FIERCE GOOD -戦国幻夢伝記-   作:izuminnー3305

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第 伍拾捌 話:神の導き

 バグダッドに襲来した巨大な砂嵐から一週間が明け、源三郎達は砂嵐で積もった砂を掻き分けながら砂嵐に飲み込まれるまで第40軍を抑えていた真斗とジョナサンを探す。

 

 だが砂の下から出てくるのは戦い、または砂嵐に巻き込まれて死んだ第40軍の兵士の死体だけであった。

 

 照り付ける太陽の熱さから滝の様に流れる汗を拭く為に甲冑を着こなす源三郎は被っている兜を脱ぎ、手拭いを取り出し拭き始める。

 

(わか)・・・まさか、お父上とお母上の元に向かわれていませんよね」

 

 悲しそうな表情で地平線を見ながら独り言を言う源三郎の元に平助が歩み寄る。

 

「ご家老、やはりいくら砂を掘っても(わか)様とジョナサン殿(どの)のご遺体は出ません。まだお二人は生きていますよ絶対に」

 

 平助が励ますよ言った後に源三郎は希望を持つ決意をした表情で頷く。

 

「そうだな平助。(わか)とジョナサン殿(どの)を信じよう」

 

 そう言って源三郎は一旦、皆を連れてクーファ門へ戻るのであった。

 

 一方、砂嵐に呑み込まれた真斗とジョナサンは戦闘中に倒した第40軍の騎兵の馬を使い、何とかその場を逃れていた。

 

 だがバグダッドとは違う方向に向かってしまい、今は炎天下の中でアラビア砂漠のど真ん中を重く、ゆっくりとなった足を動かして歩いていた。

 

 滝の様に流れる汗を手で拭きながら先を進む真斗は一旦、止まり息切れをしながら後ろを付いて来るジョナサンに向かってサウンドワイバーンの皮で作った水筒を出す。

 

「おい、ジョナサン。もう一口分しか水は残ってないが、お前が飲め」

 

 真斗と同じ様に汗を流し、息切れをするジョナサンは立ち止まり、出された水筒を払い除ける様に水筒を右手で押す。

 

「いや、いい。お前が飲め真斗。その水筒はお前のだ、俺の事は気にするな」

 

 苦笑いに近い笑顔でそう言うジョナサンに真斗も彼と同じ笑顔で頷く。

 

「ああ、分かったよジョナサン。ありがとう」

 

 そう言って真斗は水筒の口を開け、最後の水を飲む。だが、出て来たのは雨の水滴程度の量で真斗はスクッと笑ってしまう。

 

「あーーーあっ飲み干していたのを忘れていた。まずいな。暑さで頭が回んないやぁ」

 

 それに対してジョナサンは笑ってしまう。

 

「俺もだよ真斗。何とか意識を保ってはいるが、もう暑さでクラクラだ」

「まったくだ。奪った馬は途中で熱さで死ぬは、何日も飲まず食わずで喉はカラカラ、腹はペコペコ、こんな生き地獄は生まれて初めてだジョナサン」

「そうだな。俺もだよ。とりあえず砂丘を超えよ」

「ああ、そうだな」

 

 そう言って真斗とジョナサンは再び(あゆ)みを進めた。何とか砂丘の頂上に来た時に米粒の様なに小さい一本のヤシの木が生えたオアシスを見付ける。

 

「おい!ジョナサン‼オアシスだ!水があるぞ‼」

 

 嬉しそうな笑顔でオアシスに向かって右手の人差し指で指しながら言う真斗の後ろからジョナサンはヨロヨロさせながら顔を覗かせ、喜ぶ。

 

「本当だ‼やったぞ!神の御恵みだ‼」

 

 そして二人は喜びながら砂丘を下ったが、途中でヨロけて転がってしまう。だが、何とか体勢を立て直してオアシスへと走って向かった。

 

 希望を見付けた二人は胸を躍らせたが、希望は一瞬で絶望に変わった。何とか辿り着いたオアシスはヤシの木の葉は青々としていたが、水は枯れてあった場所の砂は茶色くなっていた。

 

 絶望した真斗とジョナサンは感情を失った様にボーッとした表情で、お互いの背をヤシの木の株に預けて腰を下ろしていた。

 

 少し吹く風で騒めくヤシの木の葉を聞きながら真斗は被っていた変わり兜を外し、弱々しい声でジョナサンに話し掛ける。

 

「なぁジョナサン、自分の人生で後悔した事はあるか?」

 

 唐突な質問に真斗の左側に座るジョナサンが彼と同じく弱々しい声で答えた。

 

「ああ、あるよ。彼女・・・・バチカンにいる教皇様の娘で修道女(シスター)の“プリヌス(ラテン語で桜)”に告白したかったよ・・・・お前は真斗?」

 

 今度はジョナサンからの質問に真斗はフッと笑って答える。

 

「あるさぁ。俺の故郷、会津に、そして愛する皆の元に帰れない事だ・・・・はぁーーーーーっ死ぬまで皆と楽しく過ごしたかったよ・・・・すまない竹取(かぐや)、皆・・・いや、まだだ。絶対に生きて帰るんだ」

 

 最後の瞬間でも真斗は決して諦めなかった。それを聞いたジョナサンは胸元から自身の妹、エナとは別の木製のロザリオンを取り出し、祈りを捧げた。

 

「主よ。どうか我と我の友に生きる力をお与え下さい。例え地獄の淵を歩こうとも、我は決して諦めません。誓います。どうか生きる力をお与え下さい。アーメン」

 

 そして祈りを捧げたジョナサンはロザリオンにキスをした。それと同時に真斗とジョナサンは目を閉じ、眠る様に意識を失ったのである。

 

