「腰が痛い……」
「ほんっとに情けないわね。全然動いてないじゃないの」
清太は腰を痛そうにさすり、リズはその様子を見て苛立つ。
テューダー魔法学院から馬で約一時間、首都ロンディニウムの大通り。降臨祭で賑わうさなか、それに比例して人々で混み合う大通りを、清太とリズは必死でかき分けながら歩く。
「あなたたち、会話が卑猥よ?朝っぱらから一体何してたの?」
それに続くキュルケが、二人のやり取りを聞いてにやりと笑う。
「どうしてそうなるんですか!何もしてません!ほら、あんたも何か言いなさいよ!」
顔を真っ赤にしたリズが大声で叫び、それを困ったような顔でアリーが見ている。一方の清太は、腰の痛さでそれどころじゃないといった様子だ。
「あんな長時間馬に乗って、よく腰が痛くならないよな……」
「あんたが弱すぎるのよ!だいたい馬にも乗ったこと無いって、ますます平民じゃないの!」
この世界にやってきてから二日目、朝からリズは買い物があると言って清太とアリーを叩き起こし、半ば無理やり街へと連れてきた。その際に街までの移動手段として使用したのが、馬であった。
元の世界の普通の人間であれば恐らく乗った経験が無いであろう馬。しかし清太は初っ端から一時間も跨るハメになったあげく、この先しばらく続くであろう腰痛に悩まされる事になる。
「まあそう言わないの。でもどうして馬車呼ばなかったのよ」
キュルケが不思議そうな顔をするが、リズは対照的に更に苛立ちを募らせていた。
「知りませんよ!休日だからみんなが乗って行っちゃったんじゃないですか?」
ふんっ、とそっぽを向く。だがそんなリズにはもう一つ、苛立つ理由があった。
──あのキュルケって人!あの人がいると、あのバカがすぐ鼻の下伸ばす!
当初キュルケは同行する予定ではなかった。街でたまたま出会っただけなのだが、暇つぶしにと、清太たちについて行く事にした。だがリズはそれをあまりよく思っていなかった。
言ってる傍から清太の視線はがっつり開いたキュルケの胸元にくぎ付けだ。そんな様子を見たリズは、思いっきり清太の腰を蹴り上げる。
「いってぇぇええっ!何すんだよ!」
「うるさいわねえ!」
清太が自分とキュルケを比べていたのを知っている。リズにはそれがどうしても気に食わなかった。
──そりゃ胸はないし、身長は高くないし、あんな大人びた雰囲気は持ってないしで惨敗だけど……
だがそこは年頃の女の子。自分よりも魅力的な女性に対して、特に意味のない嫉妬心を振りまくこともある。
そこに恋愛感情のような特別な物が一切なくてもだ。
その様子に気づいたキュルケは、リズをからかうように色々な質問をしている。そんな様子を見ながら、清太とアリーはその後ろを付いて歩くのだった。
「なあ、なんでこんな人が多いんだ?」
「えっとですね、降臨祭といって始祖ブリミルの誕生を祝う期間なんです」
「へえー」
人でごった返す大通り。そんな中を小柄なアリーは歩き辛いのか、時折人の波にさらわれそうになっている。
「ほら、危ない。今だけ我慢して」
はぐれそうになるアリーの手を、清太は咄嗟に握った。
「は、はいぃ……」
それに驚いたアリーは他に言葉も見つからず、清太にされるがまま引っ張られていく。
今まで男の子と手をつないだことなんて一度も無い。だから最初は驚いたし、少し抵抗があった。でも嫌ではなかった。何故だか清太を見ていると、どこか親近感が沸く。同じ黒髪だからかな?なんて考えたりもしたが、それだけではあの時廊下で倒れていた清太を助けようなんて、普段の自分だったら考えもしない。おまけに、人見知りの自分が気にせず笑っていられる事も、アリー自身は疑問に思っていた。
──でも、ずっとこのままでもいいかも……
清太としっかり繋がれた手を見て、アリーはそっと思う。そうしてしばらくの間、されるがままに引っ張られる。
「んにゃっ!」
