白銀のアルビオン   作:りれっと

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自立試験

 「忘れ物は無い?」

 「忘れ物も何も、そもそも所持品すら無いんだけど……」

 「そう。ならこれお願い」

 

 そう言ってリズは無造作に置かれたバッグを指差す。ずっしりと重くなったバッグは、背中に担いでやっと持てる重さであった。

 

 「何入れたらこんな重くなるんだよ……」

 「つべこべ言わないで持ちなさい。ほら、置いていくわよ」

 

 どこまでも澄み渡る空は、まさに快晴。降り注ぐ朝日の光は温かく心地よい。一面に積もった雪は未だに溶けることなく、キラキラと照らされ幻想的な世界を演出していた。

 そんな一日の始まりに、清太とリズはテューダー魔法学院を後にする。

 今日は二学年後期の通例行事である『自立試験』当日。前日に学院側より公示された薬草や鉱石を、二週間以内に収集し学院まで帰って来る。

 だが当然それは辺りの山に転がっているわけでもなく、ましてや商人から簡単に買えるものでもない。そういったアイテムをレアアイテムと総称するのだが、その類のアイテムは地道な探索力と使い魔の野生の感性をもってして初めて見つける事ができる。一日や二日で手に入る物ではない為、試験期間の二週間というのはそういった理由から設けられた期間である。

 

 「なあ、さっきから何見てるんだ?」

 「地図だけど」

 

 リズは目の前に広げた紙を熱心に覗く。そこには大陸と思しき画が描いてあり、方角、地名等、ごく一般的な地図であった。

 

 「で、これのどこに行くの?」

 「こんな近くにあるわけないでしょ?これアルビオン大陸しか載ってないのよ」

 「まさか別の大陸?」

 

 清太の言葉を聞いたリズは、当たり前といった表情でもう一枚の地図を取り出す。

 

 「ここよ。それで、今私たちはロサイスっていう港街に向かってる」

 

 二枚目の地図を見ると、一か所に赤い丸でマークがしてある。だがその地図の縮尺とマークの位置までの距離に違和感を感じた。アルビオン大陸の地図だけでもかなり広大で、ましてや出発してからかなりの時間が経っているというのに、未だに中間地点のサウスゴータを過ぎたところだ。これから向かうロサイスまでは、今進んできた道を同等距離進む必要があった。

 どこまでも続く草原の中を馬車はひたすら走る。テューダー魔法学院を出発してから半日以上、いくつもの山や川を越え、日が傾くころには第一の目的地であるロサイスへと到着した。

 

 「今夜はここで一泊して、朝一の船でラ・ロシェールまで向かうわ」

 「へーい……」

 

 元の世界であれば数時間で移動できる距離を、数日かけて移動する。清太はこの世界の文明を少しばかり恨んだ。

 実際のところ、この世界には未だに車や鉄道といった技術が確立されていない。もしかするとアルビオン大陸のみの問題かもしれないが、それが別の大陸でも普及しているようには思えなかった。

 

 「ねえ、いつ文字読めるようになったの?」

 「んー、この前アリーに教えてもらったー」

 

 清太は部屋に置かれたソファーに寝転がりながら、アリーから渡された『アルビオンの剣』を読む。最初はベッドにしようかとも思ったのだが、どうやらカップルと勘違いされた二人は一つの大きなベッドがあるだけの部屋に案内されてしまった。

 当然そこに清太が陣取る事が出来るわけもなく、即座にソファーへと追いやられた。

 

 「ふーん……」

 「どうした?」

 「ううん、なんでもない」

 

 再び本へと視線を戻す。時間を見つけては読むようにしていたおかげで、今では問題無く文章を読めるようになっていた。

 

 「ところでさ」

 「なによ」

 「虚無ってなに?」

 

 『アルビオンの剣』に出てくる“虚無”という力。その力は四つあるどの属性にも当てはまらない、言わば特別な力である。

 

 「この前説明した四大属性のどれにも当てはまらない系統よ。遠い昔から存在する力だけど、使える人間は限られてる。まさに伝説ね」

 「なるほどねえ……。でもまあ、無縁だよね」

 