 だが、意識を失った二人の元に四、五人のイスラムの男達が真斗とジョナサンを抱き上げるのであった。

 

 

 真斗は真っ直ぐ走っていた。全てを灰にする業火の中を、自分に迫って来る人の形をした恐ろしい亡者達を愛刀の赤鬼で切り倒しながら進んでいた。

 

(諦めるか!諦めるか!諦めるものかぁーーーっ‼生きてやる!生きてやる!生きてやるぅーーーーっ‼絶対!生きて帰るんだぁーーーーーーーーーっ‼)

 

 死に物狂いで真斗は目の前に見える光に向かっていた。途中で背中に亡者達が群がり、体が重くなるが、歩みは止めず何とか振り払う。だが、途中で赤鬼が折れてしまうが、それでも真斗は振り続けながら蹴りや拳で亡者達を蹴散らした。

 

 そして光に手が届いた瞬間、亡者達を含めて全てが眩い光と共に塵となった。

 

 すると真斗が触れた光の中から長い黒髪に白い服を着こなした男性が現れ、真斗に向かって微笑む。

 

「さぁ行きなさい。貴方が本当に居るべき場所へ」

「待って!貴方様は一体・・・・」

 

 真斗は何者なのか聞こうとしたが、聞く事は出来ず、次の瞬間、目を覚ましガバッと上半身だけで起き上がる。

 

 息切れと汗を流しながら真斗は周りを見渡すと、そこは商人用の馬車の中であった。しかも馬車は何処かへ向かって走り揺れていた。

 

「ここは・・・どこだ?」

「おっ!気付いたか若造」

 

 真斗は声のする方を振り返ってみると、そこには白い生地に赤色で書かれた六端十字のサーコートを上にしたチェイン・メイルを着こなし、腰にアーミング・ソードを提げた一人の白髪の美少年が馬車に設けられた席に笑顔で座っていた。

 

「あんた、誰だよ?」

 

 真斗が質問すると美少年は真斗の右側に近付き、片膝を着くと彼に水が満タンに入ったサウンドワイバーンの皮で作った水筒を差し出し、笑顔で答える。

 

「私は“ジュスラン1世・ド・クルトネー”と言う。さぁ水はどうだい?」

 

 真斗は無言で差し出された水筒を受け取り、ゴクゴクと少し口から毀れながら勢いよく飲み始める。

 

「では今度は私から質問する番だ。君は何者だ?なぜ枯れたオアシスで倒れていた?」

 

 水を飲んだ事で気力が回復した真斗は口から毀れた水を手で拭き取るとジュスランの問いに答える。

 

「俺は、あ!いや、私は鬼龍 真斗と申します。遥か遠い東の島国、日ノ本から来ました武士です」

 

 真斗からの自己紹介を聞いたジュスランは少し驚く。

 

「なんと!あの“極東の黄金郷”と呼ばれたジパングから⁉」

「はい。そして私が枯れたオアシスで倒れていたのは・・・・」

 

 それから真斗は事細かくジュスランに説明した。第10次十字軍の襲来で日ノ本が欧州征伐を始めた事、そしてバグダッドを奇襲した第40軍から都市を守る為に城壁外に残り戦った事で砂嵐に巻き込まれ、道に迷った末に枯れたオアシスまで来た事を包み隠さずに話した。

 

 全てを聞いたジュスランは納得した様に軽く頷く。

 

「なるほど、それは災難だったな」

「ええ、全くですよ・・・っ‼」

 

 真斗はある事を思い出し、ジュスランに問い掛けた。

 

「あの!私の他にもう一人いた騎士‼ジョナサンはどうなりましたか?」

 

 するとジュスランは何故か笑顔で首を振って答えた。

 

「心配しなくていい。彼も無事だよ。別な馬車に乗っているから」

 

 それを聞いた真斗はホッとした。

 

「よかった。それとジュスラン殿(どの)、助けて頂いた事は凄く感謝していますが、実はすぐにバグダッドに戻らなければならいので二頭の馬を貸してはくれません?」

 

 ジュスランは立ち上がると頷き、真斗の頭先にある馬車の運転席に繋がる出入口の近くに向かった。

 

「馬ならいくらでも貸してやる。でも今の状態でバグダッドに向かっても途中でバテてしまうぞ。しばらく体を休めて体力を付けてから行きなさい」

 

 ジュスランからの寛大な配慮に真斗は笑顔で一礼をする。

 

「ありがとうございます、ジュスラン殿(どの)。ところで今、どこに向かっているのですか?」

 

 真斗からの問いに答える様にジュスランは笑顔で手招きをし、真斗はゆっくりと立ち上がりジュスランの元へと向かった。

 

 そして運転席の出入り口から顔を覗かせると真斗は少し驚く。

 

 晴天の青空の下、荒野に作られた道を進む馬車の左右には多くの人達が大きな荷物を抱え、中には杖を突きラクダや馬を引いて歩いており、馬車の向かう先にはバグダッドとは違う西洋式の巨大な城壁に囲まれた巨大な都市があった。

 

「ジュスラン殿(どの)!あの都市はなんですか?」

 

 真斗からの問いにジュスランは自慢げな笑顔で答える。

 

「あの都市こそ“エルサレム王国”の王都にしてキリスト教の開祖、“イエス・キリスト”が十字架に貼り付けにされた“ゴルゴダの丘”がある“聖地エルサレム”だ」

 

 キリスト教徒のみならずユダヤ教徒やイスラム教徒にとって聖地でもあるエルサレム。そして、しばらくして真斗とジュスランが乗った馬車はエルサレムの東にある門、ステパノ門を潜り、都市内へ入ったのである。

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