FIERCE GOOD -戦国幻夢伝記-   作:izuminnー3305

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第 弍拾伍 話:渦巻きの出会い

 それから真斗達は神社の敷地内にある鶴姫の屋敷へと移り、中庭が見える縁側で大山祇(おおやまずみ)神社の巫女が用意してくれた茶菓子を嗜みながら談笑していた。

 

 一方で真斗と(きょう)の間で鶴姫が体育座りで物凄く暗く沈んだ状態となっていた。

 

「まぁまぁ(かく)、そんな落ち込むなよ。初恋が実らなかったくらいで」

 

 (きょう)は笑顔で鶴姫の背中を摩りながら励ますが、当の本人は沈んだままである。

 

「別にいいわよ。勇気を持って義兄上(あにうえ)に告白する事が出来なかった心の弱い私のせいだから」

 

 暗く憂鬱な口調と表情で言う鶴姫の姿に皆は気まずくなってしまう。

 

「ああ!そうだ。ねぇ真斗、いつの頃から(きょう)様と鶴姫様と友達なの?」

 

 竹取(かぐや)の右横で正座する乙姫が雰囲気を変える為に少しぎこちない笑顔で真斗に問う。

 

「あっああ、二人との出会いか。あれは確か(じい)と一緒に薩摩の義弘祖父(じい)様にお目通した後の帰りだったなぁ」

 

 真斗は両腕を組んで(きょう)と鶴姫との出会いを竹取(かぐや)と乙姫に語り始める。

 

⬛︎

 

 時は遡る事、真斗が十二の歳になった頃。

 

 源三郎を含めた十人の護衛を連れて島津 義弘の元に向かい元服(日本古来の成人式)した旨を伝えた。

 

 また元服祝いとして義弘から薩摩の名刀と米を受け取り、廻船(かいせん)で会津への帰路についていた時であった。

 

(じい)!瀬戸内海とは素晴らしいなぁ!」

 

 快晴の青空、廻船(かいせん)の艦首デッキから控え目な男性用の小袖と袴を着こなした若き真斗が目の前に広がる瀬戸内海を笑顔で言うと後ろにいる源三郎が笑顔で頷く。

 

「そうですなぁ(わか)。私は何度も瀬戸内を通りましたが、ここまで晴れた光景は初めてです」

 

 波の音、心地よい海風に混じる塩の香り、悠々と飛ぶ海猫達の鳴き声に真斗は初めて見て感じる瀬戸内海に心を躍らせていた。

 

 すると真斗は急に船が揺れ出した事に驚きながら、よろめく体を支える。

 

(じい)!これは何だ!なぜ嵐や大風が吹いていないのに急に船が揺れ出した!」

 

 源三郎も体を支えながら笑顔で答える。

 

「おっととぉ!ここは渦潮による荒波ですね」

「渦潮の荒波?」

「ええ、この辺りは東から来る潮と西から来る潮がぶつかり合って渦潮が起こるんですよ」

「へぇーそうなのか。おっととととっとぉ!」

 

 真斗は関心しながら再び起こった大きな揺れで体の重心が傾き、右舷の船端(ふなぶた)に身を持たれる。

 

 すると真斗は真っ直ぐ前を見ると渦潮が起きている近くで二人の少女が乗った一隻の小早船(こばやぶね)が居る事に気付く。

 

「おい!(じい)、あの船は一体何をしているのだ?」

「ああ、あれですか。渦潮見物ですなぁ。この大きな廻船(かいせん)では近くまで渦潮を見る事は出来ませんからなぁ」

 

 そう笑顔で源三郎が言っている大きな波が起こり、小早船(こばやぶね)に乗っていた二人の少女が落ちて渦潮に呑み込まれる。

 

「ああっ‼小早船(こばやぶね)から少女が二人!落ちたぞぉーーーーっ‼」

 

 真斗がそう大声で言った瞬間、急いで着ている小袖と草鞋を脱ぎ、そして腰に下げている打刀(うちかたな)と小太刀を外すと大きく息を吸い、海に目掛けて飛び込むのであった。

 

