この世界は、「葬送のフリーレン」という漫画の世界だ。
尖った耳のエルフが居る。ドワーフが居る。
剣を使い勇敢に戦う勇者が居て、女神様とやらの加護を受けた僧侶が居る。
魔法がある。錬金術がある。女神様の魔法もある。
人を襲い喰らう魔物が居る。
魔物から進化し、より人に近い姿や能力を持つようになった魔族が居る。
そして__魔王が『居た』。
なら私はどれ?知るかんなもん。
気付けば人の形があった。特徴的なケモ耳が頭の上にあった。
でも獣人じゃない。この世界の獣人は魔物の一種だ。
気付けばそこらを歩くごく普通の人間になれた。
魔法が使えた。別の人間になれば、女神様の魔法が使えた。
さらに別の人間になれば錬金術が使えた。
気付けば頭の上には角があった。
魔法が使えた。人間が使う共通した魔法ではない。
魔族が独自に昇華させた、より強力で、より一辺倒の魔法だった。
誰にでもなれる、誰でもない生物。存在しない誰かを模倣する生き物。
この世界に存在しない誰かのコピーキャット。それが私。
私は私がどんな種族か気にする必要はない。
だって模倣する限り、絶対に気付かれないから。
私は私が誰か気にする必要はない。
私が興味を持っているのはこの世界で蠢く物語だから。
最初はただの二次元。薄っぺらい現実だった。
けれど適当に作り上げた人間の模倣で生き、関わり、戦った。
そこにはちゃんと命があり、人間が居て、感情があった。
私はこの物語の詳細を知らない。
なぜなら、これは__私が変えていく、「葬送のフリーレン」だから。
「さて…………早く原作始まってくれないかなあ…」
今は神話の時代以前。後に女神に最も近いと言われるようになるゼーリエすらいない。
意識が芽生えて1000年程。大半を自身の体質や能力の研究に費やした。
この先の暇潰しはどうすればよいのやら。私は神話の時代のゼーリエやらに干渉する気は無いのだが。
意識が浮上した。ダンジョンが一つ、踏破された。
統一帝国の王…の下につく参謀として作り上げた、主要ダンジョンのうちの一つ。
迷路の中に無数の宝箱と魔物とミミックを混ぜ込んで作り上げた、ゲームにでも出て来るであろうダンジョン。
ご丁寧に全て宝箱が開け放たれ、荒らされた状態で踏破された。
「来たか、勇者ヒンメル…」
巨大な木の洞の中から跳ねるように起き上がり、一つ欠伸をした。
50年ほど前、粗方魔法の探求や解析も終わって余りにも暇なので寝ることにしたのだ。
「主要ダンジョンのうちの一つの宝箱が全て空けられると目覚める」という条件を自分に課して。
50年間くらいの魔法なら先取りしたから問題は無い。
さて。ご丁寧に勇者ヒンメル御一行が目覚めさせてくれたわけだが、だからといってどうしようか。
考えているのは原作開始数年前の戦士の村。後のフリーレン御一行の戦士シュタルクの生まれ故郷、だったはず。
原因が何だったかさっぱり覚えていないが、原作開始時点では滅んでいた…気がする。
目標は壊滅をできれば止めること。そして此方がメイン、シュタルクの兄を生きさせること。
アニメ化された際にキャラと声が途轍もなく好みだったことを覚えている。つまりほぼ私欲だ。
「…とりあえず魔族として勇者一行とエンカウントしとこ」
鏡面のように静かで美しい湖の湖面に姿が映る。
ワインレッドのボブカット、ヒツジに似たクリーム色の巻き角、鮮やかな翠の瞳。
何のことは無い。50年前まで各地方で暴れ回っていた*1『舞台のクラウン』。
道化の様に底の見えない笑みを浮かべる女性の大魔族、という認識をされている。
活動期間は丁度600年ほど前から50年前まで。そろそろ重い腰を上げて魔族として動かねば。
溜まりに溜まった魔族用の連絡魔法を使えば、即座によく聞いた声がすっ飛んで来た。
『……生きていたのか、クラウン。』
「久し振り、マハト。シュラハトに繋いだつもりだったんだけど何かあった?」
『南の勇者との戦いで死んだ。七崩賢三人もな。』
大丈夫、原作通り。
全く悲哀や悔恨を感じさせない、淡々とした声でその事実を告げられた。
シュラハト、魔族視点からすれば良い奴だったんだけどなあ。まあ仕方ないか。
「まあいいや、現状が知りたい。今から転移魔法で向かうよ。そっちは魔王城だね?」
『ああ。そうしてくれ。』
通信魔法とかいう明らかなオーパーツをぶち込んだのは私だ。だって連絡手紙以外に無いの面倒だし。
魔族だと手紙とか使えないからさらに面倒だし。
そんなごたごたを並べ、転移魔法を使用した。
ぐるりと廻り、切り替わる視界。おどろおどろしい雰囲気の城。
最北端、エンデ。魔王城。
その前に立つ見知った顔を視認して駆け寄った。
「やあマハト、さっきぶり。元気そうで良かったよ。」
「本当に生きていたんだな、クラウン。」
感動も何も無い声で言ってくれたマハト。ごめんね、マジで寝てただけだよ。
南の勇者VS全知のシュラハト+七崩賢とかいう怪獣大戦争に巻き込まれたくなかったのもあるけど。
流石にそこから変えたら面倒臭くなりそうだし、が本音の8割を占める。
「誰が残った?」
「俺とグラザオーム、ベーゼ、それからアウラだ。」
「了解。他誰か警戒しとくべきヤツは?」
「…専ら話題に上がるのは勇者ヒンメルのパーティーだな。人間の勇者ヒンメル、エルフの魔法使いフリーレン、ドワーフの戦士アイゼン、人間の僧侶ハイターの四人だ。つい先程《強欲の王座》が突破された。」
「えぇ、《強欲の王座》……?定期的に可笑しい個体が産まれてくるねえ、人間って。」
《強欲の王座》。嘗て魔法も宝石も権力も、全てを手中に収めようと画策した愚かな王が住んだ王城の慣れの果て。
なんかムカついたので王城を突破して王国を破壊してダンジョン化させたのは私だ。ごめん。
「出会ったら戦闘くらいはしとけ(意訳)」と言われたので積極的に出会えるように頑張ろうと思う。
「それじゃあねマハト、また会う時があれば。」
「ああ。」
マントを翻して魔王城の中に姿を消すマハト。
転移魔法で深い森の中へと戻り、木の洞の中で思案を巡らせる。
「……あ、そういやクヴァールはまだ封印されてないのか。なにも言ってなかったし。」
だとしたらクヴァールが根城にしているあの村の近く…更に魔王城ルートとなると…いやもしかすると遠回りでダンジョン方面通るのか…?
