FIERCE GOOD -戦国幻夢伝記-   作:izuminnー3305

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第 拾陸 話:傷を癒す者

 松衛門(しょうえもん)に勝利した真斗は少し息切れをしながら表情が落ち着き、愛刀の赤鬼(あかき)に付いた血を左の肘の関節に挟んで拭き取る。

 

 真斗が松衛門(しょうえもん)の首を討ち取った所を甲冑と兜を着こなした勝江(かつえ)は物凄い憎しみに満ちた表情で涙を流しながら木の影から見ていた。

 

「おのれぇーーっ!鬼龍 真斗ぉーーーっ‼」

 

 そして勝江(かつえ)は愛刀である打刀、“雷天(らいてん)”を抜き、真斗に目掛けて突っ走る。

 

「鬼龍 真斗ぉーーーっ‼覚悟ぉーーーーーーーーーーーっ!」

 

 上段の構えで襲い掛かって来る勝江(かつえ)に気付いた真斗はその方向を向くが、表情は落ち着いたままで一切、微動だにしていなかった。

 

 声を上げながら真斗に目前に迫った瞬間、勝江(かつえ)の脇腹を刃先が貫く。

 

 勝江(かつえ)は突然の痛みに耐え、口から血を出しながら右を向くと両手で氷鬼(ひょうき)を持った源三郎が怒った様な表情で勝江(かつえ)を刺し貫いていた。

 

(わか)には絶対に!手出しはさせん!」

 

 そう言うと源三郎は勝江(かつえ)を貫いた氷鬼(ひょうき)を引き抜くと勝江(かつえ)は口から血を引き出しながら膝から崩れ落ちる様に後ろへと倒れる。

 

 そして血を流し倒れた勝江(かつえ)は源三郎を見て、彼から伝わって自分にはない底知れる強さと優しさを感じ、彼に向かって勝江(かつえ)は震える自身の右手をゆっくりと差し出す。

 

「私を・・・倒した・・・お主の・・・名は・・・?」

 

 口から大量に血を流し、息を荒々しく弱々しく問う勝江(かつえ)に源三郎は近づき氷鬼(ひょうき)を立たせ片膝を着き答える。

 

「源三郎。鬼龍家家老、河上 源三郎と申す。そなたの名は?」

「私の・・・名は・・・勝江(かつえ)・・・迦黒(かぐろ)家・・家臣・・・仁川(にがわ)・・・勝江(かつえ)・・・源三郎・・・殿(どの)・・武士の・・・情けで・・・貴方様に・・・お願いが・・・あります」

 

 そして源三郎は憐みの表情で差し出された彼の右手を優しく右手で掴む。

 

「分かった。申してみよ」

「どうか・・・私の・・・・妻と・・・娘を・・・守って・・・下さい・・・・二人は・・・松衛門(しょうえもん)に・・・体を・・・犯され・・・私が・・いなく・・なれば・・・二人はもう・・・」

 

 必死の訴えの表情で涙を流す勝江(かつえ)の姿に源三郎は勇ましい表情で彼の右手を強く握る。

 

「分かった。そなたの願い、この河上 源三郎が確かに受けっとった。だから安心せよ」

 

 勇ましい表情から笑顔に変えた源三郎の姿に勝江(かつえ)は安心した笑顔で静かに息を引き取った。

 

 そして源三郎の側にゆっくりと来た真斗は赤鬼(あかき)を鞘に納める。

 

(じい)、その武士(もののふ)の願いを果たすつもりか?」

 

 真斗からの問いに源三郎は死んだ勝江(かつえ)が流した涙を拭き取り、笑顔で立ち上がり答える。

 

「もちろんですとも(わか)。この者、勝江(かつえ)殿(どの)の願い、無下にするわけにはいけません」

 

 源三郎の固い決意を聞いた真斗はニッコリと明るく笑う。

 

「そっか。(じい)がそう決めたのならば、俺は何も文句は言わないよ」

「ありがとうございます。それより(わか)勝鬨(かちどき)を!」

「ああ!」

 

 真斗は転がっていた松衛門(しょうえもん)の首を右手に持ち、源三郎と健樞介(ごんすけ)が倒した迦黒(かぐろ)軍の家臣達の死体を通り過ぎ、会津が一望できる山の開けた場所へと向かう。そして高々と松衛門(しょうえもん)の首を掲げる。

 

迦黒(かぐろ) 松衛門(しょうえもん)の首!討ち取ったりぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」

 

 会津全土に響き渡る真斗の勝鬨(かちどき)に鬼龍軍、伊達軍、武田軍、上杉軍、織田軍から山が揺れ程の歓声が上がる。

 