「あーーーーーっ!(わか)ぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」

 

 源三郎は真斗の突然の行動に驚き船端(ふなぶた)から身を乗り出し右手を伸ばすのと同時に水しぶきを上げて真斗は海中に潜る。

 

 海中を平泳ぎで泳ぐ真斗は渦潮の中で一人の小袖を着こなし手甲(てっこう)脚絆(きゃはん)を付けた少女が紅白の巫女服と小冠(しょうかん)を付けた少女を抱き寄せ、自分の身を盾にして守る。

 

(あそこだな!急いで行かないとっおぉ‼︎)

 

 渦潮に近づいた事で真斗も渦に飲み込まれ、凄まじい潮の流れに真斗は大きく口から息を漏らす。

 

(い!いかん‼︎大きく息を吐いてしまった!だが行くしかない!)

 

 真斗は意を決して体勢を立て直し渦の流れを利用して二人の元に着く。そして流れに逆らいながら両手に二人の少女を抱えながら両足だけで力強く泳ぐ。

 

 何とか渦から抜け出し、急いで海面へと向かうが、先程の漏れた息が遠因(えんいん)で凄まじい息苦しさに襲われる。

 

(ま!まずい‼︎息が続かない!足にも力が入らない‼︎)

 

 海面が目と鼻の先と言うのに真斗の動きは弱々しくなり、今にも海底に没しそうな状況となる。

 

(くそ!あと少しで海面だと言うのに‼︎こんな所で!何も果たせずに沈むなんて‼︎)

 

 諦めかける真斗、しかし突然と亡き父、伊達 政道と交わした約束が彼の頭の中を過ぎる。

 

 “例え死の間際であっても己を意が成就するまで決して歩みを止めるな”っと。

 

 約束を思い出した真斗は意を決した表情で最後の力を腹の底から奮い立たせる。

 

(そうだ!俺はまだ父上との約束を果たしていない‼︎戻らないと!愛する会津へ!愛する我が友と妹の元へ‼︎)

 

 真斗は奮い立たせた最後の力で足を力強く動かした。息も限界に差し掛かった瞬間、ついに水飛沫をあげながら海面へと顔を出すのであった。

 

 海面へと顔を出した真斗をデッキから発見した源三郎は急いで指示を大声で出す。

 

「あそこだぁーーーーーーーっ!船を近づけよぉーーーーーーーっ!」

 

 源三郎の指示で廻船(かいせん)は出来る限り真斗の側に近づき、総出で真斗と助けた二人の少女を救い出す。

 

(わか)(わか)ぁーーーっ‼︎しっかりして下さい‼︎」

 

 酸欠で気を失い、身を低くし船端(ふなぶた)に背持たれた真斗は源三郎の必死の叫びで口から飲み込んだ大量の海水を吐き出しながら目を覚ます。

 

「ゲホォ!ゲホォ!オガァーッ‼︎(じい)!あの二人はどうなった?生きているか?」

 

 激しく息切れをしながら源三郎に問う真斗に源三郎は答える。

 

「大丈夫です(わか)。落ちた二人の少女は無事です!」

 

 それを聞いた真斗は力が抜けた様にホッとした笑顔となる。

 

「そっか・・・(じい)・・・俺は・・少し休む・・・後は・・頼む」

 

 真斗はそう言うと魂を抜かれた様に静かに眠りに着くのであった。

 

⬛︎

 

 真斗が目を覚ますとそこは何処かの屋敷の寝室で、しかも寝巻きで布団に寝かされていた。

 

「ここは、どこだ?」

 

 真斗はゆっくりと体を起こし周りを見渡していると目の前の襖が開き、水の入った桶と手拭いを持った源三郎が現れる。

 

「おおぉ!(わか)!目覚めましたか」

 

 そう言いながら源三郎は喜びの笑顔で真斗へと駆け寄り、桶を置くとそっと彼の体を支える。

 