 するとそれを聞いたリズは、無言で机に置かれた杖を握った。

 

 「ごめんなさい嘘です」

 

 その様子を見た清太は即座に謝る。

 

 「絶対わざとよね。最近調子乗って私の事バカにしてるでしょ?」

 「いえ、そんなことはございません?」

 「なんで疑問なのよ……」

 「さーて、寝よ寝よ」

 「あ、ちょっと待ちなさいよー」

 

 しかしリズの声を無視して、清太は毛布をかぶる。

 さすがにリズと同じベッドで寝るわけにもいかず、渋々追いやられたソファーが清太の定位置となった。

 

 「おやすみー」

 「ちゃんと朝起きてよ?船に乗り遅れたら大変なんだから」

 「わかったよー」

 

 ──コイツ絶対わかってない……。

 

 リズはそう思いつつ、寝息を立てる清太に舌を出す。それから夜も更けた頃、二人はぐっすりと眠りについた。

 そして翌朝。二人は街の大通りを船着き場に向かって大急ぎで走っていた。

 

 「ほんとに!あれほど!言ったじゃない!なんで寝坊するのよ!」

 「ちょっ!お前だって寝坊したじゃん!」

 「うるさいわねー!」

 

 朝が極端に苦手な二人。特に冷え込んだ日は尚更それが出てしまう。普段は対照的な二人も、この面に関しては唯一似ている所だった。

 あと数分で船が出港してしまう。先を走るリズの後を清太は追った。

 しかしそんな二人の努力も報われず、本来乗るはずであった船の出港合図である汽笛が聞こえてくる。

 

 「なあ、今の!」

 「ええ、多分間に合わなかったわ……」

 

 まだ船の姿を確認していないが、この時間帯に出向する船は限られているため大体の想像はできた。

 息を切らした二人は、茫然と立ち尽くしす。

 そんな中、突如聞こえてくる地響き。その音に驚いた清太は周囲を見回した。

 

 「地震?」

 「何言ってるのよ。あれよ」

 

 リズがゆびを指した方向を見た途端、思わず声を上げた。

 

 「はあ!?」

 

 大きな帆を張った巨大な船が、大きく低い音を立てながら頭上を通過していく。その圧巻な光景に思わず声を失った。

 本来であれば海の上に浮いているはずの船が、何故か空中に浮いている。それだけでも十分な要素であったのだが、今回はそれだけではなかった。

 

 「海は……?」

 「そんなもんあるわけないじゃない。海はもっと下よ」

 

 恐る恐る岸壁から下を覗く。すると遥か下の方に海が見えた。それは飛行機の窓から眺める景色に似ていて、今いる場所がかなり高い位置である事がうかがえる。

 無数に浮かぶ雲と数隻の船。断崖絶壁から飛び出すような形で港がつくられ、そこに大小合わせて二十隻以上の船が停泊している。

 魔法があるので何ら不思議な光景ではない。だが想像していた以上の光景である事は確かだった。

 

 「なあ、アルビオンが浮いてるなんて事ないよな?」

 「浮いてるわよ」

 

 あー、やっぱり異世界だ。信じられない光景を前に溜め息をつきながら肩を落とした。

 

 「そんなことよりも、ロサイスまでの船を探さないと……」

 「次はいつ出るんだ?」

 「そんなの知らないわよ。学院からは遅くてもあの船には乗ってくれって言われてるんだから」

 「じゃあどうするんだ?」

 

 リズはしばらく考えた後、渋々といった様子で口を開いた。

 

 「仕方ないわね……あんまり気が向かないけど……」

 「飛び降りるの?」

 「もちろんあんたが行くのよね?」

 

 清太は黙って首を横に振る。冗談を言いすぎると本当に落とされかねないので、清太は黙って様子をうかがうことにした。

 まず最初にリズは、近辺に停泊している物資輸送用の小型船に向かった。ラ・ロシェールまで向かう船に便乗させてもらおうという考えのようだ。

 しかしいくらも経たないうちにリズは戻って来る。どうやらどの船もロサイスに着いたばかりのようで、すぐにラ・ロシェールに向かう船はないようだ。

 