すると突然、思いにふけって前を見ていなかったアリーは、ぼふっと何かにぶつかった。見上げると、何かにくぎ付けになっている清太がいた。
どうしたんだろう?アリーはその視線の先を追う。
「さあー、よっていきなー!かの有名な風の剣士ヒリーギル・サートームの歌劇、『アルビオンの剣士』はまもなく開演だよー!」
まるで宮殿のような立派な作りをした劇場、ロンディール・デ・ザール座の前で、威勢のいい男が大声で歌劇の宣伝をしている。
「あれは十年以上も続けられている歌劇です。なんでもここアルビオン大陸で、進軍する七万の兵をたった一人の剣士が止めたっていう実話からできたみたいです」
「へえー、そりゃすごい」
頷きつつも、劇場に入って行く老若男女、家族連れやカップル等、元いた世界とあまり変わらない光景についつい目がいってしまう。
──そういえば昔、ばあちゃんによく連れて行ってもらったっけ……
清太はそっと思い返していた。異世界に来てからたった二日しか経っていない。しかし、実際はそれよりももっと長く感じてしまう。
今朝も少しばかり期待していた。一晩寝れば夢が覚めるのではないか、と。そして夢から覚めた自分は、いつものように学校へ行き、友達と遊び、そして家に帰り夕食を家族と食べる。
そんな当たり前の生活が今は少しばかり恋しかった。
「清太さん、大丈夫ですか?」
思い返しているうちに、いつの間にか考え込んでしまったようだ。
「ご、ごめん!ついぼーっとして……。ぜんぜん大丈夫」
「それならよかったです……。でもそのお話も、今では本当かどうかわかりませんけど。ただ、とても人気のある歌劇である事は間違いありませんよ」
「ずいぶん詳しいんだね」
「ここまで大々的に宣伝していれば、嫌でも耳に入ってきてしまいます」
アリーは自嘲気味に笑う。
だが実際、この歌劇の宣伝はとても大々的な物だった。街中には宣伝用の張り紙がされ、各所で劇場の従事者が同じように宣伝をする。始祖ブリミルの降臨祭とあって、書き入れ時のようだ。
しばらくその宣伝にアリーと見入っていると、先を歩いていたリズが叫んだ。
「ちょっとおー!置いてくわよー!」
「あ、はい!直ぐ行きます!」
今度はそれに気付いたアリーが、清太を引っ張るような形で歩きだす。
「いったい何してたのよ」
待たされたリズは少し機嫌が悪そうだった。すると、清太の代わりにアリーが答えた。
「歌劇の宣伝についつい見入ってしまって……」
「ただの剣士が七万の兵士を止めたっていう話よね」
「はい」
「でも本当なのかしら?そういうのって、だいたい噂が独り歩きしてるのよね」
「それ、わかります」
アリーとリズは顔を見合わせて笑う。信じられないような伝説には、いつも尾ひれが付いて回る。この『アルビオンの剣』という歌劇ができてから早十年、今ではその話を信じる者は少なくなっていた。
「なあ、ところで何を買いに来たんだ?」
「うるさいわねえ、もう着くわよ」
清太に対してはものすごく機嫌が悪いリズ。その理由をわかっていない清太は、ただ首をかしげるばかりだった。
それから石造りの建物が並ぶ通りを少し歩くと、華やかな外観の店が見えてきた。
「あら、ここって有名な酒場じゃない」
リズがその前で立ち止まると、キュルケはすぐにわかったのか、驚いた顔をする。
「知ってるんですか?」
「知ってるも何も、魅惑の妖精亭はもともとトリスタニアのお店よ。戦時中に支店は出したとは聞いていたけど……まさかそのまま根付くなんてね」
懐かしそうにキュルケは目を細めた。立派な石造りの建物に、華やかな装飾。一目見ただけでもそこが特別である事が見て取れる。そんな場所に気分が上がったのか、キュルケは足早に店内に入っていった。
だが一方のリズは、それを不思議そうに見つめた。
──戦時中って、もう十年以上も前の話じゃない……。なんでそんな事知ってるのかしら?
