勇者御一行とのエンカウントから数年後。
「魔王の死」をマハトが態々現れて教えてくれた。
彼は『城塞都市ヴァイゼ』で、人との共存の道を探すことにしたらしい。
魔王の死を聞いてから、
二度目の流星から少し。勇者ヒンメルが死んだ。
「戦士の村は……そうだなあ、旅人として介入した方が楽かもね。」
ついうっかり趣味に興じている間に創り出してしまった*1、「錬金術」や「詩人の魔法」。
恐らく後々には魔法使いよりも少数になって行くのだろうが、今はその最盛期である。
「錬金術」は完全に二次元から。
0から1を生み出すのは魔法の専売特許なので、此方は分解と再構築に特化させた、1を100に、1000にと変える技術。
「詩人の魔法」はシュラハトから得た、簡単な未来予知。
出来事をふんわりと予言する「先読みの歌」、そして女神様の魔法の様に少しの攻撃魔法。
「手っ取り早いのは錬金術師だったらザフィア、吟遊詩人ならリートか……」
ふらついていても疑われないのは後者、リートだろう。
鏡代わりに使う湖には、雪のように白い髪と青い瞳を持つ儚げな雰囲気の少女の姿が写る。
これが“リート”の姿。
戦士の村には既に何度か訪れて、戦士の兄弟が産まれていることを確認し。
さらに“クラウン”として魔族から情報を集め、一カ月ほど後に『血塗られし軍神リヴァーレ』が村を襲撃することも確認した。
老魔族は計画が細かくて良い。嗅ぎまわっていたのは「いつもの気紛れ」と片付けられた。有難う。
「よし、仲良し兄弟助けよー!」
お兄ちゃん特に滅茶苦茶いい人だもんね!
意気込みよく、魔力の霧に覆われた森から飛び出した。
そんなこんなで戦士の村に滞在すること1カ月。
そろそろリヴァーレが攻めてきても可笑しくは無い頃だった。
おまけに、吟遊詩人は貴重な戦力。今ならその戦力も一緒に削れる。お得という訳だ。
火に包まれる民家、倒れる戦士たち、逃げ出す女子供。
用事を頼まれて外してしまっていた隙にこれか、全く運が悪い!
人としての最大限の力で走る。オレンジ色の灯が見える場所まで。
「リート姉ちゃん…!」
「シュタルク!?」
まさかそんなに進んでいたとは。
本当なら確実に無事に助ける予定の筈が、かなりの博打になって来た。
しかもここでシュタルクと遭遇。下手したら引き返すと言い出しかねない。
「助けて、兄ちゃんが…!」
「…分かった。シュタルクはそのまま逃げて!シュトルツは引きずってでも連れて行く…!」
涙目でこくりと頷き、遠ざかって行く小さな赤い髪。
見送ってから走り出す。今度は詩人の魔法も使って、自分が出せる最大で。
「『風詠みの詩』!」
遠目で見えた黒い大きなシルエットと、その前で膝を着く人の姿。
肩から下げていた小さなハープから生まれた風が、魔族の__恐らくはリヴァーレの巨躯を吹き飛ばしていく。
苦しそうに荒い息を続ける、村最強の剣士に手を伸ばした。
「シュトルツ、立てる!?」
「リート…?早く逃げた方が…」
「『引きずってでも連れて行く』って、弟くんと約束したんだよ!!」
腕を掴んで立たせる。
肩から斜めに傷。深くはない。たぶん、頑張れば走れる。治療を受ければ治る。
なら私がすることはシュトルツを逃がして、リヴァーレを足止めすること。
「さっさと走れ、弟一人くらいは守りなさいよ!」
足を止めたシュトルツ。
目が私と、燃える家と、空中を行き来して__
「……リートも、早く」
「あんたが行ってからね!」
迷ったように、目が不安と羨望を行き来する。
早く、頼むから早く。お願い。
とうとう決めたのか、ようやく森への道を向いた。
風が吹いたかと思えばすぐにその姿が消える。
手負いとはいえ、流石は戦士の村最強。
近くの街には半日以上かかる。
シュタルクを見つけ出すまで、彼はしばらく戻って来ない。
遠ざかったことをきちんと確認して、『舞台のクラウン』の姿に変化した。
「久し振り、リヴァーレ。吟遊詩人の小娘に一泡吹かされたね?」
「…クラウン。奴らは?」
「逃げられちゃった。」
これでも頑張ったんだよ、と肩を竦めて一芝居。
魔族相手だろうが嘘を吐くのには流石にもう慣れた。
「でも、戦士の村は壊滅。逃がしたのは何人か知らないけど、上々の結果なんじゃない?」
「……そうだなあ…」
「魔王様の下に就いていた者としては、北の戦線に戻って欲しいなあ。幾ら南に戦士が居たって、北が攻められれば危ないんだ。