 「次にラ・ロシェールに向かう定期船は二日後。それじゃ間に合わないわね……」

 「何か他の手は?」

 「ガリア経由で向かう手もあるけど、それだと更に時間がかかるわ」

 

 手も足もでない状態に、清太とリズは困惑する。困った二人はひとまず近くの酒場へと足を運んだ。

 

 「どうしよう……」

 

 運ばれた料理を口にしながら、二人は何か手は残っていないかと試行錯誤する。

 リズは時折地図を広げてはあーでもない、こーでもないと独り言を呟いた。

 それからしばらくして、店内が突然騒がしくなる。何事かと思い周囲を見回すと、いかにもガラの悪そうな男たちが一人の男を囲っていた。

 

 「なあ、頼むぜ。すぐに金は返すって」

 「てめえ、何度同じ事言ってんだ?一か月前にも同じ事聞いたぞ?」

 

 あまり穏やかではないようだ。必死で言い訳をする若めの男に対して、周囲の男たちは今にも飛びかかりそうな勢いだ。

 

 「なんならお前の船、回収してやってもいいんだぜ?」

 「おいおい、それは勘弁してくれよ!あれがないと商売ができねえ!」

 「あんなボロ船、あってもなくても変わんねえだろ!」

 

 一人の男がそう叫ぶと、周囲からどっと笑い声が上がる。

 それに腹を立てたのか男は飛びかかっていったのだが、多勢に無勢。あっという間に返り討ちに合っている。

 その様子を見たリズは深く溜め息をついた。

 

 「見てらんないわね……」

 「関わらないほうがよさそうだな」

 「それには同感ね」

 

 関わったら非常に面倒な事になりそうなので、二人はそのまま食事を続けることにした。

 だがそれからしばらくして、先ほどの集団が酒を飲んでは騒ぎ始める。店内にいる客は清太とリズ、ガラの悪い男たちと、気を失って倒れこんでいる男のみ。

 

 「おーい、この店に女はいねえのか!」

 

 一人の男がそう叫ぶ。しかし店主はすでに裏方へと避難したのか、どこにも姿が見えない。

 つまらなそうに舌打ちをする。しかし男はすぐにリズの存在に気づくなり叫んだ。

 

 「おお、貴族の嬢ちゃんがいるじゃねえか。お前、ちょっとこっちこいよ」

 

 清太もリズも無視をしてやり過ごそうとする。しかし男はそれに機嫌を悪くしたのか、更に大声で叫んだ。

 

 「てめえ!俺の声が聞こえねえのか!」

 

 下っ端と思われる数人の男が立ち上がり、こちらへと向かってくる。だがリズはそんな様子を見ても余裕の表情で地図を眺めていた。

 

 「おい、親方がお呼びだ。来い」

 

 だがリズは反応すらしない。それどころかテーブルに置かれたカップを手に取り、ゆっくりとそれを口に運ぶ。

 

 「んだよ、小娘が」

 

 男達はあっけなく引き下がると、元のテーブルへと戻っていく。

 

 「随分あっけないな……」

 「あーいうのは無視するのが一番効果的よ」

 

 澄ました顔でリズは言う。それを見た清太は少しばかり感心していた。リズの事だから、どうせまたすぐに杖を取り出すのだろうと思っていたからだ。

 一方先ほどの男達は、親方と呼ばれた大柄な男に何やら報告をしているようだった。その声は少し離れた席に座る二人にも聞こえる大きさだった。

 

 「親方、あの貴族の娘っ子はだめでっせ」

 「ああ、その通りだ。なんせ胸がない」

 

 そう言うと男達は大声で笑う。だがそれと対照的に、リズの顔から一瞬で余裕の表情が消えた。

 そして彼女の手に持たれていた筆がパキンと音を立てて折れる。

 

 「あの歳であれじゃあ、一生あのままだろうな!」

 「一緒にいる男も可哀想だぜ。あんなまな板じゃ何にもできねえだろ!」

 

 清太はリズに抑えるようにと言おうとしたのだが、すでに限界を超えているようだ。

 もう一方の手に持っていたカップがカタカタと震えているのが見て取れる。

 