「ああ。それより(じい)、ここはどこだ?屋敷の様だが」

「はい。ここは大三島(おおみしま)大山祇(おおやまずみ)神社にあります屋敷でございます」

「そっか。それで爺《じい》、あの二人の少女は?」

「はい。(わか)が助けました少女はお二人共、無事です。それとあのお二人は村上 武吉様の娘、(きょう)様とここ大山祇(おおやまずみ)神社の巫女姫、鶴姫様でした」

 

 自分が助けた二人の少女の正体を知った真斗は驚く。

 

「何⁉ここ瀬戸内海の海賊大名、村上海賊団の武者姫じゃないあか。しかも鶴姫ってあの奇跡の巫女と謳われる!」

 

 源三郎は笑顔で頷きながら説明を続ける。

 

「はい。どうやら渦潮見物をしていたのですが、渦に近づき過ぎて落ちてしまったようです」

「そうか。しかし、何はともあれ無事でよかった。すまない(じい)、助けるとは言え無茶と心配せてしまって」

 

 真斗からを謝罪の言葉に源三郎は軽く溜め息を吐く。

 

「本当ですよ。(わか)は少々、無謀な所があります。少しは自重して下さいね」

 

 それから真斗は改めて大広間で助けた(きょう)と鶴姫と対面し、助けてもらったお礼を受け取っていた。

 

「真斗殿(どの)、今回は私と鶴姫を助けてもらいありがとうございます」

 

 綺麗で少し軽めの打掛姿(うちかけすがた)(きょう)は正座をし笑顔で目の前の胡坐をする真斗に向かって深々と頭を下げる。

 

「いいんですよ(きょう)様。それよりお二人が無事でよかったです」

 

 すると(きょう)の左隣で打掛姿(うちかけすがた)をした紅白の巫女服を着こなし正座をする鶴姫が少し顔を赤くしながら軽く一礼をする。

 

「あ・・あの、真斗様、本当に助けていただきありがとうございます。それと実は・・・渦の中で薄っすらとでしたが私と(きょう)を助ける姿が見えまして凄く勇ましかったです」

 

 鶴姫からの誉め言葉に真斗は少し照れ、鼻の下を擦る。

 

「いやぁーーーっそう素直に言われるとこっちとしても嬉しくなりますねぇ」

 

 すると鶴姫は正座のまま真斗へと近付き、満面の笑みで彼の両手を掴む。

 

「真斗様はご兄弟はおりますか?」

 

 鶴姫からの唐突な質問に真斗は少し驚きながらも答える。

 

「え、ええ。妹が一人、愛菜と言いますが」

「あの、これから真斗様の事を義兄上(あにうえ)と呼んでよろしいでしょうか?」

「ええ⁉︎いきなりどうしたのですか!」

 

 驚く真斗、すると今度は(きょう)も彼の隣に近づき腕を組む。

 

「私もお前の渦巻きを恐れない姿に惚れちまってよ。だから真斗殿(どの)、今日から義兄貴(あにき)って呼んでいいか?」

「えっ⁉︎えええええええええええええええええええええぇ!」

 

 二人からの急な二つ名の提案に、この時の真斗は驚くしかなかった。

 

⬛︎

 

 そして時は戻り現在、(きょう)と鶴姫との出会いを語った真斗は湯呑みに入った、お茶を一口飲む。

 

「それから渦潮が治るまでの三日間、三人で色んな遊びをしたなぁ」

 

 真斗が笑顔でそう言うと(きょう)も笑顔で頷く。

 

「そうだなぁ。木登りしたり海釣りしたり、あ!海賊ごっこもしたわね」

「そうだなぁ(きょう)。今、振り返るとすごく懐かしいよ。あ!そうか。遊んでいる時、時々鶴姫と二人になる事があったなぁ。その時に鶴姫は何かモジモジしながら俺に何かを言いたかった様な素振りをしていたな」

 

 真斗はそう言うと落ち込む鶴姫を見て幼い時に何を言いたかったのかを理解する。

 

「すまない鶴姫。俺と出会った幼い時から俺の事が好きだったんだな。許してくれ。お前の気持ちを知れなかった俺を」

 

 申し訳ない表情で軽く鶴姫に向かって頭を下げると今度は意を決した表情と眼差しで竹取(かぐや)と乙姫のいる方を向く。

 