「「「「「「「「「「えい!えい!おぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼えい!えい!おぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼えい!えい!おぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼えい!えい!おぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」」」」」」」」」」

 

 一方の生き残った迦黒(かぐろ)軍の足軽達は真斗の勝鬨(かちどき)に主君を失い、更に敗北した事で絶望感と驚愕に満ちた表情で膝から崩れ去るのであった。

 

 

 その後、上野(現在の群馬県)にある上杉家の支城である沼田城で開かれた戦後処理の評定(会議の古い言い方)に参加した鬼龍家、伊達家、武田家、上杉家、織田家、小田原北条家の代表の家臣達が集まり話し合いが行われた。

 

 三日間、続いた評定(ひょうじょう)は少々難航したが、無事に終わった。

 

 その結果、迦黒(かぐろ)家の領土は小田原北条家が受領し、迦黒(かぐろ) 松衛門(しょうえもん)の正室と跡継ぎの子は武田家が引き取り、生き残った一部の迦黒(かぐろ)家に仕えていた家臣達は上杉家が雇い入れた。

 

 残った迦黒(かぐろ)家の莫大な財産と有能な兵力は織田家が引き取り、迦黒(かぐろ)家の領内の移住を望む百姓は伊達家と鬼龍家が迎い入れた。そして最後に(いくさ)で夫を亡くした迦黒(かぐろ)家に仕えていた家臣達の未亡人と子供は鬼龍家が引き取る事となった。

 

 快晴のお昼時、復興した田畑を百姓達が喜び合いながら農作業を行う傍らで会津城と城下町の復旧作業が行われていた。

 

 復旧作業が行われている会津城の茶室では真斗と竹取(かぐや)がお茶を飲みながら、中庭を見ながら(いくさ)の疲れをお互いに癒していた。

 

「真斗、長い(いくさ)、お疲れ様」

 

 正座する竹取(かぐや)は笑顔で右隣で胡坐をする真斗に向かって一礼すると真斗も笑顔で竹取(かぐや)に向かって一礼をする。

 

「ああ、ありがとう竹取(かぐや)

「それで真斗、その(いくさ)で亡くなった迦黒(かぐろ)家の家臣、仁川(にがわ) 勝江(かつえ)の願いの為に正室と娘さんを引き取った源三郎様、大丈夫かしら?」

 

 少し不安な笑顔で問う竹取(かぐや)に対して真斗は自信に満ちた笑顔で答える。

 

「大丈夫だ。(じい)はああ見えて結構、女性と子供の相手には慣れているんだ。実はこの俺も幼い時から(じい)から色々と人付き合いの作法を学んでなぁ」

 

 真斗の口から出た源三郎の意外な一面に竹取(かぐや)は驚きながら感心をする。

 

「へぇーーーーっあの源三郎様にそんな一面が。以外ね」

「ああ、(じい)が言うには“若い頃は色んな友人と女性と遊んだりしていた”って十歳の時の俺に話しくれたな」

「あらぁーーーっふふふっ!源三郎様って昔は遊び人だったのね」

「そうなんだよ。でも(じい)の奴、よく自分のお父上殿(どの)に遊びが過ぎて頭にげんこつを喰らっていたんだと」

「あらあら、でも人に歴史ありね」

「そうだなぁ」

 

 すると真斗と竹取(かぐや)はお互いに笑うのであった。

 

 一方、会津城内にある家臣屋敷の一つである河上屋敷では和服を着た源三郎が広間で正座をし、向かいには着物を着た美しい出で立ちと黒髪の女性と娘が不安そうな表情で正座をしていた。

 

 そして源三郎は一本の打刀と兜を女性と娘の前にそっと出し、深々と頭を下げる。

 

「これは貴女様達のご主人であります仁川(にがわ) 勝江(かつえ)殿(どの)の愛刀、雷天(らいてん)と兜です」

 

 謝罪とも感じ取れる源三郎からの言葉をしみじみと聞いていた女性と娘こそ勝江(かつえ)の正室、『桜華(おうか)の方』と娘の『奈々花(ななか)(ひめ)』であった。

 

 雷天(らいてん)を両手に取った桜華(おうか)はギュッと抱きしめると涙目で源三郎に問う。

 

「あの人は、夫は貴方様が殺したのですか?」

 

 源三郎は頭を上げ、真っ直ぐした表情と眼差しで答える。

 

「はい、この私が勝江(かつえ)殿(どの)を討ち取りました。彼が息を引き取る際にわしにお二人を託されました。ご遺体は勝常寺に運び込み火葬し、遺灰はお墓へと埋葬しました」

 

 それを聞いた桜華(おうか)は項垂れる様に大粒の涙を流し始める。

 