首をかしげる。しかしいくら考えても仕方がないと、リズもそれに続く。清太とアリーも恐る恐るといった足取りで、店の入り口をくぐった。
「ええぇぇ……」
だが店内に入った途端、清太は呆気にとられた。
まず店内に入ると同時に目についたのは、きわどい衣装を着た若めの女性たち。そしてそれを束ねるように立っている、性別不明に近い男性。
「あっらーリズちゅわーん、待ってたわよおー!」
きわどい衣装を着た女性よりもはるかに目立っている彼は、ガタイの良い体をクネクネとさせながら、リズを見るなり嬉しそうに叫ぶ。
「ごめんなさい、スカロンさん。いつもご迷惑をおかけして」
「とんでもないわよお!かわいいリズちゃんのためなら喜んで、よ!」
スカロンと呼ばれた男は、小さな袋をリズに手渡す。
「でも驚いたわー。まさかキュルケちゃんとリズちゃんがお知り合いだったなんてー」
「私も驚いたわよ。でもスカロンさん、あなたトリスタニアにいたんじゃないの?」
「それがね、降臨祭で人手が足りなくて。だからこっちの支店にお手伝いに来てるのよ」
「そうだったの」
キュルケとスカロンの会話からして、随分と古い仲なのだろうか。ますますリズは不思議に思うのだった。
「ところで後ろの子たちは?」
先ほどからきわどい衣装の女性たちに目が行きっぱなしの清太と、どうしたらいいかわからず固まっているアリー。そんな二人が気になったのか、スカロンは興味津々といった様子で見ている。
だがリズは、スカロンの質問に答えるよりも先に清太を蹴り飛ばす。すると余所見ばかりしていた清太は、それをもろに食らい吹っ飛んでいった。
「……失礼しました。彼女はアリーです。それと今のはセイタです」
「あらあ、そうだったの。アリーちゃんもとってもかわいいじゃない!ウチの店で働かない?」
どう答えたらいいかわからないアリーは、ただ苦笑いをするのであった。
「二人とも私の教え子よ?」
「あらま!キュルケちゃん先生になったの?」
「先生というより、ジャンの助手だけどね」
「そうだったの。ところでリズちゃんて、ちょっとルイズちゃんに似てるわね」
そう言ってスカロンとキュルケは昔話をしながらクスクスと笑う。
ルイズって誰だろう?リズはまたもや首をかしげるのだった。
「そうそう、リズちゃん。この前頼まれた火竜のツメだけど……」
「それなら私が用意したわ。ていうかリーデルさん、あなたスカロンさんに何をお願いしてたの?」
不思議そうな顔をするキュルケと対照的に、リズは少し恥ずかしそうな顔をする。
「私、使い魔の召喚が少し遅かったので……。まあ、召喚できても結果的にアレでしたが」
最後の語尾には少しばかり怒りがこもっていた。
しかしそれですべてが繋がったキュルケは、納得したように手を叩いた。
「そっか、二学年になると使い魔じゃないと取りに行けないようなアイテムがあるものね。でも、どうしてスカロンさんに?」
それを聞いたスカロンが、リズの代わりに答えた。
「ほら、アタシって仕事柄多くの人に会うでしょう?だからある程度の物なら伝手で用意してあげられるのよ」
「なるほど、そういうことだったの」
本来は二学年に進級する際、その絶対条件とされる使い魔召喚。本来であれば春に行われすでに使い魔がいるはずなのだが、リズは前述の通り全く魔法ができない。それはもう驚くほどにできないため、どの系統にも属さないコモンマジックさえ成功しなかった。
しかしそれを見かねた学院長であるホーキンスは、特例としてリズを二学年に進級させる替わりに、“使い魔の召喚を二学年中に成功させる”という約束をさせた。
結果的にそれは成功したのだが、そこで召喚されたのは幻獣や可愛らしい動物といった類の生物ではなく、まさかの人間であった。
「それで、俺が召喚されたと」
「そういうことになるわね」
いまいち状況を理解していない清太と、何故それを理解しないんだと苛立つリズ。そんな二人を余所に、他の三人はスカロンが用意した紅茶とお菓子をつまみながら、酒場にそぐわないティータイムを満喫していた。
「そういえばシエスタはどうしたのよ?まだド・オルニエールにいるの?」