 「リ、リズ!お茶!お茶こぼれるから!」

 

 それを聞いたリズは紅茶を一気に飲み干すと、勢いよく立ちあがり無言のまま男達の方へと歩いて行く。

 

 「お?なんだ?まな板がこっちに歩いて……ひっ!」

 

 だがその様子を見た一人の男が悲鳴をあげる。それほどリズから出ているオーラが黒かったのだ。

 清太は思わず男達に向かって手を合わせた。彼らはもはや死んだも同然なのだ。

 

 「お待たせしました……まな板の到着です……」

 

 ぶつぶつと何かを呟くと、杖を男達に向けた。

 

 「んだてめえ!たかだか魔法で俺らが怯むとでも思ったのか!」

 

 リーダー格の男はそう叫ぶと、リズに向かって行く。だがそれと同時に、杖から放たれた白い光が男達を包む。

 そして響き渡る大きな爆発音。店内はもはやぐちゃぐちゃで、その奥には先ほどの男達が黒こげになって倒れている。

 

 ──やっぱりこうなったかあ……

 

 清太は溜め息をつくと、再び椅子に腰かける。リズは満足したのか、いつもの調子に戻っていた。

 

 「いやあー助かったぜ」

 

 気付くとそこには、先ほどの若い男が立っていた。

 

 「あれ、気絶してたんじゃないんですか?」

 「いや、気絶したフリだ」

 「あー」

 

 清太は思わず納得する。しかしそんな二人を余所に、リズは相変わらず地図と睨めっこをしていた。

 

 「なあ、譲ちゃん。さっきの魔法はなんて魔法だい?あんな爆発今まで見たことないぜ!」

 

 男は興奮気味に言う。しかしそれでもリズは口を聞こうとしない。もはや存在に気づいているのかすら怪しい雰囲気だ。

 

 「いっつもあんな感じなのか?」

 「まあ、そんなとこです」

 

 困った顔で清太に助けを求めてくる。

 

 「ところでよ、こんな所で何してんだ?お前ら魔法学院の生徒だろ?」

 「トリステインに行かなきゃいけないのよ」

 

 そこでやっとリズは口を開いた。だが視線は相変わらず地図に向けられたままで、一向に会話をしようとしない。

 

 「一番近い港まで行く船なら二日後だぜ?」

 「乗り遅れたんです」

 「なるほどな。それでさっきから地図と睨めっこしてんのか」

 

 広げられた地図を見て納得したようだ。

 

 「なんなら、ラ・ロシェールまで送ってやろうか?」

 

 するとさすがのリズも反応したのか、男に詰め寄る。

 

 「ねえ、今の本当?」

 「ああ、別に構わないぜ。だがタダでとはいかないけどな」

 「助けてあげたじゃない!」

 「それとこれとは別だ。素直に感謝はするがな」

 「……いくら?」

 

 すると男は少しばかり考える。

 

 「三十エキューでどうだ?」

 「ふざけないで、高すぎるわ。定期船の十倍じゃない」

 「当たり前だ。こちとら用事のある場所じゃねえんだし」

 「……わかったわよ。いつ出港できるの?」

 「そうだな、まだ船員達が集まってねえだろうから、早くても夕方か?」

 「それじゃ遅いわ!」

 

 リズがそう叫んだ途端、店の扉が大きな音を立てて勢いよく開く。

 

 「いあした!アイツです!」

 

 先ほどの連中が仲間を引き連れ戻ってきたようだ。その様子にいち早く気づいたリズは、咄嗟に杖を握った。

 

 「あー、さっきの夕方って話だが……今すぐに変更だ!」

 

 男はそう言って大きめの窓を開けるなり、そこから勢い良く飛び出した。急いで二人も後に続く。

 

 「どーしてこーなるのよー!」

 「まあいいじゃん。これで遅れも取り戻せそうだし」

 

 先ほど来た道を港に向かって引き返す。走る三人の後ろから、大勢の男達が追いかけて行く。

 

 「あの船だ!」

 

 見るとその先に少し古そうな船が一隻停泊している。

 