「ありがとう・・・ございます!源三郎様‼心より!感謝いたします‼」

 

 桜華(おうか)が源三郎に対して感謝を述べている一方で奈々花(ななか)は急に立ち上がり、両手をギュッと握り、悔しそうな表情で涙を流す。

 

「懺悔のつもりですか⁉父上を殺し!私と母上を託されたと言っても‼所詮は貴方も私達を手に入れたかっただけでしょ!貴方を含めて父上以外の男は皆!獣《けだもの》よ‼」

 

 源三郎に向かって強く批判し奈々花(ななか)は広間を去って行った。

 

「ちょっと奈々花(ななか)!待ちなさい‼」

 

 桜華(おうか)の制止を振り切った奈々花(ななか)の態度に桜華(おうか)はおどおどしながら源三郎に向かって深々と頭を下げる。

 

「申し訳ありません!源三郎様‼奈々花(ななか)にはきつく言っておきますので!(わたくし)が変わりに謝罪致しますので!どうか‼」

 

 今まで味わった恐怖からか桜華(おうか)の表情は恐怖に支配され、体全体をブルブルと震わせていた。

 

 そんな彼女に源三郎はゆっくりと近付き、笑顔で彼女の頭を上げさせる。

 

「わしは大丈夫だ、桜華(おうか)。それに彼女の気持ちはよく分かる。いずれ時が解決してくれるはずだ」

 

 源三郎からの励ましに桜華(おうか)はパーッと表情が明るくなる。

 

「ありがとうございます‼ありがとうございます‼」

 

 それから源三郎は二人が今まで松衛門(しょうえもん)より受けた心の傷を癒そうとするが、奈々花(ななか)は頑なに源三郎には心を開こうとしなかった。

 

 

 それから三日後の昼、城の道場で真斗は源三郎と一刀流(いっとうりゅう)溝口派(みぞぐちは)の稽古をしていた。

 

 汗を流し、手拭いで汗を拭きながら竹水筒に入った水を飲んで休憩していると源三郎は開けた竹水筒を持ちながら溜息を吐くので真斗は笑顔で問う。

 

「どうした(じい)?朝からずっと溜め息を吐いているぞ」

 

 源三郎はハッとなり、少し苦笑いをしながら答える。

 

「あ!ああ、いえ(わか)。実は・・・」

 

 源三郎は真斗に対して今の悩みを包み隠さず話し、それを聞いた真斗はクスクスと笑う。

 

「なるほど、それは家老である(じい)でも頭を悩ませるなぁ」

「笑い事ではありませんぞ、(わか)。しかし、どうしたら奈々花姫(ななかひめ)の心を開かせる事が出来るか?」

「そんな思い詰めるな(じい)。昔、俺に言ったじゃないか。“人付き合いで大切なのは自分の良さをいかに見せるか”って」

 

 真斗との口から出た自分の教えを聞いた源三郎は心のつかえが取れ、気持ちが楽になる。

 

「ありがとうございます(わか)。少し心が楽になりました」

 

 明るい笑顔で言う源三郎の姿に真斗はニッコリとなる。

 

「やっと、いつもの(じい)に戻ったなぁ。よし!じゃあ稽古の続きをするか?」

「ええ、次は手加減しませんぞ!」

 

 休憩を終えた真斗と源三郎は稽古を再開するのであった。

 

 その日の夜、桜華(おうか)奈々花(ななか)とは別の和室で寝間着を着て寝る源三郎は閉め切った左の襖から聞こえてくる何かの呻き声に目を覚ます。

 

「一体何だ?」

 

 起き上がった源三郎はゆっくりと左の襖に近づき、片膝を着くと襖を覗く位に開ける。

 

 そこでは布団に向かい合って寝転がり、寝間着を着た桜華(おうか)奈々花(ななか)が汗を流し、息を荒くしながら顔を赤くし、寝間着が淫らに(はだ)けたながら自分の股の間を指で激しく触っていた。

 

「母上!もう我慢ができません‼」

奈々花(ななか)!いいによ‼母も!我慢が!」

 

 松衛門(しょうえもん)の手によって歪められた欲望に苦しむ二人の姿を心を痛める源三郎は意を決して襖を開ける。

 

「二人共!大丈夫か?」

 

 突然、現れた源三郎に桜華(おうか)奈々花(ななか)は驚き、起き上がると慌てふためく。

 

「あ!げ!源三郎様‼いえ!これは!その‼」

「お!お願いします‼源三郎様!母上も!私も!初めからこの様では!」

 

 すると源三郎はまるで仏の様な笑顔で二人に近づき、優しく抱き寄せる。

 

「いいんだ、何も言わなくてよい。それより二人共、苦しそうだね。ちょっと待っていなさい」

 