分かるよね?」
翠色の瞳を開いて、殺気を含めた問い。
言葉に詰まったリヴァーレがこくりと頷いた。
七崩賢にこそならなかったけれど、魔族の中ではシュラハトと同等…くらいの位置には居た。
お誘いを受けたけれど断った。当の「全知」は想定通りだったらしいけれど。
リヴァーレが戦士の村からすごすごと引っ込むのを見届けて。
シュトルツが治療を受けるのをこっそり見届けて。
かたん、と殺風景な洞の中にある写真立てが音を上げた。
写るのは『クラウン』の姿の私と、シュラハト。
全てを知っていた彼と『クラウン』は、もしかしたら友人だったのかもしれない。
目が覚めた。
冷たいシーツが嫌に現実を訴えかけてくる。
朝になると目を覚ましてくれたあの詩声が無いのが、やけに寂しい。
ぱたぱたと小さな子供の足音。
「兄ちゃん……!!」
「…シュタルク。怪我は無いか?」
「大丈夫…でも、兄ちゃんは…」
傷は浅い。幸いにも、この村で治療を受けられたことで完治した。
動けば開くが、それも一カ月程度らしい。
今心残りなのは、置いて来てしまったあの詩声だった。
「おれがリート姉ちゃんに助けてって言っちゃったから……姉ちゃん…」
「…シュタルク。リートは生きてるぞ。」
今日の朝、丁度治療が始まった辺り。
細く開いたドアの隙間から聞こえたあの声は__確かにリートの声だった。
ついに幻聴が、とその時は思ってしまったが、今思い返してみれば違う。
影があった。声が聞こえた。気配がした。
あれだけで十分だ、リートは生きている。
「大丈夫だ、シュタルク。リートは生きてる。」
送り出して、村が燃えて、焦って帰らせてしまった。
『おかえり』すら言えずに、こんな別れがあっていいものか。
「リートは旅に出たんだろうな。」
「…会えないの?」
「会えるさ。見つけような、シュタルク。」
光が祭壇の様に、神聖にも差し込むその小さな村の一室で。
兄弟のこれからの指針となる夢が誓われた。
中央諸国、リーゲル峡谷。
「__ってなわけでフリーレン達の旅に着いて行こうと思ってるんだけど…」
「そうか、なら準備だな。」
えっ。
疑問も制止も何も出さず荷物整理を始める実の兄に唖然とするシュタルク。
それを上回る驚愕を表情に出すフリーレンとフェルン。
「え……シュタルク様、この方が…」
「ああ。俺の兄貴だ。」
「シュトルツだ、宜しく頼む。」
荷物を纏めながらさっさと自己紹介を済ませたシュトルツ。
「シュタルク、荷物は纏めたのか?」
「兄貴が早すぎるだけだろ!?」
どやぁ、と言いたげな顔でシュタルクを見るシュトルツ。
影響されたかのようにシュタルクも荷物をまとめ始めた。
「さて…私はフリーレン。エルフの魔法使いだ。」
「フェルンと申します。」
一礼するフェルン、対して顔を上げて挨拶したフリーレン。
少し笑って、このパーティーの現在最年長者になるシュトルツが口を開いた。
「シュタルクから聞いたかもしれないが、俺達は人を探してる。」
「ああ……それだけなら聞いたね。なんて人?」
「『リート』。吟遊詩人だ。」
「吟遊詩人…珍しいですね。すぐに見つかりそうなものですが…」
「それが旅人らしくてな、フラフラほっつき歩いているんだ。」
『リート』を話すときは、懐かし気に、楽しそうに。
埃が少し舞う中、荷物に悪戦苦闘するシュタルクを見る。
どこか遠い、過去の記憶に耽る。
「その『リート』様とは、どのようなご関係なのですか?」
「恩人だよ。俺が今生きてるのも、リートのお陰だ。」
それでいて友人だ、と付け加える。
フリーレンは、シュトルツが『リート』を語る時の顔を知っていた。
(まるで、理想を語る時のヒンメルみたいだ。)
普通に考えてしまえばできないことを、子供の様に笑って成し遂げてしまう。
そんな安心を感じさせる表情だった。
名前:リート (ドイツ語で「歌」)
職業:吟遊詩人
・暇潰しに遊んでたら作っちゃった「詩人の魔法」を使う職業。
女神様の魔法以上に素質に左右される為、使い手は少数。
備考:
オリ主が創り出した人間の旅人。シュトルツと同じくらいの年齢設定。
ほぼこの為だけに創り出したのでこの後出て来るかは分からない。
シュトルツがもし生きてて一級魔法使い試験編辺りまで行ったらヴィアベルと同じくらいなんじゃないかなって勝手に思ってます。戦士兄弟年齢差大きい。