「そうそう、まだサイト君の所で楽しくやってるみたいよ。でも今は降臨祭でしょう?シエちゃんとジェシカにトリスタニアの店を任せてきちゃったわ」
「あの子も物好きねー。ルイズも相変わらずかしら」
並べられたカップの一つを手に取り、キュルケはゆっくりと紅茶を飲みながら旧友を思い出していた。
「わあ、これとてもおいしいです」
すると、注がれた紅茶を口にしたアリーが驚いた声を上げる。
「あらアリーちゃん、この紅茶の味がわかるの?」
「わかるといっても、素人目線ですけども……」
「嬉しいわ!これはね、アンリエッタ王女様も好んで飲んでいらっしゃる、トリスティン原産の珍しい茶葉なのよおー。よかったら少し持って帰る?」
「い、いいんですか?」
「もちろんよおー!」
するとスカロンは嬉しそうにクネクネとしながら店の奥へと消えていく。それと同時に、店の扉が大きな音を立てて開いた。その場にいた四人は、驚いて扉の方を見る。
するとそこには、ガッチリとした体型をした男が三人立っていた。彼らは揃って白い軍服のような物に身を包み、腰には剣を下げている。
「おい、店のもんいるか?」
そのうちの一人がそう叫ぶと、それに驚いたスカロンが飛んできた。キュルケもただ事ではないと察したのか、今までのクセから咄嗟に杖を握る。
「まあ、自警団の方々!いったいどうしましたあー?」
「こんなヤツが店に来なかったか?」
そう言って男は、羊皮紙に書かれたローブのような物を身にまとった少女の画を見せる。
だがスカロンを含めたその場にいる全員が、知らないと首を横に振る。
「見てないわ~。それよりも、アタシと一緒に一杯飲んで行かないかしら?」
より一層体をクネクネとさせながら、スカロンは男に詰め寄る。しかしその迫力に押されたのか、男は後ずさった。
「い、いや。し、知らないなら、いい。すまなかった」
そう言って一人が扉に向かって歩き出す。するとそれに続くように、残る二人も店の扉に向かう。だがそこで、そのうちの一人がリズの前で立ち止まった。
「ほう。なかなか美人じゃねえか。せっかくだ、一杯付き合えよ」
「はあ?」
リズは何を言っているんだと言わんばかりに、その男を睨んだ。
美人と言われた事は……まあいい。でも、こんな解せない男と酒を飲むなんて間違っても嫌だ。
「嫌に決まってるじゃない。あんたみたいなボンクラと飲むなんてごめんだわ」
「なんだと貴様!我々が誰か知っているのか!ロンディニウム自警団だぞ!いくら貴族だろうと、我々を侮辱する事は許されない!」
そういって男はリズの腕を無理やりつかむと、どこかへ連れて行こうとする。
「きゃあっ!な、なにするのよ!離しなさいよ!」
必死で抵抗するリズ。その様子を見たキュルケは、きゅっと唇を噛みながら腰にさした杖を抜こうとする。
しかしその時、リズを掴む男の腕に、清太の腕が横から割って入った。
「なんだきさま……っぐ、うっ……」
余裕の表情をしていた男の顔が、突然苦痛で歪み始める。
それを見た清太は、その腕を握りつぶすような勢いで、より一層握る力を強めた。
「な、なにをしているかわかってるのか……」
「うるせえ」
男の声を無視して、そっと低い声で清太は呟く。その様子は今までからは到底想像もつかない姿であった。
次第に男の腕から解放されたリズは、急いでその場から離れる。そしてただ唖然と清太を見つめた。その間も、その腕には力が入ったままだ。
「リズはな……確かに可愛いかもしれないがな、お前は一つ重要な点に気づいていない……。それはお前の許されない罪となる」
「な、なんだと……?」
リズを含めたその場にいる全員が、何故か清太の気迫に押され息を呑んだ。
「誰もが見返すであろうきれいな髪!それに大きな青い瞳と透けるような白い肌!そりゃどこからどう見ても美少女だ!少しアレな性格を入れたとしても、はっきり言ってこんな可愛いヤツには今まで出会ったことがない!」
清太は叫び、それを聞いたリズは顔を真っ赤にする。
──最初は何を言い出すのかと思ったら、アイツ、私のことを可愛いとかキレイとか……しまいには出会ったこと無いような美少女だって。てか誰が?私が?いやいやそんなことはどうでもよくないけどいいの。それよりも!出会って二日も経ってないのに、こ、これじゃまるで……