 源三郎はそう言うと和室を出て一人、台所へと向かう。そして南部鉄器の手持ち型の鉄燭台に立たせてある和蝋燭に灯る明かりの中で十個の木製の茶筒を食器棚から取り出す。

 

 そして源三郎は茶筒から山で取れた薬草を取り出し、それを薬研(やげん)に入れ薬研車(やくげんくるま)で丁寧に細く潰す。

 

 お茶の葉程度に潰した薬草を源三郎は急須(きゅうす)に入れ、火の点いた火鉢(ひばち)に置かれた南部鉄器の鉄瓶(てつびん)を厚い布で持ち手を持ち、沸かしたお湯を急須(きゅうす)に入れる。

 

 そして約一分後、源三郎は薬草をお湯で蒸らし用意した二つの湯飲み茶わんへ均等に注ぐ。そしてお盆に入れた二つの湯飲み茶わんと手持ち型の鉄燭台を置く。

 

「これでよしと!」

 

 そう笑顔で言う源三郎はお盆を両手に持ち桜華(おうか)奈々花(ななか)が居る和室へと向かう。

 

 お盆を持って火屋付型の燭台に置かれた和蝋燭が灯る二人の和室へ戻った源三郎は桜華(おうか)奈々花(ななか)に温かい薬草茶が入った湯飲み茶わんを渡す。

 

「わしが入れた、その薬草茶を飲めば体の疼きは収まりますよ」

 

 笑顔で言う源三郎であったが、正座をする桜華(おうか)奈々花(ななか)は少し疑う様な表情で恐る恐る湯飲み茶わんに入った薬草茶を少しずつ飲んで行く。

 

 すると体全体を蝕んでいた疼きが一瞬で消え去った事に桜華(おうか)奈々花(ななか)はまるで鳩が豆鉄砲を食った様に驚く。

 

「え⁉どういう事!疼きが一瞬で消えた!ねぇ奈々花(ななか)は?」

「私も同じです母上!私と母上を苦しめていた疼きがまるでそよ風の様に消えるなんて‼」

「源三郎様!この薬草茶はなんですか?」

 

 桜華(おうか)からの驚く様な問いに二人の前に胡坐をする源三郎は自慢げな笑顔で答える。

 

「その薬草茶は我が河上家に代々伝わる妙薬で元々は酔い止め薬だったんだが、仕えていた主人が酷く心を病んでいたので何とかしようと、このお茶を出したら不思議と病んだ心が落ち着いたんだ」

 

 薬草茶の説明を聞いた桜華(おうか)奈々花(ななか)は納得する。

 

「なるほどね。でも何故なの?何故、そこまで貴方は私と母上を気遣うですか?」

 

 真剣な眼差しで問う奈々花(ななか)に源三郎は落ち着いた笑顔で答える。

 

「普通の事をわしはやっているだけですよ。ここへ来てさぞ、お二人は不安だったでしょう?わしの出来る事は少しでもお二人の不安を取り除き、この会津の地で安心して幸せに暮らせる様にする。それだけです」

 

 偽りのない明るい満面の笑みをする源三郎の姿に奈々花(ななか)は亡き父親、仁川(にがわ) 勝江(かつえ)が自分と桜華(おうか)に見せた明るい笑顔が今の源三郎の笑顔と重なり、涙を流し始める。

 

「ごめん・・・なさい」

 

 すると奈々花(ななか)は持っていた湯飲み茶わんを捨てる様に落とし源三郎に抱き付く。

 

「ごめんなさい!ごめんなさい‼源三郎様!義父上(ちちうえ)‼今までごめんなさい‼」

 

 抱き付き泣き叫びながら許しを懇願する奈々花(ななか)を源三郎は何も言わずに優しい笑顔で彼女の頭を優しく撫でる。一方、二人のその姿を見ていた桜華(おうか)も感動の余りに貰い泣きをするのであった。

 

 翌日の朝、義務用の和室で和服姿の真斗と源三郎は向かい合って胡坐し、前にある文机(ふづくえ)に置かれた大量の書類を処理しながら源三郎は昨日の夜の事を真斗に話した。

 

「なるほど、流石は(じい)だ。それで結婚式はいつ挙げるんだ?」

 

 笑顔の真斗からの素朴な問いに源三郎は明るく笑い出し、答える。

 

「今は色々と忙しいですからね。こちらが落ち着いてから式を挙げる予定です。その時は(わか)に是非、祝福の言葉をお願いします」

「ああ、任せとけ(じい)。感動的な言葉を贈るからな」

 

 真斗は笑顔で源三郎の頼みを引き受けた後は今まで以上に力を入れて書類の処理を行うのであった。

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