再認識した

 

 

 

「……でも、まだ足りないわ

アナタ本来の力はこんなものじゃない」

 

 

 

その言葉に口をキュっと引き結んだダキに、

くすくすと口元に手を当ててポロが笑った

 

 

 

 

 

「ねぇプルソンちゃん、アナタの力は残念ながらこの子とは相性最悪よ」

 

 

 

 

その言葉にプルソンは、

嫌そうな目でポロを見上げる

 

 

 

 

「あはは!なんてぶすくれた顔してんのよ」

 

 

 

 

そんな態度がまた面白くて、

ポロはダキの両肩に手を置いてわらう

ふたり揃って何て可愛いのか

 

 

 

 

「あのね、だからこそ、アナタはこの子と組むことで更に強くなれるわ」

 

 

 

 

その言葉に無表情だったプルソンの顔に

少しだけ緊張が走る

その瞳には、疑心と期待が揺れ動いていた

 

 

 

 

 

 

「ワタシが、」

 

 

 

 

ーーカツンッ

ポロのヒール音が高らかに響く

ダキの手を取ると、くるり、と軽やかにターンさせ、プルソンと隣同士、ポロと向き合うように立たせた

 

 

 

 

「アンタ達を」

 

 

 

ポロのピアニストらしい細長い指が、ふたりの顎になぞる

 

 

 

「バビルス1年生の中で」

 

 

 

くいっ、と顎を持ち上げた

どちらの瞳も、良い決意が乗っていた

 

 

 

 

 

 

「ーー最も…危険で、美しい1年生にする」

 

 

 

 

 

ふたりの顔を見つめながら、

ポロはゆっくりと目を細める

 

蛹はまだ羽を知らない

けれどポロの目には、もうその羽化の姿が見えていた

 

 

 

 

 

 

 

「覚悟なさい、クリザリッド達」

 

 

 

 

 

 

ポロによる、修行の日々が、始まった

好きなCPは?(市場調査)

  • ダキ×ゴエモン
  • ゴエモン×ダキ
  • ダリ×ダキ
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  • ダロキア×ダリ
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4度目の人生は悪魔学校で(作者:恋音)(原作:魔入りました!入間くん)

辿った世界で四苦八苦。シリアスなど知るかと災厄がこびりついた彼女はチートな才能(意訳)と大胆かつ下劣極まりない手段を使って悪魔だらけの世界を生きる。▼『フラグは折って捨てるもの』『秘密は隠さなきゃ秘密じゃない』『敵の敵は利用する』『敵?あぁ。利用するだけしてやったよ』『人間は悪魔の法律適応外』を胸に掲げ、味方から「敵に同情する」と言われながらも我が道(小心者…


総合評価:582/評価:8.6/連載:26話/更新日時:2026年04月13日(月) 20:00 小説情報

魔入りましたよ 入間さん(作者:自堕落無力)(原作:魔入りました!入間くん)

 これは原作において悪魔の孫となった鈴木入間のもう一つの可能性の物語である▼ ※だいぶ話数も書いたので匿名やめます


総合評価:5134/評価:8.92/連載:165話/更新日時:2026年05月23日(土) 19:39 小説情報

術式【適応】(作者:雨曝し)(原作:呪術廻戦)

▼ 禪院家に魔虚羅と同じ術式持ちが生まれる話。▼タグは随時追加


総合評価:1077/評価:7.06/連載:7話/更新日時:2026年04月09日(木) 13:14 小説情報

立派な教師になる為に(作者:撥黒 灯)(原作:暗殺教室)

▼※本作品は原作 暗殺教室終了後の世界観における多重クロスオーバーです。未読の方はご注意ください※▼※多重クロスオーバーといっても、キャラだけのクロスはさせません。すべて各作品の原作をなぞるか、原作終了後の世界でクロスします※▼ 椚が丘中学校3年E組、通称“暗殺教室”を卒業してから、1ヶ月。暗殺教室主席、潮田 渚は、無事に高校へと入学した。▼ ──無事だった…


総合評価:607/評価:7.33/連載:20話/更新日時:2026年05月03日(日) 20:00 小説情報

Fate/strange True Will(作者:其為右腕)(原作:Fate/)

アヤカがセイバーではなく、ツンツン頭の少年を召喚したお話です▼初投稿です。▼Fakeのセイバーが真と偽をつなぐ役割だと知ってそれならあの人も召喚できるのでは、と思い書きました。▼独自解釈、ガバガバ知識多め。▼評価や感想、誤字、明らかな解釈の相違等あれば遠慮なく。▼


総合評価:319/評価:8.75/連載:5話/更新日時:2026年05月23日(土) 21:42 小説情報


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