 「あんな古そうな船、ちゃんと飛ぶの?」

 「なめんなよ、譲ちゃん。空を飛ばせたらハルケギニアで一番早いぜ!」

 「船員は大丈夫なんですか!?」

 「ああ!どうやら問題ないみたいだ!」

 

 三人はそのまま船へと飛び乗ると、そこではすでに数人の男達が大急ぎで出港準備をしていた。

 

 「お前ら!よく出港するってわかったな!」

 「当たり前じゃないっすか!ダナーさんを探してアビレンの奴らが数人来たもんですから、どうせまた何かあったんだろうって話してたんです!まあ、大当たりでしたけどね!」

 

 そう言うと、その男はさっさと持ち場へと戻って行く。その間も追手の様子を確認していた清太が大声で叫んだ。

 

 「あいつらが来ます!」

 「おい皆、聞こえたか!出港だ!」

 「まってましたー!」

 

 その合図で船の帆が一杯まで張られる。それと同時に、船を固定していた縄が解かれた。

 するとすぐに船が揺れ、岸からゆっくりと遠ざかって行く。

 

 「艦首下げろ!ロサイスの上は通るなよ、恰好の的だ」

 

 すると船が一気に高度を下げ、アルビオン大陸の下へと向かっていく。分厚い雲の中へと沈む間際、岸から悔しそうにこちらを覗く先ほどの連中の姿があった。

 

 「いやー、騒がしくてすまなかった」

 「ほんとよ」

 「でも無事に出港できて何よりです」

 

 リズはいかにも機嫌が悪そうな表情だ。

 

 「自己紹介が遅れた。俺はこのイーグル号の船長、ウェルト・ダナーだ」

 「アサミセイタです」

 「リズ・リーデルよ」

 

 するとリズの名を聞いたダナーは驚いた表情をした。

 

 「おいおい譲ちゃん、リーデルってあのリーデルか?」

 「他のどこにリーデルがあるのよ。それとその譲ちゃんっていうのやめて」

 「リズってそんな有名なの?」

 

 不思議そうにする清太に、ダナーは知っているのが当たり前といった調子で続けた。

 

 「リーデルを知らんのか?かの有名なエフケス・リーデルの……」

 「その話はもうやめて。それより休める部屋はないの?」

 「あ、ああ。そこの扉を開けて階段を下りた先に、船員用の部屋がいくつかある。好きな所を使ってくれ」

 「セイタ、後でそこの荷物持って来て」

 

 そう言い残し、リズは扉の方へと向かう。

 

 「ところで坊主、あの譲ちゃんとどんな関係だい?」

 「あー、ただの同級生で……」

 「なるほどな。思い人ってわけでもなさそうだしな」

 「勘弁して下さい」

 「わるいわるい。それよりもほれ、見てみろ」

 

 そう言ってダナーは遥か上にあるアルビオン大陸の方を指差す。その先にはタイミング良く雲が切れ、その間から巨大なアルビオン大陸の一部が顔を覗かせていた。

 アルビオン大陸は空中に浮いているため、本来行きつく先は海であるはずの川の水も行き場を失い、切り立った崖より空中へと放たれる。そしてその水はすぐに霧と化し、そこに太陽光が当たる事で虹を作り出す。その姿は雲に浮かぶ大陸のようだった。

 そんな元の世界であれば一生拝めないであろう幻想的な風景に、清太は思わず見惚れてしまう。

 

 「綺麗だろ?あれこそアルビオン大陸が『白の国』なんて洒落た呼ばれ方をする所以だ」

 

 一生見ていてもきっと飽きないだろう、清太はそう感じた。そして同時に、この世界をもっと見てみたくなっている自分がいる事に気づく。

 きっとこの世界は自分の想像の遥か先を行っている。その好奇心はいつの間にか“元の世界へ帰る”という気持ちを少なからず忘れさせてくれるのだった。

 

 

 




-あとがき-

最後までお読み頂き有難う御座います。近頃不定期になりがちでしたが、次回作からまた毎週月曜日の更新へと徐々に戻していこうかと思います。
たびたびご迷惑をおかけしますが、これからも『白銀のアルビオン』を宜しくお願い致します。

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