やりそう(本音)。
「《怠惰の館》…の前の森で待とうかな。」
クヴァールに連絡入れとこ。
いそいそと動き出した私は、途中で猫の耳が頭に生えた獣人の姿に変わる。
どうやらこれが、私と言う生命体にとってはデフォルトらしいので。
「初めまして、勇者御一行様。目的地は《怠惰の館》かな?楽しみだね!」
「…魔族か……!」
くすくす、ころころ、からから。
どれもが当てはまらないような神経を逆なでする笑い声をあげた、その魔族。
咄嗟に迎撃態勢を取って魔法を撃ったはずなのに、一切が無かった事のようにされた。
魔力の跡が残っている。
「『舞台のクラウン』か。50年間音沙汰が無いと思ったら、まだ生きてたの?」
「…『舞台のクラウン』……ああ、
赤紫色の髪、渦巻く角、緑色の目。
魔族としての人相描きもこんな感じだったと思う。
アイゼンの確認に頷けば、全く分からない様子のヒンメルが泣きついて来た。
「誰だい!?何で知ってるの!?」
「過去に名を馳せた魔族でしょうか?」
「懐かしい名前だなあ…『舞台のクラウン』。そう、私は『クラウン』!」
不安定な魔力。
自我を漸く確立したかのように、自分の名を呼び続けるその魔族__クラウン。
「…クラウン、お前は何人喰った?」
「しらなぁーい。まさか、産まれてから今までした食事の回数を覚えてろなんて言うの?」
「そう。……なら良い、やっぱりお前たちは化け物だ。」
言い終わらないうちに魔法を仕掛ける。
煙が晴れた先には、平然と立つクラウンの姿。
周囲の被害も無いのに、私の魔力は減っている。
「
「うふふ、やっぱり知ってた!対抗策があるかと期待したけど、もしかしたら無策?」
剣を突き付けたヒンメル。斧を構えたアイゼン。経典を開くハイター。
私は杖を降ろした。
「
飛び掛かったヒンメルとアイゼン、女神様の魔法を使おうとしたハイター。
それぞれが元通りの位置に、魔法を発動前に戻る。
その癖して「動いた」という事実は変わらない上に、魔力の消耗もそのままときた。
「動いた」事実はそのままに、「移動した」事実を無に還す。
一朝一夕ではいくら魔族とあろうと出来ない。何千年の研鑽を経て漸くだ。
「クラウン。…お前は、何年生きた?」
「知ィ~らない♪」
あの
私なら魔法の研究だけで少なくとも三千年は必要だ。
クラウンは六百年前から活動を見せた魔族。つまり概ね三千六百五十年。
「それじゃあね、勇者御一行。また人々の望む場所で逢おう!」
「待っ__」
「
ふつり。消えたクラウン。
疲れた様子のヒンメルとハイター、アイゼン。
ふぅ、と息を吐いて言った。
「《怠惰の館》に行くの、明日にしよっか。」
「そうだね……」
名前:クラウン (ドイツ語で“道化師”を意味する)
二つ名:『舞台のクラウン』
・あらゆるものを笑顔で操作する様から。
魔法:
・その名の通り全てを無に還す。
生物に使えば産まれて来なかったことになり、魔法に使えば発動されなかったことになる。魔法の研鑽により概念にも干渉することが出来る。
・由来はドイツ語で「虚無」を意味する単語から。
・「発音が難しい。100点満点中10点」byオリ主
備考:
オリ主が創り出した魔族の一体。ヒンメル達が冒険をしていた時より650年ほど前に活動を始めた__という設定。
強い魔法を持って魔王とか七崩賢と関わっとこう、と考えたオリ主によるもの。魔族の情報を得る時とかは重宝する。