「愛の告白ね」
何故かつまらなそうに呟くキュルケ。隣ではスカロンが両手で頬を抑え、興奮気味にその様子を凝視していた。
「だがな……」
しかし清太は一息つくと、そのまま言葉を続ける。それは誰もが予想していなかった展開だった。
「よく見ろ!何か重要な点が、大切なものが著しく欠けていると貴様は思わないのかぁぁああ!」
もはや演説だった。都市部の駅前で車に乗ってメガホンを使い叫んでいるアレである。
すでに自警団の男は唖然として言葉も無く、ただ首を横に振るしかできない。
「なら教えてやる!いいか、よく聞けぇぇええっ!」
そう言うと、清太はリズの胸の辺りを指さし、そして叫ぶ。
「よく見ろぉぉおおっ!胸が無さ過ぎるだろぉぉおおがぁぁああっ!」
その場にいた全員が固まった。いや、もしかしたら全世界の時の流れが一瞬だが止まったかもしれない。
中でもリズは、あまりにも理解不能な発言を前に、色々な意味で理解の範ちゅうを超えてしまったようだ。
「わかったか!貴様がさっき言った言葉は、それを踏まえてでも言えるのか!どうだっ!どうなんだぁぁああっ!」
自警団の男を激しく揺さぶる清太。だがこのとき、まだ彼が自らのプライドと言う名の欲求に任せて、とんでもない事を口走っている事に気づいていない。
「いいか、これに懲りたらもう二度と……」
突然、清太はおぞましいほどの殺気に包まれた。そのあまりにも強大な殺気に、体が自然と震えてしまうほどだ。
そしてそこでやっと、自らが犯したとんでもない罪に気づくのだった。
──また、やっちまった!
「ねえ、セイタ」
だが時すでに遅し。ガクガクと震えながら、清太は恐る恐る振り返る。するとそこには、杖を手に持ち、誰が見てもわかるほどドス黒いオーラを身にまとったリズが立っていた。
「最初のほうは……そうね、まだいいわ。私も性格が少しアレだとは思うの。当然自覚もあるわよ?だからそれは許してあげるわ」
「ひゃ、ひゃい……」
清太は追い詰められるようにして壁際へと這って逃げていく。
「でもね、一つだけ許せない事があるの。それはなんだと思う?」
わかっている。それはどう考えても明白な事であった。だがもしここでそれを口にすれば、いつかと同様、間違いなく命はない。
かといって成す術もなく、清太はわからないとばかりに首を振るしかできない。
「な、なら教えてあげるわ……。わ、私だって、わわ、わかってるわよ。む、胸がないことくらい……。でもね……」
ブレザーのポケットにしまってある杖を、リズは取り出した。それを清太に向けると、叫んだ。
「私だって、大きくしようと頑張ってるんだからぁぁああっ!」
「ぎぃぃやぁぁぁぁぁぁああああっ!」
ズドーン、という大きな爆発と共に、清太は豪快に吹っ飛んだ。
そしてそれからすぐに、自警団はリズの剣幕に腰を抜かし逃げていく。
その様子を見ながら、椅子に腰かけたリズはゆっくりとカップを口に運んだ。足元には気絶した清太が転がっている。
「ねえリズちゃん。あなた絶対、将来は亭主を尻に敷くタイプよね」
とスカロン。それに続くように、アリーとキュルケは頷く。だがそんな言葉を余所に、リズは思いふけっていた。
先ほど清太が言った、最初の言葉。あれがもし本当だったらと、少しばかり落ち込んでいる自分がいる事に気づく。いままであんな事一度も言われた事がない。だからこそ純粋に嬉しかったのかもしれない。
でもやはり最後の言葉はとても気に障った。だがそれと同時に、足の下で伸びているこの少年がなんだか憎たらしくもなった。何故だか理由はわからない。きっとそれに気付くのもずっと先だろう。
「いやだわ……」
喧騒の後の静けさにゆっくりと流れる時間。誰にも気づかれないよう、リズは紅茶を飲みながら、そっと呟くのだった。
-あとがき-
最後まで目を通して頂けました事に感謝しております。
今回、少しばかり時間が押していたため、誤字脱字、文章の乱れが多少あるかもしれません。内容は一切変えず、後々修正するかもしれませんが、ご了承頂けると幸いです。
これからも本作を宜しくお願い致します。