「すまない二人共。勝手なのは重々、承知だ。でも、俺にも責任はあるゆえ鶴姫が可哀想過ぎる。だから彼女を俺のっ!」

 

 最後まで言おうとした時に竹取(かぐや)は笑顔で手の平を真斗に出し、静止させる。

 

「最後まで言わなくても分かっているわ真斗。彼女を、鶴姫を自分の側女(そばめ)にしたいのね?」

 

 竹取(かぐや)の口から出た言葉に鶴姫は急に顔を上げる。

 

「別にいいわよ。私も乙姫も貴方は、“不幸な人を救おうとする心の優しさ”を持った人だと」

「そ!それじゃあ!」

 

 竹取(かぐや)と乙姫は笑顔で真斗に向かって頷く。

 

「いいわよ真斗。鶴姫を側女(そばめ)として向かい入れても」

「別に私も竹取《かぐや》も気にもしないわよ。側女(そばめ)が一人、増えたくらいで」

 

 竹取(かぐや)と乙姫からの前向きな答えに真斗と鶴姫は喜びの笑顔を見せる。

 

「ありがとう二人共‼︎ありがとう!」

竹取(かぐや)様!乙姫様!ありがとうございます!不束者ですが、よろしくお願いします‼︎」

 

 深々と頭を下げた真斗と鶴姫。すると(きょう)は後ろから笑顔で鶴姫の肩をポンポンと優しく叩く。

 

「よかったわね(かく)。でも義兄貴(あにき)の元に行く前に二週間後の織田軍との戦《いくさ》の後だからね」

 

 (きょう)の口から出た事に真斗は驚き、彼女の方を向く。

 

「おい!(きょう)!それは本当か?二週間後に信長様と戦《いくさ》は!」

 

 詰め寄る様な口調で問う真斗に(きょう)は中庭を見ながら少し悲しげな表情で頷く。

 

「本当よ義兄貴(あにき)。三日前に織田の使いがうちや毛利、長宗我部の元に来て“有余は二日、急ぎ織田の元に(くだ)れ”って言う書状を受け取ったの。無論、毛利や長宗我部、そして私達、村上は(くだ)つもりはないけど」

 

 そして真斗は真剣な表情で出雲へ行く途中で見かけた九鬼水軍の艦隊が大阪(こう)に集結していた事に納得がいく。

 

(きょう)、今すぐでも遅くはない!信長様の元に下れ!相手は天下統一を間近に迫った大武将の軍!真っ向から戦えば確実に負けるぞ!」

義兄上(あにうえ)・・・」

 

 真斗を見ながら鶴姫が少し悲し気な表情でボソッと言う。一方、(きょう)はフッと鼻で笑い真斗の方を向く。

 

「ありがとう、義兄貴(あにき)。でも戦わずして信長に(くだ)るのは私達、村上海賊の性に合わないわ。だったら一泡吹かしてから(くだ)るわ」

 

 笑顔の(きょう)の瞳の奥には海の人としての誇りと意地が熱々と燃えていた。それに真斗は落ち着いた表情で目を閉じて頷く。

 

「分かったよ(きょう)。次に戦場(いくさば)で逢いまみえる時は敵同士だけど、これだけは約束してくれ。絶対に死ぬなよ」

「ああ、分かったよ義兄貴(あにき)。約束するわ」

義兄上(あにうえ)、私はどうしたら?」

 

 戸惑う鶴姫に真斗は笑顔で彼女の頭を優しく撫でる。

 

「お前は(きょう)の側に居てやってくれ。お前は(きょう)だけでじゃなく他の村上の者達にとっての支えとなる存在だからなぁ」

「はい!義兄上(あにうえ)!」

 

 真斗からの励ましに鶴姫は笑顔で嬉しくなり、その光景を見ていた竹取(かぐや)と乙姫は微笑むのであった。

 

 その後、真斗達が大山祇(おおやまずみ)神社を去る時に鶴姫から結婚祝いの品を受け取り、改めて会津へと帰るのであった。

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